猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第15話 雲の上の日常とふたりだけの声

 

 

 

 

「何だこの雲! ふかふか! 跳ねる! たのし〜!」

 

ロダストは手当てをしてもらったばかりの身体で、

どこまでも広がる白い床をぴょんぴょんと無邪気に

跳ね回っていた。

 

(これ、島雲だって、ヒト言ってた)

 

見聞色を通して届くアピーの心からの言葉に、

ロダストはニシシと笑った。

 

「島雲かぁーーー! アピー、一緒に寝転ぼう!

寝よう!」

 

(おー!)

 

ふたりで並んでフカフカの雲の上に倒れ込む。

 

心地よい空島の風が頬を撫で、スースー、

ぐかぁーぐかぁーと快い寝息が二つ並んだ。

 

しばらくして目を覚ますと、アピーが丸い果実

「コナッシュ」を指差した。

 

(これコナッシュってなまえの果実。上硬い、から

下の底を、くり抜く、と飲める、ヨ。美味しい…)

 

「…え?」

 

ロダストはコナッシュを掴んだ手に力を込めると、

 

ゴキャッ!! バキバキッ!!

 

底どころか硬い外皮が一瞬で粉砕され、中から果汁が勢いよく溢れ出す。アピーは驚いてお目目を

パチパチパチッ!と何度も丸くさせた。

 

(すごいね……!)

 

「ふふん! おれは強いんだー!」

 

鼻を鳴らして誇らしげに胸を張るロダストの姿に、

アピーはくすっと心を弾ませた。

 

「雲だ〜! とぉー!」

 

探検の途中、一段と真っ白な雲の海、海雲(白海)を見つけたロダストは、豪快にそこへダイブした。

 

ガボッ!!

 

「オペェッ! た、たすけ……! ブクブクッ」

 

落ちた瞬間、悪魔の実の能力者特有の脱力感が全身を襲う。雲の海とはいえ、海水と同じ性質を持つ

白海では泳ぐことすら叶わない。

 

(ロ、ロダスト……! ど、どう……すれば……!)

 

オドオドとパニックになりかけるアピーだったが、

必死に『手』を伸ばし、半泣きになりながら

ロダストの服を引っ張り上げた。

 

「プハッ……! 助かった……! ありがとう、

アピー!」

 

命からがら雲の上に転がり出たロダスト。だが、

隣に立つアピーの顔は今までにないほど怒っていた。頬を極限まで膨らませてプンプンと肩を

揺らしている。

 

(もう、もう! ダメ。ヤダ!)

「ごめんな、気を付けるよ」

(フンー! プンプンッ!)

 

ロダストが平謝りすると、アピーは「フンー!」と

一度鼻を鳴らしてから、優しくその手を握り返した。

アピーがふとロダストの顔を覗き込み、心配そうに

問いかけてくる。

 

(ロダスト、からだ……だいじょうぶ?)

 

「ん? おう! 上に来た時の怪我なら、まだ少しだけ痛むけどもうだいぶ平気だぞ!アピーが手当てして

くれたおかげだな!」

 

ロダストが腕をぐるぐると回して見せると、アピーはホッとしたように瞳を緩ませた。

仲直りした二人は、そのまま食事タイムへ。

 

ロダストが持ち前の敏捷さで空魚やスカイロブスターを素手で捕まえてくると、アピーは興味津々で目を

輝かせた。

 

(すごい!)

 

「ニシシ!どんなもんだ!」

 

「美味しいな! コイツら!!」

 

(空魚にスカイロブスターって言うらしいよ)

 

「へぇ、それにしても形変わってて面白いな!

お、鳥だ〜メシーー!」

 

横取りしようと上空から襲いかかってきた怪鳥を

ロダストが一拳で追い払うと、二人でお腹いっぱい

食べ終えた。

 

(お腹いっぱい。ムフー)

 

「ごちそうさまでした。」

 

腹を満たした二人で散歩をしていると、ロダストの

足元に見たこともない奇妙な貝(ダイアル)が

転がっていた。

 

「お? アピー見ろよ、貝だぞ! 今夜はこれを食べよう!」

 

「カチッ」と貝のボタンのような部分をいじった、

その瞬間——

 

ボオオオォォ!!

 

「ぎゃーーーッ! 貝から火がーー!?」

 

(ロダスト〜〜!!? ナンデ、炎が? だ、大丈夫?)

 

「ああ、びっくりした〜!」

 

黒焦げになったロダストが頭をかくと、アピーは

へたり込みながらホッと胸を撫でおろした。

 

(わたしが、ビックリ……)

 

ひとしきり騒いで二人で笑い合った。

 

 

——それから、二日。

 

白雲の上で過ごす時間は穏やかに流れていった。

朝はふかふかの島雲の上で目を覚まし、昼は

ロダストが捕まえてくる空魚やフルーツを分け合い、夜は満天の星空を見上げながら並んで眠る。

 

声を介さずとも、心を通わせる日常はすっかり二人にとって当たり前のものになっていた。

ある日の夕暮れ時、茜色に染まる雲の波間を

前にして、アピーはゆっくりと遠くの空を見つめ、

ロダストに心を寄せるように呟いた。

 

(あの、土の、かたまり。ヴァースって、いうらしい。空に住んでるヒトの、あこが、れ? なんだって)

 

「そうなのか。アピーもそうなのか?」

 

(分からない)

 

「よし! じゃあ、明日はあっちの雲まで探検してみるか!」

 

(探検! いく!)

 

声はなくとも、触れ合う心と温かな温もり。

 

命を救われた恩返しから始まった毎日は、二人に

とってかけがえのない、ただ愛おしい「日常」として続いていくのだった——。

 

 

 

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