重く垂れ込めていた濃霧を突き抜けると、
そこには眩しい太陽の光と、どこまでも広がる青空が待っていた。
「ニシシッ! 抜けたァーーーーーーッ!!!
……明るい! 太陽だーーーっ!」
『明る〜い! 眩しい〜〜!』
ロダストとアピーは、久々のように感じる太陽の光に目を輝かせて歓声を上げた。
コモちゃんも、爽やかな海風を浴びながら
「ポワ〜〜ッ!」と嬉しそうに声を弾ませている。
金斗雲状態の雲となった背に乗ってプカプカと
浮かびながら滑空する空の旅は、思わず眠ってしまいそうなほど気持ちが良い。
「ふぁ……あ。太陽の下でゆったり飛ぶのって、
めちゃくちゃ気持ちいいなァ」
ロダストは金斗雲の上で豪快に寝そべり、頭の後ろで両手を組んだ。隣ではアピーがどこからか干し肉を
取り出して食べ、ロダストの口へ『はい、あーん。』と放り込んでいる。コモちゃんもふんわりと雲の形を揺らしながら、二人を乗せて快適な速度で
青空を滑っていく。
「……そういえばさ、この霧を出たら『魚人島』に
行くんだったよな。でも、魚人島ってどうやって
行くんだ?」
干し肉を噛みちぎりながら、ロダストがふと
思い出したように呟く。
『うーん……ワタシも分かんない! 海の底にあるん
だっけ〜?』
「そうだなぁ、どこかで人に聞いてみるか!
ニシシッ。…あ、あっちにデッケェ壁が見えるぞ!」
ロダストが起き上がり、指さす遥か先。
そこには雲を突き抜け、世界の果てまで海を真っ二つに分断するあまりにも巨大な壁——『赤い土の大陸(レッドライン)』がそびえ立っていた。
近づくにつれて視界の半分を埋め尽くしていく
赤い岩壁は、空から見下ろしていても眩暈がするほどの威圧感とスケールを誇っている。
「ニシシッ……近付いて行くと、本当に
おっきいなぁ。空を覆い尽くして、空までも割ってるみたいだ」
『すごーい! 赤い壁がずっとあっちまで
続いてるよー!』
あの巨大な壁の近くなら街があるかもしれないと、
ロダストはコモちゃんに指示を出し、レッドラインの方角へと気持ちよく空を飛んでいく。
自由気ままな空の旅を愉しんでいると、ふとアピーが下の方を指差して不思議そうに声を上げた。
『あ! 見て見てロダスト! なんか下から丸くて
キラキラしたものが浮いてくるよ! なにアレ〜?』
「ん?……シャボン玉〜〜!? なんだありゃ! 下からシャボン玉が湧いてきてんぞ!」
『シャボン玉って?』
「こういう丸いのをシャボン玉っていうんだ〜!
行ってみよう!」
『うん! 行ってみようよ〜!』
「よし、行くぞぉーーー!!」
コモちゃんがゆっくりと高度を下げていき、
ヤルキマン・マングローブの気候海域へと足を
踏み入れると、海面上に信じられない光景が広がっていた。海から直接生えているかのような、
見上げるほど巨大な一本一本の木々。その樹々から、無数の巨大なシャボン玉がフワフワと空へ向かって
湧き上がっているのだ。
『うわ〜〜〜っ! ホントだ、まるい玉が
いっぱいだっ! キラキラしててキレイ〜〜!』
目の前まで浮かんできた巨大なシャボン玉に、アピーが思わず手を伸ばして触れてみる。
『あ! ロダスト見て! これ割れないよ! ぽよん
ぽよんしてる〜〜っ!』
「え、そうなのか!……どれどれ?」
ペシペシとシャボン玉を叩いて弾力を確かめた
ロダストも、目を丸くして笑い声を上げた。
「ホントだ〜〜〜! ニシシッ、おもしれぇな〜!! よし、乗ってみよう!」
ぴょんと金斗雲から大きなシャボン玉の上に
飛び乗ってみると、割れることなくポヨンと身体を
受け止めてくれた。
「うわっ、これに乗るのも楽しいな!!」
『ワタシも乗る〜〜っ! ぽよ〜ん!』
穏やかで楽しげな空気に包まれながら、二人は
ふわふわと舞い上がるシャボン玉の上で笑い転げる。
「それにしても、でっかい木だなァー! 下は…木が
集まった根っこの上に、島みたいになってんのか。
おもしれー」
見下ろせば、巨大な根っこが海に張り巡らされ、
無数の島のように立ち並ぶヤルキマン・マングローブの群生が広がっていた。
しかし、その穏やかな時間は唐突に終わりを告げる。
フワフワと楽しく遊んでいるうちに、知らず知らずのうちに大樹の群生(シャボン気候の海域)から
少し外れた空域へと飛び出してしまっていたのだ。
その瞬間——それまで頑丈だったシャボン玉が、
パンッ! と一瞬で弾け飛んだ。
「あ」
『きゃあぁぁっ!?』
「ああぁぁあ〜〜ーーー……っ」
足場を失った二人はそのまま真っ逆さま! 慌てて
コモちゃんが下へ滑り込み、二人の体をふんわりと
受け止める。
「……いきなり割れるのかよ! ニシシッ、
びっくりした〜!ありがとうな!コモちゃん!」
驚きながらもロダストは快活に笑い飛ばした。
『ふう〜、コモちゃんありがとう! ……でも、
なんで急に割れちゃったんだろ?』
アピーが不思議そうに首を傾げると、ロダストは
弾け飛んだ空域と巨大な樹々の周りを見比べながら
考え出した。
「あのデカい木の近くだと割れないけど、離れると
割れちまうみたいだな……なるほど、あの場所だけの特別な泡ってわけか。おもしれぇ気候だな!」
『へぇ〜! 不思議な木なんだね〜!』
ロダストは感心したように頷きながら、
目の前に広がる巨大な樹々の群生を見渡す。
これだけ近づいていれば、特に身構えなくても大樹のあちこちから伝わってくる圧倒的な木の生命力と
「人の気配」が肌で感じ取れた。
「それにしても、ものすげぇ数の人の気を感じるぞ。下に大きな街があるみたいだ!」
『本当〜!? じゃあ魚人島の行き方も聞けるかもね!』
「おう! コモちゃん、あのシャボン玉がいっぱいの
木の下に降りてみようぜ!」
「ポワッ!」と元気よく鳴いたコモちゃんは、
弾むようにシャボン玉の舞う巨大な樹々の隙間——
シャボンディ諸島へと滑り込んでいくのだった——。