機動戦士ガンダムSEED C.E.75 VENDETTA 作:陽@曜花推し
第4話です。
前回、ついにリーシアの愛機となる「ZGMF-X2000/BB グフイグナイテッド・ブラッドベイン」が完成しました。
ここから物語は、「復讐を決意した少女の過去」から、「実際に復讐を始めた少女の現在」へ移っていきます。
今回のリーシアは、まだコンラート本人を直接狙いません。
まずは、あの男が地球圏で築き上げたものを一つずつ壊していく。
金。
物資。
補給路。
私兵。
その基盤を削り取っていくことで、遠く離れたプラントにいるコンラートへ「誰かがお前を狙っている」という恐怖を届けます。
そして今回、ブラッドベインに初めて「黒き惨劇」としての異名が与えられることになります。
ただし、ここで一つ大事なのは、リーシアが最初から無敵ではないということです。
ブラッドベインは確かに凄まじい機体ですが、乗っているのは生身の人間です。
速さを得る代わりに、リーシアの身体には確実に負担が蓄積していきます。
それでは、第4話「最初の復讐」です。
今回のあらすじ
C.E.75。
「リン」と名乗る傭兵は、地球圏の裏社会で少しずつ名を知られるようになっていた。
だが、彼女が仕事を請け負う目的は、ただ金を稼ぐことではない。
すべては、コンラート・ローゼンバーグへの復讐のため。
ついに完成したブラッドベインで、リーシアは最初の標的へ向かう。
それは、コンラートが裏で運営している補給拠点。
表向きはただの物流施設。
しかし、その実態は、裏金を洗浄し、武器を横流しし、私兵へ物資を供給するための重要な中継地点だった。
リーシアは一人、その施設へ乗り込む。
そして、誰にも知られていなかった「亡霊」の復讐が、ついに始まる。
C.E.75。
南アメリカ大陸北部。
広大な湿地帯の上空を、一機の小型輸送機が飛んでいた。
貨物区画には大量のコンテナ。
表向きには、医療用物資と食料。
しかし。
その中身を知る者は、ほんの僅かだった。
「航路に問題なし」
副操縦士が報告する。
「この辺りは戦後復興の名目で民間輸送が増えている。怪しまれることもない」
「なら予定通り行くぞ」
機長が返した。
輸送機は雲の中へ入っていく。
その先には、地図には存在しない施設があった。
旧大戦期に建設された海上プラットフォーム。
巨大な金属構造物が海面に浮かび、数本の大型クレーンが空へ伸びている。
一見すれば、廃棄された工業施設。
しかし実際には、コンラート・ローゼンバーグの裏金を流すための重要拠点だった。
正式な所有者は別会社。
運営企業も別。
銀行口座も別。
だが。
そこから出る金の一部は、最終的にコンラートの管理する資産へ流れていく。
さらに。
大戦後に行方不明になったザフト軍装備。
余剰兵器。
バッテリー。
弾薬。
部品。
それらの一部もここへ流れていた。
「こちら補給便。予定時刻より5分早い」
『了解。着艦を許可する』
輸送機が高度を下げる。
その直後。
機長の視界の端を、何か黒いものが横切った。
「……なんだ?」
「どうしました?」
「今、何か見えなかったか?」
「鳥では?」
「こんな高度に?」
二人が窓を見る。
何もない。
ただの夜空。
機長は首を傾げた。
そして。
施設の監視室では。
一人のオペレーターがレーダー画面を見つめていた。
「……ん?」
小さな反応。
しかし。
一瞬で消えた。
「何だ今の」
もう一度画面を見る。
何もない。
「気のせいか……」
そう呟いた直後。
施設の外壁で、轟音が響いた。
ドカァァン!!
