遊戯王VRAINS 無人ラボの亡霊達   作:モノリス

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隠密とやつあたり

 SOLテクノロジー本社ビルの一室。

 厳かな冷気が漂う暗闇の中、会社の絶対的頂点に君臨する役員たちが、巨大なチェスの駒を象ったアバターの姿で集まっていた。

 

 その圧倒的な威圧感が支配する空間へと呼び出されたのは、セキュリティ部部長の職にある男、財前晃であった。

 

 Playmakerとの激闘の末、妹の葵——LINK VRAINSにおけるアイドルデュエリスト「ブルーエンジェル」は、原因不明の昏睡状態へと陥った。

 

 上層部からの緊急召集を受けた晃に対し、突きつけられたのは冷酷な疑惑だった。

 葵のデュエルディスクからハノイのカードが検出されたことにより、兄である晃にまでハノイとの内通・スパイ疑惑の目が向けられたのだ。

 

 妹を襲った悲劇の真相を突き止め、疑惑を晴らすため、晃は旧知の優秀なハッカー「ゴーストガール」に依頼。

 ブルーエンジェルのアバターを囮にしてPlaymakerを罠へと誘導し、強力な捕獲プログラムによって身動きを封じることに成功した。

 

 妹に何をしたのか詰問する晃に対し、Playmakerは「俺の仕業ではない」と無表情に否認する。

 なおも真実を糾弾しようとセキュリティプログラムの出力を高めた瞬間——晃自身にしか解除できないはずの強固な拘束が、ガラスが砕けるような鋭い音と共に粉々に粉砕された。

 

 唖然とする晃たちの眼前に、何もない空間から溶け出すように一人の少女が姿を現す。

 頭部にはピンと立ったウサギの耳、腰元にはふんわりとしたリスの尻尾、そして可憐なエプロンドレスを身に纏っていた。

 

 


 

 

「あーぁ、出てくる予定じゃなかったんだけどな〜。

 さすがにこれは見過ごすことは出来ないワン」

 

 少女は深いため息をつき、ジト目で晃を睨みつける。

 その背後に庇われる形となったPlaymakerは助けられたにもかかわらず、突如現れた未知の存在に対して鋭い警戒の眼差しを向けていた。

 

「あんたは何者だ。

 なぜ俺を助けた」

 

「……始めましてPlaymaker。

 タマのことはゼロくんのファミリーって言えば伝わるかワン?」

 

「……タマ?ゼロだと?」

 

 振り返り微笑むタマと名乗る少女にPlaymakerは眉をひそめて呟く。

 Playmakerのデュエルディスク内のイグニスが「なんだあのワンワンねーちゃん!?」と騒ぎ立てるが、敵か味方かの判別すらつかない。

 

 緊迫した沈黙が場を支配した直後、タマが上空を見上げて「ヤバっ」と短く焦りの声を漏らし、咄嗟にPlaymakerの方へと飛び込んだ。

 直後、鼓膜を裂くような轟音と共に、巨大な紫電が空間を穿った。

 

 


 

 

 落雷と共に現れたハノイの騎士リーダー、リボルバーによってブルーエンジェルに電脳ウイルスを仕込んだのはハノイの仕業であり、Playmakerを誘き出す人質として利用されたと明かされた。

 

 Playmakerは危害を加えた私を恨み、ブルーエンジェルを見捨ててもおかしくない状況だった。

 しかし彼は、ブルーエンジェルを救うためのウイルス除去プログラムと己の持つイグニスを賭け、リボルバーとの命懸けのデュエルを引き受けた。

 

 データストームに乗り、離れていく2人とそれを影から追うゴーストガールを見送る。

 

「……さて。

 どうやらリボルバーからも見つかっていないようだが近くにいるのだろう、タマ」

 

 声をかけると目の前の空間が歪み、それまで姿を消していた少女、タマが現れた。

 

「まぁね、いきなりリボルバー登場は驚いたワン。

 タマはPlaymakerの選択を尊重するけれど、それはそれとして財前晃、あなたにデュエルを申し込むワン」

 

 デュエルディスクを構え、好戦的な目を向けてきた。

 

「何故だ?

