獅童正義は明智吾郎として生きることになった。   作:枝野トナナ

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第6話――3/24『Dance with Lies in Nightmares』

 全てを注ぎ込んで作った船が、果てしない海をどこまでも進んでいく。

 乗船客は全部俺が選んだ人間だけ。

 邪魔な奴は一人もいない。

 飢えることも欠けることも病むことも無くすこともないまま、終わることのない船旅を続けよう。

 潮風と波音に揺られるまま、舵を握って――

 

『どうしてあなたが夢を見るんですか?』

 

 恨みがましい声。

 後ろを振り向けば、だらりと吊り下がった首吊り死体。

 瞬きすれば泣き叫ぶ女。次の瞬間には首と足が不自然に曲がった女。そして――

 

『なんであなたが生きているんですか?』

 

 鏡に映る、俺の姿をしていない自分自身。

 違う。俺はこんな顔をしていない。

 違う。今の俺の姿はこれだ。

 

『返してくださいよ』

 

 鏡の向こうから手が伸びる。

 栗色の髪の間からだらだらと血を流しながら、そいつはゆっくりと俺に近づいてくる。

 ――いや、そいつだけじゃない。

 折れた女の手が、マニキュアが剥がれた女の手が、皺とヒビが刻まれた男の手が。

 

『返してくださいよ、僕の身体』

『返してよ、私の人生』

『返してよ、あたしの幸せ』

『返してくれよ、俺の命』

 

 迫って、迫って、迫って――

 

「――うわああああああああああああああああああ!!!!」

 

 自分の叫び声で飛び起きた。

 

 

 

「困るんだよねえ……お隣、小さい子住んでるのよ?」

「申し訳ありません!」

 

 隣人からのクレーム対応でやってきた大家に全力で頭を下げる。

 ここは私の家ではなく、明智吾郎が借りていた賃貸マンションなのだ。

 当然防音対策もそこまで重視してはいないだろう。

 午前5時に他人の叫び声で叩き起こされたら誰だって文句を言う。私だって言う。

 

「本当にすみません! その……ええと、手術の時のこと思い出したのか、とんでもない夢を見て……

 その、今後は気をつけますので」

「まあ私もわざとじゃないとは思ってあげたいけどねえ。

 ……っていうか手術してたの?」

「え、ええ……その、病院で健康診断を勧められたら、今すぐ手術しないと死ぬよって言われて。

 ついこの前、二週間ぐらい入院してました」

「あら……そういえば確かにチラシが溜まっていたわね。

 てっきり旅行だと思ってたんだけど、若いのに大変ねえ……

 そういうことなら、お隣さんには私から言っておいてあげるわ」

「あっ、ありがとうございます!!」

 

 長説教を覚悟していたが、話がわかるババアで良かった。

「仕方ないものねぇ」とぼやきながら去っていく大家を深々と頭を下げて見送ってから、室内に戻る。

 雨が降っているとはいえ、それだけでは片付けられないほど寒い。

 妙な悪夢を見るわ数日前はめまいでふらつくわ、自分の感覚が狂っているのではないか――と思いながらテレビをつけたところ、冬並の寒波が襲来していた。

 3月の終わりだぞ、今。季節仕事しろ。

 

「――今日、どうすっかな」

 

 ベッドの上で大の字になりながら天井を見上げる。

 やることがないのではない。

 タスクは山のように積み上がっている。

 何なら新しく追加された。隣人対応なんざ考えたくないからガチガチの防音部屋に住みたい。

 

 ――そんなことを考えながら、久しぶりに買ったカップ麺を作る。

 左手で食べる練習だ。いつまでも偽装手袋に頼って麻痺したフリは続けられない。

 ついでに高校数学の復習がてら筆跡の練習もして、新島からの連絡を待とう。

 

 昨日、遺言書の内容は見せた。

 しかし現役の検事である新島自身は遺言執行者にはなれない。国家公務員法の兼職禁止という奴だ。

 そういうわけで、あの女が知っている弁護士の中から、ちょうどよく予定が空いている奴を探してもらっている。

 他にも後見人の署名やら実印やらが必要ではあるが、そこは星野が用意した奴を吉阪からと偽って渡してある。

 

