長い長いトンネルを抜けると、そこはダイヤモンドの部屋であった。
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目が覚めると、まず不快感を感じた。
ジメジメとした、地下特有の湿度。澱んだ空気の流れ。
ここは、何処かは分からないけど、、、少なくとも、地上ではないだろう。
その事実を補強すよう、眼前には暗い、暗い空間が、永遠と続いている。何故こんな場所にいるのか、そもそもさっきまで、何をしていたか。何もかもが曖昧で、思い出そうとすると、まるで二日酔いの朝のようにガツンと頭が痛む。
ふらふらとしながら、壁を伝いに身体をゆっくり起こす。
身体が埃っぽい、舌に、ジャリジャリとした砂混じりの感触がずっと続いている。口を濯ぎたい。それに、物凄く喉が渇いた。
見えないなりに、あちこちを触れて、触って、あるかもどうかも分からない出口を探し求める。複雑な事は考えられないけれど、ただ生存本能だけに則って身体中が水と、何か食べられそうなものを、強烈に欲していた。何か!なんでもいい、ただこの飢えと渇きを抑えられるなら!
バタバタと手足を動かして、何度も何度も転んで。
ついに何やら冷たい、水のようなものに触れた。
正気ではなかった。
飲めるか?そう考えるも、それより前に身体が水を欲していた。
舌をそれに付けて、喉に通す。
冷たい。
無我夢中に水を求めていた。
痛みが消える。
思考がクリアになり、ゆっくりと冷静さを取り戻した。
顔を突っ込んだ事で、あちこちに着いた泥が落ちていた。
目が暗闇に慣れてきた。
天蓋にぽっかり空いた穴から漏れる陽光で薄らと光り、その水面に私の姿が映っている___指が、四本で。頬がその身体比からして異様に大きく。頭に金属様の角が生え。測ったわけではないが、3ー4等身の身体が、そこに見えている。
何も考えられない。けれど、観測を辞められない。
ぺたりと座り込んでいる私の足には、ギュッと自分を守らんとその身に抱きついている尻尾が見えている。足まで小さいのか!
「あぁ……これ、は……」
人間じゃ、ない。
そう結論を出そうと自分でも分かるほど震える声を絞ったところで、声までもが高い事に、まるで幼子が助けを求める様な声色をしている事に気付き、またしても驚愕する。
頬を引っ張る。どうか夢であれ、と。
何も変わらない。いや、それは正確ではない。ちょっと、少しとは言い難いくらいに伸びたのだから。
次は叩いてみる。
ぺちん、と。場に似合わないコミカルな音が、辺り一面に響いた。
殴ってみる。当然痛い。
さっきまでそこまででもなかったのに!ちゃんと痛い!
もちほっぺ。トリッカル。
どこで知った知識か分からぬが、頭の中で何かが繋がったかのように浮かび上がってきた。
自分の姿をもう一度、よく観察してみる。
紫色の尻尾に、灰色の混ざった瞳。それに、触れば弱々しく剥がれ落ちる角。
私が竜族であるのは、間違いない。
では、何の竜族だろう。
先ず、観察で知り得る事実として、辺り一面が爆発した様に、ぽっかりと開いている事。恐らくはそれで、私は閉じ込められてしまったのだろう。
幸いにも身体は鉱石であるらしく。また、空気に触れても爆発しない様で、幸いにも……つまり、私に関連している、この場にある何の鉱石が爆発した、ということだ。
ガラスの、粉々になった試験管の中にレピドライト、と記載された文字が見えた。成分はカリウムにリチウム、それに少しのルビジウム。
これは全て、単体ならば劇物だ。
つまりは。
竜族の習性として。何らかの手で「単体の元素」を手に入れようとした馬鹿な私は。その瞬間、地底で爆発したのかもしれない。
ー
竜族達によって巣(だろうと考えている)から引き摺り出されるのに、そんに時間は掛からなかった。もうみんなが皆んな阿鼻叫喚。罵詈雑言の嵐。
殴り蹴りと散々な目に遭っていたところ、ダイヤモンドの竜族。竜族1位の序列を持つ、ダーヤ様の登場により一旦は事態が沈静化した。
「まだまだ子供なのですから、、、」
そう、私はつい最近生まれた、赤子同然の竜族であったらしい。
それもそうだ、他の竜族と比べて身体が小さ過ぎる。
そんな事をお叱りに目を潤ませながら考えていると、ダーヤ様は何やら急ぎの用が出来たらしく説教を切り上げ、そこで暫く座っていなさい、と、長い長いトンネルを抜けた先にある謁見の間にひとり私を残してどこかへ行ってしまった。
大きな一室でする事もないので、ただぶらぶらと部屋の端から端まで行ったり来たりしてみると、この室内がどれほど豪勢で、どれほどダーヤ様が慕われているのかを思い知る。
献上品の積み重なった山。それに、キラキラと輝くダイヤモンドの品々。これだけの品、地球では一体どれほどの値が付くだろう?
流石は最高序列者だ……!と、座る様指示されていた椅子に、おもむろに触れてみると不思議とガラスの様な感触がした。
いや、そんな筈はない。ダーヤ様が偽物を使う筈も、偽物を献上するような竜もいない筈……詐欺師の竜族を除いては。
そう、シストだ!
まだ記憶は戻らないけれど、あの詐欺師に誑かされた私は、何らかの理由で「劇物」のポーションを手に入れて地下を爆発させた、という直前の記憶だけ思い出した。本来なら安全に成功する筈だったのに!
何の理由で、とか、それ以前に何をしていたか、とか、まだかなりの部分思い出せていないが、きっと今回の事態は大した理由ではあるまい。それもその筈、この世界、つまりエーリアスの住民は総じて子供らしく、死がないためか思慮も、その行動も行き当たりばったりだ。
きっと、私もそうであったのだと思う。
では、何故今になってこんな思考が出来るか?
それは分からない。そもそも、どうしてこんな知識を知っているのか、ふと思い出した人間がなんであったかも、最早曖昧だ。
さて、きっとそんな事はないだろうと、半ば当てつけの様に椅子に息を吹きかけてみる。
白く曇り、結露は5ー6秒ほど経ってから消えた。
……まだだ、まだ、確定でない。
爪を少し突き立て、引っ掻いてみる。
硬度が全く違う為、本来なら私の爪が先に折れるか、そもそも傷付かないかのどちらかだろうから___
割れた。
儚くも、切ない音を立てて。いとも簡単に、ダイヤモンド……いや、ガラスは。割れて、無数の破片に砕けた。