機動戦士ガンダムSEED C.E.75 VENDETTA   作:陽@曜花推し

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第10話です。

前回、リーシアとヴィンセントはついに地上を離れ、宇宙へ上がりました。

コンラート、セレナ、そしてレイジ。

ローゼンバーグ家の闇を抱えた一族は、最後の逃亡先として戦時中に放棄されたコロニーへ向かいます。

一方、リーシアにとって宇宙は決して安全な場所ではありません。

彼女がここまで戦ってこられたのは、地球上での空戦と近接戦闘、そしてブラッドベインの異常な加速性能によるものでした。

しかし無重力空間では、わずかな姿勢制御のミスが命取りになります。

さらに。

これまで何度も限界を超えてきたブラッドベインと、そのパイロットであるリーシアの身体は、すでに無視できないところまで消耗しています。

それでも彼女は追います。

自分の身体がどうなろうとも。

あの三人だけは逃がさない。

ただし、今回のテーマは「戦う」だけではありません。

復讐を終わらせるために前へ進むリーシア。

その隣で、彼女を生かすために手を伸ばし続けるヴィンセント。

二人の関係が、ここからさらに変わり始めます。

そして。

いよいよ「最後の戦場」が、その姿を現します。

それでは、第10話「追跡」です。




今回のあらすじ

宇宙へ逃亡したコンラート一族。

彼らが向かったのは、大戦中に放棄された巨大コロニーだった。

そこには、コンラートが最後まで隠し通そうとしていた大量の証拠と資産が残されている。

その場所へ向かうリーシアとヴィンセント。

しかし、宇宙空間での戦闘によって、リーシアの身体はさらに限界へ近づいていく。

そして、ヴィンセントはついに彼女へ「復讐を終わらせた後の人生」を問う。

復讐しか見ていないリーシアにとって、その問いに答えはあるのか。

一方。

逃亡中のコンラートたちは、最後の抵抗に出る。

復讐者と逃亡者。

そして、その間に立つ一人の青年。

三者の道が、最後の決着へ向けて収束していく。





第10話「追跡」

 

宇宙。

 

地球圏を離れたシャトルが、静かに進んでいた。

 

コンラート・ローゼンバーグは、ブリッジの前方に映し出された巨大な天体を見つめていた。

 

惑星ではない。

 

コロニー。

 

だが。

 

現在は居住機能のほとんどを失った、巨大な廃棄コロニーだった。

 

「……あとどれくらいだ」

 

「まもなく第3ゲートへ進入します」

 

操艦担当が答える。

 

「港湾システムは生きているか?」

 

「一部のみ」

 

「十分だ」

 

コンラートは深く息を吐いた。

 

セレナは不安そうにモニターを見る。

 

「お父様……本当にここで大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ」

 

「でも……あの女が」

 

コンラートが振り返る。

 

「リーシアか」

 

名前を口にしただけで、胸の奥がざわつく。

 

「あの女は追ってくる」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「分かりきっている」

 

コンラートは冷たく笑った。

 

「私への憎しみだけで、あそこまで生きてきた人間だ」

 

セレナが震える。

 

「だったら……どうすればいいの?」

 

「迎え撃つ」

 

「でも、レイジお兄様は……」

 

その言葉に、コンラートの表情が険しくなる。

 

「レイジは使えん」

 

「え?」

 

「ギャンシュトロームを失い、戦闘能力もない」

 

セレナが絶句する。

 

「そんな……」

 

「必要なのは戦力ではない」

 

コンラートは別の画面を開いた。

 

「ここにはまだ、戦時中に接収した兵器が残っている」

 

「兵器?」

 

「MSだけではない」

 

コンラートが指を動かす。

 

廃コロニー内部の倉庫。

 

大量の補給物資。

 

旧式の宇宙戦闘艇。

 

そして。

 

「ここにあるものを使えば、あの女一人を消すことくらいできる」

 

セレナは少しだけ安心した。

 

「そう……」

 

だが。

 

コンラート自身は安心していなかった。

 

あの黒いグフ。

 

そして。

 

リーシアの目。

 

「……あの女は、普通ではない」

 

---

 

一方。

 

宇宙空間。

 

ゲルググメナースとブラッドベインが飛んでいる。

 

ヴィンセントは前方を確認しながら通信した。

 

「あと少しだ」

 

「……ええ」

 

リーシアの声は弱い。

 

ヴィンセントが気づく。

 

「リーシア?」

 

「何?」

 

「声がおかしい」

 

「宇宙だからじゃない?」

 

「そういう意味じゃない」

 

リーシアは答えない。

 

ヴィンセントはレーダーを見る。

 

ブラッドベインの機体データ。

 

推進系。

 

電源系。

 

冷却系。

 

