歩けるくらいに傷が癒えた数日後、シャンディアの村では空島全土を挙げた大宴会が開かれていた。
種族の垣根を越え、肉が焼ける香ばしい煙と賑やかな笑い声が雲の上に広がっていく。
「青海の勇者に乾杯だ!」
17歳の若きガン・フォールや、後に酋長となる
シャンディアの少年も、ジュースの入った杯を手に
取って笑顔でロダストを囲み、共に杯を交わした。
種族や立場を越えた温かな笑顔があちこちで
溢れ返っている。
「 まだ傷に響くから控えめにな!」
ロダストが豪快に肉を頬張ると、その体内から
アピーの弾むような声が頭の中に響き渡った。
『わあ! 美味しい! ロダスト、ワタシお腹は
いっぱいにならないけど、美味しさはすごーく
伝わってくるよ!』
(だろ? 空島の肉も悪くねえな)
『もっと食べて! もっと!』
一人でアピーに話しかけ、顔をほころばせるロダストの姿に、側にいたアマゾンがクスッと微笑んだ。
「ふふ、アピーも楽しんでいるようですね」
「ニシシ、俺の中で大はしゃぎしてる。」
宴の火が静かに揺れ、人々が絆を深め合う温かな夜が更けていった。
◇
翌朝、静寂が包む白い雲の丘にて、アピーの残された肉体の火葬が執り行われようとしていた。
祭壇に横たわる肉体を前に、アマゾンがそっと手を
触れ、ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
「ごめんなさい……あんなに小さかったあなたを、
守ってあげられなくて……」
その悲しみに応えるように、ロダストの身体から
すうっと光が溢れ、アピーの幽体が姿を現した。
アピーは柔らかな光を纏った手で、アマゾンの目元をそっと撫でる。
『アマゾン、泣かないで……。ワタシ、ロダストの
おかげで命が繋がったの。だから悲しまないで……
本当に、今までありがとう』
触れられないはずのその手から、確かな温もりが
伝わり、アマゾンはハッと目を見開いた。そして涙を拭うと、愛おしそうに静かに微笑んだ。
「……ええ。ありがとう、アピーちゃん。本当に
よかった……」
炎が優しく肉体を包み込み、細い煙が空島の上空へとゆっくり上っていく。その光景を、アピーとロダストが並んで静かに見つめていた。
『……変な気分』
アピーがぽつりと呟く。
「肉体とはお別れだけど、大丈夫か?」
『……しかたない。戻れないから』
二人は顔を見合わせ、ロダストが優しく頷いた。
「……じゃあ、弔うぞ」
『うん』
煙が雲の彼方へと消えていくのを見送りながら、
ロダストは胸の奥へと意識を向け、静かに問いかけた。
「……アピーは、これからどうする?」
アピーは光を纏った顔を上げ、満面の笑みをロダストに向けた。
『ロダストに憑いていく。ワタシはロダストの家族。一生、一緒にいる』
そのまっすぐな言葉に、ロダストは胸が熱くなるのを感じ、照れくさそうに鼻の頭をかいた。
「……そうか。妹だもんな、よろしくな。」
『えへへ、頼りにしてるよ、お兄ちゃん!』
二人のやり取りを見守っていたアマゾン、
ガン・フォール、そしてシャンディアの少年たちが
静かに歩み寄ってくる。
「青海に帰るのですね」
「ああ、準備が出来たら帰るよ、下に」
ロダストは空を見上げ、頼もしい眼差しで空島の人々を見回した。
「……よし、準備して青海に帰ろうか!」
ロダストの言葉に呼応するように、体内のアピーが
元気いっぱいに答える。
『うん!いこう!』
澄み渡る空の下、二つの魂は新しい家族としての温もりを抱き、静かに次なる旅立ちへと心を添わせた。