山百合荘殺人事件   作:山菫

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証言 雲空真綾

 

 

 明るい髪色の小柄な女性。幼さは残るが可愛(かわい)らしい顔立ちで、髪はサイドに(しば)っている。昼間の明るい様子とは()って()わって、不安げな表情(ひょうじょう)を浮かべている。

 

 雲空真綾(くもそらまあや)

 

「不安だよな、すまんが協力(たの)むぜ」

 

「うん……大丈夫! なんでも聞いて!」

 

 そう答えるものの、昼間にロビーで見せていた明るさはない。無理に元気を出そうとしているのか、落ち着かない様子で時折自分の髪を触っている。

 

「じゃあ、事件が()ったと思われる16:00~17:30、どこにいた?」

 

「お部屋にいたよ。あかりちん、あ、南房灯(なんぼうあかり)ちゃんと一緒にお部屋にいました」

 

「その時間は、ずっと二人で?」

 

「うん……ずっと、だと思う」

 

「だと思う?」

 

「えっと、たぶんずっと」

 

 雲空は少し(くび)(かし)げる。どうやら時間を正確に意識(いしき)していたわけではないらしい。

 

「一人になった時間はある?」

 

「うーん、どうだったかなあ……。灯ちゃんがお手洗いに行ったかな?」

 

「それは何時(ぐらい)?」

 

「えーーっと……(たし)か16:30位だったかな」

 

「16時30分頃ね。それで、どのくらいの時間だった?」

 

「ごめんなさい、小竜先生(しょうりゅうせんせい)の動画見てたら夢中(むちゅう)になっちゃって、気がついたら灯ちゃんが(もど)ってたからわからない」

 

「動画を見ていたのか?」

 

「うん。前から見たかったんだよね。せっかく旅館に来たんだから、ゆっくり見ようと思って」

 

「なるほどな」

 

 事件が起きたと思われる時間帯に、動画に夢中になっていたということか。時間の証言としては少々心許ないが、本人が嘘をついているようにも見えない。

 

「南房さんが部屋を出ている間、誰かが部屋の前を通ったとか、何か音が聞こえたとかは?」

 

「うーん……ごめん、全然わかんない。動画を見てたから」

 

「そりゃ仕方ねえか」

 

 この天気だ。外では風が吹き()れているし、宿の中でも何かしらの物音がしていたはずだ。動画に集中していたのなら、細かい音など覚えていなくても不思議じゃない。

 

「じゃあ、金満と面識(めんしき)は?」

 

「無いでーす」

 

 今度は(まよ)うことなく即答した。

 

「ロビーで怒鳴(どな)ってて、(かん)じわるーって思ってました」

 

「やっぱり、ロビーで怒鳴っていたのは覚えているか」

 

「うん。あんな大声で電話してたら(いや)でも聞こえるよ」

 

「何を話していたかは?」

 

「そこまでは聞いてないよ。なんか、お金っぽい話をしてたような気はするけど……」

 

「そうか」

 

 金満がロビーで電話相手に怒鳴っていたことは、他の宿泊客(しゅくはくきゃく)も覚えている。少なくとも、あの男が周囲からどう見られていたかは分かる。

 

 俺はそこで一度話を切り、現場で拾った【髪紐】を取り出した。

 

「じゃあ、これはどうだ? この髪紐に見覚えは?」

 

「あ、これ灯ちゃんのです」

 

「間違いないか?」

 

「うん。いつも()けてるやつだし、間違いないですよ」

 

「いつも付けてる?」

 

「そうそう。灯ちゃん、髪長いから。これでまとめてるの」

 

「なるほどな」

 

 これで【髪紐】が南房の物だ証言は得れた。

 

「話は戻るが、何か変わった事は無かった?」

 

「うーん、ごめんなさい。動画を見てたからわかんない」

 

「本当に何も?」

 

「うん……あ、でも」

 

 真綾は何かを思い出したように顔を上げる。

 

「何かここに来てから灯ちゃん(くら)いかも?」

 

「暗い?」

 

「うん。昼間は普通だったんだけど、なんか元気ないっていうか。いつもより大人しい感じ?」

 

「事件が起きる前からか?」

 

「うん。たぶん」

 

 真綾は自信(じしん)なさそうに首を傾げる。

 

「私の気のせいかもしれないけどね」

 

「いや、そういうのでも構わねえよ。何か気づいたことがあったら教えてくれ」

 

「うん」

 

 俺は手帳に視線を落とす。

 

 16時から17時30分の間、雲空は南房と部屋にいた。ただし、16時30分頃に南房が一度お手洗いへ行っている。その時間については、雲空自身が動画に夢中になっていたため、どのくらい離れていたのかは分からない。そして【髪紐】は南房の物。さらに、ここへ来てから南房の様子が少し暗かったという。

 

 今のところ、それ以上の情報はない。

 

 なるほどな、髪紐は【南房の髪紐】だと言うことがわかった。

 

 これ以上聞くことは()さそうだ。

 

「助かったぜ、また何か()ったら頼むな」

 

「うん、疑われたままは(いや)だから私頑張(がんば)ります」

 

 そう言って、雲空は少しだけ笑った。

 

 昼間に見せていた明るい笑顔にはまだ戻っていない。それでも、先ほどよりは幾分(いくぶん)か表情が(やわ)らいでいる。

 

 俺は軽く手を上げて部屋を出る。

 

 ――さて、次は誰に聞くとするか。

 

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