どれも限界値へ近づいている。

 

そして。

 

パイロットデータ。

 

心拍。

 

血圧。

 

酸素濃度。

 

異常。

 

「……君の身体、もう無理だ」

 

「まだ飛べる」

 

「そういう話じゃない」

 

「飛べるなら問題ない」

 

「リーシア!」

 

ヴィンセントが声を荒らげる。

 

通信が途切れる。

 

数秒後。

 

「……怒らないで」

 

リーシアが言った。

 

「私は……」

 

言葉を止める。

 

「私には時間がないの」

 

「それは分かってる」

 

「分かってない」

 

「何が」

 

「私の人生は、もう復讐しかないの」

 

ヴィンセントは黙った。

 

「両親も」

 

「家も」

 

「名前も」

 

「未来も」

 

リーシアの声が僅かに震える。

 

「全部、あいつらに奪われた」

 

「だから、今さら未来なんて……」

 

「ある」

 

ヴィンセントが即答した。

 

リーシアが黙る。

 

「僕が作る」

 

「……」

 

「君が自分で見つけられなくても、僕が探す」

 

「そんな……」

 

「だから、死ぬな」

 

その言葉に。

 

リーシアは返事ができなかった。

 

---

 

廃コロニー。

 

内部へ進入したコンラート一行は、巨大な港湾施設へ入った。

 

シャトルがドッキング。

 

扉が開く。

 

コンラートが外へ出る。

 

「ここを本拠地にする」

 

「お父様?」

 

「リーシアが来る」

 

コンラートは言った。

 

「ならば、ここを最後の戦場にする」

 

セレナは周囲を見る。

 

「本当にあの女を殺せる?」

 

「殺す」

 

コンラートは即答した。

 

「今回こそ、確実に」

 

その後ろ。

 

レイジが歩いてくる。

 

顔には包帯。

 

右腕は固定されている。

 

「……俺も行く」

 

コンラートは振り返る。

 

「何?」

 

「俺も戦う」

 

「無理だ」

 

「俺はまだ負けてない!」

 

レイジが怒鳴る。

 

「俺があの女を倒す!」

 

「お前は一度負けた」

 

「違う!」

 

「事実だ」

 

レイジが拳を握る。

 

「父親の権力で与えられた機体」

 

コンラートは冷たく言った。

 

「その機体を失ったお前に何が残っている?」

 

レイジは言葉を失った。

 

「……」

 

コンラートは背を向ける。

 

「戦うな」

 

「ただ、邪魔だけはするな」

 

レイジは拳を震わせた。

 

悔しい。

 

自分より弱いはずの女に負けた。

 

そして。

 

父親からさえ見捨てられた。

 

「……リーシア」

 

その名を呟く。

 

「絶対に……」

 

---

 

その頃。

 

ブラッドベインの中。

 

リーシアは、古い写真を一枚だけ見ていた。

 

父。

 

母。

 

幼い自分。

 

その写真には。

 

まだ笑顔がある。

 

「……」

 

指で写真をなぞる。

 

「父様」

 

返事はない。

 

「母様」

 

もちろん。

 

「もうすぐ」

 

彼女は目を閉じる。

 

「終わるから」

 

写真をしまう。

 

「だから……待ってて」

 

スロットルを握る。

 

ブラッドベインが加速した。

 

突然。

 

警告音。

 

『PILOT VITAL』

 

「……」

 

リーシアは表示を消す。

 

『VISUAL SYSTEM』

 

「うるさい」

 

さらに加速。

 

ヴィンセントが見る。

 

「リーシア、止まれ!」

 

「何?」

 

「また警告が出ている!」

 

「無視して」

 

「できない!」

 

「なら追わなくていい」

 

「そんなことできるわけないだろ!」

 

ヴィンセントの声に。

 

リーシアが少しだけ笑った。

 

「……そういうところ」

 

「何?」

 

「昔から変わらない」

 

「リーシア……」

 

「優しすぎるのよ」

 

その瞬間。

 

レーダー。

 

反応。

 

「……来る!」

 

廃コロニー。

 

複数のMSが出てきた。

 

「防衛部隊!」

 

ヴィンセントが叫ぶ。

 

ブラッドベインが旋回。

 

敵MSが一斉に攻撃。

 

ビーム。

 

ミサイル。

 

レーザー。

 

リーシアは回避。

 

「……」

 

しかし。

 

宇宙での機動は地上とは違う。

 

僅かな姿勢制御。

 

そして。

 

加速。

 

リーシアの身体に強烈なG。

 

「……っ!」

 

視界が暗くなる。

 

それでも。

 

スラスター。

 

急旋回。

 

一機撃破。

 

二機目。

 

スライサーウィップ。

 

絡める。

 

テンペスト。

 

