もふもふをひろったら家がダンジョンになりました 作:一宮 千歳
日曜だし、客は13時から。
昼まで寝てようと思ったら、ポテトに起こされた。
『まの!ゆき!ゆきふってる!』
「あー。冬だからな……寝かしてくんない?」
『だめ!あそぶ!』
しゃーない。起きるか。
居間に向かうと、ひと足先にこたつでぬくぬくしているクロとシャルロッテがいた。
「おはようございます、真野様」
「わん!」
「うん、おはよう」
「私とクロはこたつでぬくぬくしていますので、マスターと真野様は遠慮なく外で遊んでらしてください」
そういうシャルロッテはみかんをわこわこ剥いて、すじを綺麗に取っている。うーん、馴染みすぎ。
「外でないの?」
「こたつが快適なので。後悪魔なので、積極的に堕落します。だらーん」
「わう」
ならしょうがない。ポテトと雪遊びするか。
雪が降っていると言っても、せいぜい都心だと交通網が完全麻痺する程度の積雪だ。うーん、ちょっと物足りない。
というわけで、前庭にうっすらと積もった雪をかき集めて、小さな雪だるまを作ろうとする。ごろごろ。
そしてポテトが一歩踏み出した。叫んだ。
『まのー!』
「なあに」
『さむい!おうちはいる!』
雪遊び、断念の瞬間であった。記録3分。
うちに入りポテトを撫でてやると、すっかり冷えていた。
「あ、思ったより防寒性能ないのかこの毛」
『なつあつくふゆさむい……』
「かわいそうすぎる」
なでなでしながら居間に戻ると、シャルロッテがすじを取ったみかんを差し出してきた。ポテトが貪り食らう。
ぴろん、と音が鳴る。どうせ柑橘属性でも生えたんだろう。
「マスターがすぐに戻ってくること、計算通りです」
「あ、毛玉のスペックは頭に入ってる?」
「はい。たぶんだめだろうなと」
「さいで」
こたつに入る。うーん、絶妙にやることがない。
ログを確認するとこうあった。
- マスター【ポテト】が『みかん』を摂取しました -
- 【変異ツリー:雪毛玉(冬属性)】が解放されました -
- 冬属性変異可能性の開放により、冬属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -
うーん。雪毛玉かあ。防寒できるかも?
『ゆきけだまは、なつあつい』
「暑いの嫌かー」
『いやー』
ピンポン、とインターホンが鳴る。
「はーい。どなたー?」
のそのそとこたつを出て玄関を開けると、柳瀬さん(旦那)だった。ぱっと見はシブイケおじいちゃんだ。
俺に取れる選択は二つ。
家にあげ、全てを見せてシブイケおじいちゃんをDP源にするか?
玄関先の立ち話ですますか?
寒いから居間に上げよう(親切)
「可愛い女の子を囲ってると聞いたのでな。見にきた」
そう、ぱっと見シブイケおじいちゃんだが、ゴシップ好きなのである!
「居間でみかん剥いてますよ。どうぞどうぞ」
ポテトとクロもいるけど、それはあえて言わない。なぜって反応を見たいから。
「邪魔するぞ……おや、可愛らしいのがいっぱいだな」
ええ、いっぱいいます。にこにこ笑ってシャルロッテに柳瀬さん(旦那)を紹介する。
「シャルロッテちゃん、こちら昨日会った柳瀬さんの旦那さん。柳瀬さん、こちらうちの……居候?のシャルロッテです」
「はじめまして、シャルロッテです」
「おお、ばあさんの若い頃に負けんくらいの美人だのう」
「あはは、ありがとうございます」
グレーターデーモン、ご近所付き合いもできる。
お茶を淹れて戻ってくる。
「番茶ですが」
「おう、ありがとなあ。親御さんが亡くなって随分経つが、どうだね」
「まあ一人暮らししてましたが、若い女の子とペットが転がり込んできましたからねえ。新しい生活が楽しいですよ」
柳瀬さん(旦那)が番茶を啜る。
「わはは。まあ暗くなっとらんようで安心したよ。いきなり女の子一人、ペット……二匹か。それだけ抱えるのも辛かろう」
「んー、まあ、爪に火を灯せばなんとか」
「もっと稼ぐしかないのう」
わはは、と柳瀬さん(旦那)が笑う。
「稼ぐでいうと、ダンジョンですかねえ」
「んー。わしら年寄りではどうにもならんが、真野くんぐらいの歳ならまだいけるんかのう?」
「友達の中村ってやつが二級でやってるんで、それに倣えないかなあと思ってますが」
「他人の真似もなあ。荒事だろう」
『まのー。たたかう?』
おっま。
「なんじゃ今の可愛らしい声は」
『おじいちゃんー。ぼくー。』
ポテトがぴょこぴょこはねる。そっかー。首輪外しとくべきだったなー。
