山百合荘殺人事件   作:山菫

4 / 18
山百合荘殺人事件4

 

 

 悲鳴の聞こえた方向へ向かうと、2階のとある部屋の前で、女将(おかみ)従業員(じゅうぎょういん)斉木勇太(さえきゆうた)が青い顔で部屋の前に立っていた。

 

 

「どうしました!?」

 

金満(かねみつ)さんが、へ、部屋の中で……」

 

 女将(おかみ)が真っ青な顔で(くちびる)を震わせ、(かろ)うじてそれだけを口にする。

 

「失礼!」

 

 続きの言葉を待たずに、俺は部屋へ一歩()み込んだ。

 

 

 そこには、例の金貸しと思われる男の背中に包丁が刺さったまま、血(まみ)れで横たわっていた。

 

 その瞬間、さっきまで温泉と料理に浮かれていた気分が、一瞬で吹き飛んだ。

 

 部屋を見渡すと、窓が開いており、強風が雨を吹き込ませ、部屋の一部を()らしている。テーブルや座椅子が倒れている様子もない。争った形跡(けいせき)は……見た感じ無い。部屋にあるものは、テーブル、座椅子、テレビ。そして将棋盤と駒がこの部屋にはあったようだ。

 

「部屋に入らないで、私はこういう者です。久々の休暇だったんですがね、どうやら取り消しのようだ」

 

 (ふところ)から警察手帳を出して、女将(おかみ)斉木(さえき)に見せる。こういう時には長々と説明するより、ドラマのように見せたほうが楽である、経験則(けいけんそく)でそう判断(はんだん)した。

 

 金満(かねみつ)と呼ばれた男に近づき、首筋に手を当てる……脈は無い。

 

 状態はうつぶせで、背後から一撃、凶器(きょうき)は包丁だ。家庭用ではないな……

 

 刺身包丁か、先が細く非常に(するど)い。心臓を一撃で(つらぬ)かれたのだろう。

 

 廊下には(さわ)ぎを聞きつけたのだろう、他の宿泊客(しゅくはくきゃく)が部屋から顔を出してこちらを(うかが)っている。

 

 窓が開いている、外部犯か……いや、しかし。

 

 時計をチラリと見る、時刻は19:00を指していた。

 

 

 俺は一旦、全員にロビーへ集まってもらうことにした。

 

 ロビーに集められた面々に向かい、事情(じじょう)を説明する。

 

「急に集まってもらってすまない、私は刑事だ」

 

 先ほどと同じように警察手帳を見せる。

 

「実は201号室の方が何者かに殺された、外はこんな状況だ一度全員に事情を聞きたい。そう判断(はんだん)し、こうして集めさせてもらった」

 

「そんな! 疑ってるんですか!?」

 

「そうだ、ともそうではない。とも言えない。外部の人間の犯行である可能性だってある。だが、万が一内部の者の犯行であった場合、先ほど言った通りなのだ。理解(りかい)して(いただ)けると(たす)かる」

 

 そう頭を下げた。

 

「そして、今から現場検証(げんばけんしょう)に向かう。そして私自身も容疑者(ようぎしゃ)の一人だ。証拠を隠したり等、怪しい事をしないか見張ってくれる者が欲しい、誰か一人付き合ってもらえないだろうか」

 

 ここに集まったのは、私、女将(おかみ)従業員(じゅうぎょういん)である斉木勇太(さえきゆうた)、料理人、大学生の男、そして女性二人組。この7人だ。

 

 皆、顔を見合わせ困惑(こんわく)している、無理もない。急に殺人事件に巻き込まれたのだ。

 

「私が行きます」

 

 女将(おかみ)()を決したように一歩前に出る。

 

「私が適任(てきにん)かと思われます、行きましょう」

 

「すみません。助かります」

 

 

「その前に、警察に連絡だけはしちまいましょう。この天気じゃすぐには来れないでしょうが」

 

「そうですね……」

 

 

 警察へ連絡が終わり、201号室へ戻る。現場検証(げんばけんしょう)を始める。女将(おかみ)さんには入口で私を見張ってもらう事にした。

 

 まずはご遺体。

 

 服装はこの宿の浴衣だ、靴下は履いていない、入口にはこの宿のスリッパが置いてある。

 

 体は部屋の中央付近、入口方向に足を向け、部屋の奥へ向かって倒れ込んでいる。

 

 右手になにか握っている……将棋の駒だ、【歩の駒】を握っている。

 

 中央にテーブルがあり、その横に将棋盤があるため、とっさに(つか)んだのだろうか。

 

「あの、これ。入口の(すみ)に落ちていたのですが」

 

 女将(おかみ)がそう言い、手に紐のような物を持っている。

 

「これは……紐?」

 

髪紐(かみひも)ですね、長い髪をこんな感じで結んだり」

 

 そう言って髪を縛るような仕草(しぐさ)を見せる。

 

