もふもふをひろったら家がダンジョンになりました 作:一宮 千歳
土曜。休みである。週休二日制万歳。週休五日ぐらいでもいいけどな。
朝飯を終え、今日はちょっとした予定がある。
「ガチャをします」
「ガチャですか」
「いや、ポテトにも同じくらいのサイズの遊び相手がいたらいいかな?と思ったんだよ」
「マスターの遊び相手……! それは素晴らしい思いつきです! さすが真野様、マスターの健やかな成長を第一に考えておられる……!」
シャルロッテがポテトを放置してパソコンでアニメ見っぱなしをやらかすとは思わなかったからな、というのは伏せておく。
なんだかシャルロッテを見るポテトの目が「こいつ大丈夫か?」になってる気がするんだよな。
さておき、ガチャだ。
ざっと分けて家具ガチャ、宝物ガチャ、モンスターガチャ、内装(部屋)ガチャ。
そしてこのガチャは排出レアリティとサイズで細分化されている。今回の目的はポテトの遊び相手なので、モンスター小型ガチャの、★3~★5が出るヤツを回す。
一回10DP。回すのに一回5000円かかるガチャってどうなの?と思わなくもないが、まあDPは中村が家に来る限り稼げるので心配いらない。
燦然と輝く「10回回す:★4以上モンスター1体確定!」を横目に、「1回回す」ボタンをぺしっと叩く。
- ぴろん -
- 10DPを消費し、モンスター小型ガチャを実行しました -
- ★3:【ダンジョンハウンド(幼生)】を召喚しました -
「わん!」
いぬがでてきた。
真っ黒な毛並みに、つぶらな瞳。柴の子犬のようなころころとしたヤツだ。かわいい。
どっちかというと猫派なのだが、四足歩行動物が走り回ることを想定した構造ではないこの
いうことを聞くと思われる犬系のほうがいいかもしれない。
「真野様、この子の名前は……」
「じゃあC4-617」
「よくわかりませんが、版権命名はよくないと思います」
言ってみただけだよパート2だよ。
「うーん。じゃあクロ」
「安直ですが、悪い名前ではないと思います」
- ぴろん -
- 真野卓也宅ダンジョンのダンジョンハウンド(幼生)Aの名前が【クロ】に設定されました -
Aて。増やさんぞ。
そしてクロは短い尻尾をふりふりしながら、ポテトの方へとてとてと歩いていった。
「きゅ?」
「わん!」
お互いに鼻先を突き合わせて、ふんふんと匂いを嗅ぎ合っている。
数秒ののち、ポテトが短い前足でポン、とクロの頭を叩いた。クロはそれに怒るでもなく、嬉しそうに尻尾を振ってポテトの周りをぴょんぴょんと跳ね回り始めた。
「わん!わふっ!」
「きゅ~!きゅきゅ~!」
「おお、言葉の壁を越えて仲良くなったな」
「素晴らしいです! マスターがさっそく配下を従え、王としての威厳を示されました!」
「絶対そんな大層なもんじゃないぞ」
シャルロッテが感動で目を潤ませているが、どう見てもただのじゃれ合いだ。だよな?
二匹の追いかけっこを微笑ましく眺めていると、ふと「ポテトとクロの遊べるおもちゃも必要だな」と思い至った。
犬といえばボールとかフリスビーだろう。
俺は再びホログラム画面を開き、検索窓に「おもちゃ」と打ち込む。
【大人属性】ウインウイン動く棒(10DP)
閉じた。
見なかったことにしよう。
現代日本とダンジョンの概念が混ざり合うと、こういう事故も起きるのだな、と思い、
俺は検索ワードのチョイスミスを深く反省し、気を取り直して「ペット おもちゃ」で再検索をかけた。
【大人属性】ペットのしっぽ(10DP)
閉じた。
見なかったことにしよう。
これあれか? 例のサキュバスを連れて帰った人間の検索結果がこっちにも反映されてる?
