ガタンガタンと山間を一両編成の電車が進む。
車窓から覗く景色は、台風が近づいているせいだろうか、どこか重苦しかった。ずっしりと重さを感じさせる鉛色の雲が空を覆い、深い木々がわずかな光さえ遮っている。
「ったく、やっとの休暇だってのに、台風さん空気を読んでどっか行ってくれないもんかねえ」
そうボヤく男は
やがて、山間を抜けると遠くに海が見える。周囲を山に囲まれ、ポツン、と開けた場所に少数の集落。そして、その先にあるオンボロ、もとい趣のある旅館がこの旅の目的地であった。
無人駅を降りると、人っ子ひとりいない。タクシーも見当たらない。
「こういう場合は……、おっ、あったあった」
駅に設置されている公衆電話を見つけると、そこに貼り付けてあるタクシー会社へ電話する。
「あぁ、どうも。タクシーを一台お願いしたいんですがね、えぇ、
タクシーを頼み一息ついていると、
「はー、やだねえ。宿につくまで持ってくれりゃあいいんだが」
やがて、一台のタクシーがやってくる。
年季の入ったタクシーを運転するのは、これまた年季の入った、いや、頼りになるベテランの風格のある白髪の運転手であった。
「お客さんどちらまで?」
「あぁ、どうも。旅館
「あー、大丈夫ですよ。ですがお客さん大丈夫かい、上流でだいぶ降ったみたいで今はまだ通れるけど、あそこの旅館に繋がる唯一の橋、いつ通れなくなるかわからないですよ?」
「あぁ、大丈夫、大丈夫、なんなら帰れないほうが休暇が伸びて得したってもんなんで、なんせ一ヶ月ぶりの休みだからね」
「あはは、苦労なさってるようで」
そんな会話をしつつ、車は海沿いを進んでいく。今日の宿である
だが、何が功を奏するか。陸にありながら孤島のお宿などと、取り沙汰され、客にはあまり困っていない様子。
「やっぱり、アレかい? 話題の旅館だし、こうして運ぶ客は結構いるのかい」
「えぇ、有難いことに。うちが唯一すぐ行けるタクシーですしね、テレビの影響でしょううね。昨日も二組乗せましたよ」
「あぁ、俺もそれを見たんだ。料理が美味いって話だし楽しみだねえ」
最近放送されたテレビの影響か、そこそこ訪れるものはいるようだ。
「自然しか無いこんな場所ですが、楽しんでくれたら嬉しいですねえ。まあ、こんな天気ですがね」
そう朗らかに笑う運転手を横目に、今夜の料理を想像し、期待に胸をふくらませるのであった。
そうこうしていると、例の橋にさしかかる。妙に低い。普通、橋というのは一段上がって渡るものだが、この橋は一段下がって渡る。すでに水かさが増した川がスレスレに見える。
「こりゃあ、珍しい橋ですな。一段下がってる。これじゃあ橋が沈んじまいそうだ」
「そうなんですよ、川幅があるからまだ大丈夫でしょうがね。ですが、その分頑丈に出来てるらしいんですわ」
なるほど、これがいわゆる沈下橋というやつに近いのかもしれない。
そう思い、ふと坂の上に目を向ける。
「あれが
「えぇ、そうです。天気が良ければあそこから海が一望できてねえ……」
「あはは、私は食い気のほうが強いですから、いやぁ噂の料理楽しみですわ」
運転手の気遣いを受け、
そうしていると、今日の目的地のお宿・