パチパチと音を立てる焚き火の爆ぜる音が、双子岬の静かな夜に心地よく響く。
ロダストは膝を抱え、目の前で静かに語るクロッカスの横顔と、浅瀬で気持ちよさそうにプカプカと浮かぶ子鯨のラブーンを交互に見つめていた。
「そうか……ラブーンは仲間をこの岬で待ってるのか。」
「ああ、四ヶ月前の事だ、気のいい奴らだった。海賊たちとここで約束してな」
言葉の端々に滲むクロッカスの優しさと、ただひたすらに仲間を信じて海を見つめるラブーンの健気な姿。
その光景に、ロダストの胸の奥がじんわりと熱くなる。
島を出てから出会ってきた様々な人々——自分に優しくしてくれた人々の温もりや、村を飛び出した時のワクワク感、そして広大な世界への期待が胸いっぱいに広がっていく。
(世界は本当に広いな……。こんな風に、誰かを想ってまっすぐに待ってる奴がいるんだ)
おバカなロダストなりに「誰かの大切な想い」に深く触れ、胸を打たれていた。そして、自分にも
そんな人がいることを嬉しく思っていた。
(義母さん…)
「無事に戻ってくることを願っているよ! 俺は世界を旅してるんだ。色んなものが見たくてさ!」
夜が深まっても話は尽きず、ロダストはクロッカスやラブーンと語り合いながら、温かな夜更かしを楽しんでいた。
翌朝。眩しい日差しを浴びて目を覚ましたロダストは、あくびをしながら首を傾げた。
「……ん? ラブーン……? …クロッカスッ!! ラブーンがいない!!」
「なに……!?… 沖の船影は……サボテン島の
ゴロツキどもか!! あの賞金稼ぎのゴロツキどもめ、夜明け前を狙ってラブーンを網で引き連れ去りおったな……!」
ロダストの瞳から無邪気さが消え、静かな怒りの色が宿った。
「くそっ、サボテン島ってどこだ!? 場所が分からん! クロッカス方向を教えてくれ! 飛ぶぞ!」
「……飛ぶ!? ……分からんが、少し待て! 記録指針|を用意する!」
急いで腕にログポースを装着したクロッカスが、覚悟を決めた面持ちでロダストの肩を力強く掴む。
「よし! 頼んだぞ!」
「しっかり捕まってろよッ!! 待ってろラブーン!!」
ドォンッ!!
全身から「気」を吹き出させ、ロダストとクロッカスは激しさと共に空へと一気に飛び立った!
「見えてきた! あれがサボテン島か!」
「ああ、巨大なサボテン岩がそびえる賞金稼ぎの島だ!」
ドオォンッ!!!
町の中央へ地響きと共にダイナミックに着地!
吹き荒れる土煙の向こうで、網で繋がれたラブーンを取り囲んでいた賞金稼ぎたちが息を飲んだ。
「な、なんだ!? 何かが空から降ってきたぞ!?」
「お前たちが捕まえた子鯨、返しに貰いに来た! そいつは仲間を待ってんだ、返してやってくれないか!」
「はあ? 西の海のアイランドクジラだぞ? 売るなり食糧にするなりどうとでも出来るんだよ! 野郎ども、ぶっ殺せーーー!!」
一斉に銃が火を吹き、大刀や斧を構えて雪崩のように襲い掛かってくる数十人の賞金稼ぎたち!
だがロダストとクロッカスは、微動だにせず敵を迎え撃つ。
「クロッカス、行くぞ!」
「おう! わしも……いや、俺だって医者の端くれだ、手加減はできんぞ!」
「医者は関係ないだろ!」
クロッカスが凄まじい脚力で踏み込み、鋭い銛(もり)を一閃! 迫り来る賞金稼ぎたちの武器をことごとく叩き折り、まとめて薙ぎ払う!
「がはっ!? なんだこの若い奴、強ぇ……!?」
その横で、ロダストは迫り来る銃弾や刃を避ける素振りすら見せず、武装色を手に纏わせる。
ガンッ! キィンッ! ガガガッ!!
「なっ……火花が散るだけで刃が通らねぇ!?」
「お前たちじゃ、傷ひとつ付けられねぇよ」
踏み込んだロダストが、濃密な気と覇気を指先に宿し、空気を鋭く引き裂くように両腕を高速で振り抜いた!
「『繊月・乱(センゲツ・ラン)』っ!!!!」
シュババババババッ!!! ドガガガガガカァンッ!!!
無数の三日月状の爪刃が豪風となって乱れ飛び、サボテン岩の建物ごと賞金稼ぎたちを一瞬で切り刻み、彼方へと吹き飛ばす!
クロッカスの質実剛健な打撃と、ロダストの規格外の一撃によって、サボテン島のゴロツキ共は瞬く間に全滅したのだった。
プオーーーン♪
巨大な網から解放されたラブーンが、嬉しそうに海面を跳ねて声を上げる。
「良かったなぁ、ラブーン!」
「サボテン島壊滅だな、また作り直すだろう」
「んじゃ戻るか!」
プオー、プオー♪
「ん? 乗って欲しいそうだ!」
「うひゃひゃッ! ありがとうラブーン!」
ラブーンの背中に乗り、双子岬へと戻る道中。ラブーンが嬉しそうに波を切りながら、感情を込めて鳴き始めた。
プオオォ〜♪ プオオォ〜♪
その鳴き声に合わせて、クロッカスが味わい深い声で静かに歌い始める。
「〜♪ ヨホホホ〜 ヨホホホ〜♪」
「ニシシっ! なんだその歌、俺も混ぜろー! 〜♪ ビンクスの酒を〜 届けに行くよ〜♪」
ラブーンの鳴き声と二人の歌声が、晴れ渡る海と空にどこまでも高く響き渡る。
ラブーンが連れ去られてから二日。心を通わせ、食を共にし、深い絆を結んだロダストは、クロッカスとラブーンに惜しまれつつ、双子岬を後にしたのだった——。