「喋るのか、
『まのがくびわくれたー』
「……ほうほう。わしのご近所噂話ネットワークでは、真野くんが首輪を買ったなんて噂は聞いとらんが?」
ゲームセットかなー。
「実は……」
----
「家がダンジョン化、ねえ」
「ここしばらくはDP収入はそこそこあるんですが、あんまりご近所からDP吸い取るのもなあ、なんて思ってまして」
「そらまあ、家に入ったらなんか吸われる、ちゅうのはちょっと気分悪くなる御仁もおるかもしれんなあ」
「そうなんですよね。まあ、うちに来る人なんて柳瀬さんご夫婦と、後友人ぐらいのもんですが」
ははは、と笑う。
「うんにゃ、わしが呼べば人は来るよ」
「本当ですか?」
食いついたのはシャルロッテだ。
「集客のないダンジョン、有体に言えば滅びるだけですからね」
「滅びる。え、滅びる?」
「あれ、言ってませんでしたっけ。DPが一定期間マイナスになるとぺちゃんこになってダンジョンは潰れますよ」
『つぶれるよー』
「今初めて聞いたよ!?」
「DPでダンジョン内に設置した家具・魔道具の維持コストとか、私たちモンスターの魔素の補充とかでDPが減ります。まあ、ご飯は毎日食べさせてもらってるんで、そこのDP消費は抑えられてますけど」
シャルロッテの説明に引っ掛かるものを覚える。
「元から家にあった家電は電気料金?」
「そこは電気料金ですね」
「なら極小で済んでるのか……」
「そうですね。日に3DPぐらいだと思います」
すっとホログラム画面が出てくる。端っこに残DPが書いてある。
「……えーと、それなら何もしなければ三ヶ月ほどはプラスのままか」
「無駄にガチャ回してなくて良かったですね」
「ほんとだよ……肝が冷えた……」
胸を撫で下ろしていると、「ええかの」と柳瀬さん(旦那)が声をかけてきた。
「聞いとりゃ三ヶ月で首が回らなくなるんじゃないか」
「いえ、本当に今知って……」
「まあ知ったのがいつなのかはどうでもええんよ。問題は3ヶ月人が来ないとこの家は潰れてぺちゃんこになること。そうだろ?」
「まあそれは、はい」
美少女グレーターデーモンと毛玉と犬連れて路頭に迷うのやだな。
「そしたらわしの出番よ。そのダンジョン改装だったか、それを使って年寄りに居心地のいい家づくりをしておくれ。そしたら茶飲み場としてジジイババアが山ほどくるように話をつけてやる」
「本当ですか!?」
シャルロッテが2度目の食いつきを見せた。
まあ俺だって家がなくなるならその方法に嫌とは言ってられないので、この話はぜひ乗りたい。
-ぴろん-
-非探索者高齢者のDP効率はおよそ10分1DPです-
中村、お前高齢者の10倍の効率だったんだな……。
----
さて、高齢者向けアイテムについて相談していたら、13時が近い。
「あ、お昼過ぎてますね」
「おう、なんか腹が減ると思ったらもうそんな時間か」
「なんか食べていきます?簡単なものしか出せませんけど……」
「焼きそばが食いてえなあ」
「ないですね」
「なら帰るわ!」
すっくと立ち上がって柳瀬さん(旦那)は帰っていった。
入れ替わりで橋下条さんが来た。筋肉もりもりマッチョマン、ついでに俺より若そうだ。
「やーどーもどーも。橋下条です」
「お疲れ様ですー」
「なんか疲れてません?雪かきですか?……いや、やってないですね、積もってる」
「あはは、すみません。ご近所とうちのダンジョンについて話し合ってまして」
「ふむ?」
橋下条さんの目がきらりと光ったような気がした。
「まあ立ち話もなんですし、中どうぞ。普通の家ですし」
「お、では失礼します。中のチェックもしないといけないんでね」
「お手柔らかにお願いしますね……」
橋下条さんを
「おー、普通の日本建築なのにしっかりダンジョンですねえ」
「わかるもんですか」
「魔力反応があるんですよ。フロア構造ってどうなってます? あ、ダンジョンとしての」
「えーと、いま前庭通ってきましたよね。前庭にある車庫が別棟扱いで、玄関が入り口。一階が第一階層、二階が第二階層です。あと裏庭、家庭菜園があるんですけど、それが隠しフロア扱いです」
「……普通の狭めのダンジョンですね」
「家としてはそこそこの広さのはずなんですけどね」
「あ、貶してるわけではないので!」
「わかってますよー」
居間でくつろぐ三匹を見て「おお」となった橋下条さん。
「この見目麗しい女性、モンスターですね?サキュバス……違うか」
「書類に記載した、グレーターデーモンですね。あと毛玉と、ダンジョンハウンドの幼生です」