撃破。

 

だが。

 

三機目が背後から接近。

 

ヴィンセントが射撃。

 

「リーシア、後ろ!」

 

ビーム。

 

敵機が吹き飛ぶ。

 

「助かった」

 

「まだいる!」

 

二機。

 

三機。

 

「数が多い」

 

「僕が引き受ける!」

 

ヴィンセントのゲルググメナースが前へ。

 

ブラッドベインが横へ。

 

二人の動きが分かれる。

 

「ヴィンセント!」

 

「任せて!」

 

ゲルググメナースが敵を引きつける。

 

その間。

 

ブラッドベインは廃コロニーの港湾部へ。

 

「見つけた」

 

大型シャトル。

 

コンラートのもの。

 

「逃がさない」

 

その時。

 

コックピットへ。

 

一瞬。

 

視界が暗くなる。

 

「……!」

 

操縦桿から手が離れそうになる。

 

「まずい……」

 

心臓が速い。

 

指先が痺れる。

 

「……まだ」

 

リーシアは手を握り直した。

 

「まだ飛べる」

 

---

 

ヴィンセントは敵MSを撃破した。

 

しかし。

 

ブラッドベインの位置を見失った。

 

「リーシア?」

 

通信。

 

「リーシア、応答して!」

 

返事がない。

 

「リーシア!」

 

数秒後。

 

「ここ」

 

「どこだ!」

 

「港湾区画」

 

「待て!」

 

ヴィンセントが急いで追う。

 

そして。

 

彼は見た。

 

ブラッドベインが、巨大なシャトルの前で停止している。

 

その向こう。

 

コンラート。

 

セレナ。

 

そして。

 

多数の兵士。

 

「リーシア!」

 

ヴィンセントが並ぶ。

 

「……」

 

「これ以上、一人で行くな」

 

「分かってる」

 

「本当に?」

 

リーシアは少しだけ笑った。

 

「今度は二人」

 

ヴィンセントも笑う。

 

「そうだ」

 

ゲルググメナースが武装を構える。

 

「二人で行こう」

 

「ええ」

 

---

 

廃コロニー内部。

 

コンラートの私兵が一斉に動く。

 

「撃て!」

 

ビーム。

 

ミサイル。

 

レーザー。

 

二機が交互に回避。

 

ヴィンセントが正面。

 

リーシアが側面。

 

一機。

 

二機。

 

三機。

 

敵が次々と撃破される。

 

コンラートは奥へ逃げる。

 

「セレナ!」

 

「はい!」

 

二人がシャトルへ走る。

 

だが。

 

目の前へブラッドベインが降りる。

 

「逃がさない」

 

コンラートが凍りつく。

 

「……リーシア」

 

「今度は、名前を間違えないのね」

 

「お前……!」

 

「私は、あなたが殺した女の娘」

 

リーシアがテンペストを構える。

 

「父と母のために」

 

セレナが震える。

 

「近づかないで!」

 

「セレナ」

 

リーシアが呼ぶ。

 

「……!」

 

「あなたも覚えているでしょう」

 

セレナの顔が引きつる。

 

「私を見下していたこと」

 

「私の頬を叩いたこと」

 

「そして」

 

一拍。

 

「私を殺そうとしたこと」

 

セレナが後退する。

 

「や……」

 

「私は全部覚えている」

 

そこへ。

 

コンラートが叫ぶ。

 

「やれ!」

 

残存部隊が一斉射撃。

 

ヴィンセントが前へ出る。

 

「させるか!」

 

ゲルググメナースがビームシールドを展開。

 

弾幕を受け止める。

 

「リーシア!」

 

「ありがとう」

 

そして。

 

ブラッドベインが飛び出した。

 

敵陣へ。

 

「どいて!」

 

スライサーウィップ。

 

一機。

 

ドラウプニル。

 

二機。

 

テンペスト。

 

三機。

 

さらに。

 

「まだ!」

 

急旋回。

 

強烈なG。

 

「ぐっ……!」

 

視界が消える。

 

それでも。

 

敵の位置だけは見える。

 

「そこ!」

 

テンペスト。

 

撃破。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

ブラッドベインの右脚に被弾。

 

「しまった!」

 

機体が回転。

 

リーシアの身体も大きく揺さぶられる。

 

「リーシア!」

 

ヴィンセントが駆けつける。

 

ゲルググメナースがブラッドベインを支える。

 

「大丈夫か!」

 

「……大丈夫」

 

「嘘だ!」

 

ヴィンセントは彼女の生体データを見る。

 

「心拍が異常だ!」

 

リーシアは返事をしない。

 

ただ前を見る。

 

コンラートのシャトル。

 

そして。

 

逃げようとしているセレナ。

 

「まだ終わってない」

 