 ーー正直、顔も知らん後見人の相手など面倒くさいから、弁護士事務所のハコが完成したら笹木に変わらせる予定ではあるのだが。

 

 この国における後見人交代の手続きというのはバカバカしいほど時間がかかる。

 例え全員があらかじめ合意していたとしても、家裁が関係者に面談して背後関係を調査するからだ。

 

 まあ……星野の話だと、明智吾郎(クソガキ)の境遇に多少同情しただけの年寄りだという話だからな。

 虐待だの何だのをでっち上げるよりは、正攻法で話を進めた方が後腐れがないだろう。

 一ヶ月弱かかるとして、おおよそ5月までの辛抱だ。

 大したことはない。

 

 ……いや、あるな。

 

 賃貸契約は未成年では結べない。さすがに後見人を引っ張ってこないと無理だ。

 なら、獅童正義の部屋に戻るか?

 あちらは購入型マンションだから防音性能が高いはずだし、相続対象だから問題なく使えるはず――……いや、色々リスクが高いか。

 検察や税務署経由でいずれ露見するとはいえ、明智が獅童の隠し子だというのはまだ広まっていない情報だ。

 わざわざマスコミにエサをくれてやる必要はない。

 となると、ホテルだろうか……個人契約は無理でも、法人契約なら……いや無理か……無理だな……

 

 ――などと考えていると、新島からチャットが入った。

 明日の午前中にスケジュールを組めたようだ。

 なら、今日は……

  

「……行くか。テレビ局」

 

 さすがに病み上がりで左手麻痺で記憶障害という設定だ。

 出演を増やしてくれと言っても、『そういう不幸キャラ』で売り出さない限りは難しいだろう。 

 当然、将来的に政治家として返り咲きたい私としては、その手の顔の売り方はしたくない。

 大衆がリーダーに求めるものはパワフルさだ。

 別に筋肉ダルマになる必要まではないだろうが、高校生らしい快活さと知性を併せ持つタレントとしてアピールした方が後々有利に働く。

 

 とりあえずコメンテーターぐらいなら問題なくこなせるということをアピールして、春休みだからちょっと出演を増やしてほしいとか――

 あわよくば適当に一週間ぐらい部屋を借りさせる方向に持っていけないだろうか……

 

 ――考えておいてなんだが、無理だな。

 視聴率とスポンサー受けが全ての芸能界で、クソガキの甘っちょろい相談を受けるはずがない。

 今日は素直に顔だけ繋ぐことにしよう。

 

 

 そうしてやってきた赤坂見附のテレビ局。

 受付を済ませてロビーのソファに座って、あとはプロデューサーがやってくるのを待つだけ――だったのだが。

 

「あれ? 明智くん? 珍しいね……ってなんかやつれてない?」

「どしたん? 風邪? 病気? 俺様のパワー分けよっか?

 フェザーパワー注入! みたいな」

「なんで裏声なんです!? もしかして私の真似してます?」

「でひゃひゃひゃひゃ! バレた?

 じゃあせっかくだから本家本元見せてちょーだい、なーんて」

「あ、あは、あははは……」

 

 助けてくれ。

 なんで私が、通りすがりの芸人どものオモチャにされねばならんのだ。

 こいつら二人とも明智吾郎の顔見知りだってのか? なら名前と連絡先聞いて入れとけクソガキ!

 

「あ、あの、すみません。どこかでお会いしたことありましたっけ?

