猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第32話 共に息づく魂

 

 

「……本当に、みんなに感謝しねえとな……」

 

ロダストはしみじみと呟き、天井を見上げた。

 

「それにしても、アピーのその力……もしかしたら『悪魔の実』の能力なのかもな」

 

『あくまの、み……?』

 

「ああ。この世のどこかに不思議な果実があってさ、それを食べると特殊な能力が使えるようになるんだ。

 

その代わり、海に嫌われて泳げなくなる……金づちになるんだよ」

 

アピーは幽体のまま、記憶を辿るように少し首を

かしげた。

 

『果実……食べたか、分からないや。でも……お水に入ると、力が入らなくなっちゃうよ』

 

「なら……そうか、やっぱり悪魔の実なのかな。

もっと小さい頃に食べたのかもな」

 

『かもしれない……なんの実だろ』

 

 

 

「さあな……。でも、理由は何であれ……もう一度

会えて良かった……! 本当に……良かったっ……!」

 

 

『ワタシも……ロダストにまた会えて、良かった』

 

光を纏って微笑むアピーの温かな姿に、ロダストは

溢れそうになる涙をぐっと堪え、少しだけ表情を

緩めた。

 

「……落ち着いたら、アピーの軀……弔いに行くか。……なあ、アピー。その能力で、自分の死体に

憑依したりは出来ないのか?」

 

『試してみたけど……出来なかったの』

 

「そうか……。他にどんな事が出来そうんだ?」

 

『他人に憑くことなら、できるよ。でも……弾かれちゃうこともあるの。あとは、手を創り出したり……』

 

「手を……?」

 

『うん。ロダストが海雲に落ちそうになった時も、

これで助けたの。こう、手を伸ばす感じで……』

 

アピーが仕草を見せると、その幽体の手から柔らかなエネルギーが噴き出し、大きな手をかたどった光が

アピーの動きと連動するように動いた。

 

「すごいな……生きてる時から使えたのか?」

 

『うん。でも、力が入らなくなっちゃうから使う必要も無かったし、そんなに使えも、しなかったんだよ』

 

「どういう実の能力なんだろうな……。幽霊みたいだし、そういう系統の能力かもな。まあ、俺にも

分からないけど……」

 

首を捻るロダストの元へ、アピーの声が戯れるように近づいてくる。

 

『ねえ……ロダストの中にも、入れるよ?』

 

 

「えっ……?」

 

次の瞬間、すうっと吸い込まれるように、アピーの

光がロダストの身体の中へと入っていった。

 

 

『……っ……温かい……。何か、力が満ちていく気がする……すごく落ち着く……』

 

「…あ〜びっくりした、…ニシシっ……俺の

悪魔の実は『気』……生命エネルギーそのものを

扱う力だからな。魂だけになったアピーの存在と、

相性が良いのかもしれない」

 

 

 

その時、足音が近づき、テントの幕が押し開けられた。

 

入ってきたのは、疲労の色を残しながらも安堵の

表情を浮かべたアマゾンとシャンディアの人々。

その中には、後に酋長となる若きシャンディアの少年と、若き17歳のガン・フォールも付き添っていた。

 

あたりを見回したアマゾンが、不思議そうに首を

かしげる。

 

「あら、アピーはどちらへ?」

 

「今、俺の中に入っていったよ」

 

ロダストが答えると、彼の胸元からひょっこりと

顔を出したアピーが、鈴の鳴るような愛らしい声を

重ねた。

 

『あったかいし、心地いいから……まだ中に居る』

 

「ふふ、そうなのですね」

 

アマゾンは優しく目を細めると、一歩前に進み出て

ロダストに向かって深く頭を下げた。

 

「青海の勇者、そして、アピー。あなた達のおかげでわたしは命を救われました。本当に……ありがとう」

 

シャンディアの男たちも力強く頷く。

 

「シャンディア一同、同じくだ。お前たちがこの

空島を救ってくれたんだ。今は何も気にせず、ただ傷を癒やしてくれ」

 

「ニシシ。こちらこそ……みんなのおかげで

助かったよ。ありがとう」

 

深々と頭をのぞかせるロダストの言葉に、側にいた

シャンディアの少年が、目を輝かせて笑いかけた。

 

 

「落ち着いたら宴をしましょう、みんなで!」

 

「ああ!……楽しみに待ってるよ」

 

ロダストが頷くと、みんなは気遣うようにそっと

幕を閉じ、足音が静かに遠ざかっていった。

 

静まり返った部屋の中で、ロダストは胸にそっと

手を当てた。

 

肉体としての鼓動は一つしかない。

けれど、見聞色の覇気と自身の『気』を通じて、

アピーという存在が、胸の奥で穏やかに

息づいているのがはっきりと伝わっていた。

 

「アピー……本当に、ここに居るんだな」

 

『うん。ロダストの『気』がね、ワタシを優しく

抱きしめてくれてるみたいで……内側から

満たされるみたいに、すごく心地いいの』

 

「……俺の気が、お前を……」

 

『そう。だからね、ワタシ……ちっとも

寂しくないよ。ロダストが生きててくれて、こうして一緒にいられて……ワタシ、すっごく幸せ』

 

その言葉に、ロダストの目からぽろりと一筋の涙が

こぼれ落ちた。けれど、それはもう悲しみの涙では

なかった。

 

 

「……おう。俺もだ、アピー。……みんなにも、

お前にも……本当に感謝しねえとな」

 

『うん。』

 

 

ふたつの魂が優しく溶け合い、傷ついた身体を

内側からじんわりと癒やしていく。

雲の隙間から差し込む朝焼けの光が、重なり合った

二つの命を静かに包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

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