もふもふをひろったら家がダンジョンになりました 作:一宮 千歳
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現在のレート:1DP=500日本円
と表示されている。その上にDPと日本円の記入欄がある。
「えーと。時給3万。すると一日完全に外に出ない監禁生活をさせれば72万……72万!?」
「だれの監禁生活だ!? 不穏な単語使うな!!」
睡眠から正気に戻った中村が鋭いツッコミを飛ばしてくる。
「だってよ中村、お前がうちに一泊するだけで日給72万だ。これからずっと、俺の家で暮らさないか?」
「そのセリフ、ちょっと危ないからな? それに俺を人間発電機みたいに扱うな! 2級探索者のプライドがあるわ!」
ギャーギャー騒ぐ中村を横目に、シャルロッテがすっと俺の隣に立ち、ホログラム画面を覗き込んだ。
「真野様。悪魔の視点から言わせていただければ、その程度の直接換金で満足されるのは非常にもったいないかと」
「ん? どういうことだ、シャルロッテちゃん」
「ご覧ください。先ほど中村様をダメにした【人をダメにするスライムクッション】はたったの『5DP』……つまり直接換金なら2500円相当です」
俺は足元でまだ呆然としている中村と、クッションを見比べた。
生地の触感、中の極小……中身なんだコレ? の密度の高さ、そして何より『触れた瞬間に抵抗不可能で熟睡させた』という圧倒的実績。
「……これ、人間界の高級インテリア店で買ったら普通に3万~5万円はする品質だぞ。いや、もっとか?」
「左様です。ダンジョン生成物は『概念』から直接作られるため、人間界では再現不能な品質を誇ります。つまり」
俺の頭の中で、電撃が走った。
「DPで召喚した家具を……メルカリで売ったらどうなる?」
「ウハウハです、間違いなく」
シャルロッテの目が円になっている。
すぐさまスマホを取り出し、メルカリを開く。
【商品名】:【極上】人をダメにするスライムクッション(新品・超絶快眠)
【説明】:触れた瞬間に落ちます。疲労が吹き飛びます。
【価格】:35,000円
写真を撮ってポチッと出品。
「まあ、3万5千円は強気すぎたか。まずは様子見——」
- ててーん -
- 【メルカリ】『【極上】人をダメにするスライムクッション』が購入されました! -
「早ぁっ!?」
出品からわずか10秒。即売れである。え、こわ。
「売れたぞ!? 送料手数料引いても3万円の利益、人件費は……半分で見るか。それでも原材料費なしで1万5000円の利益だ」
「いわゆるチートでございますね」
「シャルロッテちゃん、違うぞ。チートというのはもとは不正を意味しているのでこのように適正に利用するのは完全にチートとは言えず」
「はいはい」
中村がチートの言語論でうるさくなりそうだったのでクッションを押し付けて眠らせた。
そして、「無添加アロマディフューザー」と「オーガニックコットンのふわふわラグ」もそれぞれ5万円と10万円で出品した。
売れた。
「これはもう、会社を建てるべきでは」
「建てましょう。秘書、やらせていただきます」
俺とシャルロッテはガシッと固い握手を交わした。
膝の上のポテトも「きゅー! きゅー!」と前足をあげて賛同している。なんて賢い子なんだポテト。
「お前ら悪魔か!!」
クッションの魔の手から立ち直った中村が、目を血走らせて叫んだ。
「片方は本物の悪魔だし」
「それにしたって限度があるだろ! なにダンジョンシステム使ってメルカリで錬金術してんだよ! 探索者課にバレたらヤバいんじゃないか!?」
「大丈夫だ中村。商品説明には『ダンジョン産です』って書いてある。ダンジョン産物品のメルカリ販売は合法。これは前例がある。」
「ほんとにいいのかなあ!?」
「まあ個人事業主よ。完全に利益を得てるから税金納付とか諸手続きはいるだろうけど、それにしたってとんてもねえ利益だ」
ふー、と背伸びする。ヤバいな、家がダンジョンになった結果いきなり億万長者への道が開けた。
