猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第39話 誕生!雲の舟・金斗雲のコモちゃん

 

 

 

「よし……仕上げだ、アピー」

 

『うん! 私たちの力、ぜんぶ吹き込もう!』

 

静まり返るドックの中、完璧に組み上がった

アンモライトの殻へ、ロダストとアピーが静かに

手をかざす。

 

 

ロダストからは生命の躍動である「気」と強靭な

「覇気」が、アピーからはユウユウの実が紡ぐ温かな「精気」が、奔流となって殻の奥、深くまで

注ぎ込まれていく。

 

 

「アンモライト」×「ロダストの気・覇気」×「アピーの精気・霊力」×「ダイアル・凝結核・風の結び目・インナーフレーム・バルブ」

 

 

 

全財産を叩いて買った最高級アンモライトの殻へ、

科学と技術と生命のエネルギーが限界を超えて

満ちあふれたその瞬間——

 

 

 

バチバチバチッ……!

 

インナーフレームの隙間から、見たこともない七色の光が強く弾けた。

 

 

ドックン……!

 

化石だったはずの巨貝の奥底から、ドック全体を

揺らすほどの重厚で力強い鼓動が響き渡る。

 

「おい……どうなってるんだ……!?」

 

「化石の中の構造が、注がれた気と精気を呑み込んで超反応を起こしておるんじゃ……!」

 

 

トムとハレダスが呆然と冷や汗を流す中、

過熱したアンモライトの「口」から、風を含んだ

高密度の島雲が「ふぅーっ」と一気に吐き出された。

 

それだけではない。

巨貝の殻の隙間、インナーフレームのあらゆる関節——まさに「全身」から、綿飴のような

濃密な雲が溢れ出し、自らの周囲を漂うように

包み込んでいく。

 

さらに雲の奥底から、クラバウターマンや水の精霊を思わせる精神体がゆらゆらと姿を現した。

 

内部の水貝が蓄えた水気と空島の雲が混ざり合い、

その身体はまるで水と雲でできたスライムのように

ぷにぷにと柔軟に形を変えていく。固形の実体を

持たず、水雲そのものが肉体であり中身なのだ。

 

まるで太古のアンモナイトが殻から顔を覗かせる

ように、しなやかな「水雲の触腕」をふわりと

伸ばす。

 

『ぽよん……』

 

七色の光を透かした水雲の体は、まるで産声の代わりに歌うような、優しく透き通った音を響かせた。

 

雲の表面にクラバウターマンを思わせる二つの

優しい目と、はにかむ口元のシルエットを浮かべ、

嬉しそうにロダストとアピーの頬へすり寄ってくる。

 

 

「おいおい…おいおい、おい……わたし達は

舟を造ってたはずなのに……っ!こりゃすごいぞ!」

 

「たっはっっ!!…っ!っ!…っ!!

『水と雲を纏う意志を持った精霊』を呼び覚ましたのかも知らないなァ……!たっはっはっ!」

 

トムとハレダスも、感無量といった様子で

目頭を熱くする。二人は顔を見合わせ、ドックの

天井を突き破らんばかりの大声で叫んだ。

 

 

「「世界でたった一隻の舟の完成だーっ!」」

 

 

その叫びに鼓舞されるように、水雲の精神体は

さらに眩しい七色の光を放った。

 

ふんわりと柔らかく形を変えながら、口から吐き出した大雲と一体化。ロダストが放つ「気」の出力に

反応して、ポヨンポヨンと体積を増し、二人を優しく乗せる最高のソファーのような乗船スペースを

作り出した。

 

水雲の触腕をパタパタと揺らし、

ロダストとアピーの身体をそっと押し上げるように

して、『早く乗って!』と甘えるように背中を

ねだってくる。

 

「…おおー!フカフカだ!! ふかふかーっ!

