獅童正義は明智吾郎として生きることになった。   作:枝野トナナ

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第15話――4/2『Fragile Beauty Between Us』

 待ちに待った土曜日だが、空はどんよりと曇っている。

 天気予報を信じるならば雨は降らないとのこと。

 しかし厚く垂れこめた雲を見ていると、やはり折りたたみ傘を持ち歩きたくなるというものだ。

 レインコートの方が軽いとはいえ、今日は服を買うことが主目的。

 荷物を増やしたくない気持ちと買ったばかりの品物を濡らしたくはない気持ちでは、後者の方が重くもなろう。

 

 そんなわけで電車に揺られ、昨日と同じく渋谷に着く。

 プライベートな待ち合わせでは5分前到着がマナーと言われるが、い(・)つ(・)電(・)車(・)が(・)脱(・)線(・)事(・)故(・)を(・)起(・)こ(・)す(・)か(・)わ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)からな。

 2本早い10時半発に乗ってきた分、ゆっくり歩いて時間を調節する。

 『明日の神話』を横目に帝急ビル連絡通路を通り、銀坐線改札へ。

 ヨンジェルマンの前を――今日は濡れカツサンドは売ってないか――通過し、エスカレーターを降りて宮益坂中央改札方面へ歩いていく。

 まあまあ人が多いが、急ぐ必要もない。

 どうせ約束の時間まであと15分はある……と思ったら、喜多川祐介の方が先に待っていた。

 例によって人間観察(いつものアレ)をやっている。

 待つのが苦でないから早めに来て日課を済ませているのだろうか。

 何はともあれ、待たされないのは良いことだ。

 不愉快になる要素が少ないガキというものは今日日貴重な存在だからな。

 将来への投資という面もあるが、絶滅危惧種の保護という観点からも多少は便宜を図ってやるさ。

 

「ごめんごめん、待たせちゃった?」

 

 口だけの謝罪は良くないとされがちだが、こういう時に本気で謝るのは逆効果だ。

 気負わせない程度の軽さこそが最重要。友人らしく、フレンドリーな姿勢を崩してはならない。

 

「いや、俺も今来たばかりだ。明智こそ早かったな?」

「僕は電車だからね。何かあって遅れると困るから、ついつい早めに出ちゃうんだ」

「電車か……俺は通学以外ではほとんど乗らないんだが、どうやって来てるんだ?」

「向こうの井の頭線で一本だよ。今の家、下北沢だし」

「ふむ……行ったことはないが、演劇とファッションの街と聞くな」

「駅周辺はね。住宅街まで出ると一気に静かになるよ。

 あとファッションと言ってもあそこは古着が中心だからね。ちょっと僕の趣味じゃない」

 

 ヴィンテージにはヴィンテージの良さがあるというのはわかるが、他人が長年着た服に腕を通すというのはな……

 新しい服がほしいという理由の半分も、明智吾郎(クソガキ)が着ていた服を着たくないという気持ち故だ。

 残りの半分? 好みに合わんからだが?

 

「古着か……藍染やデニムなら、色彩の変化を楽しもうとする感覚はわかるのだがな。

 あるいはものすごく安くて良いものがあれば買うが」

「あはは、まあね。僕もこの帽子だけはお買い得だったし気に入ったから買っちゃった。

 実際、昔の服のデザインって独特なものも多いし、二度と手に入らないって付加価値もある。

 その点は認めるよ」

 

 答えながらわざとゆっくりめに歩き出す。

 喜多川はこちらと同じスピードでついてくる。

 がさつな人間だと自分の歩幅で気にせず歩くものだが、こいつは少なくとも相手に合わせて歩くだけの気遣いはできるということだ。

 その割に図太い要求をしたり、自分に無関係な話だからといって構図を切ったり――どうにもアンバランスだな。

 まあいい。私が求める要件を満たしてさえいれば、多少の欠点は目をつぶろう。

 

「ちょっとした小物ぐらいならいいんだけど、僕は服に関しては新品派で現代派だからさ。

 とりあえずSHIPとBEAMとUNITEDARCHIでも見ようと思ってるんだ」

 

 かすれや色落ち、傷みこそを味として愛でる古着は、清潔感という一点においてどう足掻いても新品の服には勝てないからな。

 見た目の清潔感なくして清廉潔白なイメージは築けない。

 たとえお忍び用の私服といえども、そこに手を抜きたくはない。

 

