リボルバーとの命懸けの激闘を経て、Playmakerたちは10年前に起きた痛ましい事件、「ロスト事件」の真相に繋がる重要データが、SOLテクノロジー社のマザーコンピュータ内に眠っていることを突き止めた。
次なる目的地を見定めた遊作のもとに、ゴーストガールからの誘いが届く。
ハッカーコミュニティに投稿されたメッセージに隠されていたデュエルの申し込みに応じ、勝利を収めたPlaymakerは、彼女からSOLテクノロジーのマザーコンピュータへ侵入するための抜け道プログラムを手に入れた。
強固なセキュリティを潜り抜け、社内のサイバー空間を突き進むPlaymakerとAi。
しかし、途中でシステムに侵入を察知され、2体の防衛用AIデュエリストに退路を断たれてしまう。
絶体絶命のピンチに陥ったその時、駆けつけたのはブルーエンジェルだった。
彼女の助力を受けてAIデュエリストを撃破し、遊作たちはついにSOLテクノロジーの心臓部であるマザーコンピュータへと辿り着く。
だが、そこには先客がいた。
Playmakerの潜入の裏でいち早くマザーコンピュータへアクセスし、機密情報を閲覧していたSOLテクノロジーの財前晃、そして彼に協力していたゴーストガールの姿があったのだ。
「これ以上、過去の復讐に囚われるな!」
晃は妹を救ってくれたPlaymakerを気遣い、事件の深追いから手を引くよう固く呼びかける。
しかし、過去と真実を取り戻す覚悟を決めているPlaymakerがそれに応じるはずもなかった。
譲ることができない正義と信念を賭けたデュエル。
死闘の末、勝利を掴んだのはPlaymakerだった。
決着と同時に、Aiがマザーコンピュータ内に隠されていた機密データを一気に喰らい尽くし、奪取に成功する。
ひとまずの目的を果たしたPlaymakerは、静まり返るサイバー空間を見渡し、「……ここならちょうどいいか」と小さく呟いた。
そして、周囲の誰もいないはずの空間に向かって、静かだが意図を含んだ声を投げかける。
「出てきたらどうだ、タマ。
俺の記憶は……すべて戻ったぞ」
その言葉が終わるや否や、何もない空間が揺らぎ、溶けるように少女の姿が現れた。
うさ耳とリスの尻尾を揺らし、エプロンドレスを纏ったタマだ。
「Playmaker……!?
記憶が戻ったの!?」
ぱあっと満面の笑顔を咲かせ、駆け寄ろうとするタマ。
しかし、Playmakerは苦い表情を浮かべて静かに首を振った。
「……すまない、嘘だ。
記憶は今も失われたままだ。
お前を誘い出すために、カマをかけさせてもらった」
「あはは……見事にフィッシングされちゃったワン……」
ぬか喜びだったと知り、がっくりと肩を落として落ち込むタマ。
その姿を見つめながら、Playmakerは抱いていた疑問を投げかけた。
「答えろ。
お前たちは、やはりあいつらなのか?
もしそうなら、なぜ今まで俺に素性を明かさなかった?
そして……俺のそばにいながら、なぜ今まで迎えに来てくれなかったんだ」
絞り出すように投げかけられた問いに対し、タマは周囲に立つ財前晃、ゴーストガール、そしてブルーエンジェルへと視線を向ける。
「……近くにいるそっちのSOLテクノロジーの人達に聞かれてもいいのかワン?」
「構わない。
彼らとはデュエルを通じて互いの信念を交わした。
信用するに足る人物たちだ」
Playmakerの揺るぎない言葉に、タマはフッと柔らかい笑みを浮かべた。
「そっかワン。
財前晃とのデュエルでは対話をするつもりが一切なかったから……Playmakerがそう言うなら、タマも信用するワン」
タマは一度深呼吸をし、少し照れくさそうに、しかし真摯に口を開いた。
「それじゃ……答えるワン。
タマ達の正体は、Playmakerが思い浮かべている相手で合っているワン」
事実を認めたタマは、少し話しづらそうに視線を泳がせながら理由を語り始める。
「タマ達の家というかラボは……アングラというか、ダークネスというか……とにかく、表の社会に絶対に存在してはならないものなんだワン。
だから、警察や施設とかの正規の手段を通じてPlaymakerを迎えに行くことが出来なかったんだワン」
「なっ……」
「ロスト事件で拐われ、記憶を失って心に深い傷を負った幼いPlaymakerを、施設から再び奪い去るような真似をすれば……いくら家族を名乗る相手であっても、本当に心が壊れてしまうかもしれない。
そう思ったんだワン」
タマは困ったように苦笑いを浮かべた。
「ちなみに、Playmakerのお兄ちゃんであるブレーンさまは、救助直後に『今すぐ連れ戻す!』って暴れ散らかしたから……タマとゼロくんでボコボコにして、力ずくで落ち着かせたワン」
「ボコボコにしたのかよ!?
