もふもふをひろったら家がダンジョンになりました 作:一宮 千歳
日曜の朝、中村からLINEが来た。
「いい話と悪い話がある。どっちが聞きたい?」
「じゃあ悪い話からで」
「怪我した」
「なんだ、別に普通の話だな」
探索者の怪我なんて珍しいことでもない。こっちに来れないほど、と言うのはなかなか重いが、LINEできてるってことはそれほどでもないだろう。
「怒るぞ」
「ゆるして」
「んで良い話の方だがな、JKと知り合った」
「お前にとってだけじゃねえかそれ」
「まあ聞けよ。お前んちの話したんだよ」
「それこそなんでだよ」
「いや、まあ探索者と言えばダンジョンだろ。今一番ホットなダンジョンはお前んちな訳で」
ホットにはなりたくないんだけど。
「個人情報保護はどうした」
「5000人以下は個人情報保護法の対象じゃないんだぜ」
「それ昔の基準だからな」
「うっそ」
「マジ。 で、JKに話したらなんなんだよ」
「改築終わり次第お前んち行くって。だから改築終わったら俺に教えてくれ」
「それはいいけど、なんでまた」
「ポテトとクロが見たいらしい。あと本物のグレーターデーモン」
「……わかるけどわかんねえな」
「何が」
「家主がおっさんだぞ?」
「中村さんと同い年ですよね? お父さんみたいなものですよ、って言われた。紳士的に行けよ」
「わーったよ」
ともあれ中村は平気そうだった。
よかった。
『まのー』
「どうしたポテト」
『すまほいじりすぎー。かまって』
「おー。ごめんなポテト。よしよし」
撫でてやる。
『へへー』
「ポテトはかわいいなあ」
『かわいいよりかっこいいがいいー』
「ドラゴンとか?」
『うんー。どらごんはかっこいい!』
「……そうかー。かっこいいもんなー」
とてとて、とポテトはシャルロッテの膝の上に乗る。
「朝飯買ってくる。コンビニ飯でよければなんかいるか?」
シャルロッテとポテト、クロに聞く。
『ふぁみちきください!』
「わふ!」
「私は大丈夫です」
「じゃあファミチキふたつな」
ホテルの部屋を出てファミマに向かう。
入店音、うちの玄関チャイムと同じなんだよな。
ファミチキと、サラダチキン、ツナマヨおにぎりを買って帰る。
「ただいまー」
『あぶらのにおいー』
「がうがう!」
早速ファミチキを取り出してポテトとクロに食わせる。
自分の飯?いいんだよこの二匹の後で。
「うまいか?」
『じゅーしー!』
「わん!」
喜んでるようで何より。あっおい、油を垂らすな。
「思ったより平和ですねえ」
「なによりだ」
「実はダンジョンを離れたことにより不安定化するかと思ってたんですけど」
「なんだそれ!?聞いてねえぞ」
「言ってないですからね」
「はあ。情報源は前のマスター?」
「いえ、それとは別のダンジョンの話です」
「さよか」
「聞かないんですか」
「聞いて欲しいのか?」
「……いえ、それほど」
「じゃあ聞かない。プライベートなことを聞くのは、もっと信頼関係ができてからでいいだろ」
「私は、結構信頼してるんですけどね」
「何か言ったか?」
「いいえ、なにも?」
なんか言ったのはわかったんだが、聞き取れなかったんだよな。まあいいか。
「ところで真野様、防犯はいかがですか?」
「あー? たしかに大工さんくるから鍵は開けっぱなしだけど、通帳はほとんど電子化してるし、銀行印は持ってきたし、盗まれるものなんてないぞ。変えの効く家電くらいだ」
心配してくれるのはありがたいが、その辺の心配は無用だ。あと、田舎だし工事中だから不審人物は嫌でも目立つ。
「……そうではなく、その、黒歴史ノートとか」
オッヒョ。
「処分済みだが」
「そうですが。ハイドロスイクンとか音サンダーについて書いたノートはなかったのですね」
アッヒョ。
「なぜそれを」
「セレビィディスク、お持ちですか?」
「探せばあると思うけど、急にどうした」
「ポケモン対戦動画の続き、お待ちしております♡」
「お前……」
つまり、シャルロッテは俺の過去をどこかから知って煽ってたことになる。
もみくちゃになった。
「きゃー!セクハラー!」
「黒歴史ハラスメントしてきたのはお前だろうが!!!!!」
さておき、後半1週間はポテトもクロもほどほどに慣れたらしく、ビュッフェも食べるようになった。
そのせいでポテトに食べ放題属性が生えたりした。もしかすると飲食店としてやっていけるかもしれない目が急に出た。
「食べ放題家具で無限チョコファウンテンとかありませんかね」
「食べたいのか?」
「夢です、スイーツバイキング! ケーキ! アイス! 果物!」
スイパラとか連れていってやりたいな。富山にはねえけど。
また、工事も落ち着いてきたと言うことで、水曜夜に家を一度見にいったりもした。
『ひろくなってるー!』