「全体的に、どんなイメージの服を探してるんだ?」

「とにかく雰囲気を変えたいからカジュアル寄りにしようと思ってる。

 あとはボタンがない服がいいな。着やすいし」

「……前々から思っていたが、左手を痛めているのか?」

 

 ――さすがに気づくか。

 こいつの前では右手だけで食べられるカレー類しか頼んでいないとはいえ、偽装用手袋をはめて固定しているしな。

 

「腕は動くんだけどね。

 思うように動かないくせに何かのはずみで勝手に動くから、リハビリ中以外は病院の先生に勧められた固定具をつけてるんだ。

 まあ数ヶ月頑張れば治る可能性が高いって言われてるから、今だけの我慢だけど」

「そ、そうか……大変だな。

 探偵というものはやはり危険に巻き込まれやすいのか?」

「そんなことはないよ。巻き込まれるんじゃなくて自分から危険に突っ込んでいくだけだからね。

 ま、僕も色々懲りたから、当面はアームチェア・ディテクティブを目指そうと思ってるよ」

「アームチェア……なんだって?」

「聞いたことない? 安楽椅子探偵ってやつ。

 事件現場に行かずに伝聞情報だけで謎を解く、僕が一番好きなジャンルだ」

 

 本物の明智吾郎はマッチポンプを駆使した超行動派探偵だったがな。

 私が探偵の真似事をするなら、自ら靴をすり減らすよりも他人が集めた情報を集積して分析するスタイルの方が性に合う。

 ――そもそも本物のようにクロスバイクで都内を走り回ろうものなら、血圧が上昇しすぎて脳内出血で死ぬだろうが。

 

「もちろん現場を見ないとわからないことも多いけど、今の警察は優秀だからね。

 物証に限れば僕みたいな素人なんかよりずっと丁寧な仕事で、抜け目無く探してくれるよ。

 僕はモノを見るより、嘘をついてる奴を探すほうが得意だし」

「大した自信だな。なら、俺が嘘をついても見破れると?」

「ハハハッ、もちろん――と言いたいけれど、試しに嘘をつくのは止めたほうがいい。

 僕は嘘をつかれるのがこの世で一番嫌いなんだ。

 だって、どんな嘘だとしてもそ(・)れ(・)で(・)騙(・)さ(・)れ(・)る(・)ほ(・)ど(・)僕(・)を(・)バ(・)カ(・)だ(・)と(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)から嘘をつくわけだろう?」

 

 これは本心だ。

 愚者は私を侮るからこそ嘘で対処しようとする。

 

「無論、本当に僕を騙し通せるほどの完璧な嘘をつける人がいるなら、その時はちゃんと尊敬するよ。

 だけど僕に見破られる程度の嘘をついておいて無事に切り抜けるつもりのバカは許さない。

 ――ま、これは探偵としての美学みたいなものだよ。

 騙し合いという知恵比べで負ける気はないし、もし挑むというなら全力で叩き潰すってね」

「美学か……なるほど」

 

 そもそも他人を騙すのに下らん嘘を用いる時点で三流だがな。

 私が仮に探偵であったなら同じ美学を掲げるし、探偵でなかろうと私を騙す者は万死に値する。

 ――こうやって仮定の話を駆使し、もっとも重要な真実を話さないだけでも、凡人は騙し通せるものだ。

 

「だからまあ、もし僕に話したくないことがあるなら素直にそう言ってくれ。

 僕だって隠し事は普通にしてる――というか守秘義務絡みで話せない話の方が圧倒的に多いからね。

 話したくない、言えない、喋りたくない、そういう風に言ってくれればそれ以上は聞いたり探ったりしないから」

「心得た。……まあ、俺が隠し事をする機会もそうそうないとは思うが」

 

 そうであってほしいがな。

 友人枠として扱っているガキに隠し事をされるようでは、こちらの人心掌握が出来ていない証拠だ。

 ――などと考えている間に、最初の目的地が見えてきた。

 SHIPだ。

 店名が良いので出来たばかりの頃はそこそこの頻度で足を運んでいたのだが……議員バッジを手にしてからは遠のいていたな。

 

「こういう店は初めて来たな。

 少し大人向けのようだが……って高ッ!?」

 

 ……ちょっと値札見ただけでフリーズするなよ。

 もっと高い店なんて世の中いくらでもあるんだぞ。

 