 実は、その……頭を手術したせいか、少し記憶が曖昧で……」

「えっ!?」

「ええー!? ウソだろぉ!? 俺様とゴローちゃんあんなに一緒に仕事したのに?」

「そういうウソついちゃダメでしょう! 本気にしたらどうするんですか!」

 

 ……共演者ではない、はずだよな。

 明智吾郎が出た番組は全てチェックしたが、この手のイロモノと同じ画面に映っていたらさすがにわかるはずだ。

 

「ごめんね。私、岳羽ゆかりっていうの。

 明智くんとは以前知り合いと間違えて声を掛けちゃっただけなんだ。

 たまーに挨拶する程度だから、覚えてなくても仕方ないよ」

「ゆかりっちはともかく、俺様のことはわかるよな? な?」

「ええと……ピン芸人のブラウンさんですよね。クイズ番組の司会をやっておられる」

「あったりー! さっすが俺様の知名度は記憶喪失にも負けなゲフッ!」

 

 うわ。

 見事なローキックがふくらはぎに突き刺さったぞ。

 女子大生ぐらいの年にしては動きにキレがあるが……俳優……いや、スーツアクターだろうか。

 そういえばフェザーパワーとか言っていたな……

 

「もしかして、フェザーマンの?」

「思い出してくれた!?」

「ま、ゆかりっちといえばフェザーピンクだからねぇ」

 

 適当に話を合わせてみたが、フェザーピンク、ねえ……

 毎年やってる戦隊特撮なんぞ、どれが誰だかさっぱりわからん。

 どうやって話題を繋ごうか考え始めた矢先、ようやく助け舟がやってきた。

 

「ごめんねー明智くん! ちょっと会議が立て込んじゃってさあ!」

「おっ、待ち人来たりた? じゃ、まったねーゴローちゃん!」

「じゃあね、明智くん。時間があったらまた少しお話しようね」

「は、はい。さようなら」

 

 嵐のような連中だった。

 気を取り直そう。

 今回の目的は引き続きコメンテーターとして番組に出続けることだ。

 

「お久しぶりです、小林さん。急な入院でご迷惑をおかけしました」

「いやいや、いいよいいよ。

 誰だって身体が資本だし命が一番大事だ。

 君が無事に戻ってきただけで喜ぶべきことだよ」

 

 ……?

 心なしか、少し遠い目をしているな。

 

「あの、何か……僕が入院している間に誰か亡くなったりした、とか?」

「ああ……芳澤の娘さんがね……」

「芳澤……?」

「情熱帝国のディレクターだよ。

 君も何度か――ああ、記憶が無くなってるってそういうことか……」

「す、すみません。……あ、もしかして、芳澤伸一さんですか?」

 

 情熱帝国は特定の人物を密着取材するタイプのドキュメンタリー番組だ。

 確かに明智吾郎が出演したこともあるし――数年前、獅童正義として取材に応じた時に名刺をもらった記憶もある。

 

「思い出せたのかい?」

「ええ……以前、ご家族の話を聞いたことが……」

「そうか……あいつ、散々自慢話をしてたからな。

 かすみちゃんとすみれちゃん、2人とも新体操を頑張っててさ。

 いつかオリンピックに出ると言って、秀尽の特待生まで決まってたのに、かすみちゃんが事故に合うなんて……

 残されたすみれちゃんも心を病んでるみたいで芳澤も参ってる……本当に痛ましい話だよ」

 

 本当は思い出すも何も最初から知らんのだがな。

 社交的な人間が相手だと楽でいい。

 正しい相槌さえ打てば、探りを入れずとも勝手にペラペラ喋ってくれる。

 

「俺も通夜に行ってきたけど、さすがにね……

 さすがに局長だって、有給使っていいから休めって言うよ。

 本当に見てられなかったからさ」

「そんなことが……僕が、入院している間に……」

 

 芳澤伸一とその家族に対して憐れみは覚えるが、当の本人が目の前にいないのに哀悼の意を表明してもな。

 

「それで、僕のことも心配してくれていたんですか」

「ああ。命あっての物種というものもあるが、自分より若い人間が先に逝くというのは存外に堪えるんだ。

 芳澤も君のことを心配していたから、局内で出会ったら挨拶してやってほしい。

 ……しばらくは休むだろうが、そのうち復帰するはずだからさ」

「わかりました。

 ……しかし、思ったよりいろいろな人に心配されていたんですね、僕。先ほどのお二人もですけど」

「――ああ、ゆかりちゃんとブラウンさんね」

 

 露骨に話題を切り替えたことを察知したのか、小林プロデューサーは一度だけ目をこすったあと、わざとらしく明るい声を出す。

 

「そうそう、前に見せてもらった事があるけど、ゆかりちゃんの友達、ほんっとうに君にそっくりなんだよね。

 髪の毛伸ばしたら双子で売り出せるぐらい」

「そ、そうなんですか……?」

「ブラウンさんはーー……学生時代の自分に似てるって言ってるけど、ありゃさすがにウソだな。

 やっぱり友達の誰かに似てるんじゃないか?