 私と君には戦う理由など無いはずだ」

 

「まぁそれは確かにそうなんだけどワン。

 あ、そうだ。

 あなたがタマに勝てば、妹さんに電脳ウイルスを仕込んだ奴の情報を教えてもいいワン」

 

「なんだと!?」

 

「あ、誤解してほしくないけどタマ達がハノイの騎士と繋がりがあるわけではないワン。

 ログから接触した相手を調べただけワン」

 

「…………」

 

「さあ、どうするワン?」

 

「……分かった。 デュエルを受けるとしよう」

 

「おっけー!

 それじゃ、デュエル開始だワン!」

 

 

「「デュエル!!」」

タマ VS 財前晃

 

「タマの先行いただくワン!

 タマはドラゴンメイド・ティルルを召喚!

 ティルル召喚時の効果でデッキからドラゴンメイド・フランメを手札に加えて、そのまま墓地にるワン!

 

 同じ属性であるフィールドのティルルと墓地のフランメを除外して、EXデッキからドラゴンメイド・ラティスを特殊召喚!

 ラティス召喚時にデッキからレベル4以下のドラゴンメイド・パルラを特殊召喚!

 

 パルラ召喚時の効果でドラゴンメイドカードをデッキから墓地に送るワン!

 『ドラゴンメイドのお片付け』を墓地に送るワン!

 

 魔法カード『ドラゴンメイドのお心づくし』を発動!

 自分の手札、墓地からドラゴンメイドモンスターを守備表示で特殊召喚し、特殊召喚したモンスターとはレベルが異なり属性が同じドラゴンメイドモンスター1体をデッキから墓地へ送る事ができるワン。

 タマは手札のドラゴンメイド・ラドリーを特殊召喚!

 そして、ドラゴンメイド・フルスを墓地に送るワン!

 

 ラドリー召喚時の効果でデッキトップから3枚墓地に送るワン!

 カードを1枚伏せてターンエンドだワン!」

 

ドラゴンメイド・ラティス DEF3000

ドラゴンメイド・パルラ  DEF1700

ドラゴンメイド・ラドリー DEF1600

伏せ 1枚

 

「私のターン、ドロー」

 

「スタンバイフェイズにラティスの効果発動!

 除外されているドラゴンメイド・ティルルとレベル5以上ドラゴン族のフランメをデッキに戻して融合召喚。

 おいでませ!ドラゴンメイド・シュトラール!

 

 そのままスタンバイフェイズ中にシュトラールの効果発動!

 レベル9以下のドラゴンメイドを手札か墓地から特殊召喚するワン!

 たまは墓地のレベル4、ドラゴンメイド・チェイムを特殊召喚!

 

 チェイムの召喚時に効果発動!

 デッキからドラゴンメイド魔法、罠カードを手札に加えるワン!

 永続魔法『ドラゴンメイドのお出迎え』を手札に加えるワン!」

 

ドラゴンメイド・シュトラール ATK3500

ドラゴンメイド・チェイム DEF1800

 

 自分のターンにドローした途端、新たにドラゴンとメイド服の少女のモンスターが追加で召喚され、5体のモンスターが並んでいた。

 相手ターンに次々とモンスターを召喚する様子は先日のゼロのデュエルを思い起こさせる。

 それにしても、

 

「随分と前のめりなデュエルをするのだな。

 君が私とデュエルをする明確な理由は無いはずだが……」

 

「……そうでもないワン。

 あなたが妹さんに危害を加えられて犯人かもしれない奴を痛めつけたいって気持ちは分かるワン。

 だからこそ、見当違いに身内が傷付けられたらその下手人をぶっ飛ばしたいってのも当然だワン。

 

 つまり!

