私は外に出ていた。
理由は簡単、答えを見つける為。
私は何か嫌な事があったり困り事が起こると、必ず散歩に行く。
それは幼い頃からの、ずっと続けてきた癖だ。
大抵の場合、いい考えが思いついたり、誰かに会って物事が解決したりする。
だから、今日もそう。
ただひたすらに、答えを待ち続ける。
「お、紫」
「・・・あら、珍しい人に会う者ね」
「そう言うない。照れるじゃんかよお」
「相変わらず調子が良いのね・・・魔理香。」
代々受け継がれている三角帽を、大事に被っている。霧雨 魔理香。
魔法使いであり、『霧雨魔道店』の店主でもある。
元々香霖堂で霧雨魔理沙が魔道具を売り出していたのが、いつのまにか独立し、今に至った。
最近は科学薬品の調合だとかで、数日家から出ていなく、目の下のクマが彼女の魔法科学への思いの深さを語っている。
「さては、何か困り事だな?」
「・・・どうしてかしら?」
「ヘヘヘ、この魔理香様、八雲の長の癖程度見抜けなきゃ名が廃れるわ!」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
この血筋は代々同じような言葉を言い続ける物だ。
「んで、今度は何なんだ?」
「それが・・・」
ここで、口が止まった。
今回の問題は、そんなに簡単じゃない。
・・・と言うより、難しいと言った方が明確だろう。
幻想郷存亡の危機。
それは自分が生きてきた何百年の中で一度も起きた事は無い。
そして何よりも、繊細に、注意深く取り扱わなければならない問題だ。
この場で言ってしまっていいのだろうか?
いや、良くない。この事が広まれば最後、幻想郷は大混乱に包まれるだろう。
それを防ぐ為にも。
「・・・いや、何でもないわ」
「何だよー、せっかくばら撒いてやろうと思ったのに!」
「折角のご好意、無駄にしたわね?」
「皮肉かよ!」
魔理香は笑いながら、じゃあな、と背を向けた。
箒に腰掛、空へまた繰り出そうとしている。
本当にこれで良かったのだろうか。
いい筈だ。・・・いい筈だ。なのに。
「ねえ、魔理香」
「ん?」
口は思考を待たずに動いていた。
どうしても、この事だけは言ってみたい。
「・・・もし、例え話よ。」
「何だよ?」
「幻想郷が無くなってしまうとしたら・・・最後に何をしたい?」
「・・・なんだそれ」
言ってしまった。
魔理香は、こちらをじっと見ている。
私を咎めるように。否定するように。じっと。
「・・・仮にも」
「?」
「仮にも八雲の長を名乗る奴が・・・冗談でもそんな事言っていいと思ってるのかよ!?」
「落ち着いて、魔理香。これはただの例え話で「それでも!!!!!!!!!」
自分の言い訳を遮って、魔理香の声が響く。
この時私は、何故彼女がこんなにも興奮しているのか、理解できなかった。
でもその思いは、次の一言で霧が晴れたように拭い去られた。
「・・・そんな悲しい話、しないでくれよ・・・」
自分は愚かだった。
私は彼女が、魔理香が、どんなに幻想郷を愛していたか全く考えていなかった。
それは霊奈も、河城にとりも、きっと同じ。
「・・・ごめんなさい、魔理香。」
「・・・いや、言いすぎた。私が悪かったよ。」
魔理香は帽子を深く被ると、もう一度箒に乗った。
そして少しだけ、こちらを振り向いてこう言った。
「私は最期に、幻想郷中を驚かせるような事をして死んでやる。小さい頃からそう決めているからな!」
「・・・ありがとう。」
「・・・本当に、本当に例え話だよな?」
「・・・ええ、勿論。・・・だって私は」
そう、私は八雲と、この世界『幻想郷』の管理者。
だから、その立場の人間として、
この世界を愛してくれる者の思いに、応え続ける存在でありたい。
「私は八雲紫だから」
魔理香はニッと歯を出し、飛び去っていった。
懐中時計を見る。
いつもの就寝時間まで、あと2時間。
それまでにやらなければいけない事が一つ出来た。
家に帰ると、藍と橙が真剣な表情で此方を見つめている。
それに笑顔で返し、部屋に入るよう促した。
3人が椅子に座ったのを確認し、ゆっくりと、はっきりとした口調でこう言う。
「・・・これより、八雲家による会議を始めます」
「・・・霊奈」
「魔理香」
ある神社で、2人の少女が顔を合わせる。
決して喜ばしい表情ではない。
じっと顔を見合い、様子を伺っている。
しばしの間の沈黙を破ったのは、魔理香の方だった。
「紫は、違うって言ってたぜ」
「・・・信じてるの?」
「正確には、信じたい・・・かな」
「珍しく意見が合ったわね」
2人は石に腰掛ける。
「今日は、いい天気だな」
「・・・ええ、本当に。」
魔理香は顔を下に向けた。
その目には、小さく光る粒のような物が浮かんでいる。
帽子を深く被り、こう呟いた。
「・・・私、まだ皆と一緒に居たいのにさ・・・」
「・・・」
空が曇っている。
幻想郷崩壊まで、あと29日。