「ありがとうございます、事件解決のヒントになるかもしれません」

 

 女将(おかみ)から【髪紐】を受け取る。

 

「ところで女将(おかみ)さん、最後にこの方……金満(かねみつ)さんでしたか」

 

「はい、金満金作(かねみつきんさく)様ですね」

 

「では、金満(かねみつ)さんを最後に見たのはいつですかね?」

 

「お夕飯のご予定を(うかが)いに16:00にお部屋に(うかが)った際に会いました」

 

 16:00の時点では金満(かねみつ)は生きていた。もう少し(しぼ)りたい……

 

「夕飯を持っていった時はどうですかね?」

 

「お夕飯をお持ちしたのは17:30です。その時にお声がけしたのですがお返事がなく……寝ているのかと思いまして一度お夕飯を厨房(ちゅうぼう)に戻して、他の方の配膳(はいぜん)を行いました」

 

「なるほど、その後、何度か部屋を(たず)ねたんですね?」

 

「はい、配膳(はいぜん)が終わってからだから20分後くらいに1度行って、その後2度ほど(うかが)ったんですが、さすがにおかしいと思い斉木(さえき)くんと一緒に部屋に……」

 

 (おそ)らく17:30の時点ですでに犯行は行われていそうだ。

 

 となると、16:00~17:30の間が犯行可能な時間か……

 

 部屋へ戻り、今度は発見時開いていた窓を調べる。

 

 旅館裏手の海が一望できる窓は発見時、開いていた。窓を開け外を覗き込むとかなり高い。

 

 2階とはいえ、1階の天井が相応(そうおう)に高い建物なので、2階でも十分な高さだ。

 

 飛び降りようと思えば、ギリギリ行けるかどうか……

 

 ふと、床に目を向けると、雨を受け変色した畳にうっすらと足跡が見える。

 

 外から侵入(しんにゅう)した者の足跡か、それとも窓を開けるために近づいた者の足跡か……

 

 なかなか大きい足跡だ。少なくとも俺より小さいとは思えない。【大きい足跡】

 

 もう一度、被害者のご遺体へ向かう。体の下に何か白いカード状の物が……【名刺】だ。

 

『小松崎ITソリューション 代表 小松崎靖』

 

 そう書いてあった。

 

 他には何もないようだ。

 

 

 ロビーに戻ると、各々が不安そうな顔をしている。

 

「すまない、戻った。それでこれから皆に少し話を聞かせてもらいたい。女将(おかみ)さんから聞いたものもいるだろうが、現在ここには、すぐに警察が来れない隔離(かくり)された場所になってしまっている。なので臨時(りんじ)で私が聞き取りを行いたい。何卒《なにとぞ》協力して(いただ)きたい」

 

 情報には鮮度(せんど)がある、出来れば直後の情報は聞いておきたいのだ。

 

 

「ちなみに、私は冴山健二(さえやまけんじ)、先ほど述べた通り刑事をやっている」

 

「わかりました、疑われてるのも嫌ですしね。私は雲空真綾(くもそらまあや)、OLやってます。こっちの子が南房灯(なんぼうあかり)、同じ会社の子で一緒に旅行に来ました、ね」

 

「う、うん。南房灯(なんぼうあかり)です」

 

 明るい髪色の子がそう言うと、疑われるよりはという空気が出来上がった。正直助かる。

 

 南房灯(なんぼうあかり)と名乗った子は、唇が真っ青で小刻みに震えている。

 

「ぼ、僕は斉木勇太(さえきゆうた)。ここで働いてます。ま、まだ5ヶ月ですけど……」

 

 次にそう言ったのは従業員(じゅうぎょういん)斉木(さえき)、声も小さく、どこか自信なさげにオドオドとしている。

 

「じゃあ俺で、俺は立魚啓介(たちうおけいすけ)、ここで板前やってる」

 

 そう言って立ち上がったのは如何(いか)にも板前といった格好をした男。

 

「僕は遠谷智也(とおたにともなり)、大学生です。趣味が旅行でここへ来ました」

 

 彼はお風呂で会ったな。

 

「私で最後ですね、私はこの旅館の女将(おかみ)(つと)めさせて頂いております、桜花鈴(おうかりん)と申します」

 

 こんな時まで丁寧に礼をする女将(おかみ)、これで全員だ。

 

 さて、誰から話を聞こう……

 

  選択肢1・・・元気っ子 雲空真綾(くもそらまあや)

 

 選択肢2・・・どこか陰のある 南房灯(なんぼうあかり)

 

 選択肢3・・・オドオドしている 斉木勇太(さえきゆうた)

 

 選択肢4・・・イケメン料理人 立魚啓介(たちうおけいすけ)

 

 選択肢5・・・好青年大学生 遠谷智也(とおたにともなり)

 

 選択肢6・・・美人女将(おかみ) 桜花鈴(おうかりん)

 

 選択肢7・・・もう十分聞いた、犯人は……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定