もふもふをひろったら家がダンジョンになりました   作:一宮 千歳

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6話

ガチャを引いたら昼になっていた。

 

「外に飯食いに行きたい気分だな」

「でもペット枠が二匹に増えたぞ」

 

それなんだよな。ポテトとクロはお互いを追いかけまわすようにぐるぐる回っている。

 

「あ、そしたらダンジョンで飯にしようぜ」

「ダンジョンで飯? 俺の家もダンジョンだが」

「いやちげーって。古城公園ダンジョンが露店あるからさ。そこで買って食べ歩きするの」

「ああ、あそこの地上敷地にある探索者向けの屋台街か」

「そうそう。あそこならダンジョン産の魔獣肉の串焼きとか売ってるし、それでなくてもペット連れも、テイマーも普通にいるからな」

 

中村の提案に、俺はなるほどと頷いた。確かにあそこなら、四足歩行の毛玉と子犬を連れていても怪しまれない。

 

「よし、じゃあ出かけるか。シャルロッテちゃん、上着着てな」

「はい!ワンピース、着替えさせていただきます!」

 

シャルロッテがとてとてと二階に上がっていく。着替えタイムだ。

その間、ポテトとクロにリードを付けてやる。ペットではないが、ペットに見えるように偽装だ。

そして戻ってきたシャルロッテは、ダッフルコートの裾からちょっぴりワンピースのスカートが見える、銀髪美少女と化していた。

 

「……なぁ真野」

「なんだ中村」

「お前、本当に前世で国でも救ったんじゃねえの?」

「だから知らんって」

 

あきれつつ、二人と三匹で車に乗り込む。ぶろろろろ。

車を走らせること約十分。古城公園の駐車場に到着した。

休日ということもあってか、駐車場は車でいっぱいだ。探索者っぽい厳ついフル装備の連中から、観光客風のカップル、そして家族連れまで、結構な賑わいを見せている。

探索者っぽい厳つい連中が、シャルロッテに抱かれたポテトをめざとく見つけて寄ってきた。

 

「おっ、そいつは『毛玉』じゃないか。テイムしたのか?」

「ははは、まあそんなようなものです」

『いかついー』

「おいおい! その毛玉、今なんか言わなかったか!?」

 

厳つい探索者の一人が、目を丸くしてポテトを指差した。

ポテトは首輪の青い宝石を光らせながら、シャルロッテの腕の中でふんぞり返り、言い放つ。

 

『きんにくだるまー! やだー!』

「き、きんにくだるま!?」

「すみません、この子まだ子供で」

 

俺が大慌てしながら頭を下げると、探索者は「がはは!」と豪快に笑い飛ばした。

 

「ハハハ! そりゃ宝物庫でたまに出る『翻訳系』か! いやー珍しいもん見せてもらったわ!」

 

探索者はポテトの言葉に傷つくどころか大喜びで、ポケットから干し肉を取り出してポテトに差し出してきた。

 

「ほらよ、ワイバーンのジャーキーだ。食うか?」

『……わいばーん?』

 

ポテトの鼻がピクピクと動く。

 

『もらうー! きんにくいいやつー!』

「手のひらクルックルだな!」

 

中村がすかさず突っ込む。実際めっちゃいい人だが。

ポテトは干し肉を小さな前足で大切そうに抱え込み、はむっとかぶりついた。

噛めば噛むほどジュワッと旨味が溢れるのだろう、短い尻尾をプロペラみたいにぶんぶん回転させている。

 

- ぴろん -

- マスター【ポテト】が『ワイバーンジャーキー』を摂取しました -

- 【変異ツリー:亜竜毛玉(亜竜属性)】が解放されました -

- 亜竜属性変異可能性の開放により、亜竜属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -

 

「亜竜属性だって」

「ワイバーンはドラゴンとは異なる、亜竜種ですからね。ちょっと小物です」

「いや、小物というには結構厄介だからな? パーティ必須だからな?」

「嬢ちゃん、もしかして結構大物か……?」

 

