永久指針(エターナルポース)の示す方角へ向け、
ロダストは海面上を滑るように猛スピードで
突き進んでいた。
「ひやっほーーーーーーー!!」
周囲をどこまでも満たす青い海と、頭上に広がる
どこまでも高い青空。
『ねえロダスト! 海のうえを飛ぶって、すっごく
気持ちいいね!』
ロダストの肩口から霊体としてふっと顔を出した
アピーが、勢いよく吹き抜ける汐風と視界を流れる
青の世界に声を弾ませる。
「だろ? 青海の海原はどこまでも続いてるからな! なぁ!アピー、これから造る雲の乗り物のことなんだけど……他にどんな機能があったら最高だと思う?」
『うーん……やっぱり、どこへでも飛んでいけるようにスピードが出るのがいいな! あとは……座り心地がフワフワで、お腹がすいたら美味しい果物をしまっておけるポケットみたいなのがあったらいい!』
「いいなそれ! 爆走できて座り心地も抜群で、メシも
積める雲か! ニシシッ、絶対に形にしような!」
ふたりはまだ見ぬ乗り物の構想に胸を躍らせながら、数日間の航海を突き進んだ。
◇
数日後、大海原の果てに突如として巨大な「水の塊」のような都市が姿を現した。
山のように聳え立つ島全体に美しい水路が
張り巡らされ、無数の建物が階段状に立ち並ぶ絶景
——水の都『ウォーターセブン』。
「うわあぁぁぁ……っ!! ロダスト、見て見て!
街の中に大きな川がいっぱい流れてるよ!! 空島で
言う雲の道(ミルキーロード)みたい!」
初めて見る水の都の壮大なロケーションに、
アピーは目玉を丸くして大はしゃぎする。
『すごいよ! 建物も水の上も、全部がキラキラしてる!』
「うおおおっ! すっげえええ!! 街全体が水の中にあるみたいだぞ! ニシシッ! セント・ポプラも
凄かったが、ここもすげえな!」
ロダストも一緒になって目を輝かせ、大騒ぎしながら街へ足を踏み入れた。
水路を行き交うのは船だけではない。
頭を水面から出し、可愛らしい声で鳴きながら人を
乗せて泳ぐ海獣——「ヤガラブル」の姿があった。
「ニーッ!」
『可愛い、ロダスト!』
「お兄ちゃん、ヤガラに乗っていくかい?」
「おお、頼む! アピー、乗ってみようぜ!」
『……ねえロダスト、わたし乗ってるっていうのかな?(浮遊しながら)』
「こまけえことは気にするな! まずは観光だーー!」
ヤガラの背に揺られながら賑やかな水路を進み、
露店で買い込んだ名物を口いっぱいに頬張る。
「水水肉〜!! うま〜〜! うまっうまっ!」
『美味しいね?』
「……ん? アピー、霊体でも食べれたのか〜!?」
『食べたいって思ったらなんか出来るように
なったよ。幽霊だって食事くらいするでしょ』
「……そういうもんか?」
『そもそも、幽霊で動けるんだから何があっても
おかしくないよ』
「たしかに!」
ヤガラの背の上で上機嫌になったロダストは、
さっそく「雲を乗り物にしたいんだ!」と街中の
船工たちに尋ねて回った。しかし、返ってくるのは
相変わらずの冷笑ばかりだった。
「兄ちゃん、雲を乗り物にだぁ? 船を造りに来たん
じゃねえのかよ!」
「まともに相手してられるか、あっちへ行きな!」
何処へ行っても首を振られるばかり。そして、何人目かを尋ねた時——。
「雲の乗り物を作って貰いたいんだけど、誰が
良いんだ!?」
尋ねられた船工は、顎を掻きながら港の外れを
指さした。
「若いが腕は良いトムが良いんじゃないか?」
「トム?」
「廃船島にあるトムズワーカーズの社長だよ。
起業したばかりだけどね」
「そうなのか、行ってみる!」
教えられた廃船島は、ウォーターセブンの華やかな
街並みから離れた港の外れに位置していた。
そこは役目を終えて解体期を待つ古船や、
打ち捨てられた巨大な木材がうずたかく積み上げられた場所で、汐風とともに錆と木屑の匂いが
強く漂っている。
かつて魚人ゆえに異端視されることもあった
コンゴウフグの魚人・トムが、その圧倒的な造船技術と情熱で自ら立ち上げた小さなドック兼事務所——
それが起業したばかりの『トムズワーカーズ』だった。
廃船の山を抜け、立ち上げたばかりの小さなドックへ足を踏み入れるロダスト。
「頼もうー!」
ロダストが元気よく声を張り上げると、奥から
人魚の女性——美人秘書のココロがひょっこりと
顔を出した。
「トムさん、お客さんだよ」
ドックの奥からドシンと重い足音を響かせて現れたのは、巨躯を誇るコンゴウフグの魚人・トムだった。
「たっはっは! 元気の良いやつだ! 客か! 船を
作って欲しいのか!」
「いや!雲の乗り物が欲しいんだ!」
「雲の乗り物?」
トムが太い眉をひそめると、ロダストはニッと
八重歯を見せて太陽を彷彿させる様な笑顔でニシシと笑い、懐から大切に抱えてきた貝(ダイアル)を
取り出した。
「ああっ!!俺が持ってるこの貝! 空島から持って
きたこの貝たちを使って、雲そのものを乗り物に
したいんだ!」
ロダストは自信満々に『雲貝(ミルキーダイアル)』を構え、意気揚々と貝の殻頂(かくちょう)を
押した。雲に乗って空も海も駆け巡る、
夢の「雲の乗り物」の第一歩を期待して——。
——ポシュッ。
「……あれ?」
『……ロダスト、何も出てこないよ?』
勢いよく雲が噴き出すはずのダイアルから出たのは、情けない小さな気泡のような煙がひとつ、しゅんと
消えただけだった。
「…?…。なんでだァァァーーーッ!? 空島じゃ
ドカンとすげえ雲が出たんだぞ!?」
頭を抱えて叫ぶロダストに、トムは見たこともない
貝を物珍しそうに覗き込みつつ、太い腕を組んで
豪快に笑った。
「たっはっは!!! 妙な貝を見たこともねえから
よく分からんが……たっあっ…!!……!っ……!っ…!! 面白い奴だっ!!! それが本当なら、
やろうっ!たっはっ…!!っ…!っ…!」
「トムさん、先に制作費だよ。あんた金はあるのかい?」
ココロがひょっこり横から口を挟むと、ロダストは「これじゃダメか?」と、セント・ポプラで
換金してきた袋いっぱいの紙幣(札束)をドカンと
目の前に差し出してみせた。
「空島で手に入れた黄金を換金したお金だ!」
積み上がる山のような札束に、ココロは目を丸くし、トムは豪快に胸を叩いた。
「たっはっは! じゃあ始めるとしようか!」
『よろしくお願いします。』
「たのんだー!」
◇
目の前にドカンと積まれた大量の紙幣と、青海では
沈黙したままの『雲貝(ミルキーダイアル)』。
さいさきの悪いスタートとなったが、先の未来
伝説の船大工と呼ばれるトムとの出会いによって、
不可能と思われた夢に火がともる。
青海では雲が出ないという壁を、どう乗り越えていくのか——。
青空と大海原を自在に駆け巡る「雲の乗り物」の
完成を目指し、ウォーターセブンの廃船島で熱い
挑戦が始まる!