悲鳴の聞こえた方向へ向かうと、2階のとある部屋の前で、女将と従業員の斉木勇太が青い顔で部屋の前に立っていた。
「どうしました!?」
「金満さんが、へ、部屋の中で……」
女将が真っ青な顔で唇を震わせ、辛うじてそれだけを口にする。
「失礼!」
続きの言葉を待たずに、俺は部屋へ一歩踏み込んだ。
そこには、例の金貸しと思われる男の背中に包丁が刺さったまま、血塗れで横たわっていた。
その瞬間、さっきまで温泉と料理に浮かれていた気分が、一瞬で吹き飛んだ。
部屋を見渡すと、窓が開いており、強風が雨を吹き込ませ、部屋の一部を濡らしている。テーブルや座椅子が倒れている様子もない。争った形跡は……見た感じ無い。部屋にあるものは、テーブル、座椅子、テレビ。そして将棋盤と駒がこの部屋にはあったようだ。
「部屋に入らないで、私はこういう者です。久々の休暇だったんですがね、どうやら取り消しのようだ」
懐から警察手帳を出して、女将と斉木に見せる。こういう時には長々と説明するより、ドラマのように見せたほうが楽である、経験則でそう判断した。
金満と呼ばれた男に近づき、首筋に手を当てる……脈は無い。
状態はうつぶせで、背後から一撃、凶器は包丁だ。家庭用ではないな……
刺身包丁か、先が細く非常に鋭い。心臓を一撃で貫かれたのだろう。
廊下には騒ぎを聞きつけたのだろう、他の宿泊客が部屋から顔を出してこちらを伺っている。
窓が開いている、外部犯か……いや、しかし。
時計をチラリと見る、時刻は19:00を指していた。
俺は一旦、全員にロビーへ集まってもらうことにした。
ロビーに集められた面々に向かい、事情を説明する。
「急に集まってもらってすまない、私は刑事だ」
先ほどと同じように警察手帳を見せる。
「実は201号室の方が何者かに殺された、外はこんな状況だ一度全員に事情を聞きたい。そう判断し、こうして集めさせてもらった」
「そんな! 疑ってるんですか!?」
「そうだ、ともそうではない。とも言えない。外部の人間の犯行である可能性だってある。だが、万が一内部の者の犯行であった場合、先ほど言った通りなのだ。理解して頂けると助かる」
そう頭を下げた。
「そして、今から現場検証に向かう。そして私自身も容疑者の一人だ。証拠を隠したり等、怪しい事をしないか見張ってくれる者が欲しい、誰か一人付き合ってもらえないだろうか」
ここに集まったのは、私、女将、従業員である斉木勇太、料理人、大学生の男、そして女性二人組。この7人だ。
皆、顔を見合わせ困惑している、無理もない。急に殺人事件に巻き込まれたのだ。
「私が行きます」
女将が意を決したように一歩前に出る。
「私が適任かと思われます、行きましょう」
「すみません。助かります」
「その前に、警察に連絡だけはしちまいましょう。この天気じゃすぐには来れないでしょうが」
「そうですね……」
警察へ連絡が終わり、201号室へ戻る。現場検証を始める。女将さんには入口で私を見張ってもらう事にした。
まずはご遺体。
服装はこの宿の浴衣だ、靴下は履いていない、入口にはこの宿のスリッパが置いてある。
体は部屋の中央付近、入口方向に足を向け、部屋の奥へ向かって倒れ込んでいる。
右手になにか握っている……将棋の駒だ、【歩の駒】を握っている。
中央にテーブルがあり、その横に将棋盤があるため、とっさに掴んだのだろうか。
「あの、これ。入口の隅に落ちていたのですが」
女将がそう言い、手に紐のような物を持っている。
「これは……紐?」
「髪紐ですね、長い髪をこんな感じで結んだり」
そう言って髪を縛るような仕草を見せる。
「ありがとうございます、事件解決のヒントになるかもしれません」
女将から【髪紐】を受け取る。
「ところで女将さん、最後にこの方……金満さんでしたか」
「はい、金満金作様ですね」
「では、金満さんを最後に見たのはいつですかね?」
「お夕飯のご予定を伺いに16:00にお部屋に伺った際に会いました」
16:00の時点では金満は生きていた。もう少し絞りたい……
「夕飯を持っていった時はどうですかね?」
「お夕飯をお持ちしたのは17:30です。その時にお声がけしたのですがお返事がなく……寝ているのかと思いまして一度お夕飯を厨房に戻して、他の方の配膳を行いました」
「なるほど、その後、何度か部屋を訪ねたんですね?」
「はい、配膳が終わってからだから20分後くらいに1度行って、その後2度ほど伺ったんですが、さすがにおかしいと思い斉木くんと一緒に部屋に……」
恐らく17:30の時点ですでに犯行は行われていそうだ。
となると、16:00~17:30の間が犯行可能な時間か……
部屋へ戻り、今度は発見時開いていた窓を調べる。
旅館裏手の海が一望できる窓は発見時、開いていた。窓を開け外を覗き込むとかなり高い。
2階とはいえ、1階の天井が相応に高い建物なので、2階でも十分な高さだ。
飛び降りようと思えば、ギリギリ行けるかどうか……
ふと、床に目を向けると、雨を受け変色した畳にうっすらと足跡が見える。
外から侵入した者の足跡か、それとも窓を開けるために近づいた者の足跡か……
なかなか大きい足跡だ。少なくとも俺より小さいとは思えない。【大きい足跡】
もう一度、被害者のご遺体へ向かう。体の下に何か白いカード状の物が……【名刺】だ。
『小松崎ITソリューション 代表 小松崎靖』
そう書いてあった。
他には何もないようだ。
ロビーに戻ると、各々が不安そうな顔をしている。
「すまない、戻った。それでこれから皆に少し話を聞かせてもらいたい。女将さんから聞いたものもいるだろうが、現在ここには、すぐに警察が来れない隔離された場所になってしまっている。なので臨時で私が聞き取りを行いたい。何卒《なにとぞ》協力して頂きたい」
情報には鮮度がある、出来れば直後の情報は聞いておきたいのだ。
「ちなみに、私は冴山健二、先ほど述べた通り刑事をやっている」
「わかりました、疑われてるのも嫌ですしね。私は雲空真綾、OLやってます。こっちの子が南房灯、同じ会社の子で一緒に旅行に来ました、ね」
「う、うん。南房灯です」
明るい髪色の子がそう言うと、疑われるよりはという空気が出来上がった。正直助かる。
南房灯と名乗った子は、唇が真っ青で小刻みに震えている。
「ぼ、僕は斉木勇太。ここで働いてます。ま、まだ5ヶ月ですけど……」
次にそう言ったのは従業員の斉木、声も小さく、どこか自信なさげにオドオドとしている。
「じゃあ俺で、俺は立魚啓介、ここで板前やってる」
そう言って立ち上がったのは如何にも板前といった格好をした男。
「僕は遠谷智也、大学生です。趣味が旅行でここへ来ました」
彼はお風呂で会ったな。
「私で最後ですね、私はこの旅館の女将を勤めさせて頂いております、桜花鈴と申します」
こんな時まで丁寧に礼をする女将、これで全員だ。
さて、誰から話を聞こう……
選択肢1・・・元気っ子 雲空真綾
選択肢2・・・どこか陰のある 南房灯
選択肢3・・・オドオドしている 斉木勇太
選択肢4・・・イケメン料理人 立魚啓介
選択肢5・・・好青年大学生 遠谷智也
選択肢6・・・美人女将 桜花鈴
選択肢7・・・もう十分聞いた、犯人は……