もふもふをひろったら家がダンジョンになりました 作:一宮 千歳
ウンディーネからの念話。
高校生くん――高校生じゃないかもしれないが――はなかなか頑張ってダンジョンに挑んでいるようだ。
怪我をして治癒しては挑んでいるらしい。だんだん潜る時間が長くなっている、とも。将来性がある子っぽいな。良きかな。
彼が長く挑めば挑むほどDPが稼げるので、是非とも頑張って欲しい。
翻って俺はというと、じいさんたちと一緒にテレビを見ている。野球、MLBだ。
無論俺が客席に座ると風営法違反なので、俺は立っている。
野球、盛り上がりどころがわかりやすいよな。バッターがボールを打ったら盛り上がりどころ。地面にバウンドすれば倍プッシュ。点数が入ったらお祭り騒ぎ。
点が入るまでに一塁二塁三塁の塁進があるのもわかりやすい。ホームに近ければ近いほどチャンスで、興奮するところですよとわかる。
しかし一球ごとのプレイはほどほどに時間が空く。全体的に言って、観戦が容易いスポーツだ。
なので、じいさんたちは熱中している。大谷が、とか言ってる。
「んー。人がもっと来ればなあ」
「真野様、そればっかりですね」
「ははは。DPが欲しくって」
「まあダンジョンを管理するものとしてはいいことです」
すると、商業スペースの入り口が開いた。高校生くんだ。
「すいません、ご飯いただきに来ました」
「はいよ。肉チャーハンとおにぎり、どっちがいい?」
「あ、肉チャーハンでお願いします」
シャルロッテにも肉チャーハンのオーダーは聞こえたようだ。早速冷凍庫を開け始める。
冷凍チャーハンをざっくり計量して、同じく冷凍してあった肉と一緒に炒める。
なんて適当な調理なんだ。だが飲食店といっても真面目な飲食店ではない。許して欲しい。
シャルロッテががっしゃがっしゃとチャーハンを炒めている間に、高校生くんにお茶を出す。
「はい、お茶。……えーと、きみ、名前は?」
「山岸っていいます」
「三級、なんだよね?」
じいさんたちからもほお、と声が上がる。推定高校生で三級なら、筋がいい方だ。
「はい。中村さんのご指導のおかげで」
「はえー。あいつ指導とかするんだ」
「中村さん、俺みたいな陰キャにも声かけてくれて、指導までしてくれて……恩人ですよ」
俺の知らない中村の一面だ。
「そっかー。中村がなあ。……それはそうと、うちのダンジョン、どうだった」
「ダンジョンですか。……あのフレグランス、めちゃくちゃ集中力削がれますね」
「あー。アロマディフューザー」
集中力が削がれる、と。まあアロマディフューザー置いてるダンジョンなんてそうそうないからな。
「なんかぽやっとしちゃって、それで攻撃受けちゃうことが何度か。怪我にもなりますし、何度も再挑戦しました」
「コボルド、普段戦うの?」
「初めてですね。ゴブリンとは違うんだなーって思い知りました」
「ゴブリンは楽?」
「勢いよく突進してきますけど、それだけですからね。じわじわ距離を詰めるとか、二体同時にかかってくるとかは、コボルドしかやってこないです」
「なるほどねえ」
現役探索者から見てどうか、というところを聞きたかったのだが、受け答えがしっかりしていていい子だな。
「実際のところ、どう?通う?」
「うーん。ドロップ品に期待できないし、ちょっと遠いので、毎日というわけにはいかないです。でも、経験を積む意味ではいいですね。たまに来ます」
「うん、ありがとう」
「肉チャーハンお待たせしましたー」
スウェットにエプロン姿のシャルロッテが配膳しに来た。
山岸くん、とある一点を見つめている。うん、高校生だしね。
「……すごいですね、このチャーハン。肉いっぱいで」
肉いっぱいなのは見つめていた箇所もかと思うが、まあ触れてやらんでおくか。
「無料サービスは今日までだから、運が良かったね」
「いくらでも食べられますよ、これ」
「それは君が若いからだよ」
流石に俺はもうゴリゴリに肉の入ったチャーハンをいくらでもは食べられない。だって中年だからね。
「そういうものですか。おかわりおねがいします」
「そういうものだよ。シャルロッテー!おかわりお願いー!」
シャルロッテがギョッとした顔をした気がする。やっぱり悪魔的にもおかわりは想定外だったらしい。
そしてその後山岸くんは肉チャーハンを二回お代わりして(都合四杯だ)、ダンジョンに戻っていった。
「ふー。高校生の食欲すごいな」
「驚きました」
シャルロッテと俺が思い思いに感想を述べる。そこに爺さんたちが寄ってくる。
「若い子はよう食べるのお」
「わしらも若い頃はあんくらいくっとったぞ」
「今は?」
「塩分量で一杯で制限がかかるな、ガハハ!」
「わはは!」
賑やかでなによりだ。
DPは2000強になった。やっぱ探索者がくると違うな。
----
3月1日、月曜日。仕事は有給、だが、ある。今日は勤め人から経営者になった日、ということになるか。
感慨とかは特にない。昨日も一昨日もダンジョンにかかりきりだったし。あ、今日以降も続くんだな、ぐらい。
……んー。今日ポテトとクロの検体提出に行こうかな、キリもいいし。
「シャルロッテ、留守番頼めるか?」
「はーい」
弁護士さん曰く、動物病院とかではなく、厚生センターで受付だそうだ。支所ではダメとのことで、高岡まで行く。ぶろろろろ。
「すいません、認定モンスターのための検体提出に連れて来たんですけど」
二匹を抱っこして連れてきた。しかしポテトがぐずる。クロもちょっと嫌そう。
『まのー。おくすりのにおいする。やだ』
「がう〜」
薬の匂い嗅いだことないはずだろ、というのは無粋なツッコミか?