身内に容赦なさすぎだろ!」
思わず突っ込むAiをスルーし、タマは言葉を続ける。
「だから……まずは焦らず、友達として接触して少しずつ記憶を取り戻してもらおうとしていたんだワン。
……そうやって見守っている最中に、あのハノイの騎士たちが動き出しちゃった」
タマの表情から笑みが消え、その眼光が急激に鋭さを増す。
「相手がSOLテクノロジーだけなら裏からいくらでも対処出来るけど、ハノイの騎士みたいな別勢力まで首を突っ込んでくると面倒なんだワン。
……理由は、タマたちのラボにある技術にあるワン」
「技術……?」
問いかける晃に対し、タマは冷ややかに告げた。
「例えば……先日ハノイの騎士がブルーエンジェルに仕込んだ電脳ウイルス。
あれはハノイの騎士にとってはまだ未完成な試作品に過ぎないけれど。
私達のラボには、あれの完成形と言えるものが存在するワン」
「な……なんだと……!?」
晃とゴーストガールの顔色が激変する。
「それらの技術が万が一にも外部へ流出すれば、サイバー空間どころか現実世界が大変なことになる。
だからこそ……誰にも認知されないことが、ラボに掛けられた最強のプロテクトなんだワン。
災いをもたらす可能性がある技術の封印を解くつもりなら……たとえSOLテクノロジーであっても
許さないよ」
強烈な威圧感を放つタマに対し、気圧されながらも晃は問いかけた。
「……それほどの危険な技術なら、復元できないように完全に破棄することはできないのか!?」
「不可能だワン。
私達は……悪い魔術師達が遺した負の遺産が流出しないよう封印し続ける、言わば番人のようなものなんだワン」
悲壮感すら漂う事実を淡々と告げたタマだったが次の瞬間、ポンと手を叩いて明るい声に切り替えた。
「あ、この機会にPlaymakerにひとつ、重大な予告をしておくワン!」
「予告……?」
「昔々……生まれてから一度も外の世界を見たことがなかった幼いPlaymakerは『一度でいいから外の世界を見てみたい』ってお兄ちゃんにおねだりしたんだワン。
お兄ちゃんは折れて外出を許可した……そして、Playmakerはロスト事件に巻き込まれてさらわれたんだワン」
タマは深々とため息をついた。
「お兄ちゃんはこのことを今でも激しく後悔していて……さらに今、ハノイの騎士という恐ろしい犯罪組織と真正面から戦うPlaymakerの姿を見て、心配を拗らせまくって過保護が暴走しちゃってるんだワン!」
「……なんか嫌な予感がするんだけど」
嫌な汗を流すAiを前に、タマは宣告した。
「ハノイの騎士との決着がついたら……Playmakerは私達の家へ強制招待!
ブレーンさまはPlaymakerを二度と外の世界に出さないつもりだワン!!
タマとゼロくんでどうにか強制招待までの時間稼ぎをするから……その間にやり残したことの身辺整理をしてほしいワン!」
「犯行予告じゃねーか!?
時間稼ぎとか言ってないで、まずお前らの狂ったボスを止めろよ!!」
Aiが跳ね上がって絶叫するが、タマはすっと目を逸らした。
「……まあ、また4人で仲良く一緒に暮らしたいのも、タマ達の本心なんだワン」
「…………」
Playmakerはしばし沈黙して深く思考を巡らせたのち、静かに答えた。
「……ハノイの騎士との戦いを邪魔しないというのであれば、問題ない。
後のことは、ハノイを倒してから考える」
「物分かりが良すぎるだろPlaymaker!?
閉じ込められるんだぞ!?」
叫ぶAiを完全に無視し、タマは嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃ、タマは姿を消すワン。
……あ、騒がせたお詫びとして、このマザーコンピュータに残ったここにいる人達のアクセス痕跡は、タマが跡形も無くキレイに消去しておくワン」
そう言い残すと、タマの姿は光の粒子となって空間へ溶け込み、完全に気配を消した。
現実世界。
CafeNagiの車内へと帰還した遊作と草薙。
奪取したSOLテクノロジーの機密データを解析した二人はロスト事件 、その正式名称である「ハノイプロジェクト」の計画立案者であり最高責任者であった人物の名にたどり着いた。
『鴻上聖博士』
しかし、画面に映し出された彼の詳細データの末尾には、冷酷な事実が刻まれていた。
——『故人』
ハノイの騎士の首謀者と思わしき男の死。
深まる謎と迫り来るハノイとの決戦、そしてその先に待つ「家族」からの不穏な予告を胸に、遊作は静かに拳を握り締めるのだった。