 じゃなきゃ、若い子は無条件で可愛がりたくなるタイプなだけかもね。それこそ初代の探偵王子(白鐘直斗)くんにも声をかけてたことあったし」

「なるほど」

 

 それだけ付き合いがあるならなおさら連絡先聞いて入れておけよクソガキ。

 ーーいや、星野が言っていた古いスマホとやらの方にプライベートをまとめているのか?

 ………その可能性はあるな。

 やはりちゃんと家探しした方がいいのか……いや、今は仕事をもらう方が先だ。

 

「ところで小林さん。仕事の件なんですけどーー」

「ああ、今後の出演が厳しいなら他の人を探すから大丈夫だよ。

 どうせ録画だしね。出演者を変えることはそんなに難しくーー」

「い、いえ、できれば仕事がほしいんです!」

 

 真逆の話に持っていかれそうになり、思わず焦ってしまう。

 お前が善人なのはわかったから、人の話はちゃんと聞け。

 

「事前に話のネタを教えてくだされば今の僕でもトークはできると思います。

 学校の方も、学力に問題がないことは確認してもらって、自由時間を多く作れるようにしてもらいました。

 顔色はメイクで何とかしますから、可能な範囲で仕事をください!」

「そ、そうなの? でもあまり無理すると……」

「ご心配くださってありがとうございます。

 でも、僕が健在だとアピールしたいんです。

 もちろん収入や将来のためというのもありますが……その、今は、普通のバイトも難しいですし……」

 

 そう言って僕は故意に左手を上げ、視線を落とす。

 ドラマによくある演技だ。意図は伝わるだろう。

 

「……うーん、まあ、普通に会話はできてるしなあ。

 確かに話すだけなら問題はないか。

 でもいいの? 病気のこと、報道しないで」

「僕は探偵ですから、犯罪者からすれば恨みの対象です。

 そんな僕が入院して後遺症が残ったと全国的に報道されれば、勘違いした輩に何をされるかわからない。

 だからこそ元気に働いている姿を地上波に乗せて、色々と牽制を図りたいんですよ」

「ああー、そうか……

 だから新聞にも報道にも回ってないんだな」

「冗談抜きで死にかねないですからね、僕が。

 さすがに警察にも配慮していただいています」

 

 僕の言葉に小林プロデューサーはしばし目を閉じて腕を組みーーやがて大きく頷いた。

 

「わかった。とりあえず『イマカイ』(今ドキ解説)には出てもらおう。

 1本取りだから他の番組より負担は少ないだろうし、座って話すだけだから利き手に注目されることもないだろうしね。

 それでちゃんと前と同じぐらいにウケがよかったら、他の枠も考えてみるよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 良かった。とりあえず首は繋がったな。

 あとは私の努力と実力次第だがーートークならまだ自信がある。

 少なくともクソガキには負けんはずだ。

 

「じゃあ、スタイリストさんに整えてもらって、収録行ってみようか。

 実は代役収録するつもりで人は揃ってるんだよね。

 もしダメでも問題ないからさ、ホンはこれね」

 

 ……いきなり今から?

 ーーいや、明日よりはマシか。

 

「わ、わかりました」

 

 ペラ紙のような進行台本にざっと目を通す。

 ――増加する少年犯罪をどう考えるかがテーマで、話題の中心は……少年の過剰防衛による獅童議員の死について。

 

 …………はぁ。

 

 ため息以外にどう反応しろというのだ、これを。

 この話を明智吾郎の視点から真面目に解説しろと?

