「……夢、か……」
ロダストはぽつりと呟いた。
「アピーは……死んだんだ。」
けれど、耳元に感じたあの温かな気配は、
確かにそこにあった。
『……ワタシ……ここに、いるよ……』
「……アピー……?」
絞り出すような声が、澄み切った空島にぽつりと
落ちる。
夢なのか、それとも死の淵で見ている都合のいい
幻聴なのか。恐怖に似た震えがロダストの背筋を走り抜ける。
声の主を確かめるべく、恐る恐る頭を巡らせた
ロダストの視界に、白い雲の光を背にして立つ見慣れた小さな影が映り込む。
けれど、そこに肉体を持ったアピーの姿はなかった。
どこか透明で、薄い紫と青色が混ざり合った
幻のような姿。小さな光の粒を揺らめかせながら、
アピーの意識がすぐ側に漂っていた。
『ロダスト』
アピーはにっこりと、再会を祝福するように笑った。
「あっ……」
声にならなかった。
溢れ出た涙が視界を大きく歪ませる。痛む身体の
悲鳴を無視して、ロダストは返事の代わりに這うようにして手を伸ばした。伸ばした指先は、柔らかな光をすり抜けてしまう。
けれど——ほんのりと温かい、あの愛おしい温もりが確かに手に伝わってきた。
ロダストは感極まり、ボロボロと溢れ出る涙を止めることができない。
「アピー……! アピー、お前……! 死んじゃ……俺、俺……っ!」
『泣かないで、ロダスト。……約束、守ってくれたんだね。ありがと……』
アピーはふんわりと目を細め、直接触れることは
できないけれど、ロダストの手を両手で優しく包み込む仕草をした。
……
……
——1時間後。
「……っ、ぐすっ……ぐすっ……」
『泣きすぎだよ、ロダスト』
困ったように、けれどどこか嬉しそうにアピーが
苦笑いを浮かべる。
目の前に形がないと分かっていても、アピーの声が、その存在が確かにここにある。ロダストの目からは、いまだにポロポロと大粒の涙が零れ落ちていた。
「本当にアピーなのか……? 一体……どうなってんだ……?」
『ワタシ。…死んだんだけど……何故か、
意識があるの』
『どうやってかは、分からないけど』
「うっ……ぐすっ……ふえぇっ……」
幽体となったアピーが目の前で首をかしげる姿に、
ロダストは安堵と愛おしさが混ざり合い、子供のように泣きじゃくった。
必死に涙を拭おうとするが、次から次へと溢れて
止まらない。
『もう、ほんとに泣き虫だなあ、ロダストは』
アピーは困ったように苦笑しながらも、透き通る
小さな手をロダストの頬にそっと寄り添わせた。
ひんやりとした冷気の中に混ざる、確かな温もり。
「……だって……だってよぉ……っ!」
夢でも幻でもない。アピーの心が、魂が、いま
確かに自分と共にここに、ある。
空島の青空の下、二人が交わした涙と笑顔が、
静かな時間を優しく満たしていった。