「セレクトショップ御三家の中でもやや大人向けの店だからね。

 ちゃんと若い奴向けのレーベルがあったはず……あ、あれだ。エニィブルーってやつ」

「そ、そうだよな。大人向けが高いだけ、だよな……」

「……値札は見なくていいからね。

 とりあえず見た目で僕に似合いそうな服を選んでくれたらそれで十分だから。

 ああ、できれば帽子も欲しいかな。日焼けや熱中症も今のうちから対策しておきたいし」

「……い、いいのか? 合計したら10万円超えてたりしたら大変じゃないか?」

「品質が良ければ多少値段が張るのは仕方ないよ。

 君だって――そうだな、天然のラピスラズリを使った最高級のウルトラマリンブルーが1万円で売ってたら買ったりするんじゃないか?」

「それは……確かに、持ち合わせがあれば即買いするが」

 

 支援者の画家が自慢していたので覚えている。

 日本メーカー製のもっとも高い油絵具であり、1本2万円するらしい。

 1万円ならむしろ破格というわけだが、40mlの絵の具に出せるかと問われれば絵描き以外は首を横に振るだろう。

 

「そういうことなら……そうだな。

 明智の髪色なら同色を軸にしてグラデーションを作るか……?」

 

 喜多川は構図を切ったり独り言をつぶやきながら、売り場をウロウロ歩いた末に、ベージュのTシャツとペールブラウンのボトムスを持ってくる。

 しかし私が試しに服の上に重ねてみると、「……地味か。地味だな」と自分で勝手に否定してまた別の場所に向かう。

 そして今度はオリーブグリーンの上着とマスタードのリネンストール、モカブラウンのバケットハットを取ってきた。

 一応試着してみるが……

 

「……色の取り合わせで選んでみたが季節が違うな。ストールを抜いて上をアイボリーにするか」

 

 代わりに渡されたジップアップパーカーを着てみると、なかなか悪くないラインに収まった。

 カジュアルだが爽やかな印象で、本物の明智吾郎らしい要素は薄く、それでいて学生らしさと清潔感が同居している。

 

「おおー、いいね! これなら着やすそうだ。

 じゃあ買ってくるよ!」

 

 さっさと会計を済ます。

 4万6千円。まあこんなもんだろ。

 

「ありがとう! じゃあ次行こう、次」

「だ、大丈夫、なのか!?」

「? 何が?」

「……い、いや、なんでもない」

 

 頭の中で牛丼換算か何かをやっている顔をしている。

 若い奴が良くやるよな。うまみ棒換算とか缶コーヒー換算とか。

 まあ国会でもカップラーメン価格クイズをやるのが我が国だ。民族性として食事を根幹に置く傾向があるのだろう。

 

 ――そんなこんなで2件目でも買い物をし、カードで払う。

 残高は気にしない。どうせ月末払いだし、その頃には遺産が入ってきている。

 相続税でだいぶ削られるだろうが、さすがに2千万は手元に残せるはずだ。

 丁寧に袋詰めされた服一式を受け取った私は、少し離れた姿見の近くでぼんやりしている喜多川に声をかけた。

 

「よし。そろそろお昼だし、ランチ行こう」

「服2セットで……牛丼が250杯……いや260杯……? ホルベインのヴェルネの40色セットが買える……?」

「喜多川? 昼食べに行こうよ。君の好きなところでいいよ」

「……はっ!? あ、ああ……すまない、少し取り乱した。

 今日は……そうだな、……いや本当にいいのか?」

「いいもなにも、連れ回して服を見立ててもらってるからお礼は当然――」

 

 笑いながら言いかけたその時、不意に、喜多川の横から視線を感じた。

 服を見るためのただの姿見。

 その鏡面に映る、明智吾郎の目が、こちらを見ている。

 

「――」

 

 幻覚だ。

 気のせいだ。

 頭ではわかっているはずなのに心臓が強く脈を打つ。

 一拍遅れて走る目眩と頭痛に思わず目を閉じ――

 

「明智? どうした?」

 

 ――喜多川祐介の声に目を開ける。

 心配そうにこちらを見る何も知らないガキの顔。

 わずかに歪み、ちらつく視界で鏡を見る。

 明智吾郎の姿をした私の姿が映っている。

 ……そうだ。私は私だ。私が映っているだけだ。あのクソガキなどどこにもいない。

 

「……ごめん、少し立ちくらみを起こしたみたいだ。

 近くのカフェに入って休んでもいいか?

