翌朝、廃船島には朝早くから爽快な打撃音と、
トムの豪快な大笑いが響き渡っていた。
「たっはっはっ…!! っ…! なんだこの貝は!
風を噴き出したり衝撃を蓄えたり! たっあっ…!! コイツはァ、驚愕だな!!」
ドックの作業台に並べられたダイアル類を手に取り、トムは目を輝かせる。空島の未知とも言える
エネルギーに、職人魂は完全に火がついていた。
だが、本命の『雲貝(ミルキーダイアル)』だけは、青海の気候では「ポシュッ」と虚しい煙を吐く
だけだった。
「やはり青海じゃ気圧が違いすぎる。この貝の力だけじゃ雲の形を維持できないんだな。何かエネルギー源があれば……」
「うーーん……」
「俺の悪魔の実の能力なら貝(ダイアル)の
エネルギー源になるかもっ!!!」
思案するトムの横で、ロダストはニシシと笑うと
悪魔の実の能力の「気」を解放し、雲貝へ一気に
注ぎ込んだ!
ボカァァァンッッ!!!!
パイロブロインが激しく活性化し、爆発的な勢いで
部屋一面を巨大な固形雲が埋め尽くす。
「たっはっは!雲が出たぞ!」
「やったあぁぁぁ! 出たぞアピー!」
『すご〜い!島雲だね。』
雲まみれになりながら大喜びするふたりだったが、
だが、トムは弾力のある雲をパンパンと叩きながら
難しそうな顔で唸った。
「だが、おめーの能力で雲は作れるが、
排出したらそれでおしまいだ。維持とコントロールが難しいぞ」
「そうか……難しいのかー…」
——それから、五日が経過した。
試行錯誤を重ねるも、雲の安定した維持と制御は
難航していた。アピーが『ココロさん、手伝う』と
作業を支える中、ココロが二人に声をかけた。
「ありがとう、アピー。
…ねぇロダスト、トムさん。広場で魔法使いの男が『科学』で雨を降らせてるんだと。休憩がてら
見てきたらどうだい?」
「そうだな、行ってみるか! トム、行ってみよう!」
「たっはっは!気分転換に行ってみるとするか!」
広場では、魔法使いのような珍しい衣装を
まとった男・ハレダスが人ごみの真ん中で声を
張り上げていた。
「さあさあお立ち合い! 雲を作り出し雨を降らせる、魔法だよー! お金と情報を下さいなー!」
ハレダスが懐から取り出したのは、シャボン玉の
ような小さな透明な球体——開発中だという『ウェザーボール』の初期試作品だった。
ハレダスが杖でその球体を軽く突くと、球体の中で
小さな雲がモコモコと弾けて急成長し、広場の頭上だけに局所的な恵みの雨をパラパラと降らせてみせる。
集まった街の人々から「うぉーっ! 本当に雨が
降ってきたぞ!」「魔法だ、本物の魔法使いだ!」と大きな歓声と拍手が湧き起こる。
「!!!っ、あれだーっ! なぁあんた! 名前なんて言うんだ!?」
「ん?……ハレダスだが」
「ハレダス! 俺の舟を手伝ってくれ!」
「舟〜〜〜!?」
突然の頼みにハレダスは目を白黒させたが、事情を
聞くと興味深そうに応じ、そのままトムズワーカーズのドックへと招かれた。
「ふむ……青海でパイロブロインを活性化させておるのか。だが島雲に必要なのは、水滴を結びつける『凝結核』じゃよ」
ハレダスはロダストの持つ力と雲貝を観察し、深く感心したように頷く。
「ふむ……貝のエネルギー源を、空島の環境でない
青海で能力を使って獲得しておるわけじゃな。
パイロブロインの活性化を能力でおこなっとる。だが島雲に必要なのは、水滴を結びつける『凝結核』
じゃよ。これが無ければ雲はすぐに弾けて出入りも
できん」
「凝結核……!」
「雲を生み出すのは雲貝(ミルキーダイアル)、
推進力は『風の結び目』と噴風貝(ジェットダイアル)かのう。」
ハレダスが作り出した試作用の小型機に、ロダストが再び「気」を注ぐ。すると崩れることなく、ドックの真ん中にふんわりと一塊の安定した『固形雲』が
浮かび上がった。
「浮いた……! 見てみろトム、浮いてるぞ!」
「たっはっは! こいつは凄ぇ!」
「おいおい、おいおい。良いのー! もっと良い
雲の舟にしたいの!」
「最高で摩訶不思議な面白い雲にしたいな!」
「たっはっは! 違いない! 男がドンと胸を張って
造るんだ、惜しみなく技術をつぎ込むとしよう!!」
大喜びするさんにんの傍らで、アピーが『わーい!』と無邪気に雲の中をすーっと通り抜ける。
その瞬間——ハレダスの手元にある測定器の針が、
ごくわずかにピクッと揺れた。
ほんの一瞬、凝結核の結合数値が気圧の計算値を
上回る波形を示し、すぐに元に戻る。
(ん……? 今、密度の波形がズレたような……気の
せいかのう?)
ハレダスは眉をひそめ、無邪気にロダストと手を
取り合って喜ぶアピーの姿を、ふと不思議そうに
見つめた。
「たっはっは! 細けぇ理屈は後だ! 試作機が
完成したなら、これから忙しくなるッ!ドンッと
気合いを入れようっ!!」
トムが豪快に胸を叩くと、ココロが酒瓶とグラス
(子供たちにはジュース)を運んできた。
「はいはい! 理論が完成したなら、景気付けに
乾杯と行こうじゃないかい!」
「よし! 男がドンと胸を張って造るんだ、明日から本格的な制作に入るぞォ!」
「最高で摩訶不思議な船にするぞーー!」
「おいおいおいおい、ワタシも貰ってもいいのかね」
「当たり前じゃないか」
『わーい!』
「『「「「乾杯ーーー!!!」」」』」
夕闇の廃船島に爽快な乾杯の音が響く。
伝説になる船大工、空島の貝、そして
ウェザリアの天候の科学。最高のパーツと知恵が
揃い、誰も見たことのない「雲の舟」誕生に向けた
開発が一気に加速し始めた!