猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第49話 シャボンディパークの大狂乱

 

 

 

 

 

 

一人の男の絶叫がシャボンディパークに響き

渡っていた。

 

 

 

「……ウオオオォォォーーーー……………ッッ

ッ…!!!!」

 

頭を抱えてガックリと膝をつき、まるでこの世の

終わりのような顔で地面に突っ伏すロダスト。

 

 

 

 

「……金が、無ええぇぇぇーーーーーッッ!!!!」

 

周囲の客が一斉に振り向くほどの、轟く切実な

叫びをあげた。

 

その傍らでは、アピーも『……なかった……

そうだよ。すっからかんだよロダスト……』と

ショックで真っ白になっている。

 

 

 

——事の始まりは、ほんの20分前に遡る。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「コイツらを売り飛ばそうぜ!!」

 

「その宝石を寄越せ!」

 

「さらえ、攫えっ! 人身売買(オークション)で

一儲けだ!」

 

『シャボンディパーク』へ向かうロダストたちの

前に、路地裏から群がる人攫い屋や賞金稼ぎ、海賊

みたいなチンピラどもが次々と立ちふさがっていた。

 

だが、今の二人にとって彼らは敵ですらない。

ただの「楽しみにしていた遊園地への到着を遅らせる鬱陶しい邪魔者」でしかなかった。

 

「邪魔だァーーーーッ!!! 遊園地が遠ざかるだろ!!!」

 

ロダストが一切手加減なしの気を放ち、

拳を一閃させるだけで十数人の男たちがゴミの

ように吹き飛んでいく。

 

『プンプンッ! ワタシたちのウキウキを邪魔しないで〜〜っ!』

 

アピーもぷんぷんと頬を膨らませながら、

襲いかかってきた大男を軽々と投げて通り沿いの壁へと叩き伏せた。

 

気や圧倒的な身体能力の差で一瞬にして路地裏を

ボコボコに掃除し終えると、二人は何事もなかった

かのように駆け出していく。

 

 

 

そして——。

 

 

「『遊園地〜〜〜っ! ゆうえんちッ〜〜〜〜っ!!! わーーーーいッ!!』」

 

ド派手で巨大なゲートをくぐり抜けると、そこは

まさに夢の世界だった。

 

どこを見渡してもキラキラと輝く不思議なシャボン玉と、楽しげな音楽、見たこともないアトラクションに包まれて、二人のテンションは最高潮へと達する。

 

「ウキウキ、ウキウキッ! アピー、見てみろよ

あれ!」

 

『うわ〜〜〜っ! 凄〜〜いっ!』

 

シャボン玉を活用した未知のアトラクションに、

二人はかぶりついて飛びついた。

 

シャボン玉でふわふわと空中を疾走する「ボンチャリコースター」や、巨大なシャボン玉ドームでできた「観覧車」。まずは遊園地の中をぐるりと見て回る

だけでも、胸が躍って楽しくて仕方がなかった。

 

「よし! じゃあ片っ端から全部乗ってみようぜ!」

 

『うんっ! 乗る乗る〜〜っ!』

 

「ポワッ!」とコモちゃんも嬉しそうに弾む。

 

 

 

……じゃあ、これから乗り物のチケットを買おうと

したところで——二人は気づいた。

 

「よし、まずはチケットを買って……」

 

最高の盛り上がりのなかで、ロダストが懐へ手を

突っ込んだ——その時である。

 

 

あっ!? ……!!

 

………………

 

……。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

——回想終わり。

 

以上が、身ぐるみ剥がされた訳でもなく、

己の欲のままに、来る途中で既に散散していて

絶望に叩き落された男の嘆きの全貌である。

(……ホテル街で豪遊し、高級レストランで食べ

散らかし、道中の屋台で美味そうなものを片っ端から買い食いした結果であった。つまり、念願の遊園地ではまだ1ベリーすら使えていないのだ)

 

「あんなにあったのに……海獣売った金、全部

使っちゃってたぁぁぁ……!!」

 

あまりにも情けなく嘆き、どん底まで落ち込み、

遊園地にたどり着いたのに何一つ遊べず今まさに

悲しみに暮れるロダスト。

 

 

するとそこへ、のしっ……のしっ……と地響きを

立てて、あまりにも巨大な影が降り立った。

 

「ぬ? なんだ小僧、そんなところで何を泣いているのだ?」

 

そこに居合わせたのは、観光がてらパークを訪れて

いたエルバフの巨人族の一団であった。

 