 これはタマのやつあたりなんだワン!

 お前をぶっ飛ばーす!!」

 

 シュッ、シュッと小さな拳を突き出してシャドウボクシングをする彼女に毒気を抜かれる。

 

「……なるほど、しかし負けられないのは私も同じだ。 妹に電脳ウイルスを仕込んだその犯人について教えてもらうぞ。

 

 私はモンスターをセット。

 そして永続魔法カード『メールの階段』を発動する」

 

「なんだか重要そうなカードだワン。

 その発動に対してシュトラールの効果発動!

 その発動を無効にして破壊するワン!」

 

「なにっ!?」

 

 彼女のフィールドにいた唯一の黒いドラゴンが口から放った炎が発動しかけた『メールの階段』を焼き尽くす。

 

「そしてシュトラールをEXデッキに戻し、EXデッキからドラゴンメイド・ハスキーを特殊召喚するワン!」

 

 炎がおさまると黒いドラゴンがいた場所にはそのドラゴンを人型にしたような気品漂うメイド服の女性のモンスターが立っていた。

 

ドラゴンメイド・ハスキー ATK3000

 

「くっ、自分フィールドに裏側守備表示のモンスターがいるため、手札のティンダングル・ベース・ガードナーを守備表示で特殊召喚する。

 カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

ティンダングル・ベース・ガードナー DEF2300

裏側守備表示 1枚

伏せ 1枚

 

「あ、エンドフェイズにタマのカードを発動するワン。

 永続罠『ドラゴンメイド・リラクゼーション』発動!

 1ターンに1度、フィールドのドラゴンメイドを手札に戻し、効果を選んで発動するワン。

 フィールドのラドリーを手札に戻し、あなたの伏せカードを1枚手札に戻すワン!」

 

「伏せカードが……!」

 

「そしてハスキーの効果発動!

 フィールドのドラゴン族が手札に戻ったので相手のモンスター1体を破壊するワン!

 セットモンスターを破壊するワン!」

 

 セットされていた『ティンダングル・エンジェル』が、反転召喚の機会すら与えられずに一瞬で破壊されてしまった。

 

「タマのターンドロー!

 スタンバイフェイズにハスキーの効果発動!

 フィールドのドラゴンメイドを選択し、そのモンスターよりもレベルが1つ高いか1つ低いドラゴンメイドモンスター1体を自分の手札、墓地から守備表示で特殊召喚するワン。

 レベル4のチェイムを選択して、墓地からレベル3、ドラゴンメイド・パルラを守備表示で特殊召喚するワン。

 

 パルラ召喚時の効果でドラゴンメイドカード、ドラゴンメイド・シュテルンをデッキから墓地に送るワン!

 

 さらに『ドラゴンメイド・リラクゼーション』の効果発動!

 ラティスをEXデッキに戻して、今度はデッキから『ドラゴンメイド・リラクゼーション』以外のドラゴンメイドカードを手札に加えるワン。

 ドラゴンメイド・フランメを手札に加えるワン。

 

 そして再びハスキーの効果発動!

 フィールドのドラゴン族が手札に戻ったので相手のモンスター1体を破壊するワン!

 ティンダングル・ベース・ガードナーを破壊するワン!」

 

 ……私の陣形は、瞬く間に瓦解し完全なガラ空きとなった。

 

「まだまだ行くワン!

 フィールドのパルラと墓地のルフトを除外して、EXデッキからドラゴンメイド・ラティスを特殊召喚!

 ラティス召喚時にデッキからレベル4以下のドラゴンメイド・ティルルを守備表示で特殊召喚!」

 

ドラゴンメイド・ラティス ATK2000

 

「ティルル召喚時の効果でデッキからドラゴンメイド・ルフトを手札に加えて、そのまま墓地に送るワン!

 

 そしてメインフェイズに移行してドラゴンメイド・ラドリーを通常召喚!

