空島に漂着してから、二週間と少したった頃の夜。
(ロダスト……一緒に暮らしてくれて、ありがとう)
声を持たぬアピーが手振りを交えて伝えてきた
素直な感謝に、ロダストはニシシと照れくさそうに
笑った。
「良いんだよ、俺がやりたくてやってるんだから!
礼なんていらないぞ。じゃあ寝るかー!
おやすみ〜!」
(オヤスみ…なさい)
言葉は交わせずとも、互いの存在を温かく感じ合い
ながら眠りについた、穏やかな夜。
だが翌朝、アピーの姿はどこにもなかった。
「アピーーー! おーい! どこ行ったんだよー!」
最初は内緒でどこかへ遊びに行ったのか、それとも
一週間お世話になった「雲隠れの村」へ行ったのだと思った。しかし村へ駆け込んでも、人々は口を揃えて「来ていない」と言う。
「見聞色の覇気なら見つけられる……フーーッ!!
スゥッ……」
波紋のように探知を広げるが、どこにも引っかからない。
「何処だ……いねぇ! 何でだ! くそっ!!」
ドンッ! バヒューーーンッ!!!
地面の島雲を力任せに蹴り飛ばし、ロダストは島中を飛び、捜し回った。
「アピーが居なくなった……!? 命の恩人の一大事だ、みんなで探すぞ!」
事態を知ったシャンディアの戦士たちや少年も、
すぐに立ち上がってくれた。
村の大人たちは手分けをしてエンジェル島や
雲隠れの村の周辺、巨大な滝の裏側まで捜索範囲を
広げ、少年も必死になって思い当たる隠れ場所を
捜して回った。
しかし、丸二日間、昼夜を問わず大人数で島中を
捜索したにもかかわらず、アピーの気配はおろか、
足跡や持ち物のひとつすら見つからない。
誰の仕業なのか、どこへ連れ去られたのかすら
分からない底知れぬ不気味さ。
「おかしい……いくら探しても引っかからねぇなんて、そんなわけねぇだろ……!」
眠ることも食うことも忘れて駆けずり回るロダストの息は乱れ、焦燥と嫌な予感が胸の奥でどろどろと
渦巻いていた。
二日目の夜。月すら厚い雲に覆われた暗闇の中、
諦めずに見聞色の感覚を極限まで研ぎ澄ませていた
ロダストの神経に、かすかに「不自然な気の空白」が触れた。
シャンディアの戦士たちすら立ち入らない場所。
誰かが意図的に気配を包み隠しているかのような
違和感は、アッパーヤードの最深部——密林の奥深くから漂っていた。
「待ってろよ、アピー……っ!」
ロダストはシャンディアの人々に知らせを送る暇も
なく、弾丸のような勢いでアッパーヤードの最深部へと飛び込んでいった。
鬱蒼とした森の奥へ進むにつれ、空気は重く冷たく
湿り気を帯びていく。
フカフカとした温かな島雲の感触はなくなり、足元は冷たく湿った土と石の感触に変わっていった。
そして、鼻腔をくすぐるかすかな鉄の匂い。
生い茂る巨大な葉を押し開けたロダストの目の前に
現れたのは、苔と木に塗れた古びた巨石——
禁忌の「祭壇」だった。
「……アピー……?」
祭壇の奥から漂う異様な気配と不吉な静寂に、
ロダストの心臓がどくんと大きく嫌な跳ね方をした。
誰の仕業かも分からぬ暗闇へ向け、ロダストは一歩、その冷たい闇の中へと足を踏み入れていくのだった——。