中村と探索者が突っ込む。

 

「まあ、ただの可愛い女の子ですよ。そういうことにしといてください」

 

俺は適当にごまかすと、探索者のおっさんに「ジャーキーありがとう」と手を振って、屋台街の通りへと進んだ。

おっさんは「おう! ダンジョン内で会ったらよろしくな!」と親指を立てながらも、シャルロッテがじんわりと放つ、タダ者じゃない雰囲気に首を傾げながら去っていった。

 

「ふう、危ない危ない。シャルロッテちゃん、あんまりグレーターデーモン常識をひけらかすと目立つぞ」

「申し訳ございません、真野様。人間界の常識というものを、もう少しアニメから学ぶ所存です」

「アニメから学ぶのはやめな?」

 

中村のツッコミ。俺もそう思う。

 

「常識で言うとポテトの知識量も気になるとこだな。慰謝料を知ってるのはいいけど、他に何か知ってることある?」

『んー。シャワーあったかかった。まののてのひら、やさしい』

「拾ってからの記憶だな、それ」

 

ちなみに俺がリードを握っているクロもわふわふ言ってるが、内容が全然わからない。首輪の二つ目が欲しいな。

 

そんなことを思ってると、屋台街に三軒隣に住んでる柳瀬さんがいた。老いてはいるが背筋はまだまだしゃっきりしているマダムである。今日は旦那さんはいないようだ。

 

「あ、柳瀬さん」

「あら、真野さん。こんにちは。お友達と一緒?」

「ええ、そんなところです」

「初めまして、柳瀬さん。シャルロッテと申します」

 

シャルロッテが挨拶すると、柳瀬さんがびっくりした顔をする。なんですか。

 

「あら、あらあらあら。真野さんも隅におけないわね、こんな可愛い子連れて」

 

柳瀬さんには中村が目に入っていないのはさておき。シャルロッテがとんでもない事実を言い出した。

 

「少し前から真野様のおうちにお世話になっております」

 

事実だ。事実だが、それは言ってはいけないのだ。

俺がびくりと震えたが、もう遅い。

あと、もっと根本的に、うちのダンジョン化バレも近づいている。非常に、多義的に、まずい。

 

「あらあらあらあら。あらあらあらあら。」

 

柳瀬さんはあらあらマダムになってしまった。くっ。こうなると噂が広まるのは避けられないぞ。

 

「あとそういえば真野さんのお隣のお家、いま誰も住んでないじゃない?」

「あ、そうですね」

「きゅうきゅう、何か動物が鳴く声がしてたって話よお。野生動物が住み着いたのかしら、やあねえ」

「あはは……そうですね……」

 

まさかその鳴き声の原因は今あなたの目の前にいます、とは言えない。

食べ歩きをしているところなので、この辺でと挨拶すると、「あらあらあらあら。お若い2人でごゆっくり」と返された。まさかポテトとクロも目に入ってなかったとは思わなかったぜ。こんなに目立つのに。

 

「中村。どうしよう、バレる」

「いやまあご近所さんバレは避けられねえだろ。問題になるのはどっちかというとバレた後の対処じゃね?」

「それもそうか……」

「まあ今は気にせずに食おうぜ。ほら、たこ焼きのパック」

 

渡されたたこ焼きを受け取り、はふはふと食べる。

そしてシャルロッテが気になる、と言う顔をしているので一つ分けてやる。

 

「はい、シャルロッテちゃん、あーん」

「公衆の面前で……ぽっ」

「いやポテトでシャルロッテちゃんの手が塞がってるからだからね?」

「リア充みたいなことをしおってからに……ギリリ」

「ギリリって口に出して言うやつ初めて見たわ」

 

中村が本気で悔しそうにしている。

 

「でも二級ってそこそこの探索者だろうに。それでモテたりしないのか」

「モテないから男友達のうちに来てるんだろうが」

「百理ある」

 

