八雲紫と幻想郷と   作:ZED

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三 私は八雲紫だから

私は外に出ていた。

理由は簡単、答えを見つける為。

 

私は何か嫌な事があったり困り事が起こると、必ず散歩に行く。

それは幼い頃からの、ずっと続けてきた癖だ。

大抵の場合、いい考えが思いついたり、誰かに会って物事が解決したりする。

だから、今日もそう。

ただひたすらに、答えを待ち続ける。

 

「お、紫」

「・・・あら、珍しい人に会う者ね」

「そう言うない。照れるじゃんかよお」

「相変わらず調子が良いのね・・・魔理香。」

 

代々受け継がれている三角帽を、大事に被っている。霧雨 魔理香。

魔法使いであり、『霧雨魔道店』の店主でもある。

元々香霖堂で霧雨魔理沙が魔道具を売り出していたのが、いつのまにか独立し、今に至った。

最近は科学薬品の調合だとかで、数日家から出ていなく、目の下のクマが彼女の魔法科学への思いの深さを語っている。

 

「さては、何か困り事だな?」

「・・・どうしてかしら?」

「ヘヘヘ、この魔理香様、八雲の長の癖程度見抜けなきゃ名が廃れるわ!」

 

その言葉に、思わず笑ってしまう。

この血筋は代々同じような言葉を言い続ける物だ。

 

「んで、今度は何なんだ?」

「それが・・・」

 

ここで、口が止まった。

今回の問題は、そんなに簡単じゃない。

・・・と言うより、難しいと言った方が明確だろう。

 

幻想郷存亡の危機。

それは自分が生きてきた何百年の中で一度も起きた事は無い。

そして何よりも、繊細に、注意深く取り扱わなければならない問題だ。

この場で言ってしまっていいのだろうか?

いや、良くない。この事が広まれば最後、幻想郷は大混乱に包まれるだろう。

それを防ぐ為にも。

 

「・・・いや、何でもないわ」

「何だよー、せっかくばら撒いてやろうと思ったのに!」

「折角のご好意、無駄にしたわね?」

「皮肉かよ!」

 

魔理香は笑いながら、じゃあな、と背を向けた。

箒に腰掛、空へまた繰り出そうとしている。

本当にこれで良かったのだろうか。

いい筈だ。・・・いい筈だ。なのに。

 

「ねえ、魔理香」

「ん?」

 

口は思考を待たずに動いていた。

どうしても、この事だけは言ってみたい。

 

「・・・もし、例え話よ。」

「何だよ?」

「幻想郷が無くなってしまうとしたら・・・最後に何をしたい?」

「・・・なんだそれ」

 

言ってしまった。

魔理香は、こちらをじっと見ている。

私を咎めるように。否定するように。じっと。

 

「・・・仮にも」

「?」

「仮にも八雲の長を名乗る奴が・・・冗談でもそんな事言っていいと思ってるのかよ!?」

「落ち着いて、魔理香。これはただの例え話で「それでも!!!!!!!!!」

 

自分の言い訳を遮って、魔理香の声が響く。

この時私は、何故彼女がこんなにも興奮しているのか、理解できなかった。

でもその思いは、次の一言で霧が晴れたように拭い去られた。

 

「・・・そんな悲しい話、しないでくれよ・・・」

 

自分は愚かだった。

 

私は彼女が、魔理香が、どんなに幻想郷を愛していたか全く考えていなかった。

それは霊奈も、河城にとりも、きっと同じ。

 

「・・・ごめんなさい、魔理香。」

「・・・いや、言いすぎた。私が悪かったよ。」

 

魔理香は帽子を深く被ると、もう一度箒に乗った。

そして少しだけ、こちらを振り向いてこう言った。

 

「私は最期に、幻想郷中を驚かせるような事をして死んでやる。小さい頃からそう決めているからな!」

「・・・ありがとう。」

「・・・本当に、本当に例え話だよな?」

「・・・ええ、勿論。・・・だって私は」

 

そう、私は八雲と、この世界『幻想郷』の管理者。

だから、その立場の人間として、

この世界を愛してくれる者の思いに、応え続ける存在でありたい。

 

「私は八雲紫だから」

 

魔理香はニッと歯を出し、飛び去っていった。

 

懐中時計を見る。

いつもの就寝時間まで、あと2時間。

それまでにやらなければいけない事が一つ出来た。

 

家に帰ると、藍と橙が真剣な表情で此方を見つめている。

それに笑顔で返し、部屋に入るよう促した。

3人が椅子に座ったのを確認し、ゆっくりと、はっきりとした口調でこう言う。

 

「・・・これより、八雲家による会議を始めます」

 

 

 

 

「・・・霊奈」

「魔理香」

 

ある神社で、2人の少女が顔を合わせる。

決して喜ばしい表情ではない。

じっと顔を見合い、様子を伺っている。

しばしの間の沈黙を破ったのは、魔理香の方だった。

 

「紫は、違うって言ってたぜ」

「・・・信じてるの?」

「正確には、信じたい・・・かな」

「珍しく意見が合ったわね」

 

2人は石に腰掛ける。

 

「今日は、いい天気だな」

「・・・ええ、本当に。」

 

魔理香は顔を下に向けた。

その目には、小さく光る粒のような物が浮かんでいる。

帽子を深く被り、こう呟いた。

 

「・・・私、まだ皆と一緒に居たいのにさ・・・」

「・・・」

 

 

空が曇っている。

幻想郷崩壊まで、あと29日。

 

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