猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第30話 魂の温もり

 

 

 

 

「……夢、か……」

 

ロダストはぽつりと呟いた。

 

「アピーは……死んだんだ。」

 

けれど、耳元に感じたあの温かな気配は、

確かにそこにあった。

 

『……ワタシ……ここに、いるよ……』

 

「……アピー……?」

 

 

絞り出すような声が、澄み切った空島にぽつりと

落ちる。

 

夢なのか、それとも死の淵で見ている都合のいい

幻聴なのか。恐怖に似た震えがロダストの背筋を走り抜ける。

 

 

声の主を確かめるべく、恐る恐る頭を巡らせた

ロダストの視界に、白い雲の光を背にして立つ見慣れた小さな影が映り込む。

 

けれど、そこに肉体を持ったアピーの姿はなかった。

どこか透明で、薄い紫と青色が混ざり合った

幻のような姿。小さな光の粒を揺らめかせながら、

アピーの意識がすぐ側に漂っていた。

 

『ロダスト』

 

アピーはにっこりと、再会を祝福するように笑った。

 

 

「あっ……」

 

声にならなかった。

溢れ出た涙が視界を大きく歪ませる。痛む身体の

悲鳴を無視して、ロダストは返事の代わりに這うようにして手を伸ばした。伸ばした指先は、柔らかな光をすり抜けてしまう。

 

けれど——ほんのりと温かい、あの愛おしい温もりが確かに手に伝わってきた。

 

 

ロダストは感極まり、ボロボロと溢れ出る涙を止めることができない。

 

「アピー……! アピー、お前……! 死んじゃ……俺、俺……っ!」

 

『泣かないで、ロダスト。……約束、守ってくれたんだね。ありがと……』

 

アピーはふんわりと目を細め、直接触れることは

できないけれど、ロダストの手を両手で優しく包み込む仕草をした。

 

 

……

……

 

——1時間後。

 

 

 

「……っ、ぐすっ……ぐすっ……」

 

『泣きすぎだよ、ロダスト』

 

困ったように、けれどどこか嬉しそうにアピーが

苦笑いを浮かべる。

目の前に形がないと分かっていても、アピーの声が、その存在が確かにここにある。ロダストの目からは、いまだにポロポロと大粒の涙が零れ落ちていた。

 

 

「本当にアピーなのか……? 一体……どうなってんだ……?」

 

『ワタシ。…死んだんだけど……何故か、

意識があるの』

 

『どうやってかは、分からないけど』

 

 

「うっ……ぐすっ……ふえぇっ……」

 

幽体となったアピーが目の前で首をかしげる姿に、

ロダストは安堵と愛おしさが混ざり合い、子供のように泣きじゃくった。

必死に涙を拭おうとするが、次から次へと溢れて

止まらない。

 

『もう、ほんとに泣き虫だなあ、ロダストは』

 

アピーは困ったように苦笑しながらも、透き通る

小さな手をロダストの頬にそっと寄り添わせた。

 

ひんやりとした冷気の中に混ざる、確かな温もり。

 

「……だって……だってよぉ……っ!」

 

夢でも幻でもない。アピーの心が、魂が、いま

確かに自分と共にここに、ある。

 

空島の青空の下、二人が交わした涙と笑顔が、

静かな時間を優しく満たしていった。

 

 

 

 

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