ハッと目を開いたロダストの視界に、再び殺伐とした現実の祭壇が映り込む。
その瞳からは悲痛な涙が消え去り、代わりに
底知れない静けさと、冷たく研ぎ澄まされた静かな
殺意が宿っていた。胸の奥底には、アピーが
残してくれた温かな「にっこり」とした笑顔と、
最期の愛が深く刻み込まれている。
ロダストは横たわっていたアピーの冷たい身体を
優しく抱き上げると、背後に佇むアマゾンへ
向き直った。
血に染まった腕で、アピーをそっと押し抱かせる。
「……アピーを雲隠れの村に連れて行ってくれ。
シャンディアの奴らの元へ……」
「ロダスト……さん……っ!? ですが、あなた
一人で……!」
涙を流すアマゾンに、ロダストは静かに、だが重みのある声で告げる。
「……頼む」
「……っ、はい……! 必ず、無事にお送りします……っ!」
アマゾンはアピーの遺体をしっかりと腕に抱え、
決意の表情を浮かべて祭壇の奥、雲隠れの村へと
向かって走り去っていった。
神(ゴッド)はその光景を不快そうに見下ろし、
鼻で笑った。
「クハハハ! 逃がすか? 構わんよ。女一人と
一つの遺体など、お前を殺した後にいくらでも始末
できるからな」
ロダストはゴッドの嘲笑を完全に無視し、アピーが
連れていかれる背中を一瞬だけ見届けた。
(……ここじゃ、アピーを静かに眠らせてやれねぇ……)
激闘の波及からアピーの遺体を守るため、ロダストは全身に青白き静雷を纏うと、雲隠れの村から大きく
離れたはるか雲海の上空へと疾風のごとく
飛び去った。
「フン、逃げ出すか。……追え! 鼠一匹逃がすな!」
「「「「はっ!」」」」
ゴッドの命令を受け、彼が従える「神隊」の
精鋭500人が一斉に武器を掲げ、ロダストを追って
広大な雲海へと走行する。
雲隠れの村から遠く離れた、遮るもののない広大な
白々海の上空。
ロダストは空中で静かに立ち止まり、背後から
迫り来る500人の神隊を冷たく見据えた。
その全身からは、静かな怒りが爆発寸前の圧迫感と
なって溢れ出している。
「囲め! ゴッドの前に首を捧げよ!」
迫り来る神隊の群れ。だが、ロダストの瞳に映る
彼らは、もはや存在すらしていないに等しかった。
ロダストは深く息を吸い込み、
全身の覇気、気、そして激雷を腹の底へと一気に
集約させる。
「『金猴王ノ殷雷(キンコウオウのインライ)』……ッ!!!!」
ガアァアアラアアァーーーーッッ!!!!
ドゴォンッ!!!!
天を揺るがす凄絶な咆吼。
覇気と気、そして青白き激雷を乗せて放たれた
その声は、空気を圧殺する暴風のような物理的衝撃波となって全方位へ炸裂した。
雷撃と衝撃波の前に神隊500人は叫びをあげる間すら与えられず、一瞬にして全滅し、雲海へと沈んで
いった。
一瞬にして静寂を取り戻した雲海。
焦熱の匂いと煙が漂う中、玉の様な島雲で、
ゆっくりと降り立ったゴッドは、惨状を見回して
薄汚い笑みを深めた。
「……神隊が全員やられたか。ルフフフフ! 面白い、相手をしてやる」
冷酷な笑みを浮かべるゴッドに対し、ロダストは
溢れ出る静雷と共に静かに拳を握りしめる。
アピーの愛を胸に宿した男と、全てを踏みにじる
自称・神。
雲海の上空で、ふたつの絶対的な力がついに正面から激突する——。