猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第52話 悲鳴と乱入者

 

 

 

 

 

 

ドンッーーーーーー!!!!!

 

ロダストが放った爆風のような気とともに空が

歪むようにうねり、一気に加速する。

 

「急げ、急げーー!」

 

後ろからズシンっ! ズシンっ! と地響きのような

激しい足音が地殻を揺らす。追走する大人巨人たちが、前方を疾走するロダストへ向けて叫び声を

張り上げた。

 

「おい、ロダスト!! なんで分かった!?

見聞色なのか?! この広いシャボンディの中から

一瞬で場所を……!?」

 

「ほんとうに、こっちの方角に子供たちが

いるのか!?」

 

「見聞色と『気』を合わせて使ってんだ!

今は細かいことはいいだろ!それよりもアイツらは

あっちにいるぞ!!」

 

ロダストは気を放出し、ヤルキマン・マングローブの街並みをかすめるほどの低空へ高度を下げると、

弾丸のごとき速度で風を切り裂き突き進んだ。

その鋭い両眼は、立ち並ぶ建造物の隙間を

見透かしている。

 

『ロダスト……速すぎ……。でも、絶対助けなきゃッ!』

 

すでに移動の合間でスピードに耐えかね、ロダストの体内へと戻っていたアピーが、身体の内側から声を

響かせる。

 

「ポワッ! ポワ〜〜ッ!」

 

懸命に身体を揺らしながらロダストを追うコモちゃんだったが、やはりその猛烈な加速には引き離されて

いく。不安そうに声を上げながら、地上から地響きを立てて爆走してくるエルバフの大人巨人たちの

頭上へと徐々に寄り添い、彼らと並走するようにして後方を泳いでいく。

 

ロダストは低空を飛翔しながら、大人巨人たちが

しっかりとついてきているかチラチラと後方に視線を走らせ、確認を怠らない。

 

 

「巨人族のみんなぁッーーーー! 急げェッ! !

あれだ!! あのドーム型のでっけぇ建物だ!!

そこに子供たちみんないる!!」

 

前方を行くロダストが再び前を向き、

力強く叫びながら先頭で一直線に指をさした。

 

「1番GR(グローブ)……! 人間オークション

会場か!!」

 

ライディーンやカーシー・イーダたち大人の

巨人族の顔に、激しい怒りと憤怒が走る。最悪の場所へ連れ去られたことを悟り、巨人たちの足取りは

さらに凄まじい地響きとなって街を揺らした。

 

だが——その激動の表情の裏に、一筋の不穏な曇りが戦士たちに走る。

 

(1番GR……オークション会場となれば、

シャボンディ諸島に降りて来ているという『天竜人』がいるかもしれねぇ……!)

 

世界貴族という絶対に手を出すことが許されない存在の影に一瞬の躊躇と葛藤が過るが、囚われた子供達を想う怒りがそれを即座に呑み込んでいく。

 

 

 

 

 

 

1番GR、人間オークション会場。

 

 

そこはヤルキマン・マングローブの根元に広がる

無法地帯の象徴であり、人買いたちの巨大な欲望が

蠢く暗黒の社交場だった。

 

豪華絢爛な絨毯が敷き詰められた貴賓席から、

木製ベンチが並ぶ後方席、さらには最上階の立ち見席に至るまで隙間なく人で埋め尽くされている。

 

世界各地から集まった富豪、貴族、賞金稼ぎ、

そして無法者たち——。

 

彼らの目には、人命を金で買い叩く下品で醜悪な

欲望と、誰かを支配することへの歪んだ快感が怪しくギラギラと爛爛に輝き、その熱気がドーム天井に

反響して不気味な唸りを上げていた。

 

会場中央に設置された広大なステージには、

天井から吊り下げられた巨大なスポットライト群が

容赦なく眩い光を照射している。

立ち昇る紫煙と酒の香りが混ざり合う

不穏な空気の中、客席からの卑小な視線を集めて

順調に進んでいたオークションの最中、

ステージ上でマイクを握る司会者が突然言葉を

詰まらせた。

 

 

「さあさあ! お次の商品は…………ん?」

 

舞台袖からコソコソと駆け寄ってきた黒服のスタッフが、司会者の耳元で囁く。

 

「おい、どうした。」

…ボソボソッ」

 

 

「……!! ……本当か?」

……はい、そのようで」

 

 

報告を受けた司会者が目を見開き、すぐさまマイクを握り直して大声を張り上げた。

 

「……ンンっ……大変失礼致しました!

