猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第25話 真実

 

 

 

 

「俺は昔、シャンディアの文化に生贄があるという

ことを知った。神に捧げる儀式だと……。ならば、

それは俺だ!!」

 

高空を旋回しながら、神(ゴッド)は左手に

握られた銃口から熱線を乱射する。歪んだ全能感と

ともに過去を語る間も、その攻撃の手が休まることはない。

 

ロダストが放った雷は右手のガントレットの

轟雷貝(ボルトダイアル)に吸収されてしまう。

 

「当然、神に捧げられる贄だ。至高のものでなくてはいけない。

 

見目麗しい者を贄に、武に長けた戦士と戦い生贄に

した事もある。今まで武に捧げてきたものを上回られた絶望といったら…!そして、トドメは最愛のものにやらせた!!!!その時の両者の感情といったら!」

 

「…他にも、厳選して選んでいた、年に一度の

儀式ィ……。」

 

(ッ……!!)

 

耳を疑うような残酷な愉悦。他者の絶望や愛憎すらも「娯楽」として消費してきた神の語りに、ロダストの胸中でドロリとした重い怒りが湧き上がる。

 

全身から爆発的に『気』を噴射し、空中を縦横無尽に飛翔して接近を試みるロダスト。

だが『凡赦神刑』の遅延空間によって動作の

タイミングがわずかにズレ、迫る熱線が肩と太腿を

激しく焼き払う。

 

「すばらしい余興だったぞ!」

 

 

「…ああ、シャンディアの者共は生贄の儀式など

知らぬ。あいつらは戦いが落ち着いたのは平和を

目指し始めた為と思っているだろうが……

俺が余計な事に煩わしくされないよう、戦いを

止めさせていただけだ。」

 

 

(……ムカッ)

 

肉体を焼く激痛などどうでもいい。それ以上に、

あまりにも身勝手な理由で歴史すら裏から支配し、人々の願いや誓いをせせら笑う事実。

気で空に留まるロダストの胸の底で、重い怒りの火種が確実に爆ぜた。

 

「そして悲嘆と諦観に、所有物と天使共が浸かって

面白く無くなった頃に思いついたのだ………。

 

 

 

 

あのアピーという物の話をしよう。」

 

神の顔からふっと感情が抜け、暗い影が落ちる。

……だが直後、思い出したようにその唇が

吊り上がり、まるで幼子が新しいおもちゃの遊び方を思いついた時のような、無邪気で底知れない

嗜虐の笑みがその顔を歪ませた。

 

銃口からの熱線でロダストの動きを牽制しながら、

神は至近距離で右手の排撃貝(リジェクトダイアル)を解禁する。

 

ドドンッ!!!

 

「ぐアァッ……!!」

 

超絶的な衝撃波がロダストの身体を砕かんと

突き抜け、気の飛行軌道が大きく乱される。空中を

叩きつけられそうになりながらも、ロダストは

強引に気を噴射して体勢を保った。

 

神はその激痛と憤怒をあざ笑うように言葉を続ける。

 

「まずあれは、俺が所有物に作らせた物だ。

アピーというモノは人身供物、生贄だ。そのために

だけ作らせ、声を奪いスカイピアの天使共に預けた」

 

『12年後コレを贄にする、壊す事は許さん。

それまでの間の贄は11年目にしか儀式はしない。

ただし、邪魔をするなら殺すし、コレ以外は贄に

しない。だから、これ以外を贄にしたいならその年は10人贄にする。それでも良いなら好きにしろ』

 

「無垢であって欲しかったスカイピアの住人が

何も教えず、知らせず隔離したのだ。……何かを

教える者などいなかった……当然だな、奴は生贄の

ためだけに産み落とされた、俺の所有物で

あった者たちから生まれた存在だからな」

 

(…………ッ!!)

