猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第40話 雲の舟は夜を越えて!?

 

 

 

「おいおい、おいおい………おいおい!トムや!

なんだこの柔らかさは! まるで極上の高級綿布団の上に乗っておるようじゃぞ!」

 

「たっはっは! 雲が舟だなんて、今まで船大工を

やってきたが想像もつかなかった仕上がりだ!」

 

ドックの中では、完成した金斗雲(コモちゃん)の

試走とお披露目が続いていた。

 

フワフワの雲の座面でロダストとアピーが

大はしゃぎで跳ね回る横で、トムとハレダスも雲の

表面に手を埋め込み、ぷにぷにとした弾力と最高な

質感に感銘を受けている。

 

当のコモちゃんは、みんなに触られるのが

嬉しいのか、ポヨンポヨンと心地よい音を鳴らしながらドック内を気持ちよさそうに回遊していた。

 

 

◇

 

 

試運転を存分に終える頃にはすっかり日も傾き、

ドックの傍らで賑やかな前夜祭が始まった。

 

「さあさあ、腹が減っては旅立ちもできやしないよ! どーんと食べな!」

 

テーブルの上に並べられたのは、ココロが大鍋で

煮込んだ特製の大盛りカレーだけではない。一人では到底さばききれない大迫力の大食漢たちのために、

アピーも腕をまくって手伝い、熱々の湯気を立てる

特製の大盛りラーメンまで大量に並べられ、

他の料理も順々に並べられる。

 

大きな肉と野菜がゴロゴロ転がるカレーの

香ばしいスパイスと、濃厚なラーメンのダシの香りが廃船島全体に広がり、ロダストたちの胃袋を

激しく刺激する。

 

「う、うめぇーーーっ!! なんだこのカレー!

ラーメンもスープが激ウマだぞ、アピー!」

 

『ふーふー……おいしい〜! お肉も、おつゆも最高! ココロさん、すごーい!美味しい〜!』

 

「たっはっは! 男ならガッツリ食って精を

つけなきゃな! さあ、ハレダス、俺達も飲むぞ!」

 

「おお、実に豪快な味わいじゃ! 金斗雲の完成に……乾杯じゃな!」

 

勢いよくスプーンと箸を動かし、豪快に料理を

平らげていくロダストとアピー。

 

コモちゃんも嬉しそうにぷにぷにと体を揺らし、

清らかな水を湧き出させてみんなの喉を潤していた。

 

 

 

やがてお腹も満ち、心地よい満足感の中で

一息ついた頃。

 

ココロがワイングラスを片手に、少し目を細めて

ロダストたちへ問いかけた。

 

「……ところでさ、あんたたち。ログポースは

持ってるかい?」

 

ロダストは豪快に口元を拭い、胸を張って即答した。

 

「ログポースか? 持ってないぞ!」

 

「ニシシ!空島で壊れてから、買ってねえ!

ここウォーターセブンに来る為の永久指針(エターナルポース)なら、あるぞ!」

 

ココロは呆れ半分にロダストに告げる。

 

「ログポースがあれば指す次の島は、ここから

はるか先の海底、行き先は……私達の故郷『魚人島』だよ。」

 

 

「魚人島!? 魚人島か〜〜っ!!」

 

 

『お魚の人たちの島!? すごい! 行ってみたい!』

 

「まあ、海底にある魚人島に行くなら、

シャボンディ諸島に寄らないとダメだけどね。」

 

思わぬ魅力的な響きにアピーが目を輝かせる。

しかし、その盛り上がりに水を差すように、トムと

ハレダスが静かに杯を置いた。

 

その表情には、険しさが宿っている。

 

「……だがな、魚人島へ至る海路の途中には、

恐ろしい海が立ちはだかっておるんだよ。」

 

ハレダスが静かに語り出す。

 

「その名も『魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)』……濃い霧に覆われ、毎年何隻もの船が

謎の失踪を遂げる呪われた海域さ」

 

「魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)…

…。」

 

「たっはっはっ!そうだ。並の船なら霧の中で迷い、二度と出られなくなる。

だが、わし達がドンッと胸を張って造ったこの舟、

『金斗雲』なら、どんな危険な海だって越えて

行けると信じとる!」

 

トムが豪快に胸を叩くと、コモちゃんも「ふんす!」と意気込むように雲を膨らませた。

 

 

 

◇

 

 

宴が夜深くまで続き、ハレダスとトムが気持ちよさ

そうにイビキをかき始めた頃。

 

 

ロダストとアピーは夜風にあたりながら、ドックの

傍らで静かに佇む金斗雲の元へ歩み寄った。

 

月明かりを浴びて七色にほのかに光る

コモちゃんの体。

ロダストはその柔らかい雲にそっと手を触れ、

明日からの大空と大海原への旅に思いを馳せる。

 

「……ニシシ、想像もつかないすごい舟が

できたな……明日から、どこへでも行けそうだ…。」

 

『うん、コモちゃんと一緒なら、どこまでも行けるねロダスト』

 

 

だが——感動的な余韻に浸っていたロダストの脳裏に、ふと重大な問題が落雷のごとく突き刺さった。

 

 

「……あ」

 

『どうしたの? ロダスト』

 

ロダストは自分のポケットを引っくり返した。

出てきたのは、空っぽの布きれと数枚の小銭だけだ。

 

「……アピー。ログポースを買わないと魚人島に

行けないんだよな?」

 

『うん、ココロさん、そう言ってたね』

 

 

「アンモライト買うのに……全財産使い果たしたから……金がねぇ!!!」

 

『えぇーーっ!? お金ゼロ!?』

 

頭を抱えて叫ぶロダストに、アピーも目を丸くして

ショックを受ける。

 

その声に目を覚ましたトムが、笑い声をあげる。

 

「たっはっはッ……!っ!…っ!っ…!……っ!!

アンモライトを買うのに使い切っちまったか!

…ケッサクッ……!っ…!たっ…っ!……っ!」

 

ココロも続いて目を覚ます

 

「…笑いすぎだよ、トムさん。…なにがツボに

入ったんだい。」

 

「うぐっ……! だってアンモライト高かったんだもん! ……待てよ?」

 

ロダストはハッと顔を上げ、真剣な目つきで

夜空と海を見つめた。

 

「……『気』で気配を探って……魚人島まで着けないかな……!?」

 

ハレダスが目を丸くし、身を乗り出して即座に

ツッコミを飛ばす。

 

「バカ言っちゃいかん! 魚人島は深い深海だぞ、

流石に届かん!! 一体どんな『気』の使い手なら海底一万メートルの気配が探れるというんじゃ!」

 

「「そうだ(よ)!!」」

 

トムとココロの追いツッコミも重なり、夜の廃船島は大騒ぎだ。

 

「魚人の気配を追って潜ろうとしたって、迷子に

なって海獣の巣に飛び込むのが関の山だぞ!」

 

「せっかくいい舟ができたのにねぇ。出発の時点で

身動きとれなくなりそうなんてね」

 

ココロが心底おかしいように笑い、トムも腹に手を

置いて大笑いする。

 

当の金斗雲(コモちゃん)までもが、ロダストの

無茶な発想に呆れたのか『ぽよん……』と力を抜いてフニャフニャと雲を萎ませてしまった。

 

「コモちゃんまで呆れないでよ〜っ!多分、

出来ると思うんだけど!! …くっそ〜〜なんとか

稼ぐか探すしかないか〜〜っ!」

 

『やーい、大バカ者ー』

 

頭を抱えてじたばたするロダストと、

ケラケラとからかうアピー、それを笑い飛ばす

大人たち。出航前夜の夜は、どこまでも賑やかに

更けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

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