しかもまだ初日だ。ダンジョンは俺に何をもたらしてくれるのか。
あ、市役所の探索者課に連絡しねえとな。俺たちのやっていることは合法ですってお墨付きを得ないといけない。
が、手続きの内容がわからない。しゃあねえ、中村を連れて市役所に行くか。
「あの、私たちはどうすれば」
「きゅんきゅん」
「マックの持ち帰りほど早くはないだろうけど、そんなに時間かからないと思うから、待っててもらうしかねえな」
というわけで、再度車だ。ぶろろろろ。
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青髪の市公認vtuberのパネルを素通りし、やってきたのは市役所窓口。
「ようこそいらっしゃいました、お手続きですか?」
「あー、ダンジョン発見報告と、ダンジョン管理者登録を」
「管理者登録ですか、それではこちらに」
渡されたのは、薄いファイルと何枚かの申請用紙だった。
「まずはこちらの発見届と、ダンジョン基本情報の記入をお願いします。場所、予想される階層数、出現モンスターの危険度などを……」
事務的な笑顔で説明する担当の男性職員。俺はペンを取り、サラサラと記入していく。
・発見場所:真野卓也宅
・階層数:全2階層(1階:居間、キッチン等、2階:寝室、物置等)
・出現モンスター:グレーターデーモン(女性型)、毛玉
・危険度:今のところ全モンスターが友好的
・管理者:真野卓也
書き終えて紙を提出すると、職員の男性は目を通し……途中でぴたりと手を止めた。
メガネの位置をすっと直し、もう一度、じっくりと紙を見つめる。
「……真野さん。大変不躾な質問なのですが、これは何かのバラエティ番組のドッキリ企画でしょうか?」
「本気と書いてマジです」
「本気と書いてマジですか……」
職員さんの眉間にしわが寄った。まあ、俺が逆の立場ならそうなるな。
「えーと、発見場所がご自宅……階層が1階と2階……本当に家がダンジョンになったんですね」
「ああそうそう、車庫と裏庭、家庭菜園もダンジョンの一部になっちゃったみたいで」
「……それは……なんとも……」
中村が、財布から2級探索者ライセンスを提示しながら割り込んだ。
「すみません、俺2級探索者の中村です。これマジなんですよ。実際に現場で魔力反応確認しましたし」
「左様ですか。まあ、自宅のダンジョン化、他県で前例がないわけではないのですが……」
「あるんだ前例」
「ええ。ダンジョンマスターのサキュバスを家に連れ帰ったら家がダンジョンになった、とかで」
「そいつ、性に正直すぎない?」
ははは、と職員さんが笑う。
「真野様のお宅の場合、問題は『グレーターデーモン』です。これ、分類上は指定災害種なんですが。なぜ今のところ友好的、と?」
「えびフィレオに感動してました」
「マクドのですか?」
「はい」
職員さんは頭を抱えた。職員さん、大阪生まれかあ。とどうでもいいことを思う。
「はぁ……。まあ、2級探索者の中村様の証言もありますし、現時点で被害が出ていないのであれば……『特例居住型ダンジョン』として暫定登録します。後日、現場の魔力測定と安全確認のために委託の調査員が伺いますので別途連絡いたします」
「了解です。あ、ちなみにメルカリでダンジョン家具売るのは大丈夫ですか?」
「正規の『ダンジョン個人事業主』として開業届と納税手続きさえしていただければ法的には問題ありません。ダンジョン産の正規品であれば、ですけどね」
「ダンジョン産の正規品?」
「いるんですよ。ホムセンで買ってきた何の変哲もない角材を「ダンジョン産の特殊な木」とか言う触れ込みで売りに出す人、とかが」
「「うわあ」」
「もちろん詐欺ですが、役所が直接しょっ引くことはできませんのでね。くれぐれも、そういう行為に手を染めないように」
「はい」
そんなわけで、約1時間で無事書類の手続きは終わった。
車中。
「あー、夕飯どうしよ」
「カレーでも作れば?」
「そうするかー」
というわけで買い出しをして帰った。ぶろろろろ。
「ただいまー」