俺は検索のアルゴリズムに疑念を持ちながら、気を取り直して「犬用 フリスビー 室内用」で再検索をかけた。
【家庭属性】絶対に怒られない柔らかフリスビー(3DP)
・効果:室内で投げても家具や家電を透過し、絶対に物を壊さない。
そうそう、こういうのだよ。しかも安い。
俺は即座に購入ボタンを押した。
ぽんっ、と軽い音とともに、コタツの上にオレンジ色のスポンジ素材っぽいフリスビーが現れる。
「ほれクロ、取ってこい」
手首のスナップを利かせて、フリスビーを軽く投げる。
オレンジ色の円盤がふわりと宙を舞うと、クロは「わふっ!」と短い鳴き声を上げてダッシュした。
小さな体からは想像もつかない俊敏さで見事に宙返りキャッチを決め、ドヤ顔で俺の足元にフリスビーをくわえて持ってくる。
「おー、えらいえらい」
「わふっ!」
「きゅきゅー!」
頭を撫でてやると、クロはちぎれんばかりに尻尾を振った。ポテトも短い前足をてちてちさせて称賛している。
お前拍手できんの、とは思ったが、まあ些細なことだ。これはいい。室内でも気兼ねなく遊べる。
もう一度勢いよく投げたフリスビーは、コントロールミスで液晶テレビに向かって一直線に飛んでいった。
「あ、やべ」
しかし、フリスビーはテレビの液晶画面に触れず、すり抜けるように透過し、見事に壁に当たってポトリと落ちた。もちろんテレビは無傷である。
「おお、マジで『絶対に物を壊さない』効果が発動してる。すげえなダンジョンシステム」
「ダンジョンの中では物理法則もアテにならないのです」
胸を張るシャルロッテ。うーん、デカい。
俺が内心「この家大丈夫だろうか」と思っていると、インターホンが鳴った。
「よぉ真野! 今日も中村さんが来てやったぞ!」
「帰れ」
「ひどくねえ!? 毎分1DPを産み出す優良物件な友に向かって開口一番『帰れ』はひどくねえ!?」
「はいはい、上がれよ」
文句を言いながらもズカズカと上がり込んでくる中村。
そして、足元でぴょんぴょん跳ねている黒い子犬に気づいて目を丸くした。
「なんかかわいいのが増えてるんだけど」
「ああ、名前はクロ。ダンジョンハウンドの幼生だって。ガチャで引いた」
「ガチャでぇ?」
「1回10DPの小型モンスターガチャでな」
なんでもありだなダンジョン、と言いながら中村がコタツに入ってきた。
するとクロがとてとてと中村に近づき、服匂いをふんふんと嗅いでから「わふっ」と尻尾を振った。
「ポテトよりかわいいな」
「きゅっ!?」
こいつ、人のペット(ではない)に優劣をつけよった。
ポテトが、雷に打たれたような顔で硬直した。
そして、短い前足で自分の顔を覆い、ショックを受けたように震えだす。信じていたヤツに裏切られた、とでも言いたげだ。
おおよしよし、ポテトのかわいさがわからない中村は村八分にしましょうねえ。コタツの中の中村の足をげしげしと蹴る。
「いてていてて」
「ポテトもかわいいだろうが」
「いやよくわからん生命体より犬の方がいいぞ俺は」
「きゅー!」
ぽいんぽいんと跳ねてポテトが抗議する。
シャルロッテも抗議する。
「マスターを愚弄するなど、いけないことですよ!」
何がとは言わないが、ぽいんぽいんと跳ねている。おお、なんという絶景。
中村が鼻の下を伸ばしてすいませんでした、とか言ってる。
「ところでガチャってモンスター以外になんか面白いもの出るのか?」
「いいところに気がついたな、中村」
家具ガチャと宝物ガチャは普通に気になっている。コスト対効果は見込めないだろうが、どうしようもないもの以外は最悪メルカリで売ればいいのだ。
「家具ガチャは1回5DP、宝物ガチャは1回15DPだ。それで★1~★3のものが出る、らしい。」