「お、喜んでるな」
『だんじょんのぞうちくはますたーのゆめ!まの、すごい!』
褒められた。うれしいね。
「これは百階建ても夢ではないですね」
シャルロッテは無茶を言ってる。
「いや、夢だろ。日照権どうするんだ住宅街で」
「……更地にします?」
「やめろやめろ。指定災害種しぐさはいい」
「わかりました。あきらめましょう」
ふう。シャルロッテが物分かりのいいグレーターデーモンで助かった。物分かりのいいグレーターデーモンってなんだ?今更だが。
そんなこんなで木曜。仕事よー。
「真野くん、増築はどう?」
「雪も降らなかったし、ぼちぼち終わりますよ」
「楽しみだねえ」
「ええ」
「飲食店扱いだって? 楽しい場所になるといいね」
「そうですねえ」
仕事は暇だが、ほのぼのしていた。
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そして待ちに待った土曜、工事用のビニールが剥がれ、大工さんが出ていって、増築は完了した。
「おおー」
増えたキッチン棟を外から眺める。
「関係者出入り口ですって」
「そう言うのもいるだろ」
もと玄関、現客用出入り口から入る。インターホンは外された。
まず左手側、風呂は潰されて、客用の洗面所と水洗トイレになった。
「トイレ、二つですか」
「元が風呂だったスペースだからな、余裕があったって」
そして俺の寝室にしてた部屋は従業員室兼従業員仮眠室に変わる。
「ここは使いまわすんですね」
「もったいないだろ。パソコンは2階に上げる」
居間と仏間は仏間の仏壇が奥の八畳間に移された。ので、これまでの仏間が八畳間で八畳間が仏間になる。
客用スペースに仏壇を置くわけにはいかないと言う判断だ。
床は畳のまま。これは実家感を出すための措置だ。
こたつとかもそのままおきっぱなし。
「見た目はほとんど変わらないですが、お客様用になったんですね」
「ほら、居間からキッチンに行けなくなっただろ」
「そうですね」
旧仏間と旧八畳間の間の襖は、シックな防火壁と防火扉になった。
室内動線が一つもないと不便だろと言うことだが、実際使う機会はどのぐらいになるのか。
「居住スペースと商用スペースの行き来に使うときは消毒とかがいるんですよね?」
「そうなる」
あと、野草だらけになってた家庭菜園はつぶして風呂になった。
そんで、増築箇所。キッチン棟だ。
「わー。二槽シンクだ。オイルトラップだ」
「グレーターデーモンが感心するとこがそこ?」
まあかく言う俺もその二つは気になっているが。
「女は水回りでテンションが上がる生き物なんです!」
力説されても。
「でもすごいね。こうしてみると小上がり座敷のあるちゃんとした店だ」
「店にするんじゃなかったんですか?」
「名目を整えただけだよ。急須とテレビを置くだけ」
「なんだか勿体無い気がしてきました。調理師資格でも取ればいいのに」
「簡単に言うなあ」
一年かかるんじゃなかったっけ。後母校に調理師科があったはずだけど、赤点が60点で厳しかった気がする。食中毒で人が死ぬこと考えたら厳しいのも当たり前だけど。
「まあご飯出すならコック雇うとかになると思うよ」
「おー、経営者ですね」
「そっか、経営者になるのか、俺」
会社が副業可なのは前に確認してる。
「じゃあシャルロッテ、待ってて。ポテトとクロも連れてチェックアウトしてくるから」
「はあい」
ぶろろろろ。
「ポテト、クロ、ホテルを出てうちに帰るぞ」
『かえる〜』
「わあおん!」
『ばいばい〜』
ポテトがホテルの従業員さんに手を振る。笑顔で答えてくれた。結局ポテトもクロも馴染んだし、いいホテルだった。
チェックアウト。おせわになりました。
ぶろろろろ。家に到着。
『おうちー』
「わんわん」
はは、はしゃぐなはしゃぐな。
ドアを開けてやると、一目散に突撃していった。
居間のあたりにシャルロッテが居るだろう。二匹の相手は任せた。俺は車庫に車を入れる。
あー。柳瀬さんと中村に連絡しないと。
「改築おわた」
と中村にLINEする。
「おつかれ」
「まあ疲れるようなことは何もしとらんけど」
「まあ本番の営業許可の話があるからな」
「それがなー。まあなんとかなると思うけど」
「あとJKのお宅訪問と」
「マジで来んの?」
「マジらしいよ。明日行くって」
「急!」
そして柳瀬さんにも電話。ぷるるるる。ぷるるるる。
出ない。出掛けてるかもしれない。
まあ、何も当日じゃなくてもおいおい連絡すればいいか。
留守電は入れとく。「真野です。改築終わりました。あとは営業許可待ちです」
よし。じゃあ、家でゴロゴロするか。
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