もふもふをひろったら家がダンジョンになりました 作:一宮 千歳
柳瀬夫妻は肉チャーハンをオーダーした。
うん、食べれんの?
「肉チャーハンふたーつ」
「ありがとうございまーす」
シャルロッテの元気のいいお礼の言葉。
「あらあら。あらあらあらあら」
しまった、またあらあらおばあちゃんに変異した!
「住み込み?」
「ええ、まあ」
「あらあらあらあら」
「こらばあさん、あんまり詮索するもんじゃない」
「でも日本国籍と射水市の住民票は取ったんでしょう?ウフフ」
ウフフじゃねーよおばあちゃん。
「まだマイナンバー通知書が届いてないので」
「真野姓はいや、だったっけ?押して押して押し捲らないとダメよぉ〜」
「あは、あはははは……」
その気は無いんだけどな。
「ま、冗談はさておき。私の知り合いネットワークから働きたい、って人をピックアップしてきたわよぉ」
「冗談に聞こえませんでしたが、なるほどありがとうございます」
渡された履歴書。その束を見ていく。
履歴書預けるとかなかなか怖くないか?信頼の成せる技かなあ。
飲食経験のある40,50代をまずピックアップ。
10人残った。
「この中からおすすめの人っています?」
「うーん、
ぴ、と柳瀬さん(奥さん)が履歴書を抜き取る。
「43歳、調理師免許持ち、給食センター勤務20年。リーダー経験あり。趣味はガーデニング」
「つよい」
「お買い得物件よぉ。まあ、商業施設で働いてないけどね」
「でも欠点、そこぐらいですよね」
「あ、旦那さんいるわよ」
「その情報は要らなかった……」
お賃金どうしようかな。
「月収は40万円ほしいって言ってたわあ」
「どこまでしゃべるんですかあなた!?」
「あら、参考にならない?」
「なりますけど、なりすぎて怖い」
なんか採用プロセスとしてめちゃくちゃグレーな気がするんだよな。いいのか?
飲食部門の赤字はどうだっていい。問題は雇って人が増えるかどうかだ。
「希望勤務時間帯は面接で聞きますね」
「そのぐらいは聞く楽しみを残してあげないとねえ」
聞く楽しみってなんだよ。
「じゃあ、中島さんの履歴書と、他の皆さんの履歴書はお預かりしますね」
「はあい。じっくり悩んでねえ」
そこでシャルロッテが肉チャーハンを持ってきた。
「肉チャーハン、お待たせしましたぁ」
「あらぁシャルロッテちゃん、ありがとねぇ」
「板についてるなあ」
柳瀬夫妻はニコニコで肉チャーハンを食べはじめた。
が、残した。そらそうよ。だって脂っこいもん。
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そしてその日の夜。
なぜか20代中頃の人の履歴書があったので、その人も門前払いせずに面接だけはしてみることにした。名前は
中島さんと同じく、明日昼に電話かけてみるかな。
「若い体を欲してるんですかあ?」
「シャルロッテ、冗談でも人の前でそれ言うなよ」
「うふふ、はあい」
「まったくもう」
『まのはわかいおんな、すき?』
むせた。
「誤解を招く表現はやめなさい」
『えー。わかいのきらい?』
「……シャルロッテ」
「……はい。ちょっとマスターの前なのに良くないのを見てたなとは思います」
「うん。気をつけてね」
『?』
ああポテト、君は純粋なままでいてほしい。
「なんでもないよ」
『なんでもなくはなさそう……』
「まあマスター、真野様は聞き方、言い方の問題だとおっしゃってるのですよ」
『しゅちにくりんはだめ?』
「「だめです」」
『ざんねん』
ポテトがぷるぷる震えた。子供ってほんとに変な言葉覚えるな。
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「もしもし、中島さんのお電話ですか?」
「あ、はい、中島です。どちら様でしょう?」
「私飲食店とダンジョン経営の真野と申します。柳瀬さんから預かった履歴書を見てご連絡差し上げました」
「あ、面接のご連絡ですか!?ありがとうございます!」
「まあ形式的なものなんですが、面接はさせていただくということで、ご都合の良いお日にちと時間帯をいただけないでしょうか?」
「えーと、では明日、午前11時でも大丈夫ですか?」
「はい、こちらの都合も問題ございません。それでは明日の午前11時によろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いします」
「それではお電話失礼致します」
「はい、ありがとうございました」
ぷつっ。中島さんが電話を切った。
はー。電話緊張する。次は安倉さんか。
ぷるるるる。ぷるるるる。
「……はい、もしもし」
「もしもし、安倉さんのお電話ですか?」
「……はい、安倉です」
「私飲食店とダンジョン経営の真野と申します。柳瀬さんから預かった履歴書を見てご連絡差し上げました」
「……はい」
い、陰気だなあ。大丈夫か?色んな意味で。
「面接、来れそうですか?」
「……えっと」
がさがさ、と音がする。訳ありくさいなーーー。
「日付、時間帯の希望があれば、伺いますが……」
「……え、と。今日でもいいです。いつでも行きます。」
「今日は流石に」
「じゃあ、明日。10時とか、どうですか?」
「はい、がんばります」
うーん、やばい子な気がする。
「無理しないでくださいね」
「!……ひっく……うええええん」
な、泣いた!? ナンデ!?