「えー、レアリティ低くね?★5~★10とかじゃねえの?」
「どこぞのパズルゲームじゃあるまいし。まあ高級ガチャもあるんだが、一回あたりが高くてな」
「え、そうなの?」
「★7~★10ガチャが1回2000DP。日本円で100万だな」
「たっけ。ロータスとかモックスとか出ないかな」
「さすがに地球産カードは出てこねえんじゃねえかな……」
「夢がないなー。じゃあ試しにその15DPの宝物ガチャ引いてみてくれよ。俺の汗と涙の結晶(※座ってるだけ)なんだからさ」
言うだけタダだと思って好き勝手言いやがる。
まあ、中村が居座っている限りDPは無限に湧いてくるわけだし、宝物ガチャとやらがどんなものか見ておくのも悪くない。
「わかったわかった。じゃあ1回だけな」
俺はホログラム画面の【宝物ガチャ:★1~3】のボタンをたたいた。
- ぴろん -
「あ」
「どうした」
「10回分ひいちゃった☆」
「おま、七万五千円だぞ!?」
「金額で言うなー!」
ぎゃあぎゃあと罵り合っていると、ガチャ結果が表示された。
- 10連ガチャのご利用ありがとうございます。ダンジョンストレージに保管されます -
画面いっぱいに並ぶ、10個の宝物アイコン。
俺は画面を覗き込んだ。
「真野、読み上げてみろよ」
えーと。
★1 ちっちゃい原石
★1 ちっちゃい原石
★1 いい感じの木の枝
★1 いい感じの木の枝
★2 砂糖1㎏
★2 精製小麦5㎏
★1 ちっちゃい原石
★1 いい感じの木の枝
★2 コショウ一瓶
10個中9個見てみたが、これはひどい。
「ゴ、ゴミすぎる」
「宝物……?」
「★2のレートが大航海時代のそれじゃねえか! アプデしろ!」
しかし最後だけは違う。
「★3【アーティファクト】言葉がわかる翻訳首輪(ちいさなペット用)……当たりか?」
「急に実用品来たな」
「ソシャゲのガチャも最高レアの当たり以外はすぐに要らなくなるものばっかりだったりしますよね」
「シャルロッテはどこで学んだのそれを?」
「アニメはすべてを学べるとあにまん掲示板に!」
「アカンとこから学習しとる」
ストレージから取り出したのは、見た目は至って普通の、ちょっと頼りない、布製の首輪だった。中央に小さな青い宝石があしらわれている。
「翻訳首輪ねえ……。ま、使ってみるか」
俺は足元でまだ「中村にけなされた」ショックから立ち直れず、へたり込んでいるポテトを抱き上げた。
「ほらポテト、ちょっと首に付けるぞー」
「きゅ」
首輪をポテトの首にカチッと装着する。ピッタリサイズだ。
すると、青い宝石がパッと淡く発光した。
- ぴろん -
- マスター【ポテト】にアーティファクト【言葉がわかる翻訳首輪(ちいさなペット用)】が装備されました -
- マスター【ポテト】の発話言語が日本語に変換されます -
『ことば、つうじるようになった? なかむらにいしゃりょうをようきゅうするー』
部屋の中に、どこか幼くも愛らしい声が響き渡った。
クロがびっくりしてる。
「かわいい」
「内容はかわいくない」
『なげっとじゅうごこでゆるすー』
「やっすい慰謝料だなあ」
「情緒的には小学生かそこまで行ってないぐらいなのかな」
『しゃるろって、だっこー』
「はい、マスター」
シャルロッテの腕の中にぽすっとおさまるポテト。
『まのー』
「なんだい」
『すきー』
照れるな、それは。
「あらあら」
「まあまあ」
シャルロッテはいいけど中村にまあまあ言われるとなんか腹立つな。まあいいか。
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