「ニシシッ! これで遊べるぞーーー!」
海軍駐屯基地の受付から現金がギッシリ詰まった
袋を受け取り、ロダストとアピーはご機嫌で基地を
あとにしていた。
立ち去り際、おつるちゃんから
「天竜人が下に降りてきているから、おとなしくしておきなさい」と固い表情で忠告を受けたものの、
そもそもふたりは「天竜人」という存在そのものを
知らない。
「テンリュウビトってなんだ? 竜の親戚か?」
『さあ〜? なんだろう』
「よくわかんねぇけど、とにかくこれでご飯も
たくさん食べれるし、たっくさん遊べるなっ!!」
『うんっ! 青海ってすごいねロダスト!
悪いやつを渡すだけでこんなにお金がもらえるなんて夢みたい〜〜っ!』
おつるの重々しい警告もどこ吹く風、ホクホク顔で
鼻歌を歌いながら、二人はハイルディンたちの待つ
シャボンディパークへと足を進めていた。
——一方その頃、ロダストたちが去った直後の
海軍駐屯基地。
「報告! 報告いたします!!」
血相を変えた海兵が、重厚な応接室の扉を突き破らんばかりの勢いで飛び込んできた。
「何事だ、騒がしい」
腕を組み、厳格な面持ちで眉をひそめる
センゴク中将。その隣でゼファーと、おつるも静かに視線を向ける。
「はッ! シャボンディパーク付近にて、
エルバフの巨人が襲撃され、一名倒れているのが
発見されました!… さらに……同行していた子供の
巨人数名が何者かに連れ去られた模様です!!」
「なに……!?」
センゴクとゼファーの顔に一気に緊張が走る。
「……よりによって、世界貴族が諸島に降りている
このタイミングで……」
おつる中将は静かに眼光を鋭くし、深いため息を
ついた。
その頃、パークで異変に気づいた大人巨人たちも
騒然となっていた。
「大変だ! ハイルディンたちが居ねぇ!!」
「あのチビ人間にも手助けを頼もう! 海軍の奴等の
ところへ行ったはずだ!」
オイモが巨大な足音を響かせ、脱兎の勢いで海軍基地の方角へ走っていた。すると、パークへ戻る途中の
ロダストとアピーの姿が視界に入る。
「おい! チビ人間!! 大変だ!!」
「ん〜? どうしたんだ?お金なら貰ってきたぞ!」
「それどころじゃねぇ! ハイルディンたちが……
子供たちが誰かに攫われたんだ!!」
「『……え?』」
脱兎の勢いで知らされたその一言に、
ロダストとアピーの顔から一瞬で能天気さが
消え去った。
ロダストたちが猛スピードでパークへ駆け戻ると、
そこには大人の巨人たちに介抱され、うっすらと
意識を取り戻したイーダの姿があった。
「う……くっ……」
「イーダ! しっかりしろ!」
「……みんな……ハイルディンたちが……ガスか
なにかで連れていかれたの……っ!!」
イーダはボロボロと溢れ出る涙を拭おうともせず、
悔しさと情けなさで激しく拳を地面へ叩きつけた。
「あたしが……あたしが不覚をとったばかりに……! ごめんなさい……っ! ごめんなさい……!!」
「イーダのせいじゃない! 汚い手使いやがって……!」
「ゆるさん……絶対に許さんぞ人攫いどもめ!!」
パンズフライやライディーンたち大人の巨人は
血の気が引きつつも、猛烈な怒りで身体を震わせる。
だが、広大なシャボンディ諸島のどこへ連れ去られたのか、手掛かりは一切なかった。
「くそっ……どこだ!? どこへ連れて行きやがった!!」
「この付近にはいなかったぞっ!!」
「手分けして探したが、足取りが完全に
途絶えてる……!」
「どうする! 相手は催眠ガスを使うような姑息な
奴らだ! 街のどこかの地下アジトにでも隠されたら、見つけ出すのにどれだけ時間がかかるか……!!」
「ハイルディン……! ゲルズ……!子どもたち…!」
広場を埋め尽くす大人の巨人たちの間で混乱と焦燥が広がり、怒号が乱反射する。手掛かりがなく、
刻一刻と時間が過ぎていく恐怖と苛立ちに、誰もが
拳を握りしめることしかできない。
そんな荒れる広場の渦中へ、戻ってきたロダストが
力強く一歩を踏み込んだ。
「……俺に任せろッ!!」
「!? どうする気だ!」
「探す!ちょっとだけ黙っててくれよ!」
ロダストはすっと目を閉じると、深く息を
吐き出した。
自身の内部にある気を極限まで研ぎ澄まし、
周囲全域へと解き放つ。それは見聞色の覇気と気を
融合させた、広大無辺の探知網。
ヤルキマン・マングローブの無数の樹々を越え、
街の喧騒を突き抜け、諸島全体に満ちる無数の気の
波動を深く深く巡っていく。
(どこだ……どこにいる…………アイツらは……!)
そして——
ピクッ、とロダストの眉が跳ねた。
諸島全体に漂う無数の気の中から、ハイルディンたち子供の巨人独特の、小さくも力強い気の波動を
確かに捉えた。
「……いた!! あっちのほうだ!! 悪い奴らの気がまとまってる場所にいる!!」
「何!? 本当かロダスト!!」
「ああ! 待ってろよ、お前ら……!
アピー!コモちゃん!イーダ達も!行くぞ!!!」
『うんッ!! ゆるさないっ!!』
「ポワッ!!」
ロダストは気を放出し、地面を激しく蹴り上げると
凄まじい衝撃波が円状に広がり、周囲の大気を
激しく揺さぶった。重力を置き去りにするかのように、その小さな身体が一瞬で上空へと跳ね上がる。
全身から迸る黄色の気のオーラが風を切る暴風と
化し、ロダストは弾丸のような速度で空を
疾走し始めた。
「な……空を飛んでいきやがった!?」
「おい待てロダスト! 俺たちも行くぞ!!」
「高度を下げろ!!」
「待ってて、子どもたち!!」
あまりのスピードで空を駆け抜けていくロダストの
背中を追い、巨躯を震わせ、怒りに燃えるエルバフの巨人達も地響きを立てて地上を爆走する。
大気を揺らす飛行音と巨人たちの足音が重なり合い、連れ去られた子供たちの身を案じる思いと激怒を
胸に、彼らは一直線に突き進んでいくのだった——。