「……金が……来る途中でテンション上がって

使いすぎちゃって……乗る事にも、買い物も何も…

出来ねぇんだ……」

 

泣き濡れた顔で事の顛末を語るロダストの

情けない姿に、オイモやカーシー、パンズフライたち大人はドドドッ! とお腹を抱えて大爆笑し、

後ろにいた子供たちハイルディンやゲルズたちも

目を丸くする。

 

「ガハハハハハ! なんだそんなことか! 気持ちは

わかるぞ、ここは楽しいからな!」

 

「がはは! よいよい! 俺たちの奢りだ! 金なら

ある、お前たちの分も出してやるから一緒に楽しもうではないか!」

 

「……え?」

 

『え……本当……!?』

 

言葉の意味を理解した瞬間、ロダストとアピーの

顔がパアァァッ……! と太陽のように明るく輝いた。

 

「ホントかーーーッ!? おっちゃんたち!ありがとうーーーーッ!!!」

 

『やったーーーー!』

 

「ポワポワ〜〜ッ!」とコモちゃんも歓喜の声を

あげる。

 

こうして巨人族にお金を出してもらった二人は、

すっかり元気を取り戻し、エルバフの一団と一緒に

遊園地を楽しみ尽くすことになった!

 

「おいチビども! 乗りたいもんのチケットは全部

買ってやるからな! 食いたいもんがあったらパンズフライに言うんだぞ!」

 

「がはは! おいお前ら、俺たち大人は体がデカすぎて

この遊園地の乗り物には入れんからな! パークの外縁の広場で飯でも食って待ってるさ!」

 

オイモがドシンと豪快に胸を叩けば、カーシーも

大笑いで酒樽を引き寄せる。

 

「シャボンディ諸島じゃ、俺たちみたいな巨人族は

人攫いや賞金稼ぎに目をつけられやすいからな。

目立ちすぎる大人はここで待機だ。

……まあ、子供たちならギリギリ、あの巨大

シャボン玉アトラクションに乗れるだろ!」

 

腰に大きな剣を差したライディーンが、パークの

木陰にどっかと腰を下ろしながら苦笑いを浮かべた。

 

「お前たちありがとうなぁ!! よし、行くぞー!

まずどこから行く!」

 

ロダストが目を輝かせて腕をまくると、

アピーも『遊ぼう〜!』とぴょんぴょん跳ね飛んで

大はしゃぎする。

 

大人たちに見守られながら、ハイルディンが

指をさしたのは、巨人の子供たちでも十分に乗れる

超特大のシャボン玉に乗って急降下する大迫力の

コースター。

 

「オレ達はあれに行きたい!」

 

「あっちのふわふわ浮くシャボン玉ドームも楽しそうだよ!」とゲルズやリリー、ロードとゴールドバーグも目を輝かせる。

 

「ニシシ!全部行こう〜っ!!」

 

『わーい! 一緒に遊ぶー!』とアピーも後を追う。

 

子供巨人たちのサイズでもすっぽり収まる

特大のシャボン玉コースターに乗り込むと、風を

切って垂直近くまで上昇し、一気に急降下!

大迫力の歓声がパーク中に響き渡る!

 

「うおぉぉぉーーっ!」「ギャーーッ!」

「すごーい! 風が気持ちいい〜〜っ!」

『きゃあ〜〜〜っ』

 

ロダストもアピーもハイルディンたちと一緒に

コースターに飛び乗り、大声をあげて誰よりも

遊園地を満喫していた。

 

アトラクションを攻め立てた合間には、広場の

待機場所に戻り、パンズフライが大鉄板で焼いてくれた特大サイズの肉や、シャボン玉のように丸く膨らむ巨大なスイーツを全員で並んで平らげた。

 

「もう〜! ハイルディンったらまた手を

盛大に汚して〜! でも美味しそうに食べちゃって……もう、キッズかわゆ〜♡ 尊いわ〜〜っ!!ほら、

このお菓子も持っていきなさい!」

 

イーダが腕を組みつつ、デレデレの笑顔で

ハイルディンたち子供にスイーツやお菓子を次々と

甘やかして与えている。

 

そして、肉を頬張るロダストとアピーの方を振り返ると、よしよしと頭を撫でんばかりの甘い笑顔を

向けた。

 

「ロダストにアピーちゃんも、お金なくなっちゃって

災難だったわね〜! かわいそうに! でも今日は

タダで飲んで食って遊べるんだから、遠慮なんていらないわよ! ほら、あんたたちの分も美味しいところ

取っておいたから、いっぱい食べなさい!」

 

