もふもふをひろったら家がダンジョンになりました   作:一宮 千歳

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2話

「昼だし、飯行くか」

「賛成なんだけどよ、真野、二匹はどうすんだ」

「……あー」

 

確かに。

まずシャルロッテの服装だ。

銀髪赤眼爆乳悪魔っ娘なのはいいとして、衣装の露出度が高すぎる。これで外を歩いたら、間違いなくコスプレイヤーのゲリラ撮影扱い。最悪の場合パトカーを呼ばれる。

そして第二に、このもふもふだ。

 

「中村。この辺にペット可の飲食店、あったか?」

「ねえな」

 

そうなのだ。 このあたりは住宅街で、飲食店があまりない。

いや、定食屋、レストラン、あるにはあるが、「まさかペット連れてこないだろう」ということだろうか、明示的にペット可になっている店はゼロだ。

 

「……マッキンのテイクアウトにするか」

「お前のマッキン呼ばわり慣れねー」

 

けらけらと笑う中村。

スマホでシャルロッテにメニューを見せる。

 

「ほれ、どれにする?」

 

悩むシャルロッテ。

 

「差が……わかりません……!」

「そりゃそう」

 

見たこともないものの味を想像して選ぶことはできないだろう。これは視点が欠落していた。

そうなるとシャルロッテともふもふの食べる分は俺たちで選ぶことになる。

 

「マックチキン複数個でよくね。コスパ最強」

「中村、美少女にはコスパじゃなくてちゃんとおいしいものを。えびフィレオとか」

「やめろサイゼデートで振られた話を蒸し返すな」

「なんも言ってねえだろ……」

 

「なあ真野、ナゲット買う?」

「うーん。最近味落ちた気がするんだよな」

「つってももふもふとかシャルロッテちゃん、バーガーだけだと飽きが来ないか?」

「なら頼むかー……」

 

ぽちぽちとメニューをタップしていく。

えびフィレオ、ポテナゲ大、ダブル肉厚ビーフのソース抜き、などなど。

 

「肉厚ビーフのソース抜き?」

「いやこれマッキンTier1」

「ほんとかよ」

「いやマジでうまいから」

 

ぶろろん。車で10分。

 

ぶろろん。帰宅。このくだり必要ある?

 

「ほーれ人類の叡智の結晶、ジャパニーズファストフード、マッキンのお成りだ」

「それ、いいすぎ」

 

テーブルの上に広げられる、マッキンの袋の中身。部屋いっぱいに広がるジャンクで香ばしい匂い。

 

「きゅ、きゅきゅん!」

「おいおい、匂いだけでもふもふがハッスルしてるぞ」

 

座布団の上で丸まっていたもふもふが、マッキンの商品を広げた瞬間テーブルの縁に前足をかけて身を乗り出している。

 

「こいつにも名前つけないとな」

「きゅ?」

「そうだな、たしかにもふもふとか毛玉じゃな」

 

悩む俺。ふと閃く。

 

「シュヴァルツヴァイス?」

「黒要素どこだよ」

 

中村のツッコミ。もっともだ。

じゃあ中村はいいアイデアがあるのか。

 

白閃号(はくせんごう)

「のりものか何か?」

「うるせえ! かっこいいだろ白閃号! 将来ドラゴンになるんだぞ!?」

 

争う俺たちの横で、シャルロッテが深々と頷きながら挙手した。

 

「わたくしも提案がございます。『光を呑み込みし白銀の破壊神(ホワイト・ヴォイド・ゴッド)』はいかがでしょうか」

「「痛い痛い痛い」」

 

今度は俺と中村のハモりである。美少女の顔をして堂々と中二病まっしぐらの命名を提案してくるな。

膝の上で「きゅ~ん」と首をかしげるもふもふ。当人はどれもしっくり来ていないようだ。

 

「リムル=テンペスト」

「アカン」

 

真顔で首を振られた。版権はアウトのようだ。俺もそう思う。言ってみただけのやつだ。

 

「それを出すなら俺はミザリィとか言っちゃうぞ」

「なんで80年代ジャンプなんだよ。ていうか性別はどっちだ?」

「マスターの性別は無性でございます。生殖を必要としませんので」

「「無性かー……」」

「呼びやすくてシンプルな名前、ございませんか?」

 

俺はテーブルの上のポテナゲセットと、そこから漂う香ばしい匂いに目を輝かせているもふもふを見比べた。

 

「お前、今ポテトの匂いに一番反応してるな。『ポテト』でどうだ?」

「安直すぎるだろ!!」

「素晴らしい……! シンプルにして、マスターの欲望をストレートに表現した神聖なる御名……!」

「シャルロッテちゃん真野に甘すぎない!?」

 

中村のツッコミをよそに、当のもふもふは「きゅ~! きゅ~!」と短い尻尾をちぎれんばかりに振って、俺の膝にすり寄ってきた。気に入ったらしい。

 

- ぴろん -

- 真野卓也宅ダンジョンのマスターの名前が【ポテト】に設定されました -

 

「あ、システムに登録されたわ」

「決定しちゃったのかよ……。まあいいか、響きが可愛いしな」

 

今日からお前はポテトだぞー、と抱っこする。嬉しそうにきゅうきゅう鳴いている。

 

中村も折れたところで、いよいよマッキンパーティの開始だ。

シャルロッテにえびフィレオを手渡す。

 

「はい、シャルロッテちゃんの分」

「恐縮です……! では、いただきます」

 