 昼は別にちゃんと奢るから」

「あ、ああ。肩を貸そうか?」

「……悪い。頼む」

 

 脈がこれ以上早くならないように呼吸を調えながら、同じ通りにある系列店へ移動する。

 2階にカフェがあったはずだ。

 階段をゆっくり登って、どうにかこうにか店にたどり着き、空いている席に座る。

 

「悪い……飲み物買ってきてくれないか……

 何でもいい……あ、あと一緒になんか頼んでいいから……」

「わかった。待っていろ」

 

 とりあえず千円だけ抜いて渡す。メニューを見る余力はない。

 目を閉じて少しでも早く頭痛と目眩が通り過ぎるのを祈るだけだ。

 

「これでいいか?」

「……ああ、ありが、とう」

 

 茶色ということしかわからない液体を口に含む。

 慣れない味と変わった香り。どうやらハーブティーのようだ。

 鎮静作用があるのか、心音が徐々に落ち着いていく感覚がある。

 目眩はまだ残っているが、頭に響く痛みはかなり薄れた。

 

「ふぅ、助かった……ごめん、こんな急に体調が崩れるとは思わなかった」

「いや……落ち着いてきたのならいいんだが」

 

 喜多川はアイスカフェラテを頼んだらしい。

 もう半分以上減っている。飲むのが早いのか、私の時間感覚が狂っているだけかはわからない。

 

「その……こういうことを聞いていいかわからんのだが。

 何か持病を抱えているのか? 少し動きが変だとは思っていたが……」

 

 ――まあ、そうなるよな。

 

「持病というか……ここだけの話、頭を手術したばかりでさ。

 左手も体調不良も目眩や頭痛の発作も、全部その影響。治りきるまでの代償みたいな感じだね」

「それは――それこそ完治するまで安静にしたほうがいいんじゃないのか?」

「僕もそう思ってたんだけど病院の先生に言われたんだ。

 激しい運動は死ぬからダメだけど、心拍数が上がりすぎないようなウォーキングや散歩ならやった方が早く治るって。

 使わないと筋肉も脳も衰えるし、日光を浴びたり身体を動かすことで身体がいい感じに活性化するってことらしい」

 

 これは事実だ。

 きちんと医師から説明を受けているし、だからこそ積極的な外出を心がけている。

 

「なるほど……しかし急に体調を崩した時はどうするんだ?

 今日は俺がいたから良かったが、1人だとどうしようもないだろう」

「そうだね。本当に危険になった時の薬は持ち歩いてるけど、多分強い薬だから発作中に飲んだら昏倒間違いないだろうし。

 そこら辺の人の善意に期待して救急車呼んでもらうことになるかな」

「えっ……ええ……?」

 

 倒れるまでに秘書達や新島冴にチャットを送ることはできるだろうが、渋谷や下北沢周辺を偶然うろついている可能性などまずないだろう。

 そもそも――

 

「だいたい、路上で倒れる方がむしろ安全まであるよ。

 だって僕は一人暮らしだし――家の中で倒れて、知り合いにチャット送る余力がなかったらそのまま死ぬかもしれないしね。

 外なら人目につく分、誰かは助けてくれるだろうから」

「……笑って言うことじゃなくないか?」

「笑い飛ばしていたいからね。

 肝心の手術は無事に終わって命は繋がったんだ。あとは治るだけだから、前を向いていたい。

 ――そう考えたら、結構欲しいものがいっぱい出てきてさ」

 

 味方を作るのに同情は有効だが、あまり重い話ばかり聞かされても普通の人間は嫌がるものだ。

 そろそろ明るい話題に切り替えて、共感を引いてやったほうがいいだろう。

 

「友達が欲しい、服が欲しい、遊びに行きたい、何かを見に行きたい、あれもやりたいこれもやりたい――なんてことを病室でずっと考えてたんだ。

 そうして退院できて諸々の片付けを終わらせて、これでようやく自由だぞって時に、たまたま君を見つけたわけだ。

 あんなところで人間観察やってるなんて、いったいどんな絵を描くのかなあって」

「……」

「僕はね、これでも芸術は好きなんだよ。

 だって美しいものを見た時の感動は、全ての人間が等しく共有できる唯一の感情じゃないか。

 好き嫌いとか正義とか、世の中には分かち合えないものの方が多いのに、美しさだけは掛け値なしに人の心を1つにできる。

 ――君のスケッチを見せてもらってさ。ああ、君は本物の芸術家なんだなって思ったよ」

「……そんな、ことは」

「あるよ。少なくとも僕は認めてる。

 君には間違いなく『美しさという概念』を形にできる才能と技術が揃ってるってね。

 ……まあ、だから、できれば特等席で君の絵を見たくなったんだ」

「……そこまで言われると、面映ゆいな。

 俺はまだまだ未熟者だというのに」

 

 ……? ずいぶん自己肯定感が低いな。

 そもそも美術科特待生という立場を獲得できている時点で、自分の絵に相応の価値があることは理解できるはずだが。

 まあ……今はそちらに深入りするタイミングではないか。

 

「未熟だというなら、なおさら伸びる余地しかないってことじゃないか。

 今から7年後の君の絵を予約しておいた方が良いかな?」

「遠いな!? なんで7年後……」

「だって君、次2年生だから美大や芸大卒業まで最短で6年だろ?