ガラガラと玄関を開けると、相変わらず露出度高めの衣装を着たシャルロッテと、ぽてぽて四本足で駆け寄ってきたポテトが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、真野様! お部屋のお掃除と、マスターのお世話はバッチリです!」
「きゅ~! きゅきゅ~ん!」
足元でポテトが俺のズボンの裾を引っ張ってくる。留守番ごくろうさん、とお腹を撫で回してやると気持ちよさそうに目を細めた。
そしてシャルロッテは、その衣装により胸がやたらと強調されていることを再認識した。うーん、これ、外に連れ出せるような服を買いたいな……。
「よし、今夜はカレーだぞ。シャルロッテちゃん、もう少し待っててな?」
「お任せください! マスターをマッサージして待ちます!」
キッチンに向かう俺をしり目に、中村が居間のコタツに腰を下ろし、自分のスマホを叩きながら声をあげた。
「真野、俺の分もよろしく」
「帰れよ」
「あれあれ?いいんですか?DPがたまりませんよ?」
「こいつ……!」
的確に弱みを突いてきやがる。さすが2級。
しょうがない、今夜は中村の分もカレーを作ってやるか。
30分ほどの調理で、カレーはできた。においが充満している。が、ご飯がまだ炊けていない。
「各位~ご飯炊けるまであと10分ぐらい待て~」
「この匂いをかがせておいてあと10分我慢しろだって!?」
「鬼、悪魔! あ、悪魔は私でした」
「きゅーん! きゅきゅーん!」
カレーは寝かせたほうがうまい。なので10分早めに作り終わるのが俺流だ。
10分の「カレーおあずけタイム」という生殺しに悶絶する三人……人?を横目に、俺はレタスをちぎっただけの雑なサラダを皿に盛り付けた。
「ほれ、これでも食ってろ」
「真野ぉ!せめてコーンとかねえの!?」
「ええいやかましい、ちょっと待ってろ」
缶詰コーンのふたを開け、水切りしてレタスの上にのせる。それにシーザーサラダドレッシングをかけてサラダは終わりだ。
すると中村が皿に取り分けてもしゃもしゃ食ってる。我慢できんのか。
- ぴぴー、ぴぴー -
炊飯器の炊きあがりのブザーが鳴った。
「よし、ご飯炊けたぞー」
俺は大きめのお深皿にご飯をよそい、煮込みに煮込んだジャガイモとニンジンのゴロゴロ入ったカレーをたっぷりと注ぎ入れた。玉ねぎは溶けている。
「はい、お待たせ。真野カレーだ」
「フツーのカレーだ……」
「普通で悪いか。ハウス食品様の努力の結晶だぞ」
テーブルに並べられたカレー皿から、もうもうと湯気が立ち上る。
「いただきます……!」
シャルロッテが深々と一礼し、スプーンを手に取った。
ルーとご飯をすくい、ふーふーと息を吹きかけてから、口へと運ぶ。
もぎゅ。
「………………ッ!?」
シャルロッテの背筋がピシッと伸ばされた。
赤い瞳が限界まで見開かれ、背中の悪魔しっぽがピンと伸び切っている。
「うーまーいーぞー!」
「グルメ漫画のインフレした美味表現かな?」
「まあイギリス人だし、カレーにそのくらいの反応してもおかしくはない」
「イギリス人ではねえよ」
中村のツッコミはもっともだ。うむ、お前はツッコミ一級を目指せ。
「複数種の刺激と甘み、うま味が絶妙に交差し、溶け込んだ玉ねぎのコクが口いっぱいに広がる……これが『カレー』ですか!?」
感涙にむせびながらスプーンを動かすシャルロッテ。俺は誇らしげに胸を張る。
「うむうむ。ジャパニーズカレーだけではなく、今度インドカレーとかパキスタンカレーの店に連れて行ってやろう」
「地元の特性をフル活用してんな」
「よろしくおねがいします!」
そして足元で「きゅ~ん! きゅ~ん!」と前足をバタつかせるポテト。
動物に刺激物は厳禁だが、こいつはダンジョンマスターの毛玉だ。
遠慮なくカレーをよそう。
「ほれ、ポテトにもカレーをやろう」
「きゅん♡」
- ぴろん -
- マスター【ポテト】が『おうちカレー(ハウスバーモントカレー)』を摂取しました -
- 【変異ツリー:家庭的な毛玉(家庭属性)】が解放されました -
