「さて、俺も容疑者の一人だ。ここで俺だけ証言無しってのも話が違うだろう」
「まずは自己紹介からだな、俺は冴山健二42歳。刑事をやっている。まずは皆にも聞いたアリバイからだな、アリバイは無い。部屋にいて、便所に行ったら悲鳴を聞いて駆けつけたわけだな。女将が飯をどうするか聞きに来たのが16:00で飯が来たのが17:40だったかな。その間、部屋からは出てねえ」
「被害者の金満金作との面識だが、無い。皆と同じ様にロビーででかい声で話してるあいつを見た、その程度だな。犯行が可能な時間での気がついたことだが、情けないことになんもねえ。なんせこの天気だ、ちょっとやそっとの音なんかかき消えちまう」
「さて、このくらいかね。何か聞きたいことはあるかい?」
手帳を閉じグルリと皆を見回す。
すると、大学生の遠谷智也が手を上げた。
「あの、アリバイの時間について質問なのですが、なぜ16:00~17:30なのでしょう」
「あぁ、そいつは簡単だ。女将さんが夕飯を聞きに行って最後に金満に会ったのが16:00だった。そして、夕飯を持っていって、返事が無かったのが17:30。その後、当然だが何度か行っても返事がなくて不審に思って部屋へ入ったのが19:00ってわけだ」
「それだと16:00~19:00になるのでは?」
「そりゃまあ、そうなんだが。声をかけて返事がねえ17:30をひとまずってやつだな」
「なるほど、わかりました」
「それじゃあ、ひとまず皆、部屋に戻っていいと思う、被害者の部屋の窓が開いていて、部屋の鍵はかかっていた。外部犯の可能性もあるし、鍵だけはしっかりかけてくれ」
そういうと、各々部屋へ戻ったのだった。
「さて……外部犯、ねぇ……」
俺はまず、女将である桜花鈴の元へ向かう。
「女将さん、わりいがちょっと聞きたい事がある。この宿にはしごはあるかい?」
「ありますが、普段は使わないので外にある倉庫にしまってあります」
「そいつを見せてもらうことはできるかい?」
「……わかりました、こちらです」
外へ出ると、台風の影響だろうか、ますます天気が荒れたように感じる。
倉庫は旅館からそう遠くない位置にあった。
「ここがそうですが普段は鍵をかけてあります。今も、うん、かかってますね」
女将が倉庫の扉に手をかけ、ガタガタと鍵がかかっていることを示す。
「申し訳ないですが、中を見せてもらっても?」
「えぇ、それは構いませんが」
そう言い、持ってきた鍵で倉庫を開けてくれた。
中に入ると普段使ってないと言うだけあって埃の匂いがした。
「はしごはここにある2個だけです」
「2階まで届くのってなると、こっちのやつですかね」
そう指さしたはしごにはうっすら埃が積もっている。
しばらく使った様子は無かった。
「そうですね、他にはありません」
旅館にあるハシゴを使ってないとなると、自分で……この天気の中?
無いな、ありえない。頭を振って女将に向き直る、例の部屋の下も見ておきたい。
「ありがとうございます、ついでと言ってはなんですが、あの部屋の下も案内して貰えますか」
「わかりました」
倉庫から出て、女将の後をついていく。容疑者なんて紹介をした自分を真っ暗で台風が吹き荒れる外で二人切り。
信用してくれている、という事だろうか、有難いことだ。
「あそこが金満さんのお部屋ですね」
そう女将が指さす、やはりなかなか高い。この天気で足元はぬかるんでいる、はしごを立てたならその形跡が残っているだろう、飛び降りたなら尚更だ。細かく見ていくがその形跡は見られない、よっぽど丁寧に痕跡を消したなら話は別だろうが、そもそもハシゴも使わずどうやってあそこまで登るというのか……やはり外部犯は、無い。
そう結論づけた。
「いやはや、こんな天気の中すみませんでした。もう十分です」
「あまりご無理はなさらないでくださいね……」
心配そうにこちらを覗き込む、まったく、長く女将をやっているといい女になるのかね。
そんなどうでも良いことを思いながら旅館の中へと戻るのであった。
「こちらをお使い下さい、傘を差していても濡れたでしょうし」
そう言いながらタオルを渡してくる、ありがたい。
「ありがとうございます。付き合わせてしまい申し訳ない」
「大丈夫ですよ、私も早く解決してほしいですし」
そう優しく微笑む。
さて、と。外部犯が消えたとなると、話を聞かなきゃいけねえ事ができたな……
斉木勇太。やっこさんが見たという人影について聞く必要が出てきたようだ。