 そこから1年かけて描いた新作を買うとしたら7年になるじゃないか」

「い、いや、だが、俺が大学に行けるとは……」

「行きなよ。君ならストレートで行けるだろうし、高校と同じで特待生も狙えるよ」

「そういう風に言ってくれるのは嬉しいが……」

 

 ……歯切れが悪いな。斑目のタヌキジジイが余計なことでも吹き込んでるのか?

 ここまでの才能なら摘み取るより、丁寧に育てて『私が育てました』と胸を張った方が得だろうに。

 

「――ああ、そうだ。そろそろ体調も落ち着いてきたから、ご飯食べに移動しようか。

 とんでもなく迷惑かけちゃったから、お詫びってことで予算2千円でいいよ」

「えっ」

「ああ、心配しないで。これは口止め料も兼ねてるから」

「ええっ?」

「僕さ、実は高校生探偵ってことでたまーにテレビ出て仕事してるんだよね。

 だから手術や体調不良のことは重要機密なんで身近な人にしか話してないんだ。

 そういうわけでランチ奢る分、僕のことは極力内緒にしてほしいなって」

「ええ……? いや秘密にするのはいいんだが、テレビに出てるとかは聞いてないんだが?」

「言ってないしね。君の反応からして僕のこと知らないのもすぐにわかったし。

 余計なこと言って身構えられるより、同じ高校生同士普通に友達として仲良くなりたかったからさ」

「……変人だな」

 

 お前も大概だぞガキ。

 

「俺に目をつけるのもそうだが……美術科の仲間以外で友達になりたいと言われたのは久しぶりだ」

「嫌かな?」

「いや……俺の絵を好いてくれるというなら、画家冥利に尽きるというものだ。

 それにこうやって話したり新しい体験に触れることで、1人では得られない着想が湧いてくる」

「なら、引き続き付き合ってくれるってことでいいかな?」

「うむ。そういうわけで炭焼き牛タンなる店が気になっているんだがどうだろうか」

「ヒカリエの? いいよいいよ、行こう!」

 

 ――ひとまず今日は友人としての関係性を強化することに専念しよう。

 喜多川祐介の言動から垣間見える違和感は気になるが……調査するコストとリターンが釣り合うかもわからん。

 単純にスランプ気味で凹んでいるだけかもしれんしな。

 芸術家はだいたいそうだ。生き生きと作品に取り掛かる期間と、呼吸してるだけの死にぞこないと化している期間が分かれている奴が多い。

 まあ、仮にも『友人』だ。

 必要な役割を務めてくれさえすれば、食事の世話ついでにメンタルケアぐらいはしてやるさ。




Q:明智()は普通に嘘ついてませんか?
A: 基本的に真(・)実(・)に(・)分(・)類(・)さ(・)れ(・)る(・)事(・)柄(・)を語っています。ただし相(・)手(・)が(・)都(・)合(・)よ(・)く(・)誤(・)解(・)す(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)言っているだけです。
「本音」、「素の明智吾郎なら言うはずの言葉」、「探偵王子としての明智吾郎なら言うはずの言葉」、「自分が探偵だったら言う言葉」、「他人が実際に言っていた言葉」、「客観的事実」、「一般論」といった、それぞれ単独では嘘にならない内容を繋ぎ合わせたり意図的に主語を削って誘導しているわけです。
 選択的真実+事実による誤認というテクニックに分類されます。
 それはそれとして素直に嘘をついた方が相手を信用させられると判断した場合は嘘を言います。

Q:脳腫瘍とか左手麻痺とかは嘘では?
A:「そう言われても、病(・)院(・)で(・)そ(・)う(・)診(・)断(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)て(・)カ(・)ル(・)テ(・)も(・)あ(・)る(・)ので……専門家の診察を素人の僕が疑うのもおかしな話でしょう?
 それに右手より左手が動かしにくいのは事実ですし、無意識に動く可能性があるのも事実ですよ?」

Q:隠し事はセーフなんですか?
A:「隠し事を許さないと嘘でごまかすバカが増えるからな」
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