友達紹介してやってよシャルロッテ、と言わない良心が俺にはあった。

 

「ほんで、たこ焼きの次はなんにしようかな」

「魔獣串焼きかなあ。当たり外れでかいけど、うまいのは本当に美味いから」

「ハズレは?」

「ゴム」

 

ゴム食いたくはねえなあ。どう思う、とシャルロッテに聞く。

 

「一応口に入りさえすれば魔素になるので味は極端な話なくてもいいのですが……美味しいものは好きです。食べるのが楽しいですからね」

「イギリス人じゃん」

「なんで真野はシャルロッテちゃんをイギリス人いじりするの?」

「なんとなく……?」

 

パッションだよ、パッション。と言うと、中村が納得行ってなさそうな顔をしていた。

 

そして、魔獣串焼きを買った。ポテトとクロの分は一本を半分に分けて、残りの人間組は一本ずつ。

 

『まのー』

「どうした」

『ぐにぐにしてる。ごむ?』

「あー、ポテトとクロのがハズレか」

 

クロを見ると、くちゃくちゃと噛みながら露骨にしょげた顔をしている。犬のしょげた顔ってなかなか見ないぞ。

自分のを食べてみるとまあ普通の肉の味だったので、取り替えてやることにした。

 

『にくー!うまー!』

 

ポテトがまぬけづらを幸せそうに歪めている。クロも嬉しそう。うんうん、こういうのでいいんだよ。

 

そして焼きそばに、ケバブを食べた。

そう言えばポテトの変異ツリーは伸びない。

普通の食べ物だからかなあと話したが、とちおとめが良くて焼きそばがダメな理由がよくわからない。

しかしシャルロッテが答えを知っていた。

 

「変異ツリーが伸びにくい理由はごく単純です。自分ちじゃないからですよ」

「自分ち?」

「ほら、今外じゃないですか。毛玉種は自分のダンジョンでこそのびのび成長するんです。あとは、とても強い外的要因では変異しますけどね。ワイバーンジャーキーはその特別例かと。旨みの凝縮が噛み合ったんだと思います」

「はー」

「それなら持ち帰りの方が良かったかも、と思ったかもしれませんが、でも外で過ごした時間も大事ですからね?」

「なるほどなあ。家に引きこもってばかりもダメ、と」

 

しかしちょくちょく外に出してやる必要があるのか。古城公園は確かに片道十分で手頃だが、ここばっかりも飽きるだろうしなあ。

 

「難しいこと考えずに車で遠出すりゃいいじゃん」

「土日祝だけだとちょっとなー」

「仕事辞めれば?」

「うーん、まあ、ワンチャンあるが、社会保険がなあ」

「DP稼ぎの手段が中村さんしかありませんしねえ」

「俺も毎日入り浸るわけにはいかないしなあ」

『まいにちなかむらは、あきる』

「わん」

「飽きるって」

「倦怠期のカップルみたいなこと言うなポテト……」

 

育成方針と今後のライフプランを三人プラス二匹で考えながら運転し、帰宅。

ぶろろろろ。時刻はまだ午後三時にもなっていない。

 

「はー。ただいま。中村は帰れ」

「酷くね?DPは?」

「DPはいる……」

 

あーだこーだ言っていると、電話がかかってきた。見慣れない番号だが、市外局番が同じ市だし、非通知よりはマシだ。

 

「もしもし」

「ええと、真野さんですか?私ダンジョン調査員の橋下条(ハシゲジョウ)と申しますが」

「確かに真野です。ええと、ダンジョン調査の日程ですか?」

「そうですそうです。いきなりですが明日どうでしょう?」

 

本当にいきなりだな。まあいいけど。

 

「では明日で。何時ごろにします?一応空いてますけど」

「そうですね、暖かくなる昼頃、13時にお伺いします」

「はーい。では明日13時でお待ちしてます」

 

そういうことで明日、ダンジョンになって初めて他人が来る。




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