「敵襲!」
警報が鳴り響く。
照明が赤く染まる。
作業員が一斉に立ち上がる。
「何だ!?」
「外壁が破られた!」
「MSか!?」
「一機です!」
その言葉と同時。
格納庫上部が吹き飛んだ。
鋼材が宙を舞う。
粉塵。
火花。
そして。
その中央を突き破って、一機のMSが降り立った。
漆黒。
朱赤。
背部には翼状のフライトユニット。
両腕にはヒートロッド。
そして、頭部のセンサーが赤く輝く。
「……あれは……?」
誰かが呟く。
次の瞬間。
ブラッドベインが動いた。
速かった。
あまりにも速かった。
一歩目を踏み込んだ瞬間には、すでに敵のMSの正面にいる。
「撃てぇぇっ!」
旧式ザクがビームライフルを構える。
だが。
ブラッドベインは、射撃線から僅かに身体をずらした。
それだけだった。
ビームが空を切る。
「なっ――」
次の瞬間。
右腕のスライサーウィップが伸びる。
鞭のような軌道。
それがザクの右腕へ巻き付いた。
「ぐっ!?」
リーシアが操縦桿を引く。
ギギギギッ!
強烈な力で腕が捩じられる。
ビームライフルが落ちる。
そして。
テンペスト。
光刃が閃いた。
一閃。
ザクの胴体が切断された。
爆発。
「次」
リーシアは呟いた。
別のMSが背後から接近する。
リーシアは振り返らない。
センサーだけを見る。
「右、後方」
スラスター。
加速。
機体が滑る。
次の瞬間には、敵の背後。
「遅い」
ドラウプニル4連装ビームガンが火を噴く。
四条の光が敵MSの脚部を穿つ。
バランスを崩した機体が倒れる。
その胸部へ。
テンペスト。
一撃。
沈黙。
施設内に悲鳴が響く。
「何なんだ、あの機体は!?」
「グフだ!」
「グフ!? あんな速度で動くグフがいるか!」
「援軍を呼べ!」
「通信が繋がらない!」
「妨害されてる!」
混乱。
それがリーシアの狙いだった。
数で戦う兵士は、何が起きているか分からなければ戦えない。
敵の判断を奪う。
恐怖を植え付ける。
そして。
一つずつ潰す。
「これで……」
ブラッドベインがスラスターを噴かす。
急加速。
直後、急制動。
リーシアの身体に強烈なGがかかる。
「っ……!」
胸が締め付けられた。
視界が一瞬暗くなる。
それでも。
操縦桿を離さない。
「まだ……!」
機体が直角に近い軌道で旋回する。
敵のザクウォーリアが追尾しようとする。
だが。
追いつけない。
「どこへ行った!?」
「上だ!」
「いや、下!」
「速すぎる!」
次の瞬間。
ブラッドベインが真横から現れる。
テンペスト。
一撃。
撃破。
施設の防衛MSは、わずか数分で半数以上が撃破されていた。
リーシアはそのまま司令塔へ向かう。
スラスターを吹かす。
上昇。
そして。
建物の壁面を蹴る。
そのまま空中で反転。
壁の向こう側へ。
「これで終わり」
ドラウプニルが放たれる。
壁が吹き飛ぶ。
中にいた警備員たちが悲鳴を上げた。
「ひっ……!」
「た、助けてくれ!」
「誰だお前!」
リーシアは答えない。
操縦席から外部スピーカーを通じて、ただ一言。
「これは始まりよ」
その声に、施設の人間たちは凍りついた。
「あなたたちが運んでいる金も」
「武器も」
「全部、コンラートへ返すわ」
「ただし――」
テンペストを構える。
「壊した状態でね」
---
施設の奥。
厳重に封鎖された倉庫。
リーシアはMSから降りて、徒歩でそこへ向かっていた。
扉の前に立つ。
端末を接続する。
数秒後。
ロックが解除された。
中には大量のデータストレージ。
資金記録。
輸送記録。
兵器管理台帳。
人員名簿。
「……これだけ残っていたのね」
リーシアはデータを複製する。
一部は軍関係者の不正。
一部は企業の横領。
そして。
最深部。
『C.R. Holdings』
コンラート・ローゼンバーグの頭文字。
リーシアの目が細くなる。
「見つけた」
数年間、追い続けてきた痕跡。
自分が知らなかった裏側の一部。
「これで、少しずつ追い詰められる」
データを保存。
そして。
「次」
後ろを振り返る。
その直後。
ドォンッ!