 

………なんと! このタイミングで! …飛び入りの

商品がやって参りました!!… 飛び入りの乱入をして

きた目玉商品はーーーーーー!?」

 

 

 

 

会場のテンションが最高潮に達する中、司会者が

手振りを交えて叫ぶ。

 

「…未来の戦士! エルバフの巨人族の子供たちだーー

ーーーーっ!!!!」

 

 

司会者の叫びとともにステージ中央の幕が上がると、巨大な鉄かごに閉じ込められたハイルディンやゲルズたちの姿が露わとなった——。

 

 

怯えに震える幼い巨人たちを、客席の者たちは

「珍品」「最高の奴隷」と下品な視線で舐め回し、

狂喜の声を上げて囃し立てる。

 

「くそっ……ここから出せぇっ! 俺たちはエルバフの誇り高き戦士だぞ! こんなもの!!」

 

「ゆるさない……ッ!」

 

怒りに顔を歪ませて必死に檻を叩くハイルディンと、悔しさに目頭を熱くさせるゲルズ。だが、捕縛時に

吸わされた催眠ガスの影響で力が入らず、重厚な鎖によって自由を完全に奪われていた。

 

 

 

そして、その幼い首には——世界貴族の支配と服従を象徴する首輪が嵌められている。

 

客席からは容赦のない下品な歓声が巻き起こった。

 

 

「ひやあー! デカい! 本当に巨人の子供だ!」

 

「買いだ買い! 庭の雑用係にぴったりだぞ!」

 

「いやいや、闘技場で見せ物にした方が面白いぜ!」

 

「さあさあ、皆さん落ち着いてください!!!

それではこれより! 奇跡の出品、巨人族の子供たちのオークションを始めていきます!!!」

 

 

欲望に満ちた客たちの醜悪な歓声と熱気がドーム天井に響き渡る中、競りが開始される。

 

まさにその時だった。貴賓席にふんぞり返っていた

幼い天竜人——ロズワード聖が、退屈そうに

鼻を鳴らした。

 

横柄な態度で鼻をほじりながら立ち上がると、

ほじった鼻くそを適当に指で弾き飛ばす。

 

「おい、ちまちま競うなんて邪魔くさいえ。

全部まとめてわたしが買うえ!!」

 

 

「え……!? あ、ロズワード聖!? い、いま

なんと……!?」

 

突如割り込んできた世界貴族の言葉に司会者が慌て

ふためき、会場の客たちも一瞬で息を呑む。

 

呆気にとられる周囲を余所に、ロズワード聖はフンと鼻を鳴らして高らかに言い放った。

 

 

 

「15億っ!!!!!」

 

 

 

 

一瞬、会場中の空気が完全に凍りついた。司会者も、客席の富豪たちも耳を疑う。

 

 

「5匹まとめて15億で買うえ!!!」

 

 

 

「15億ベリー〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!?」

 

 

あまりの規格外の提示額に、会場全体が静まり

返った。誰も手を挙げられるはずもない圧倒的な

財力と、世界貴族という不可侵の恐怖。

 

 

「フフフーン!! 決まりだえー! 早くわたしの

屋敷へ運ぶえ〜!!きょ、じ、ん!きょ、じ、ん!」

 

満足そうに鼻を鳴らして笑うロズワード聖。司会者は興奮と狂喜で全身の手を震わせながら、叫ぶように

マイクを握りしめた。

 

 

 

「15億ベリー! 15億ベリーで……決定ーーーー

っ!!!」

 

 

買い取られた先で待つ悲惨な未来と首輪の恐怖を

想像し、幼いロードやゴールドバーグは顔色を悪く

して怯えに震える。

 

だが、ハイルディンとゲルズ・リリー達は決して

諦めず、怒りに燃える瞳で鉄かごを強く睨みつけて

いた。

 

 

司会者が狂喜乱舞し、オークションハンマーを

振り上げた——その時だった。

 

 

 

 

 

ドゴォォンッ!!!!!

 

 

凄まじい爆音とともに、会場の強固な側壁が内側へ

向かって木っ端微塵に破砕された。

 

「な、なんだぁ〜〜〜〜〜!?!?」

 

 

悲鳴と狂乱が渦巻く中、

飛び散る破片と白煙の隙間から、圧倒的な存在感を

放つ一人の男がゆっくりと姿を現す。

 

全身から黄金のごとく眩く煌めく「黄色い気」を

吹き荒れさせ、その瞳には収まりきらない激しい怒気を宿した男——ロダストだった。

 

子供たち全員を見つめ、ロダストは静かに、だが

力強い声を響かせる。

 

 

「遅くなって悪かったな、お前ら」

 

「ロ、ロダスト……!!」

 

ハイルディンの叫びとともに、さっきまでの絶望が

嘘のように子供たちの瞳に光が戻る。

 

突如現れた謎の侵入者と、彼が放つ圧倒的な異彩に、オークション会場の誰もが息を呑み、金縛りに遭ったかのように静まり返った——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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