小さな口を大きく開けて、あむ、とかぶりつくシャルロッテ。

直後、彼女の赤い瞳がカッと見開かれ、身体がピクリと震えた。

 

「んんんっ……!? サクッ、プリプリとした食感……! この甘美なたれと香ばしい衣のハーモニーは一体……!? これが人間界の『マッキン』……! 魔界のフルコースを凌駕しております……!」

「イギリス生まれ?」

「今イギリス人敵に回したからな」

 

目がキラキラしているシャルロッテを横目に、中村と一緒にダブル肉厚ビーフ(ソース抜き)をモシャる。

 

「んーこれこれ。肉とチーズの暴力」

「あ、これ確かにうまいな」

「だろ。俺はこれを日本中に広めたい」

「バカだろ」

 

ポテトにはナゲットをつまんで口元に持っていく。ほれほれ、たべるがいい。

 

「きゅ~ん♡」

 

うれしそうだ。うんうん、俺も鼻が高いよ。と思っていると、アナウンスが出た。

 

- ぴろん -

- マスター【ポテト】が『チキンマックナゲット』を摂取しました -

- 【変異ツリー:ファストフード・毛玉(怠惰属性)】が解放されました -

 

あれ、なんかヤバくね?

 

「中村ー」

「なんだ食ってる最中に」

「【変異ツリー:ファストフード・毛玉(怠惰属性)】が解放されました、とか言われたんだけど」

 

中村が考え込む。

 

「……食ったものに影響される?」

「じゃあ成城石井のティラミス食わせたら【ていねいな毛玉】が解放されるかな」

「何言ってんだオメー」

「うーん、生き物であそぶのもよくないからな……しかし都合よく成城石井のティラミスは冷蔵庫にある。ヨシ、ポテトにオヤツをあげよう」

 

結論から言うと、された。

 

- ぴろん -

- マスター【ポテト】が『ティラミス(成城石井)』を摂取しました -

- 【変異ツリー:ていねいな毛玉(丁寧属性)】が解放されました -

 

「ていねいな毛玉(丁寧属性)だってよ」

「なんだよその属性はよ……!」

「可能性の獣の本領発揮ですね……!」

 

シャルロッテちゃんがボケを止めない。中村、お前にツッコミは任せた。

 

すると。謎のアナウンスが流れた。

 

- ぴろん -

- ダンジョン内改装がアンロックされました -

- 丁寧属性変異可能性の開放により、丁寧属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -

- 怠惰属性変異可能性の開放により、怠惰属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -

 

「「「なにそれ」」」

 

アナウンスは全員に聞こえたようだ。三人でハモった。

 

「シャルロッテちゃんもわかんない?」

「はい、まったく」

「とりあえず、視界の端っこでチカチカ主張してる【ダンジョン改装】ってパネルをタップしてみるか」

 

俺は空中に浮かぶホログラムっぽい画面を指で突いた。

 

「おい真野、なんか画面出てんのか? 俺には見えんぞ」

「うん、管理者権限だからな。えーっと、なになに……」

 

ずらりと並ぶラインナップを、俺は声に出して読み上げていく。

 

【怠惰属性】人をダメにするスライムクッション(5DP)

・効果:座った者の戦意を削ぎ、極上の眠気と疲労回復を与える。

 

【丁寧属性】無添加アロマディフューザー(5DP)

・効果:白檀とベルガモットの香りで空間を満たし、癒しの力で部屋全体の生物の攻撃力を半減させる。

 

【丁寧属性】オーガニックコットンのふわふわラグ(5DP)

・効果:極上の肌触りにより歩行速度を著しく低下させ、その場に寝そべらせる。

 

読み終えた瞬間、中村が盛大にツッコんだ。

 

「家具屋かよ!!」

「サメのぬいぐるみは……ないな。あ、DP増えてる」

 

さっき100だったDPが150に増えている。

よくよく見れば、こんな表示があった。読み上げる。

 

- ダンジョン内の侵入者が継続して探索を続けています -

 

「侵入者ぁ?俺のこと?」

「中村がいるとDPが稼げるってコト?」

「その通りです!ダンジョン関係者以外の侵入で、ダンジョンはDPを得ます!これを使ってダンジョンに更に人を呼ぶのがダンジョン経営です!」

 

シャルロッテちゃんが説明しだした。ふーん。

 

「『ダンジョン内で一定時間活動する侵入者から魔力を自動徴収中』って書いてある。ありがとう中村、お前のおかげで1分ごとに1DP入ってくるっぽいわ」

「ありがたがられる筋合いねえわ! 俺はただお前の家でマック食ってる友達だぞ!?」

「素晴らしいです中村様!」

 

シャルロッテがパンと手を打ち、感動の眼差しを中村に向けた。

 

「マスターと真野様のために、ただ存在するだけで身を削ってDPを捧げ続ける存在……まさに理想の家畜、いえ、優良な資質を持った探索者です!」

「悪魔の本性が隠しきれてねえぞ!」

 

床をドタバタ叩く中村をスルーして、俺はホログラム画面を操作する。

 

「よし、せっかくだしこの【人をダメにするスライムクッション】をポチッとな。ほれ、中村。」

 

もふ。中村がクッションに直撃した。

 

「あー……」

「おー。中村がダメになっとる」

「ねむ……ねていい……?」

 

いいけど。DPゴチです。

 

寝る中村を尻目にメニューを覗いていると、「DP両替」というボタンがあった。……ヤバい予感!




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