施設の外で爆発。
通信が入る。
『敵増援接近!』
リーシアは舌打ちした。
「もう来たの」
画面を見る。
MS反応。
一機。
二機。
五機。
「数が多い」
だが。
リーシアは笑った。
「ちょうどいい」
---
格納庫からブラッドベインが飛び出した。
迎撃に出たのは旧式ザクウォーリア数機。
先頭の一機がライフルを構える。
「撃て!」
一斉射撃。
光線が夜空を埋める。
ブラッドベインが急降下。
地面すれすれ。
そして。
一気に加速。
リーシアの身体へGが襲いかかる。
「ぐっ……!」
肺が圧迫される。
目の奥が痛い。
それでも。
機体は止まらない。
「まだよ……!」
機体を横倒しにする。
スラスターの噴射方向を一気に変える。
敵MSの真横へ。
「そこ!」
スライサーウィップ。
敵MSの脚部を絡め取る。
そのまま引き寄せる。
テンペスト。
一閃。
爆発。
二機目。
三機目。
四機目。
撃墜。
しかし。
五機目が背後から迫る。
「取った!」
ビームライフル。
リーシアは一瞬だけ判断が遅れた。
「……っ!」
ビームがブラッドベインの肩を掠める。
装甲が焼ける。
警告音。
「……今のは危なかった」
リーシアは息を吐いた。
「油断した……」
敵MSが再び射撃姿勢に入る。
だが。
ブラッドベインはもういない。
「どこへ行った!?」
真上。
リーシアは機体を急上昇させる。
そのまま旋回。
そして急降下。
「終わり」
テンペストが敵機を貫いた。
沈黙。
静かになる夜。
リーシアはコックピットで深く息を吐く。
胸が痛い。
心臓が早い。
目が熱い。
鼻の奥に鉄の味。
「……血?」
指で鼻を触る。
赤い。
「……」
リーシアは、それを拭った。
「まだ大丈夫」
自分に言い聞かせる。
「これくらいなら」
その時。
ブラッドベインのコンピュータに警告が表示された。
『PILOT VITAL WARNING』
『HEART RATE ABNORMAL』
『G-LOAD LIMIT』
リーシアはそれを無視する。
「復讐は、まだ始まったばかりよ」
---
数時間後。
施設は完全に沈黙していた。
生き残った兵士たちは逃げている。
倉庫の中にあった武器や物資は破壊。
資金データはリーシアが持ち去った。
そして。
最後に彼女は、施設の中央へ爆薬を設置した。
「これでいい」
遠隔起爆。
数キロ離れた場所へブラッドベインを移動させる。
リーシアは最後に振り返った。
誰もいない海上プラットフォーム。
かつての自分なら、こんな場所とは無縁だった。
ザフトの名門家。
軍人。
赤服候補。
華やかな未来。
それが今では。
自分は一人の傭兵。
偽名を名乗り。
泥と血にまみれ。
夜の闇から敵を襲っている。
「……これで、一つ」
遠隔起爆装置を押す。
次の瞬間。
海上施設が巨大な炎に包まれた。
ドォォォォン!!
黒煙。
火柱。
大量の瓦礫が海面へ落ちていく。
遠くから見れば、ただの大規模火災。
しかし。
そのニュースは翌日、地球圏の裏社会を駆け巡った。
「コンラートの補給拠点が潰れた」
「たった一機に?」
「黒いグフらしい」
「傭兵だと?」
「違う」
ある男が言った。
「戦い方が普通じゃない」
「じゃあ何だ?」
男は煙草を消した。
「……復讐者だ」
その日の夜。
別の場所。
プラント。
コンラート・ローゼンバーグの執務室。
「……何だと?」
秘書が報告する。
「地球圏の補給拠点が襲撃を受けました」
「どこだ」
「南米沿岸部です」
コンラートが画面を見る。
「被害は?」
「施設全壊。保管物資の大半を喪失。さらに資金関連データも一部消失しています」
「犯人は?」
「現在調査中ですが、目撃情報では――」
秘書が一瞬言葉を止める。
「……黒いグフだったと」
コンラートの眉が動いた。
「グフ?」
「はい」
「そんな旧式機が?」
「性能は不明です。ただ、通常のグフイグナイテッドでは考えられない機動性だったという証言があります」
コンラートは画面を睨む。
その時。