 ラドリー召喚時の効果でデッキトップから3枚墓地に送るワン!」

 

ドラゴンメイド・ラドリー ATK500

 

 あっという間に彼女のフィールドがモンスターで完全に埋まってしまった。

 半数のモンスターが守備表示とはいえ、彼女のフィールドには攻撃力3000のハスキーと2000のラティスがいる。

 ……ここまでか

 

「そして手札から永続魔法『ドラゴンメイドのお出迎え』を発動するワン!」

 

「なに? もう勝負は決まっているのではないのか?」

 

「確かに勝敗は決まったワン。

 でもこれはタマのやつあたりデュエルだワン!

 こっから先はダメージチャレンジに突入だワン!

 

 手札のドラゴンメイド・フランメの効果発動!

 フランメを捨てることでフィールドのドラゴンメイド1体の攻撃力をターン終了時まで2000アップするワン!

 ハスキーの攻撃力をアップさせるワン!」

 

ハスキー ATK3000→5000

 

「バトルフフェイズ開始時にドラゴンメイド達の効果を一斉発動!

 自身を手札に戻し、対応する手札、墓地のドラゴンメイドを特殊召喚するワン!

 

 フィールドのパルラ、ティルル、チェイム、ラドリーを手札に戻し、墓地のルフト、フランメ、シュテルン、フルスを特殊召喚するワン!

 

 最後に『ドラゴンメイドのお出迎え』の効果で場のモンスターの攻守は、場のドラゴンメイドの数✕100アップするワン!

 つまり」

 

ドラゴンメイド・ラティス  ATK2000→2600

ドラゴンメイド・ハスキー  ATK5000→5600

ドラゴンメイド・ルフト   ATK2700→3300

ドラゴンメイド・フランメ  ATK2700→3300

ドラゴンメイド・シュテルン ATK2800→3400

ドラゴンメイド・フルス   ATK2600→3200

 

「なっ!?」

 

「21400のダメージを食らえ!

 全ドラゴンメイドでダイレクトアタック!

 ドラゴンメイド・ウェルカム!」

 

 可憐な少女から転身した巨大なドラゴン達が一斉に顎を開き、人間態のラティス、ハスキーの指示を受け、幾重もの壮絶なブレスを解き放った。七色の破壊光線が直撃し、晃の体を吹き飛ばす。

 

「くっ、うわああぁぁぁ!!!」

 

財前晃 LP4000→0

 

「ふぅ、それじゃタマは姿を隠すワン。

 ちゃんとPlaymakerが戻ってくるまではブルーエンジェルの護衛はするからそこは安心してほしいワン」

 

「ま、待て……」

 

 倒れ伏しながらタマに手を伸ばすが「バイバ~イ」と手を振り姿が掻き消えてしまった。

 

 立ち上がった晃が上空を見上げると、Playmakerとリボルバーによるスピードデュエルが最終局面を迎えていた。

 

 


 

 

 スピードデュエル、そしてマスターデュエルでの死闘の末、リボルバーを下したPlaymakerが、手に入れたウイルス除去プログラムと共に戻ってきた。

 

「!?

 財前晃!

 何があった、まさかハノイの襲撃があったのか!」

 

 ボロボロになった私の姿を見たPlaymakerが衝撃を受けたように駆け寄り、その姿に苦笑を漏らしながら首を振った。

 

「いや、大丈夫だ。

 君は許してくれたがどうやら彼女の怒りはおさまっていなかったようでね、……とんだやつあたりをされてしまったよ」

 

「彼女……タマのことか」

 

 Playmakerは何かを思案するように目を細めたが、すぐに思考を切り上げ、除去プログラムをブルーエンジェルに使用した。

 ブルーエンジェルはLINKVRAINSからログアウト出来たようですぐに目の前から消えていった。

 

 ブルーエンジェルのログアウトを見届けたPlaymakerは一言も言葉を交わすことなく、静かにデータストームの彼方へと去っていった。

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