山百合荘殺人事件   作:山菫

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山百合荘殺人事件8

 

 

南房(なんぼう)雲空(くもそら)の部屋を後にした俺は、確認しておきたいことを思い出し、厨房(ちゅうぼう)へ向かった。

 

 厨房(ちゅうぼう)では、立魚啓介(たちうおけいすけ)女将(おかみ)桜花鈴(おうかりん)が二人で片付けをしていた。

 

「邪魔するぜ」

 

 声をかけると、二人がパッとこちらを振り向く。

 

「実はちょっと聞きたいことがあってね」

 

 俺は厨房(ちゅうぼう)の中を見回す。

 

「現場に残された包丁なんだが、一般家庭で使うような、所謂(いわゆる)三徳包丁ってやつとは違って、本格的なもんが残されてたんだ」

 

「そこで、厨房(ちゅうぼう)から盗まれたもんじゃないかと思ってね。その辺、調べさせてもらえないかい」

 

「あぁ、そういう事なら」

 

 啓介(けいすけ)はすぐに頷いた。

 

「丁度、洗って手入れが終わった、今日使ったものがここにあります」

 

 そう言って示された場所には、包丁が四本並んでいた。

 

「そして、使い終わって手入れが終わったら、そこの……入口にある紫外線で殺菌できる装置の中に入れておくんです」

 

 啓介(けいすけ)が指差したのは、厨房(ちゅうぼう)に入ってすぐのところに置かれた殺菌装置だった。

 

 厨房(ちゅうぼう)の入口からは、冷蔵庫や冷凍庫が壁のようになっている。そのため、装置の置かれている場所は厨房(ちゅうぼう)の奥からも入口からも死角になっていた。

 

 なるほど。

 

 誰かが一本抜き取ったとしても、外から見ただけじゃ気づきにくい。

 

「ちょっと、中を確認してもらってもいいですかね?」

 

「わかりました」

 

 啓介(けいすけ)は四本の包丁を手に取ると、殺菌装置の扉を開けた。一本ずつ中へ収めていく。

 

「えっと……あっ」

 

 啓介(けいすけ)の手が止まった。

 

「一本、無いです」

 

「何が?」

 

「刺身包丁が一本」

 

 やっぱりか。

 

 現場に残されていたものと一致する。

 

「あぁ、やっぱりか。どうもありがとう」

 

「……あの」

 

 啓介(けいすけ)が不安そうにこちらを見る。

 

「やっぱり、ってことは……金満(かねみつ)さんは、私の包丁で……?」

 

「あぁー、いや」

 

 俺は少し言葉を濁した。

 

「まだ確定はしてないですがね。恐らく」

 

「……そうですか」

 

 啓介(けいすけ)は悲しそうに目を伏せた。

 

 職人にとっちゃ、包丁はただの道具じゃねえのだろう。自分が手入れして、大切に使ってきたものが、人を殺すために使われた。思うところがあって当然だ。

 

 これ以上、包丁の話を続けるのも酷だろう。

 

「あー、それとですな」

 

 俺は話題を変える。

 

女将(おかみ)さんにも、少々お聞きしたいことがありまして」

 

「はい? 何でしょう」

 

「実は、宿泊している遠谷(とおたに)さんなんですがね」

 

 遠谷(とおたに)

 

 頭の中に、あの大学生の顔が浮かぶ。

 

「以前、何度か泊まってるようなんですが」

 

「はい。気に入っていただけて、何度かお越しになってますよ」

 

「その時に、金満(かねみつ)さんと話していたり、何か関係を持っていたり……そういうところを見てないですかね?」

 

「うーん……どうでしょう」

 

 (すず)は少し考えるように首を傾げる。

 

「お風呂でご一緒したりは、あるかもしれませんけど……」

 

「ふむ」

 

「……あ、そういえば」

 

 何か思い出したらしい。

 

「以前、お部屋の前でお二人が話されていたのを見ました」

 

「そうですか」

 

 やはり、何かしらの接点はあったらしい。

 

 だが、それだけじゃまだ何とも言えねえ。

 

 旅館で客同士が話している。それだけなら、珍しいことでもない。

 

「ありがとうございます。また何か有ったらお願いしますわ」

 

「はい、お役に立てたなら良かったです」

 

 俺は厨房(ちゅうぼう)を後にした。

 

 遠谷(とおたに)金満(かねみつ)

 

 以前から面識があった。

 

 それだけは分かった。

 

 さて――次は本人に聞いてみるか。

 

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