- 家庭属性変異可能性の開放により、家庭属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -
「中村ー。家庭属性とか生えたんだけど」
「カテイ属性?仮決め?」
「いや、アットホームのホーム。家庭科の授業、の家庭」
「わけわからんな……」
家庭属性の家具を見てみる。
【家庭属性】実家っぽい座布団(5DP)
・効果:実家にありそうな、どこにでもある座布団。実家属性を1スタックする。
【家庭属性】実家っぽいキッチンテーブル(5DP)
・効果:実家にありそうな、木製のキッチンテーブル。実家属性を1スタックする。
【家庭属性】実家っぽい鳩時計(5DP)
・効果:ぽっぽー。1時間ごとにハトがなく。実家属性を1スタックする。
「実家属性って、なんだ……」
「なんだよその胡乱な属性は」
何もわからない。しかも属性スタックが怖すぎる。あれだろ、スタックが溜まってなんか変な効果出るやつだろ。
封印だ封印。
「家庭属性アイテムは一旦置いとくとしてだ」
俺はカレーの皿を綺麗に平らげ、お茶をすすりながら切り出した。
「シャルロッテちゃんの服問題だよ。明日から外に出る機会はあるだろうに、その露出度の高い衣装はまずい」
「たしかにな。パトカー不可避だわ」
中村も同意して頷く。
シャルロッテは自分の胸元を見下ろし、首をかしげた。
「わたくしとしては、真野様とマスターのご期待に沿えるよう、動きやすい衣装を選んでいるのですが……こちらの世界では不適切でしたでしょうか?」
「「残念ながら不適切」」
正直目の毒だ。えっちすぎる。
「そういうわけでだ、DPのショップに衣装タブを発見した。普通の服を買おう」
俺はホログラム画面を操作し、【アパレル・女性】の項目を開いた。
【丁寧属性】オーガニックコットンのワンピース(3DP)
・効果:清廉潔白な印象を与え、見る者の警戒心を和らげる。
【怠惰属性】もこもこオーバーサイズスウェット(3DP)
・効果:着心地が良すぎて着用者のやる気を奪う。
【家庭属性】割烹着とエプロンセット(3DP)
・効果:漂うおふくろのなつかしさ。着用者の居るフロアに実家属性を1スタックする。
1500円の服。安い。安すぎる。しかし着心地はよさそうだし、生地もしっかりしているようだ。
「よし、ワンピースとスウェット、両方ポチるか」
「冬にワンピース、寒くねー?」
「そうだなあ、コートとかも買うか」
「あのあの、働きもせずに真野様からそんなに賜ってしまっては……」
「いいのいいの」
シャルロッテが現代日本生活を送る上での初期投資だ。
属性のついてない、裏ボアダッフルコート(5DP)を買った。
- ぴろん -
- 衣類が生成されました -
ポン、と軽い効果音とともに、コタツの上に白いワンピース、ダボっとしたグレーのスウェット、そしてダッフルコートが現れた。
「よし、洗面所で着替えてきてくれ」
「はいっ! 真野様から賜った『わたくし専用の衣料』……大切に着用させていただきます!」
「言い方にちょっとひっかかるところがあるな?」
シャルロッテが嬉々として服を抱え、洗面所へと向かう。
「いいなー。俺もシャルロッテちゃんみたいなかわいい女の子と付き合いたいナー」
「付き合ってるわけじゃないぞ」
「付き合ってないけど同棲するんだろ」
「言い方がいかがわしい」
洗面所の引き戸が開いた音がした。シャルロッテの足音がぱたぱたと近づいてくる。
「こんなんなりましたけど……」
ダボッとしたグレーのスウェットのシャルロッテがそこにいた。
露出度はゼロになったはずなのに、スウェットの上からでもはっきりとわかる圧倒的な胸の存在感と、萌え袖になった手元の破壊力が尋常ではない。
そして胸元で手を合わせてテレテレしている。かわいい。
「なあ真野」
「なんだ」
「お前前世でどんな徳を積んだんだ?」
知らねえよ。
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