 

呼吸が浅くなり、胸の奥が冷たく冷え切っていく。

ただの生贄として扱うために産ませ、声すら奪い、

周囲の大人たちにすら「言葉や愛」を教えさせなかった。

 

アピーが静かに抱えていたあの言葉のない温もりの

裏に、どれほど歪で冷酷な「悪意」が仕組まれていたのか。

 

その事実が、ロダストの脳裏でアピーの無垢な笑顔と重なり、激しい吐き気となって突き上げてくる。

 

 

「無垢で何も知らず、声も出せないからな、生贄にはちょうど良いだろう? …この子どもを差し出せば

自分たちは助かるという俺への恐怖、危険が避けられる安堵、子供を差し出す葛藤、仲間内での不和……。

10人贄になりに来た奴らもいたな。まあ、玩具との

約束を守るわけがないが……自己嫌悪の末の諦観。

本当に………

 

 

 

人間は面白い。」

 

(………………ッッ!!!!)

 

自分の身を守るために幼い子を差し出す大人たちの

恐怖、葛藤、そして破られた約束の後に残る絶望。

 

その血の滲むような人間の苦悩すらも、この男は

高みの見物で「玩具の滑稽な戯れ」として嘲笑い、

楽しんでいた。

 

ドクン、と心臓が嫌な音を立てて脈動する。

怒りなどという生易しい言葉では追いつかない。頭の先から足の爪先まで、全身の血液がマグマのように

煮え滾り、視界が真っ赤に染まっていく。

 

命を、生きる苦悩を、アピーの存在そのものを……

ただの娯楽として弄ぶこの男の言葉を聞くたびに、

ロダストの魂は激しい拒絶と殺意で金切り声を

上げていた。

 

「……黙れ……ッ……!!」

 

排撃貝の衝撃と熱線の激痛を強靭な精神力で

ねじ伏せ、身に纏う『気』を爆発させて神へと

一直線に飛翔するロダスト。

 

だが、再び放たれる排撃の余波と連続する熱線の

弾幕、遅延の光線。そして空間の歪みがその前進を

阻み、爪を届かせることすら許されない。

口を塞ぐことすらできない状態に、歯茎から血が滲むほど噛み締め返した。

 

「ルフフフフフフフフッ!!!!!」

 

「あとはお前も知っての通りだ。アマゾンを

生贄にし、あの物が贄に選ばれただけのこと。あの

アピーとかいうモノがどうやってか、自ら贄になりに来たのだけは驚きだったがな。どうやって知ったのかは知らんがね」

 

熱線の残光と排撃の衝撃波が高空の雲を赤く染める中、神の口元が醜悪な笑みを刻む。

 

「二日前に攫い、マントラ(心網)で隠し、

一番良いタイミングで始末させる……良かったぞ、

お前達の心の機微は。実に見事な愉悦だった」

 

大切に思っていたアピーの死すらも、自分たちの

必死のあがきや悲しみすらも、全てはこの男の掌の上で興じられた「余興」だった。

 

(あのアピーの言葉のない温もりが……あの懸命な生が……!シャンディアの戦士たちの平和への願いも、

アマゾンの罪悪感も!全部、こいつの暇つぶし

かよ……!?)

 

 

 

(……ムカッ……ムカッ!)

 

絶え間ない激闘と銃口からの熱線、ガントレットからの轟雷貝の雷、そして排撃貝の凶打が襲い掛かる中、身体の動きを狂わせる『凡赦神刑』の不快な感覚を

塗りつぶすほどに、ロダストの中で怒りの渦が急速に巨大化していく。

 

腹の底から湧き上がるのは、純粋な殺意を超えた

絶対的な激憤。気で空中に留まりながら鋭い爪を血が滲むほど固く握り締め、屈辱と怒りに血の涙を流さんばかりに歯を食いしばる。

 

『凡赦神刑』によってズレかけた肉体の感覚すら、

沸騰する怒りの熱量で無理やり焼き切らんばかりに、

ロダストの中で制御不能な殺気と憤怒が爆発寸前まで昂ぶっていく。

 

空中を縦横無尽に交差する熱線と排撃の衝撃が

ロダストの肉体を焼き焦がし、吹き飛ばそうと

迫るが、気を放出して肉を削がれながらも、その血に染まりかけた双眸はまっすぐに神だけを見据えて

離さない——。

 

 

 

 

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