「……ふぅ……っ、うぐ……」
ロダストはようやく涙を拭い、少し落ち着きを
取り戻したように息を整えた。
だが、心の波が静まって冷静さを取り戻すにつれ、
全身を襲う凄まじい痛みが再び身体のあちこちから
主張を始めていた。傷だらけの体を動かすことすら
ままならない。
『動いちゃだめだよ、ロダスト。身体、ボロボロ
なんだから横になって、話を聞いてて』
アピーの声に促されるように、ロダストは無理に
動かしていた身体の力を抜き、そっと雲の床に身を
預けた。
そして、目の前にふわふわと漂うアピーの幽体に視線を向け、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
「……じゃあ……お前がその力で……俺が落ちるのを防いで……傷も治してくれたのか……?」
『うん。……でもね、ワタシだけの力じゃないよ。
みんなの力があったからなんだ』
横になって休むロダストに優しく寄り添いながら、
アピーは自分の身に起きた出来事を、ひとつひとつ
思い返すように話し始めた。
気づいた時にはもうこの姿になっていて、自分の
身体の周りをふわふわと漂っていたこと。
亡くなったアピーの身体を抱えたアマゾンが必死に
走っていたが、その最中に敵の残党に見つかり、襲われそうになっていたこと。
その時、霊体となっていたアピーはどうにかしようと必死に手を伸ばし、敵に憑依した。すると敵の
精気が自分の中に吸い上げられ、敵を倒して難を逃れることができたという。
そうして無事にアピーの軀(からだ)を
シャンディアの元へ送り届けたあと、張り詰めていた緊張の糸が切れたアマゾンはその場に倒れ込んで
しまった。
集まったシャンディアの人々は、倒れたアマゾンを
巡って話し合っていた。
「彼女も命がけでアピーの軀を守り抜いてくれたんだ。雲隠れの村で手厚く介抱しよう」
「だが、我々も神の部下である神隊と戦い、
ロダストと神の戦いの余波で傷病者も限界を超えている……設備も薬も到底足りないぞ。」
葛藤する人々の姿を見つめながら、自分の姿は
誰にも見えていないのだとアピーは気づいていた。
けれど「アマゾンをどうにか助けてほしい」と
強く祈り、彼女の元へ駆け寄った瞬間、
すうっと自分の姿がみんなの目にも見えるように
なったのだという。
それから、アピーは敵から吸い取った精気を
分け与えられると直感し、光の霊手をアマゾンに
かざしてその体を癒やしてみせた。
生気を傷を負った人たちに分け与え、癒やすことが
出来ると分かってからも重傷者を癒やし、
その間も、遠くから断続的に凄まじい戦いの
余波が響き渡っていた。
ロダストは強いから大丈夫だと信じて心配はして
いなかったけれど、夜明け頃、とりわけ大きな衝撃音が響いたため、霊体のまま様子を見に行ったのだ。
『そうしたら、ロダストが青海に落ちそうになっていて……急いでロダストの身体に入り込んだの。
どうにか飛ぼうと思ったんだけど……そんな余力は
全然残っていなくて……』
間一髪のところで駆けつけたシャンディアの人々が、スケート型ウェイバーで落ちていくロダストを
受け止め、死なせない一心で「雲隠れの村」へと
運び込んでくれた。
だが、村で必死の治療が施されたものの、極限まで
衰弱しきっていたロダストの容態は刻一刻と悪化していった。
『だからね、ワタシみんなに頼んだの。
「ロダストを助けたいから、みんなの生気を少しずつ分け与えてほしい」って』
シャンディアの人々もアマゾンも、
神を討ち倒してくれた英雄を救えるならと、逆に
頼み込むような勢いで快く応じてくれた。
アピーは次々と人々に憑依しては少しずつ精気を
集め、光の霊手でロダストの身体へ、慈しむように
その生命力を分け与え続けたのだった。
『そうやって……なんとか、峠を越えられたんだよ』
「おおー……!……そんな事が! そうか、みんなが
助けてくれたのか……!」
感極まって言葉を詰まらせるロダストに、アピーは
優しく言葉を添える。
『神をやっつけてくれたから恩返しだって。
……でもね、ロダストが無理をしたら、また周りの
みんなの生気に頼らなくちゃいけなくなるんだから。だから今は無理しちゃ駄目だよ。ちゃんと、
おとなしく安静にしてて』
困ったように笑いながら、アピーは少し声を低くして言った。
『もう、みんな結構、ギリギリなんだよ?』
「……ああ、そうだな。お前の言う通り、おとなしく安静にしておくよ」
ロダストは深くうなずき、身体を休めるように
静かに目を閉じた。
「……本当に、みんなに感謝しねえとな……」