長く美しい黒髪を後ろに束ねている。真っ青な顔をしているが、元々の整った顔立ちが
「南房さんって言ったか、大丈夫かい? 顔真っ青じゃねえか。無理もねえが、ここは一つ手短に済ませるから協力してくれ」
「は、はい……だ、大丈夫です。こんな事、は、初めてで怖くて。すみません……」
灯は小さく頷いたが、その声は明らかに震えていた。こちらを見ようとしているものの、視線が定まらない。事件が起きたばかりなのだから、無理もないだろう。
「まずは確認させてもらう。事件が起きたと思われる時間、16:00~17:30はどこにいた?」
「
そこまで言うと、南房は俯いてしまった。
どうやら雲空と二人で旅行に来たことそのものを気に病んでいるらしい。
「いやいや、君のせいじゃねえよ。事件が起きたのは、誰かが人を殺したからだ。旅行に誘ったことまで気にする必要はねえ」
「……はい」
少しだけ顔を上げる。
だが、まだ表情は硬い。
「それじゃあ、その間ずっと雲空さんと一緒だったのかい?」
「……はい」
返事まで、ほんの少し間があった。
俺は手帳に目を落とす。
「一人になった時間はある?」
「あ、違うんです、その、お手洗いに一度……、時間は16:30位だったと思います」
「そうか。どのくらい?」
「えっと……そんなに長くは。5分くらい……だったと思います」
「なるほどな」
トイレか。
16:30頃に一人になった時間がある。それだけなら、別におかしな話じゃねえ。
俺はそのまま次の質問へ移る。
「金満と面識はある?」
「有りません! あんな人知りません!!」
突然、灯の声が大きくなった。
さっきまで怯えるように話していたのが嘘みたいな反応だ。
俺は一瞬だけ南房の顔を見る。
「……そうかい」
それ以上は追及しなかった。
続けて、懐から入口で拾った【髪紐】を取り出す。
「じゃあ、これはどうだ? この髪紐に見覚えは?」
「あ、そ、それは、わ、私のです」
南房の目が髪紐に向く。
その瞬間、ほんのわずかに表情が強張ったように見えた。
「落ちていたんだが、どこで無くしたかわかる?」
「あの、お風呂の後……だと思います」
「風呂の後か。間違いないかい?」
「……はい。たぶん……」
最後の言葉だけ、妙に小さかった。
俺は髪紐を手帳の横に置き、南房の様子を窺う。
「何か変わったことは無かった?」
「はい、特に有りません」
今度はすぐに答えた。
「そうかい。分かった」
ここで無理に聞いても、余計に怯えさせるだけだろう。
「うん、ありがとうね。怖い思いをさせてすまないね」
「いえ、大丈夫です……では」
南房は小さく頭を下げると、そのまま部屋へ戻っていった。
俺はその後ろ姿を見送る。
何かを隠しているようには見える。
だが、今の段階じゃそれが事件に関係するものなのか、それとも単純に事件への恐怖からなのか、判断はつかねえ。
【髪紐は南房の物だった】
まだ聞く時ではないと思い直し、手帳をパタリと閉じる。