「ウヒャヒャヒャっ!!! 」
キャッ! キャッ!
アラバスタを出航してすぐのことだった。
ロダストは海で出会った陽気なシーモンキーと仲良くなってシーモンキーの起こした波に乗り、
豪快に遊んでいた。
大海原の揺れに身を任せること二時間。
すっかり満足したロダストは、シーモンキーの
背の上で小舟を置いてその中でゴロンと横になった。穏やかな時間が流れ、心地良い波の揺れが
眠気を誘う。
その時、急にシーモンキーがピタリと動きを止め、
怯えたように海中へと逃げ去っていく。
「!? なんだ〜?どうしたんだ一体?」
フッ!と暗くなった頭上を仰ぎ見れば、太陽を遮る雲。その雲に映る巨大な人影。だが見聞色を研ぎ澄ませても、そこに生き物の生命感は一切存在しない。
「デカすぎだろっ!! 生命は感じねえ……何なんだ? まあ良いや、絶好の昼寝日和だなー!」
能天気なロダストはそのまま小舟の上で目を閉じ、
スースーと快い寝息を立て始めた。
「ぐう…。」
直後——海の底から突如として噴き出したのは、
常識を遥かに超えた規模の激流『ノックアップストリーム』!!
ゴゴゴ……。ズドオォォンッ!!!
「天が割れた」錯覚すら覚える水柱。小舟は木屑の
ように爆発・散裂し、あまりの水圧と衝撃にロダストの頑丈な肉体をもってしても骨がギチギチとしなる。
「……………ガ…ぅ…うげぇ。な…何が…起きた…?…ぅう…」
凄まじい衝撃と急激な圧力、そして激流に揉まれ、
ロダストは登る海に溺れて意識を深い闇へと失っていった。
……どのくらい時間が経っただろうか。
バッ。
「いっだぁ!? な…なんだ? おれ、一体…」
全身に走る激痛に耐えながら、ロダストは跳び
起きた。あたりを見回すと、そこは青い海ではなく、
見渡す限りの白い雲の世界。
そして傍らには、濡れた布と小さな水薬の瓶。
ボロボロになった自分の体に、たどたどしく包帯が
巻かれている。
「なんだ?雲の上?確か…寝てたと思うんだけど、
その時になんかあったのか…?」
ガタッ。
物音に振り返ると、そこには漂流物を探しに
来ていた、一人の小さな女の子が立ち尽くしていた。小さな手は擦り傷だらけで、ロダストをここまで
引きずり、甲斐甲斐しく看病してくれたことが一目で分かった。
「うん? 女の子? 君が助けてくれたのか?」
コクンッ。
「そうか、ありがとう! ……声が出せないのか…?」
……コクン。
申し訳なさそうにうつむく少女に、ロダストは
痛む身体を起こし、優しく問いかけた。
「心を読んでもいいか? ……思った事を読み取れるんだ」
「!?」
見聞色の覇気を発動させ、心に直接アクセスした
瞬間、少女の瞳がパッと輝いた。
(! ウンウンウン! ウキウキ…!)
ロダストの脳内に、言葉にならない無邪気で溢れんばかりの喜びが流れ込んでくる。
「すごい嬉しそうだな!? 『ウレシイ!
この気持ち?』……ん、ああ。名前は? アピーか! よろしくなアピー!俺の名はロダスト!助けてくれてありがとうな!」
コクコクッ!
言葉を交わしたこともなかった幼子が、初めて
自分の存在を「心」で理解してくれたことに、
アピーは嬉しそうに激しく首を縦に振った。
(…!ネテテ、ねてて…。)
アピーはハッとして小さな手をロダストの胸元に
ポンと置き、どこか真剣な表情でそっと押し戻そうとした。
ロダストがまだまだ元気じゃないと思ったアピーは、彼に少しでも「安静」にしていてほしかったのだ。
(ロダスト、まだ……イタイイタイ。おとなしく、
ねてて?)
「アピーが看病してくれたのか?」
(…? カンビョウ…?)
「看病っていうのは…あー…今みたいに怪我や病気を見てくれることだ、ありがとうな」
(アリ…ガト? カンシャ…)
「感謝の言葉だ」
(カンシャ、ありがとう、ありがとう!!)
脳内に直接届くアピーの純真無垢な「ありがとう」の響きに、ロダストはニシシと笑った。
「看病のお礼に恩返しさせてくれ!」
(オンガエシ…?)
「受けたものを返す。ヒトに何かして貰ったら、
お返しにそのヒトに何かしないとな」
(そう…サッキみたいに、聴きたい)
「聴きたい? ウン、分かった! じゃあ、なんでも聞いてくれ! 恩返しするぞー!」
(おー!…でも、ネテて…。)
「よし! じゃあまずは腹ごしらえだ!」
ノックアップストリームによって白い雲の上へと
打ち上げられたロダストと、声を奪われた無垢な
幼子・アピー。
自分の命を救ってくれたアピーに恩を返すため、
ロダストは彼女の「声」となり、「家族」のように
寄り添うと決めながら、雲の上の生活を共に歩み始めるのだった——。