検体提出に来てる人は他にはいないようで、すんなり奥へ通された。
「血液、体毛、唾液をサンプルとして取ります」
「はい。注射ですか」
「注射ですね」
『いたいのやだー!』
「がうー!」
ポテトが騒ぐ。クロが乗っかる。
「はい、ちょっとだけちくっとするからねー」
いつの間にか注射器を持っている。つよい。プロだ。
ちくり。ちくり。
『あんまりいたくない』
「わふ」
最近のプロの採血は痛くないらしい。俺たちが子供の頃はあんなに痛かった記憶があるのに、なぜだろう。
「はい、あとは唾液採取と体毛採取です。あちらへどうぞ」
「はーい」
『なんかたのしい!』
「わふ?」
それはどうかと思うぞ、みたいなクロのツッコミ?が入った。俺もそう思う。
唾液の採取も体毛の採取もサクッと終わった。
唾液は綿棒で口の中を擦るだけ、体毛はハサミで切るだけ。すんごい簡単だ。え、もう終わり?
「結果は1ヶ月後郵送しますので、こちらに必要事項をご記入ください」
書類書く方が長くなった。ぶろろろろ。
「ただいまー」
「おかえりなさいませー。早かったですね」
『ばくそくー』
「わおーん」
「うん、行政サービスの進化を感じる」
「なんですかそれ」
シャルロッテが笑う。
「仕込みはどう?」と聞くと、「おつけものを補充したぐらいです。バッチリです」とのこと。
じゃあ12時になりしだい営業始めるかあ。
----
昼。一番に中村が来た。
「おーい。肉チャーハン一つ。あと枝豆と、きゅうりのつけもの」
しかもいきなりオーダーし出した。
「なんだ中村、貢献か?」
「いや山岸くんが肉チャーハンうまかったっていうから気になって腹空かしてきた」
「えーと税込で、肉チャーハン770円、枝豆220円、つけもの110円。しめて1100円」
「都度払いだっけ。ほい」
「まいどあり。シャルロッテー、肉チャー、枝豆、漬物、各1」
シャルロッテが厨房から返答する。
「ありがとうございまーす」
中村が返事する。
「どういたしまして〜」
飲食店の注文してどういたしましてとかいうやつ初めて見た。
ほどなくして、じいさんたちもやってきた。
「ビールと枝豆をもらおうかの」
「わしもビールと枝豆を」
「おにぎりひとつ。あとお茶」
おにぎりひとつのじいさん、昼食ったのか?と聞くと「いやあ、家を出る前は腹が減ってなくてのお」とか言い出す。でもおにぎりは頼む。そういう気遣いいいから。
「別に何も頼まなくても休憩所扱いでいいんだからね?」
「いやあ場所だけもらうのは悪い、おにぎりは帰って食うよ」
「いやそれは食品衛生的に保健所に睨まれるから食って帰って」
「そうか? 夜食にしようと思ったんじゃがの」
「マジで食べて帰ってね?」
夜食が必要な時間まで起きてるつもりかじいさん。
「ビールは550円、枝豆220円、おにぎり110円ですね」
じゃらじゃらと支払いがされる。
「まいどありー」
「ありがとうございますー」
シャルロッテは毎回ありがとうをいうつもりらしい。いいけどね。
「お礼を言われるといいことした気になるのう」
「もっと頼むか?」
「いや、食えんじゃろ」
そんな話をしている。平和だ。
「で、中村、チャーハンどう?」
「自分で作るよりうまい」
「そりゃどうも」
じいさんたちに確認。
「そういえば柳瀬さんって今日来ない?」
「ああ、奥さんと一緒に来る言うとったぞ」
奥さんか。なんか言われるのかな。言われるだろうな。
「柳瀬じゃぞ」
「真野さん〜。こんにちは〜」
来た。
「わしの嫁を従業員にせんか?」
「真野さんのお店なら、張り切って働いちゃうわよ!」
想定外なんですけど!?
「あの、時間帯責任者になれる正社員を希望してまして」
「なんじゃつまらん。まあ嫁も言ってみただけじゃがの」
「おほほ。そういうこと」
この夫婦、胃に良くない。
感想、評価、お気に入り、ココスキお待ちしております。励みになります。