第13話 砂漠の国と出会いの旅路
「アアァーアーーー……水〜……水クレー……」
照りつける烈日の下、一面の黄色い砂原でロダストは
干からびかけた足取りでフラフラと歩いていた。
ドラム王国を出航してから十日。エターナルポースに
従って辿り着いたのは、砂漠の国アラバスタだった。
「くっそ〜……水ー……あのクソ鳥〜! 次会ったら
絶対ぶん殴る……! 喉乾いた〜……!」
港町ナノハナに着いた時は完璧だったのだ。
親切なおばちゃんから
食料と水を買い込み、「この先の砂漠は盗賊や怪しい奴が多いから気をつけるんだよ」と忠告された時も、
「分かった! 俺そこらの奴より強いから大丈夫!」と元気に飛び出したはずだった。
それなのに、砂漠を歩いて一時間ほど経った頃。
道端で死にそうに倒れていた変な鳥を見つけ、
親切心で体を起こしてやった瞬間——隙を突かれて
水と金を全部奪われて飛んで逃げられたのだ。
「あっ〜〜〜〜!! 水と金が無ぇ! クソーー!
あの鳥ィ〜〜〜〜!!! ナノハナのおばちゃん、
盗人がいるって言ってたけど鳥もかよ……!」
「水〜〜〜〜〜町はどこだ〜……? あッ、町が
ある!? やった〜! 水っ!」
フラフラと辿り着いた町から、なにやらけたたましい悲鳴と怒号が聞こえてきた。
「うわぁぁ逃げろ〜! 海賊だ!」
「嫌ッ、やめてください!」
「へへへっ! 俺は懸賞金300万ベリーの
海賊様だぞっ! 奪え! 殺せ!」
ロダストの目がカッと見開かれた。
「海賊っ! 倒す→懸賞金→水っ!!」
ガッスゥゥゥンッ!!!
「ギャアァァッ!?」
次の瞬間、ロダストは雷光となって海賊の群れへと
突撃した。拳撃と気の衝撃波で、哀れな海賊たちは一瞬で全滅し、吹き飛んでいく。
「懸賞金だー!!」
「な、何だこいつ〜〜〜っ!?」
「助かったけど……」
「あ、ありがたいが」
「「これじゃあ、どっちが海賊か分からないね……」」
「海軍ー! 懸賞金くれ〜!」
「あ、あの……ありがとうございます」
「ん? あぁ気にすんな、倒す必要があっただけだ。
ついでだけど、堅気に迷惑かける奴は嫌いだからな」
そこへ、ドカドカと激しい足音が近づいてきた。
「ロダスト〜〜〜〜っ!!!」
「ん? なんだ?」
「海兵になれっーーー!!」
黒く硬化した凄まじい拳がロダストに迫る!
「ならねぇって……言ってるだろっ!」
即座に反応したロダストは拳を硬化し、迫る拳に
叩きつけた!
ドゴォーーーオンッ!