トムも!ココロもハレダスも乗ってみて!!」

 

ロダストがはしゃぎながら叫ぶと、ココロも

まじまじと雲の表面を突っつき、目を丸くして

笑った。

 

「雲貝で知ってたけど、雲に乗れるなんて不思議だねぇ。」

 

ロダストとアピーがフワフワの乗船スペースで

飛び跳ねるたび、水雲はポヨンポヨンと心地よい弾力で受け止め、二人を包み込む。そのあまりの心地よさと愛らしさに、ロダストとアピーは心からの

感謝を告げる。

 

「ありがとうお前ら、すっげぇ嬉しいっ!!!」

 

『ありがとう、ふたりとも!』

 

「そこまで喜んでもらえると、作り手冥利に

尽きるってェもんだ!たっはっ!!…!っ…

!…っ!! 」

 

トムが汗を拭いながら、豪快に笑い声をあげる。

 

「これが俺達の仲間!! 嬉しい〜!!ニシシシシ!」

 

『わーいっ』

 

「おいおい、おいおい、良かったねぇ。」

 

顔をほころばせるハレダスに、トムが

力強くうなずいた。

 

「そうだな、 名前をつけてやれロダスト!」

 

 

「名前……………、ニシシ!

名前は『金斗雲(きんとうん)』! 乗れる舟の

名前は金斗雲だ!」

 

ロダストが胸を張って叫ぶと、

雲の精神体が「ふわ〜〜っ!」と嬉しそうに全体を

大きく膨らませた。その横でアピーも目を輝かせ、

ぷにぷにの雲をギュッと抱きしめる。

 

『『アンモライトの、この子の名前はモコモコ雲の

コモちゃん』! 金斗雲、いいなまえ!』

 

「トム! ハレダス! ありがとう〜!」

 

 

 

興奮冷めやらぬ中、ハレダスがふと思い出したように試作回路のチェックメーターへと視線を向けた。

 

「……おお、おいおい…!…おいおい、

見てみろトムよ! 内部のギミックが全て新しくなって完璧に連動しておるぞ!」

 

殻の内側に組み込まれた仕掛けが、コモ自身の意思と

ひとつになって新たな何かを生み出していた。

 

水貝の自律給水システムはコモの判断によって

清らかな水を湧き出させ、「果物ポケット」は

コモ自身の何処かにみずみずしい果実を傷つけずに

優しく保持している。

 

さらにロダストが「気」を少し引き出すだけで、

遠く離れていても意思を察知してスルスルと寄り添うことも可能だった。

 

 

仕込まれていた「果物ポケット」や自律給水、

自動追従機能のすべてが、コモ自体の「思いやり」

として意思と化していた。ロダストの「気」の

強弱に合わせて、コンパクトなペットのように

縮んだり、大きな雲へと姿を変えたりする。

 

「本当に……命ある仲間になったんだな……」

 

ハレダスが深く頷き、トムも満足そうに胸を張った。

 

 

そして、誕生の歓喜に答えるかのように、舟が静かに動き出す。

 

 

 

◇

 

 

ふわり……

アンモライトの殻が内側から七色の輝きを散らし、

水雲を纏ったコモちゃんは、ドックの天井近くまで

静かに浮かび上がった。

 

まだどこかへ旅立つための「出航」ではない。

ただ自らの誕生を喜び、ロダストたちを背に乗せて

ゆらゆらと嬉しそうに宙を泳いでいるのだ。

 

 

「うわぁっ、浮いた!

浮いたぞっ!!トム! ハレダス!ココロ!!」

 

『ポヨンポヨンしてて、落ちない! すごいよ

コモちゃん!』

 

 

ドックの床から見上げるトムとハレダス、そして

ココロが、笑顔で、そして高らかに拍手を送る。

 

廃船島を包むあたたかな笑い声の中、産声を

あげたばかりの「金斗雲」は、来るべき本当の

旅立ちの日をじっと待つように、静かに、そして

誇らしげに空中で揺れていた。

 

 

 

 

 

 

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