「だ、大丈夫ですか?」
「ごめなさ、家族以外に、案じてもらえるの、とか、ひさしぶりで」
アー。これあれだ、ブラックでメンタルやられたな?
ならそーゆー人向けの対応、したほうがいいな。
「大丈夫ですよ。明日急に体調が崩れたとか、そういうのあったらしんどくても休んでください。面接を休む連絡は無理にしなくていいですから」
「ひゃい……ずびっ」
「もしそうなったら、落ち着いたら連絡してください。怒ったりしないで、待ってますから」
「……ふええ……ありがとうございます……」
「それでは、明日午前10時、お待ちしてますね」
「はい……ありがとうございます……」
ぷつ。電話が切れた。
「真野様の人生にメインヒロイン登場ですかね」
「人前では冗談でも言うなよ」
「あ、2度目だ。分かってますって」
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安倉さんは、来なかった。
「ふー」
「安倉さん、来ませんでしたね」
「多分PTSD、でなくても適応障害じゃない?仕事が理由で外に出るのが無理になってるやつ。しょーがないよ」
「PTSDですか。仕事で?」
「仕事で。病名以前にも『なんか無理』ってあるからね、しょーがないよ」
「人間、惰弱ですねえ」
「悪魔がそれ言う?」
「ふふふ」
人間のそういうところも好きですよ、みたいな顔してる。さいで。
中島さんは来た。元気溌剌って感じのおねえさんだ。ていうか、美魔女? 履歴書の写真もそうだったけど、はるかに年下って言われてもわかんないくらい。
「はじめまして、真野です」
「はじめまして、中島です」
「まあ形式的な面接です。志望動機ってあります?」
「真野さん、飲食店が初めてで、右も左も分からないとか。それで私なら多少お手伝いできるかなと思いまして。給食センターで働いてたので、大量調理の経験と、衛生環境についてはお任せください」
うん、なんも問題ないな。
「はい、中島さん、採用です」
「はやいはやい」
流石に突っ込まれた。えへへ。
「と言っても中島さんほどの人材そうそういませんからね。シャルロッテがいない時は時間帯責任者として、調理、火元、その他諸々をお任せします」
「そういえばもふもふちゃんがいると聞いてます。ポテトちゃんとクロちゃんでしたっけ」
柳瀬さん、公園で会った時は全く目に入ってなかったっぽいのに二匹の認知はしてるんだな。すごいな。
「飲食スペースに入れるわけにはいかないんですが、今後ふれあいスペースでお客さんとふれあう機会を作ろうかと。勤務時間外に中島さんもふれあいしてもいいですよ」
「ほんとですか? ありがとうございます。かわいい動物、夫がアレルギーで飼えないんですよ」
「あら、それはかなしい」
「でしょー。いっぱい可愛がりたいと思います」
動物嫌いな人だったらどうしようかと思った。まあ、隔離してるからそれでもいいはず、なんだけど好きに腰たことはないよね。
「さて、待遇面ですが、とりあえず完全週休二日制でプラス祝日、盆休みと年末年始休みを付けます。有給は3ヶ月後から10日つきます。有給使用とか、慶弔休暇とかは別途申請してください」
「ありがたいです」
「それで、時間帯責任者をお願いすることになるので、給与はドーンと40万円お支払いします。まあ社保等控除除きの額面ですが。給料日は毎月10日、月末締めの翌月払いになります」
「……そうなると、手取りは32くらいですか?」
「ですかねえ。福利厚生、ちょっと甘いかもしれませんけど、どうです?」
「よろしくお願いします」
「よかったです。こちらこそよろしくお願いします。……あ、制服とかは今のところないので、清潔な格好だけしてきてください」
「緩くないですか???」
「まあ、保健所に怒られてから考えます」
「知りませんよ、もう」
「勤務開始、とりあえず来月1日からでいいです?事務的な面で」
「ああ、いいですよ。それまでカンを取り戻しておきますね」
……そんな感じで、中島さんの面接は終わった。
制服、作るべきかなあ。
「面接、終わりました?」
「ああ、シャルロッテ。うん」
「ところで、中島さんは時間帯責任者ですよね」
「うん」
「調理もしますよね、レジも、配膳も」
「うん」
「真野様、同一労働同一賃金の原則ってご存知ですか?」
「はいはい、シャルロッテも同条件の雇用ね」
「やったー」
そういうことになった。
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