セレナが部屋へ入ってきた。
「お父様」
「何だ」
「どうしたの?」
コンラートは資料を見せた。
セレナの表情が変わる。
「……黒いグフ?」
「ああ」
「もしかして……」
セレナが少しだけ笑う。
「大戦残党かしら?」
コンラートは答えなかった。
「……そうだろう」
そう言いながら。
なぜか胸騒ぎがした。
自分でも理由は分からない。
だが。
忘れたはずの何かが。
まだ生きているような。
そんな嫌な感覚。
「徹底的に調べろ」
「はい」
「傭兵なら雇い主を探せ。テロ組織なら組織を潰せ」
コンラートは冷たく言い放つ。
「私に刃向かったことを後悔させろ」
誰も知らない。
その黒いグフの中に。
一年以上前に「死んだ」と処理した少女が乗っていることを。
---
夜。
地球上空。
ブラッドベインは静かに飛んでいた。
リーシアはコックピットの中で目を閉じる。
疲労が激しい。
身体が重い。
それでも。
頬には、僅かな笑みが浮かんでいた。
「……一つ終わった」
父と母を奪った者。
自分を地球へ捨てた者。
その男の資産。
その一部を。
確実に壊した。
小さい。
まだ小さい。
だが。
確かに一歩。
「コンラート」
誰もいないコックピットで名前を呼ぶ。
「私は生きている」
答える者はいない。
「あなたが殺したと思った娘は、まだ生きている」
ブラッドベインのカメラが前を向く。
「だから、これから全部返してあげる」
その瞬間。
リーシアの目に、昔の自分が一瞬だけ浮かんだ。
笑っていた自分。
父と母に囲まれていた自分。
ヴィンセントと模擬戦をしていた日々。
そして。
クレイグと交わした言葉。
「……」
一瞬。
リーシアは目を閉じた。
だが。
すぐに振り払う。
「もう、いらない」
クレイグという名前も。
あの日々も。
もう終わった。
必要なのは。
コンラート。
セレナ。
レイジ。
あの三人だけ。
「あなたたちだけは」
操縦桿を握る。
「絶対に許さない」
ブラッドベインは、夜の闇へ消えていった。
まだ世界は。
その機体を知らない。
まだザフト軍も。
まだコンラートも。
まだ誰も。
その名を知らない。
だが。
地球圏の裏社会では。
すでに小さな噂が生まれていた。
漆黒のグフ。
朱赤の線を引いた異形のMS。
そして。
誰にも捕まえられない傭兵。
その名前を。
誰かが恐怖と共に口にした。
「……ブラッドベイン」
次回予告
次回、第5話。
「追う者、追われる者」
地球圏の裏社会を駆け抜ける「黒いグフ」
リンによる襲撃事件は、単なる傭兵の破壊工作として処理するには規模が大きすぎた。
コンラートは、自らの裏資金ルートを狙う正体不明の敵を警戒し始める。
一方。
ザフト軍では、最近頻発する違法施設襲撃事件の調査任務が発令される。
その任務を命じられた青年。
ヴィンセント・アルノー。
ザフト軍の特務部隊に所属する彼は、調査のため地球圏へ向かう。
そして。
戦場で、彼は一機の黒いグフと遭遇する。
「……この動き……まさか」
ヴィンセントが感じた、あり得ない違和感。
それは。
一年以上前に死んだはずの少女の記憶だった。
次回。
「追う者、追われる者」
漆黒の亡霊と、朱き疾風が交差する。
第4話では、ついにリーシアが本格的な復讐を始めました。
今回は「コンラートをいきなり倒す」のではなく、まずその周囲にある資産や物流網を破壊するという形にしています。
リーシア本人が言っていた通り、これはまだ「始まり」です。
そして、今回の終盤でヴィンセントへ繋がる流れを少しだけ入れました。
次回から、いよいよこの2人の物語が交差していきます。
それと今回、ブラッドベインにとっても一つ大きな要素が出てきました。
戦闘には勝った。
けれど、そのたびにリーシアの身体には負担が蓄積していく。
この作品では、リーシアは「無敵の主人公」ではありません。
勝つたびに、自分の命を少しずつ支払っています。
その代償がどこまで彼女を追い詰めるのか。
そこも今後しっかり描いていきます。
ありがとうございました。