「なんだ、ならねぇのか」
「ならん!」
「ガープ! 民間人に迷惑をかけるな! 早く行くぞ!」
厳格な声でガープを叱りつけたのは、アフロヘアーの厳めしい男——海軍本部小将センゴクだった。隣には知性に満ちた鋭い眼光の女性、おつる小将の姿もある。
「賞金欲しいんだけど……。なんかあったのか?」
「『金獅子のシキ』の付近での目撃情報があってな。そして、どうやらあの『凶』がシキを追いかけて
アラバスタに来ているらしくて、その情報収集だ」
「凶?シキ?…シキってのは空飛んでる海賊か?」
「……知っているのか、ボウズ」
センゴクが眉をひそめると、ロダストは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「会ったぞ。俺、あいつ嫌いだ。嫌な悪党って感じが
する」
ロダストの言葉に、初対面であるセンゴクとおつるの目つきが変わる。
「初めましてだね、ロダスト。あたしはおつる、
こっちはセンゴクだ。……シキとはどこで会ったんだい?」
「おつるちゃんにセンゴクか! リトルガーデンを
出た夜に会った。戦って……そのあと気絶して
ドラム王国に着いた。でももう、2週間くらい前だと思う」
「そうか。ならシキはもう新世界に帰ったかもな。
俺たちはあと二日はこの国に留まるつもりだ。」
「おいロダスト! また会った時は海兵になれ!」
「ならん! じゃあな、みんな〜!」
それからの二日間、ロダストはアラバスタに
滞在するガープ、センゴク、おつるの三人と街の
居酒屋でメシを食い、時には任務に着いて
行きながら、楽しくお喋りをして過ごした。
「ガハハハ! センゴクの説教なんぞ無視して海賊
ぶん殴ってりゃ良いんだよ!」
「ガープ、余計なことを吹き込むな! ロダスト、
お前もだ。危険な海賊には極力近づくなよ」
「ニシシ、俺は自由にいくだけだ! おつるちゃん、
この肉美味ぇな!」
「ふふ、たくさん食べな。しかしお前さん、大した
身体能力だねぇ……」
酒と食事、おせんべいを交えた賑やかな二日間は
あっという間に過ぎ、懸賞金で腹いっぱい水と肉を
補給したロダストは、賑わう街を歩き、楽しんだ。
ガープからの「海兵になれ!」の頑固な勧誘を
軽やかにかわし続けたロダスト。
だが、その滞留の最中。街の賑やかな雑踏の中で、
ロダストの全身の毛穴がピリッと逆立つ瞬間が
あった。
立ち止まり、思わず息を呑む。
砂漠の灼熱とは異質の、静かなる殺意。着流しの
和装を身に纏い、背中には身の丈ほどもある重厚で
凶悪な巨大な斧を背負った、血と鉄の匂いを
漂わせて人の波を割って歩く男——
『凶(キョウ)』。
ロダストは即座にその背中へ声を張り上げた。
「お前かァ〜〜!凶ちゃんってのは!」
ピタリと足が止まる。地を這うような低い声と共に、冷たく鋭い殺気が周囲の空気を凍りつかせた。
「アぁ!? 誰が凶ちゃんだ!?」
背の巨斧を鳴らし、和装の着物の裾を揺らして
振り返る男——裏社会の殺し屋『凶(キョウ)』。
その眼光は一触即発の威圧感を放っていたが、
ロダストはひるむどころか目を輝かせた。
「俺はロダスト!!背中の斧、でっかくて超カッコいいな!」
「!?あァ?」
「ニシシっ、強い気だ! シキとライバルなんだろ? どっちが強いんだ?」
「チッ……あの金髪野郎と俺を並べるんじゃねぇ。
邪魔するならお前ごと叩き斬るぞ」
「別に邪魔はしねえしどっちが先でも
どうでもいいや! 俺は俺の旅があるからさ。
あ、でも戦うなら受けて立つぞ!」
「……ハッ、度胸だけはあるバカか。極道の
邪魔だけはすんじゃねぇぞ」
噂話など一切耳にしないロダストだったが、眼前の
男が本物の危険人物であることは直感で理解した。
しかし、何よりも己の旅を優先するロダストは、
不敵にニシシと笑って凶と別れたのだった。
そして次の日。
ガープたちが軍艦で出航するのを
見送る為、買い込んだ大量の水と肉を抱えて
ロダストも自分の小舟を押し出した。
「おつるちゃん、センゴク、ガープ! またなー!」
「おいロダスト! 次会った時は逃がさねえぞ、海兵にしてやるからなー!」
「ガープ!うるせえぞ!じゃあなロダスト!」
「またね、ロダスト!」
遠ざかる軍艦に手を振りながら、ロダストは小舟の
上で強く拳を握り締めた。
「見聞色をもっと研ぎ澄まして、
シキにも……あの『凶』って奴にも負けないくらい
強くなる……!」
誰が先かなど関係ない。強い奴らとの出会いを
糧に、己の旅を思う存分謳歌しながら、ロダストは
燃えるような瞳でアラバスタの広大な海原へと
船を進めるのだった——。