山百合荘殺人事件   作:山菫

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証言 斉木勇太

 

 

 どこかオドオドとしていて自信の無さが見える。少し小柄だが(やさ)しそうな雰囲気(ふんいき)がある。

 

 斉木勇太(さえきゆうた)

 

 こちらが近づくと、斉木は少し身構(みがま)えるように肩を(ちぢ)めた。事件が起きてからというもの、ずっと落ち着かない様子だ。宿の従業員という立場で、客の中に殺人犯がいるかもしれない状況になれば、それも無理はない。

 

「悪いが協力(たの)む、できるだけ情報(じょうほう)()しいんだ」

 

「ぼ、僕を(うたが)ってるんですか? 僕はやってません……」

 

「違う違う、疑ってるってんなら俺だって容疑者(ようぎしゃ)だよ。ただ情報が欲しいだけなんだ」

 

「わかりました……」

 

 斉木は少し安堵(あんど)したように息を()く。

 

「じゃあ、事件が起きたと思われる時間、16:00~17:30はどこにいた?」

 

布団(ふとん)部屋です。ずっとって(わけ)じゃないですが……お客様の寝具(しんぐ)用意(ようい)下膳(げぜん)準備(じゅんび)をしてました」

 

「布団部屋で仕事をしていた、ということだな?」

 

「はい……今日はお客さんが少ないので、いつもより仕事は少ないんですけど、夕食の後に(あわ)てないように先に準備してました」

 

「なるほど。じゃあ、その時間はずっと一人だった?」

 

「はい。あの時間、今日は僕が寝具(しんぐ)担当(たんとう)だったので……」

 

「誰かに手伝ってもらったりは?」

 

「いえ。布団を運んだり、必要なものを(そろ)えたりするくらいですから、一人で大丈夫です」

 

 斉木はそう言いながら、自分の手を見つめる。

どうにも挙動(きょどう)が落ち着かない。

緊張しているだけなのか、それとも何か別の理由があるのか。今のところ判断はつかない。

 

「その間、誰か()かけた?」

 

「え、あの、その……」

 

 斉木が一瞬、言葉を詰まらせる。

 

(あかり)さん。あ、南房灯(なんぼうあかり)さんがお部屋に(もど)姿(すがた)を見ました」

 

「南房さんを?」

 

「はい……」

 

「何時頃だった?」

 

「それは……」

 

 斉木は少し考える。

 

(たし)か16:40位だったと思います」

 

「16時40分か」

 

「その時間に何か()がついたことは?」

 

「その……見間違(みまちが)いかもしれないんですが……」

 

 斉木はそこで口を閉じる。

 

「何でもいい。気づいたことがあるなら話してくれ」

 

「外に人影(ひとかげ)が……」

 

「人影?」

 

「いえ!」

 

 斉木は慌てて首を振った。

 

「見間違いかもしれません。たぶん、窓から見えた何かを人影だと思っただけで……」

 

「どんな人影だった?」

 

「それは……よく見えませんでした」

 

「男か女かも?」

 

「わかりません……」

 

「じゃあ、どの辺に見えた?」

 

「外です。窓の向こうに、一瞬だけ……」

 

 斉木は自信なさそうに答える。

 

「でも、本当に見間違いだと思います。風も強かったですし、木か何かだったのかもしれません」

 

「そうかい」

 

 俺は手帳に簡単に書き込む。

 

 外に人影。

 

 ただし、本人も見間違いだと言っている。台風の影響で風も強いし、視界も悪い。これだけでは何とも言えない。

 

「金満と面識(めんしき)は?」

 

「何度か利用(りよう)している方なので、お客様と従業員(じゅうぎょういん)。くらいの関係(かんけい)なら……」

 

「個人的な付き合いはない?」

 

「はい。僕は宿の仕事をしているだけですから」

 

「話したことは?」

 

「宿泊中に必要なことを話すくらいです。夕食の時間とか、お風呂のこととか……それくらいです」

 

「なるほどな」

 

 金満は何度もこの宿を利用している。

 

 斉木が従業員として顔を知っていたとしても、不思議ではない。

 

「厨房には行った?」

 

「はい、一度仕事の確認(かくにん)に行きました」

 

「何時頃?」

 

「正確には覚えていません。夕食の準備をしている時間だったと思います」

 

「そこで誰かと話したか?」

 

立魚(たちうお)さんと女将さんに、布団の準備を始めることを伝えました」

 

「それ以外は?」

 

「特にありません」

 

 俺は手帳を見下ろし、今までの話を整理する。

斉木は布団部屋で寝具の準備をしていた。

その途中で灯が部屋へ戻る姿を見ている。

そして、外に人影らしきものを見た。

ただし、その人影については本人も確信を持っていない。

 

「そうか。よくわかった」

 

「あの……」

 

 斉木が遠慮がちに声を掛けてくる。

 

「はい?」

 

「本当に、僕は何もしてませんから……」

 

「ああ、分かってる。今は話を聞いてるだけだよ」

 

「……はい」

 

 斉木は少しだけ表情(ひょうじょう)(ゆる)めた。

 

 だが、その目にはまだ不安が残っている。

 

 俺は手帳を閉じる。

 

 ……人影、か。

 

 台風の中で見たという話だ。見間違いの可能性も十分ある。

とはいえ、16時40分という具体的な時間まで出てきた以上、完全に無視するわけにもいかない。

俺は斉木(さえき)の顔をもう一度見る。

こいつが何かを知っているのか、それとも本当にただの見間違いなのか。

今の段階では、まだ判断できない。

 

 これ以上聞くことは()さそうだ。

 

「ありがとう、参考(さんこう)になったよ」

 

「は、はい。犯人(つか)まると良いですね」

 

「ああ。必ず捕まえるさ」

 

 そう答えて、俺はその場を離れた。

 

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