「……んー……なんか狭いな。生臭いし……」
暗闇の中で目を覚ましたロダスト(17)は、ぐーっと両腕を伸ばして盛大に伸びをした。
だが、いくら腕を伸ばしても周囲の壁にゴツゴツと突き当たる。
「……ん? 何処だここ。暗いし、狭い!」
置かれた状況の怪しさに気づいたロダストは、力任せに拳を打ち振るった。
「ウリャアーーーッ!!!!」
バキィッ! ドゴォォンッ!!
「……ぶはっ!! 眩しっ! え、なに、俺喰われてたの!?」
巨大な海獣の腹を内側から威勢よく叩き割り、元気いっぱいに外へと飛び出したロダスト。
砂浜に着地すると、頭をポリポリとかきながら豪快に弾け飛んだ海獣を見上げ、大爆笑した。
「まさか寝てる時に食われるとはなー!
ニシシッ、うっかりしてた!」
遭難して辿り着いたのは、大きな海軍基地がそびえ立つ街——シェルズタウン。
「へぇ、海軍基地がある町か。食料買えるかなー」
だが、ふと自分の懐を探ったロダストの顔からスーッと笑顔が消えた。
シモツキ村を出たばかりで、財布の中身はスカスカ。腹は「ぐ〜〜〜っ」と地鳴りのような音を立てて鳴っている。
「うぅ…やばい……金が無え。餓死する……」
フラフラと倒れそうになりながら街の路地裏を歩いていると、物陰から怯えたような、けれど優しい眼差しをした小さな女の子がひょっこりと顔を出した。
「お兄ちゃん、お腹すいてるの……? これ、食べて」
女の子が小さな両手で大事そうに差し出してきたのは、手作りのおにぎりだった。
「えっ! いいの!? ありがとー、お嬢ちゃん!」
ロダストはおにぎりを両手で受け取ると、一口で豪快に頬張った。
「んむ……うんまーーーーいっ!! 腹に沁みるなぁ! ありがとう、お嬢ちゃん!」
満面のひまわりのような笑顔を咲かせるロダストに、女の子もホッとしたようにニッコリと微笑む。
「私、カリンっていうの。お兄ちゃん、美味しそうに食べてくれて嬉しい!」
「俺はロダスト! カリンちゃんか、良い名前だな! 助かったぞー!」
「でも、食べてよかったのか?おにぎり。」
「うん、パパに食べてもらおうと持ってきてたけど、また作って持って行ってあげるの!」
「カリンちゃん、ありがとうなぁ。」
その時——街の港の方から、ドカンッ!という爆発音と悲鳴が上がった。
『海賊だぁーっ! 海賊が襲撃してきたぞーっ!』
『ヒャッハー! 奪え! 殺せーっ!』
凶悪な海賊たちが港から上陸し、町を荒らし始めたのだ。
海軍基地からも海兵たちが慌てて応戦に飛び出してくるが、突如の襲撃に現場は大混乱に陥る。
「きゃああっ! パパ! ママ!」
「カリンちゃん!?」
逃げ惑う群衆の波に呑まれ、カリンちゃんが転んで逃げ遅れてしまった。
そこへ、ニヤニヤと品のない笑みを浮かべた海賊の男が迫る。
「ケケケ! 邪魔だガキぇ! 刃の錆にしてやる!」
情け容赦なく振り下ろされる大海賊の剣。
カリンちゃんは恐怖で固まった。
「ひっ……!」
ガチィィンッ!!!!
鋭い金属音が路地に響き渡る。
カリンちゃんが恐る恐る目を開けると、そこには——海賊の鋭利な剣を、素手でガシッと受け止めているロダストの背中があった。
「……え?」
「小さな子供に刃物向けるなんてさ……お前ら、人としてめちゃくちゃカッコ悪いぞっ」
ロダストの瞳からいつものおバカさは消え、冷ややかで絶対的な怒りが宿っていた。
「俺に旨いおにぎりを恵んでくれた命の恩人(カリンちゃん)に、何してんだよ」
ドガァァァンッ!!!!
次の瞬間、ロダストが放ったただの拳の風圧が爆発!
海賊は叫ぶ暇すらなく街の壁へと吹き飛び、一瞬で気絶した。
「な、なんだアイツはーっ! 打ち殺せーっ!」
一斉に銃を構える残りの海賊たち。
だがロダストは避ける素振りすら見せず、胸を張って仁王立ちした。
バババババンッ!と放たれた鉛の弾丸は、ロダストの皮膚に当たった瞬間にペシャンコに潰れてポロポロと地面に落ちる。
「ニシシ! 効かねぇよ! ついでだけどな、俺は堅気に迷惑かける奴が大嫌いなんだ!」
ドガガガガガァンッ!!!
縦横無尽に暴れ回るロダストの一撃一撃で、海賊たちは次々と空の星となって吹き飛ばされていった。
嵐のような数分間が過ぎ去り、駆けつけた海兵たちは全滅した海賊の群れとロダストを見て呆然と立ち尽くしていた。
「な……なんだこの男は……! 懸賞金首の海賊団を一瞬で……!?」
「あ、海軍のおじさん! こいつら倒したから賞金ちょうだい! お腹減った!」
無邪気に笑うロダストに、海軍は焦りながらも正式な懸賞金を手渡した。
一部始終を見ていた町の人々や、駆け寄ってきたカリンちゃんから大歓声が上がる。
「ありがとう! お兄さん! カリンを助けてくれてありがとう!」
「お兄ちゃん、すごーい! かっこいい!」
「ニシシッ! おにぎりごちそうさまだぞ、カリンちゃん! みんなも元気でなー!」
たっぷりの賞金を手に入れたロダストは、小舟いっぱいに買い込んだ食料を積み込むと、町の人々に賑やかに手を振った。
こうしてシェルズタウンに平和を取り戻した17歳の少年は、再び陽気な笑顔で次なる海へと船出していくのだった——