あぁ、お厭わしや、ダーヤ様。
部屋の惨劇を見ながらへなへなと横たわる彼女の(物凄く重たい)腰を支え、頭をゆっくりと撫でてやる。
最初は私をみて、怒り、というより、とんだツワモノが生まれてしまったとばかりに期待に満ちた目でこちらを眺めるのだから、何やら後ろめたい気分でことの終始について、弁解せざるを得なかった。
ダーヤ様、私が硬いのではありません、貴方様への当てつけでもございません。これらは全てがガラス。つまりは決して少なくない、砂や岩石由来の竜族らのように、全てが珪素なのでございます、と。
我々の長は、如何やら人を評価し、制度を作り上げる力あっても、それと真贋を判別する目は持っていないらしい。
これは、もしかすると。随分と、王国経済は不味いことになっているのかもしれない、と何となく感じた。だってそうだろう?
もし、黄金や銀を詐称し、広める「詐欺師」らがいたとしたならば。悪貨は良貨を駆逐し、何は為政者の土台を突き崩す。
ダーヤ様の統治が危うくなるのであれば、それ即ち、勝者総取りの戦国時代に逆戻りするということ。
あってはならぬ事が、あり得るのがこのエーリアス。
聞くところによると、地下の隣国は毎日のように王が変わり、詐欺は横行し、平気で条約を破り、ドラッグは出回り。当然の結果として、街中が犯罪者や浮浪者で溢れていた時期がつい最近まで常態化していたらしい。地上の国は極端に偏食で、常に甘い匂いが漂っている。女王は毎朝毎晩どこかで乞食し、その財政の殆どが王室御用達のベーカリー屋に消えている、のだそう。
そんな惨ったらしい状態にこの国をしろと誰が言うのだ?
改めて、ダーヤ様の「マトモさ」を思い知る。
しかし、同時に。その身一身に国を背負う彼女の姿は、余りにも小さく、幼げに見える。
「幼子に慰められる程落ち込んではいませんわ」
そうだった!私が幼子だった!
あまりの事態に優先順位をすっ飛ばしていたが、そもそもの所、一体私は何者なのだろう。すっと、自分がなんの竜族であるか、とか。全く覚えていないのに、エーリアスの知識だとか、人間……救世主だとか。断片的な、記憶とは到底言えない、なんと言ったらいいのか。全く知らないゲームの攻略サイトを見てリンクを辿る様な、そんな感じで、知らない事を知っているといえばよいか。
こうは言うが、ゲームとは何か、そんな当たり前と思っている知識がわからない。あぁ、モナティアム……モナティアム?にその類の筐体があるらしい。
「ダーヤ様……実はですね」
機械を見計らって、自分が記憶喪失であると告げる。
さっきからずっとこんな風にされていたものだから気が付かなかったけれど、貴方は元からそう言う大人びた様な竜でしたわよ、と。私の不安を汲み取ってか、毅然とした、けれど優しい声で私にそういった。
後は、そろそろ……撫でるのはお良しなさい、とも。
ー
本来は説教と、それに見合った罪を私に与えるはずであったのだ、とダーヤ様は言ったが、記憶が無いのならば仕方ありません、心身喪失というものも、確かエルフ達の法にあったでしょう。それに貴方は、大事に至る前に詐欺を見抜いてくれたからと言う事で、取りやめにしてくれた。
エルフが心身喪失?
あの開発独裁の市長が責任回避に使う常套手段ではなかろうか?
何はともあれ、部屋……であったらしいものが吹き飛んでしまったので帰る場所がないのと、同族が復旧作業に尽くしてくれた事から菓子折り……鉱石の幾つかを買わねばならないだろう、と言う思いから、逃げる様にして地上に登った。決して夜逃げではない。
目指すは不動産購入。と、その前に。
何事にも金は必要なのである。
人を動かす為にも、誰かの欲望を手っ取り早く満たす為にも。
国に詐欺師を捕まえ、名誉を回復する為にも。
さぁ、いざ行かん、地上の楽園モナティアムへ……!
はぁ……。働きたくない。引き篭もっていたい。
少し試してみたのだけど、私は飛べないらしいし、戦いも得意でないらしい。でなきゃボコボコにやられない!奴ら赤子にすら容赦しないからな!
だから、歩くしかないのだ。高原を、高山を、鬱蒼とした森林を、大きな河を。何十キロと、重い足を引きずりながら。
何日掛かるかもわからない長旅になるだろうが、知識の整合性確認も含め、いずれやらなければならなかった事なのだ。早いか遅いかだ。
頑張れ私!!!