「一階の入り口を右に曲がったらグレーターデーモン……?」
「変ですか」
「敵対的だったら死者が量産されてますよ。良かったです」
「良かったです……」
初回無料ガチャで出た、とは言えねえな。
『きんにく! このひといいきんにく?』
居間に入ると、ポテトが寄ってきた。
「どうかなー。悪い筋肉かもしれないぞー」
橋下条さんの悪ノリ。この人こういう人なんだな、というのが見えてきた。
『わるいきんにく!?まの!やっつけて!』
「ははは」
そのまま襖を開けて奥の仏間へ。なんにもない。
フリスビー遊びをするときに居間と繋げるぐらい。
さらに奥の八畳間もがらんとしている。
「意外とがらんとしてますね」
「あー。両親が亡くなったときになんでも捨てたので」
「おっと、悪いことを聞きまして」
七回忌も済んだしなあ。
「いえ、お気になさらず」
八畳間から玄関まで戻り、俺の寝室へ。
「パソコンとベッド、後クローゼットですね」
「極論この三つがあれば生活は済みます」
言い切った。
「ゲーム機がいっぱいありますが」
「失礼、四つでした」
キッチンから二階に上がる。
「うわ、魔力濃度がごっつい上がりました」
「え、そんなにですか」
魔力濃度とか俺わかんねえけど。
「あー、グレーターデーモンたちの寝床なんですね二階。だからだ」
洋間でシャルロッテの髪の毛拾って勝手に納得してる。
橋下条さんがシャルロッテの髪を仕舞った。 あれ、いいのか? 高度なハラスメントでは? 俺には判別がつかない。
「だいたいわかりました」
「あれ、車庫と家庭菜園は見ないで大丈夫ですか?」
「ダンジョンマスター、あの喋る毛玉ですよね?」
いきなり核心を突かれると人は悪くもないのにどきりとする。
「……そうです」
「基本的にね、ダンジョンの傾向というのはマスターに左右されるんですよ。悪魔がマスターなら性格の悪いダンジョンになりますし、妖精がマスターでも意地悪なダンジョンになる。」
「それ全部意地悪じゃないですか」
ははは、と橋下条さんが笑う。
「それで言うと毛玉はちょっとまぬけで食い意地が張ってて、でも弱い。そういうモンスターですから、ダンジョンもなんだかぽややんとした感じになるんですよ」
「ぽややん」
「で、フロアを見回ってみたらまあ何にもない。平和そのものじゃないですか。グレーターデーモンやダンジョンハウンドがマスターだったら、もうちょっと過激なはずですからね」
「つまり?」
「当面、安全なダンジョンとして認可できそうです」
よかった。ふー、とため息をつく。
「ただ、毛玉は変異する種ですからね。変異に合わせて危険なダンジョンになる可能性もある。そうなったら、真野さんは居住ができなくなる、と思ってください」
「え、そしたらポテトやシャルロッテは」
「駆除対象ですね」
駆除。あのまぬけでかわいいポテトや、爆乳の……いや言い方が悪い。ほんわか美少女のシャルロッテが?
「変異次第、ですか?」
「容姿が毛玉に近い段階では大丈夫だと思います。ただ、段階を踏んで毛玉をやめていく場合、それは誰にも保証できない領域になる」
「肝に、命じます」
うまく喋れているだろうか。駆除。それだけは、避けたい。
「ああ、それと、ご近所さんと話し合っていた、とおっしゃいましたよね。それはどういう?」
「お茶でも出して人を呼ぶダンジョンにしよう、と言う話を」
「ダンジョン持続性の話ですね。もちろん、それ自体は私や役所としては止めません」
「じゃあ、大丈夫ですか?」
「いや。飲食店扱いになるかもしれません」
「いんしょくてん」
「知ってました?飲食物を第三者に提供すると食品衛生法が適用される飲食店扱いになるんですよ」
「知らんかった……」
「あと、変異先には気を付けてください。ドラゴンになんてなってみてください。この市ごと人が撤退しないといけなくなりますよ」
市ごと。約十万人の避難。……ちょっと、大きな話になってきた。
「わかり、ました」
「まあ、真野さんなら大丈夫だと思いますよ」
「俺なら、ですか?」
「ええ」
「なんででしょう?」
本気でわからない。
「ええ。真野さんには愛がある。それを少し、感じましたのでね……調査は以上です。お疲れ様でした」
お疲れ様でした、と返せただろうか。
橋下条さんは、帰っていった。
感想、評価、お気に入り、ココスキお待ちしております。励みになります。
というか順調に伸びててありがたいです。さあ、あなたも高評価を入れて古参ヅラ、しよう!