猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第10話 金獅子のシキ

 

 

 

リトルガーデンを出航して、一日が経った。

満月の静かな夜。波も荒くなく、小舟は緩やかに

海を進んでいた。

 

「次の島はどんな所だろうな〜」

 

ロダストが夜空を見上げ、呑気に息を吐いたその時。

ふと周囲の明かりが遮られた。

 

「ん? 月でも隠れたか? ……なんだありゃ!? 人が浮いてるぞ〜!?」

 

手を翳して夜空を見上げると、月を背にして

一人の男が空中に悠然と浮かんでいた。

 

「ジハハハハハハッ! 人材を探しに一応

東の海を見回っていたら、いるじゃねえか!!

面白そうなのが!

 

…強いな、お前。 俺の仲間にならねぇか?!」

 

豪快な高笑いが海原に響く。ロダストは目を

丸くしながら叫び返した。

 

「お前は!?」

 

「俺はシキ、極道だ。お前の名は?」

 

「極道……? ……ロダストだ」

 

「そうか。どうだ? 仲間にならねぇか?」

 

「悪党は嫌いだ」

 

「待遇は優遇するぜ?」

 

「嫌だ!」

 

シキの鋭い眼光がロダストを射抜く。

 

「そうか、なら死ぬって事でいいよなァ!」

 

「うるせぇ、ぶっ飛ばしてやるっ!!!」

 

 

 

 

 

「斬波! 『獅子・千切谷(しし・せんじんだに)』!!」

 

シキが両手に握る二本の名刀——『枯木』と『桜十』から放たれる、怒濤の飛ぶ斬撃の嵐!

 

ロダストは空を蹴り、「気」を放出、空中へと逃れて間一髪で斬撃をかわす。

 

「ほう、お前も飛べるようだな!! ますます欲しくなったぜ!」

 

シキが不敵に笑うと、足下の海原が凄まじい音を

立てて爆破したように盛り上がった。

 

「『獅子威し・御所地巻き(ししおどし・ごしょちまき)!!!』」

 

フワフワの能力によって操られた巨大な海水が、

水でできた荒々しい獅子の群れとなってロダストに

襲いかかる!

 

「くっそ! 海水がうざってぇっ!」

 

悪魔の実の能力者なら触れただけで力を奪われる

海水。受け止めることが困難な巨体に対し、

ロダストは「気」の衝撃波を全開で叩きつけて

弾き飛ばすか躱すしか選択肢がない。

 

「このまま弾いて避けても消耗するだけ……! だったら、近接戦だぁ!!」

 

弾けた海水の隙間をぬい、空を蹴って一気にシキの懐へと突進するロダスト。

 

「お前も能力者だろ!!海水はイヤなはずだ!!」

 

「俺が接近戦が弱いと思うか!」

 

「 海水が無い分マシだ! うりゃあっ!!」

 

漆黒の覇気とバチバチ放電する雷を叩き込むが、

シキは両手の名刀と最小限の体裁きでその極大の打撃をすべていなしていく。

 

「見聞色は鍛えてる様だが……まだ甘ぇなァ!」

 

シキの鮮やかなカウンターの一閃がロダストの

ガードをすり抜け胴体を捉える!

 

重い衝撃を骨身に受けながらも、ロダストは瞬時に

空を蹴り直し、体勢を立て直して凄まじい手数の

拳撃を繰り出す。シキもまた二本の名刀でそれを軽々と受け流しながら、不敵にニヤリと口元を歪めた。

 

「ジハハハハ! 空中戦ってのはなかなか得難い体験だな!!」

 

空中を縦横無尽に舞いながら繰り広げられる激しい

死闘。互いの「気」と「剣気」が空中で火花を

散らすが、一枚上手であるシキの連撃がロダストの

僅かな隙を捉えた。

 

そして——。

 

 

 

 

 

バリバリバリッ……!!!

 

瞬時に世界が沈黙したかのような錯覚。シキが

構えた二本の良業物の名刀に、溢れ出る覇王色が

赤黒く脈打つ黒雷となって纏わりつく。

 

空中を支配する空気が重く跳ね上がり、ただの

弱者であれば、その威圧を目にしただけで脳を引き

裂かれたかのような恐怖に襲われ、正気を失い気絶

するほどの絶大なる「王」の威光。

 

百獣の王の如き威を背負った必殺の一撃が

振り下ろされる——!

 

「獅子吼・天星小王(ししく・てんせいしょうおう)っ!!!!!」

 

 

ガッズゥゥゥンッ!!!!!

 

「ぐわぁああぁっ!!?」

 

直接脳髄を巨大な金槌で叩き割られたかのような、

次元の違う衝撃。覇王色を纏った圧倒的な威圧と刃の重圧がロダストの防御を強引に打ち砕く!

 

視界が激しく歪み、骨の軋む音が体内で弾けた

ロダストの身体は、弾丸どころではない凄まじい速度で垂直に海面へと叩き落とされていく!

 

激しい大水柱が上がる直前、ロダストは残された

全身の「気」を海面に向けて爆発的に放出し、その

強烈な反動を利用して間一髪、海面スレスレの

空中にてピタリと踏みとどまった!

 

「はぁ……はぁっ……!」

 

空中にとどまり、ボロボロで息を荒らげる

ロダストを見下ろし、シキはふっと口元を緩めた。

 

「まだ至らねぇが、お前は俺の領域まで辿り着く器だ。惜しいなァ………もう一度聞いてやる。俺の仲間になれ!」

 

「ならないっ!! …これが

いま撃てる一番強い技だ! 喰らえっ!

『月魔炬火(ヘカテー・トーチ)』ッ!!!!!」

 

ロダストの右拳から放出される、気・雷・熱が融け合った漆黒の三叉エネルギーがシキへと迫る!

 

「どっこいせっ!」

 

シキはすぐさまフワフワの能力で海中から引き上げた大岩と水でできた荒々しい獅子の群れ、そして

自らの攻撃『獅子・千切谷』を重ねて相殺を狙う!

しかし、三叉の破壊エネルギーはそれらすべてを

粉砕して突き進む!

 

「なに……!? …なんて技だ!」

 

シキは冷汗をかきながら、間一髪でその威力を完全回避する。

 

「危なかったぜ……さあ、死ね!」

 

再びシキが海水を操り、ロダストを溺死させようと

絶望的な水の塊を叩きつける。ロダストは必死に衝撃波で相殺するが、ジリ貧に追い込まれていく。

 

「往生際の悪い奴だ……絶望のうちに沈みやがれ!」

 

絶え間なく押し寄せる海水の巨塊に押しつぶされそうになりながら、ロダストの頭の中で野生の勘が激しく

警鐘を鳴らしていた。

 

(くっそ……! 普通にやったら確実に殺される……! 一か八かだ……!!)

 

覚悟を決めたロダストは、迫り来る海水を衝撃波で

弾き飛ばし、頭上に燦々と輝く美しい満月を勢いよく仰ぎ見つめた。

 

 

ザワッザワザワッ……! グググ……

 

ドクン…ドクン…

 

 

 

「……アオオ……!」

 

満月の光を全身に浴びた瞬間、ロダストの

体中の血が狂ったように沸き立ち、その肉体に

異様な変貌が起き始めていた————。

 

 

 

 

 

 

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