「リーシア」

 

「まだ」

 

彼女はスロットルを握った。

 

「終わってない!」

 

ブラッドベインが再加速する。

 

ヴィンセントが叫ぶ。

 

「待て!」

 

しかし。

 

追うしかない。

 

---

 

コンラートはシャトルへ乗り込む。

 

セレナも続く。

 

「早く!」

 

「お父様!」

 

レイジも別の区画から現れる。

 

「俺も行く!」

 

コンラートは振り返った。

 

「来るな!」

 

「俺は――」

 

「邪魔だ!」

 

レイジが絶句する。

 

「お前はここで時間を稼げ」

 

「……」

 

それだけ言い残し。

 

コンラートはシャトルのハッチを閉じる。

 

レイジは立ち尽くす。

 

「……俺は」

 

その瞬間。

 

ブラッドベインが目の前へ。

 

「……!」

 

レイジが後退する。

 

「リーシア……」

 

リーシアはレイジを見る。

 

「あなたは」

 

「……」

 

「もう、私の邪魔をしないで」

 

レイジは震える。

 

「俺は……」

 

リーシアはテンペストを構える。

 

だが。

 

一瞬。

 

刃が止まる。

 

「……殺す価値もない」

 

レイジの顔が歪んだ。

 

「な……」

 

リーシアは機体を反転させる。

 

「勝手に軍法会議で裁かれればいい」

 

そのまま。

 

ヴィンセントと共に、コンラートのシャトルを追う。

 

残されたレイジは。

 

ただ一人。

 

動けなかった。

 

---

 

宇宙空間。

 

コンラートのシャトルが速度を上げる。

 

ブラッドベインとゲルググメナースが追跡。

 

「距離、縮まらない!」

 

ヴィンセントが言う。

 

「どうする?」

 

「追う」

 

リーシアは答える。

 

「燃料が尽きるまで」

 

「君もだ」

 

「そうね」

 

「リーシア」

 

ヴィンセントの声が真剣になる。

 

「もし、この先で君の身体が限界になったら」

 

「……」

 

「僕が止める」

 

リーシアは静かに答えた。

 

「それでも進む」

 

「……分かった」

 

ヴィンセントは笑った。

 

「じゃあ、僕も進む」

 

二機が並ぶ。

 

その先。

 

コロニーの奥へ。

 

さらに奥へ。

 

そして。

 

巨大な廃コロニーの最深部。

 

コンラートの最後の隠れ家が見えてくる。

 

リーシアは目を細める。

 

「……あそこね」

 

だが。

 

右目の視界が。

 

ほとんど消えていた。

 

そして。

 

左目にも。

 

黒いノイズが混じり始めていた。

 

「……」

 

それでも。

 

彼女はスロットルを握る。

 

「あと少し」

 

復讐の終着点は。

 

もう。

 

目の前だった。

 

 





次回予告

次回、第11話。

「決着」

廃コロニー最深部。

ついに、リーシアとコンラートたちが同じ場所に立つ。

コンラートは最後の兵器を起動。

セレナは命乞いを始め。

そして。

リーシアは最後のテンペストを握る。

「……父様」

「母様」

「今日で終わる」

だが。

ブラッドベインは限界。

そして。

リーシアの身体も限界。

視力は失われ。

脚には力が入らない。

それでも彼女は操縦桿を握る。

最後の一撃のために。

そして。

ヴィンセントが叫ぶ。

「リーシア!」

「もう一人で戦わなくていい!」

復讐の果て。

リーシアが選ぶ結末とは。

次回。

**「決着」**

すべての因縁が、終わる。






今回は宇宙へ舞台を移し、コンラート一派を最後の逃亡先へ追い詰めるところまで描きました。

そして、かなり重要な場面として、レイジを「殺す価値すらない」とリーシアが切り捨てています。

これは今回のVENDETTAにおける、彼の扱いを象徴する部分でもあります。

レイジは確かにリーシアの人生を奪った側の人間ですが、その実態は「親の権力と他人の功績に依存していただけの男」。

だからリーシアにとって最大の敵ではありません。

本当に許せないのは。

自分の両親を殺し。

自分を陥れ。

家族の人生そのものを奪ったコンラート。

そして、その陰謀に加担したセレナ。

この二人こそが、最後にリーシアが向き合う相手です。

もちろん、レイジも物語の中では報いを受けます。

ただし。

リーシアが彼のために自分の命を削ることはありません。

そこが重要です。

そして、次回はいよいよ決着。

ここまで少しずつ積み重ねてきたリーシアの身体的な代償も、ついに最終段階へ入ります。

「勝つこと」と「生き残ること」。

その二つが両立するのか。

ぜひ次回をお楽しみください。

ありがとうございました。
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