『わ〜い! イーダさんありがと〜〜っ!』

 

「ニシシッ! ありがとう、イーダ!!」

 

すっかりイーダの甘やかしの虜になった二人は、

ニシシッと大笑いで特大の肉とスイーツを

受け取った。

 

……と、その時。はしゃぎすぎたハイルディンと

ロードが、食べかけの串を持ったまま走って柵を

飛び越えようとした。

 

「——こら!! 食べながら走らない! 転んで

刺さったらどうすんの!!」

 

ズドォン! と一瞬で空気が変わり、

酒場の名物女店主らしい凄みの効いた一喝が飛ぶ。

 

あまりの気迫に、広場で酒を飲んでいたオイモや

カーシー、ライディーンまでもが「ヒッ……!」と

肩をすくめて固まった。

 

 

 

「「「「楽しかったな〜〜っ!」」」」

 

「「楽しかったね〜!」」 『たのしかった!』

 

すっかり日も落ち、シャボン玉たちが夕焼け空と

街の灯りに照らされてキラキラと輝き始めた頃。

ひとしきり暴れまわったロダストは、お腹をいっぱいに膨らませて並んで歩く子供巨人たちにふと

問いかけた。

 

「なぁ、お前たちはシャボンディ諸島には何しに

来たんだ? 観光か?」

 

すると、ハイルディンが胸を張ってニカッと笑う。

 

「オレ達は付き添いで遊びに来たんだ! 大人達は

誰かを探しに来たんだぞ!」

 

「へぇ〜! そうなのか!」

 

「ちょっとハイルディン、威張るんじゃないの!

あんたたちが勝手に船に潜り込むから、心配で私が

追っかけて密航する羽目になったんじゃない!

……まあ、威張ってる姿もめちゃくちゃかわゆす

なんだけどね〜♡」

 

イーダはデレデレとハイルディンの頭をなで回し、

ロダストたちに向き直ってふっとニカッと笑った。

 

「まあそういうわけなのよ。……でも、あんたたちのおかげで、この子たちも最高に楽しそうだったわ!

ロダストもアピーも、付き合ってくれて

ありがとね!」

 

「へへっ! 今日は本当にありがとな、おっちゃんたち、イーダ! ハイルディンにゲルズたちも!

めちゃくちゃ楽しかったぜ!」

 

アピーも『ワタシもとっても楽しかった〜!

ごちそうさまでした〜!』とペコリとお礼を言う。

 

別れを惜しむ二人に向かって、ハイルディンたちも

嬉しそうに手を振った。

 

「楽しかったのはこっちもだぞ! なぁ、お前たち、

明日もシャボンディ諸島にいるのか?」

 

「おう! 俺たちは船のコーティングってやつをする

職人を探さなきゃいけねぇからな! 明日もこの島に

いるぜ!」

 

『うん! 私たちも明日いるよ! 船の準備でまだ

出発しないからね!』

 

「がはは! 俺達もコーティング職人を探さなきゃ

いかんからな! また会うかもな!」

 

「マジか! じゃあ、また明日も会えたら一緒に

遊ぼうぜ!」

 

『約束だからね〜!』

 

「「おう!!」」

 

 

 

別れを惜しみながらも互いに大きく手を振り合い、

ロダストたちは光り輝く遊園地を後にした。

 

すっかり夜の帳が下りたシャボンディパークは、

昼間の賑やかさとはまた趣を変え、樹液のシャボン玉ひとつひとつが優しい灯りを宿して、まるで夜空に

浮かぶ巨大なランタンの海のように揺らめいている。

 

「楽しかったな〜! アピー!」

 

『うんっ! ごはんもいっぱい食べたし、すっごく

楽しかった〜!』

 

「ポワポワ〜ッ♡」

 

満腹のお腹をさすりながら歩く二人の顔には、

満足感いっぱいの笑顔が浮かんでいた。金が無く

なって絶望していたことなど、もはや綺麗さっぱり

吹き飛んでいる。

 

「コーティング職人……明日見つかるといいな〜!」

 

『見つけよ! で、またみんなと遊ぶんだ〜!』

 

「おう! 絶対また遊ぶぞ!」

 

夜風が心地よく頬を撫で、頭上では無数の輝く

シャボン玉が、二人の行く道を祝福する様にキラキラと光を弾けさせていた。

 

満面の笑みで固い約束を交わし、ロダストたちは

大満足の笑顔で、ランタンのように光るシャボンディパークを後にするのだった——。

 

 

 

 

 

 

 

 

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