 生き恥を晒すにも程がある――が、泣き言をほざく時間すらない。

 

 腹を括るさ。

 やってやればいいんだろうが! クソ!!

 

 

 

「――ですので、少年の行動を第三者が勝手に悪だと断じるべきではありません。

 法治国家である日本において、裁く権利があるのは法廷だけ。

 例え正義感からくるものであろうと本人特定や誹謗中傷を行えば、それ自体が新たな悪になってしまいます。

 ――まあ、あえて言うなら、被害者となった獅童議員だけは少年に恨み言を言う権利がある……かもしれませんけどね。

 生きている方々は、きちんと日本の法律に則って暮らしたほうがいいと思います」

「あっはっは、確かにねえ。

 さすがにガイシャ本人は色々言いたいことだらけだろうね」

「解説ありがとうございました。今週のゲストは二代目探偵王子・明智吾郎さんでした」

「はいカーット!」

 

 ――終わった。

 

 リテイクは……なさそうだな。

 カチンコを鳴らした助監督の後ろから、小林プロデューサーが満足そうな表情で歩いてくる。

 

「いやーさすがだね! 心配したのがバカみたいだ!

 これなら他の番組も検討できるよ!」

「ありがとうございます。久々で緊張してましたが、一発で行けて良かったです」

「いやいや、大人顔負けだよ。

 もしかしたら入院前より上手くなってるかもしれないね」

 

 中身が大人だし、入院前とは文字通りの別人だからな。

 50過ぎが17のクソガキに負ける道理があるかよ。

 

「ああ、そうだ。

 よかったら快気祝いで食事しないかい?」

「ありがとうございます。でも、今日はお心遣いだけで大丈夫です。

 リハビリが終わったら、その時改めてお誘いいただけると」

「あ、そっか。……大変だろうけど頑張りなよ。

 俺もできる限り応援するから、困ったことがあったら遠慮なく頼ってくれ」

「ええ。そう言ってくださると本当に嬉しいです。

 ではまた、来週よろしくお願いします」

 

 プロデューサーと右手で軽く握手を交わし、私はテレビ局をあとにする。

 昼――というには少し遅くなってしまった。食事をして一服したらもう日が傾き始める時間だ。

 本当に部屋をどうするか……と悩みながらスマホを開くと、笹木からチャットが入っていた。

 

『今の部屋では手狭でしょうから、防音性の高い部屋をいくつか探しておきました。

 吾郎さんが気に入った部屋があればいつでも契約できますので、お暇な時にお声がけください』

 

 ……監視してるのか?

 そう思いたくなるほどにはタイミングが良すぎるが、渡りに船でもある。

 それに冷静に考えれば、明智吾郎の住んでいるマンションは比較的値段の安い物件だ。

 悪巧みをするのには全く向いていないことぐらい把握していただろうし……

 遺言書の件で後見人に一筆もらうついでに話を通したのかもしれない。

 

 手早く牛丼でもかきこんでから連絡を取れば、今日中に内覧もいけるだろうか。

 できれば今使っている明智吾郎の部屋は書斎代わりに残しておきたい。

 家探しも済んでいないし、古いスマホとやらも見つけていないのだ。

 いずれ時間を作って整理していく必要がある。

 

 ――となると、明智吾郎の家や学校へのアクセスが良いエリアを選ぶべきだな。

 候補としては……下北沢あたりか。

 笹木が選んでいるあたり、賃貸でもセキュリティはしっかりしているはずだ。

 日当たりと防音性能だけ確認して即契約してしまおう。

 

 どうせ、夢見の良い日などこない。

 だったらどんな夢を見ようが喧しく言われない環境を作るしかない。

 私はそうやって生きてきた。

 今までも――これからも。 




Q:なぜ下北沢エリアのマンションを借りたのですか?
A:明智の家の場所がわからないので彼の日常行動範囲である渋谷⇔吉祥寺間で、三軒茶屋にも行きやすく、住宅街としての利便性が良く、ブランド感のあるエリアが妥当だろうという理由で設定しました。
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