もふもふをひろったら家がダンジョンになりました   作:一宮 千歳

8 / 9
8話

『まの!おなかすいた!』

 

ポテトの呼びかけで我に返った。今何時だ?

14時半。そう言えば昼を食べてない。遅めの昼飯にするか。

 

「んー。何食べる?」

『おいしいやつ!』

「シャルロッテにも聞いてみるかあ」

 

ぱたぱたと二階から降りて、居間にいるシャルロッテに聞いてみる。

 

「ご飯、どうする?」

「納豆ご飯とかどうです?」

「なっとうごはん」

 

うん、いいんじゃないか。ドラゴンにはなりそうもないし。

 

と言うわけで遅めの昼ごはんは納豆ごはんになった。

あまり混ぜずに食べるのが俺流。しかしポテトやクロは箸を持てない。そこで、ポテトとクロの分は本人に聞きながら混ぜることにした。

 

「まぜまぜ……まぜまぜ……」

『まのー。すとっぷー』

「はいよ。これでいいか?」

 

大変だったのはクロだ。

いくら混ぜてもストップの「わん」を言わない。

5分は混ぜたと思う。そこでようやく「わん」が出た。

 

「納豆、今後出さないかも」

『えー』

「わぅ……」

 

しょげた顔のクロ。でもお前のせいだからな。文句があるなら箸を持てる種族に変異してほしい。

 

- ぴろん -

- マスター【ポテト】が『納豆ご飯』を摂取しました -

- 【変異ツリー:和風毛玉(和風属性)】が解放されました -

- 和風属性変異可能性の開放により、和風属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -

 

和風かあ。じいさんばあさん向け家具を置けるようになるかな。

カタログを見てみる。【ダンジョン改装】を和風属性でフィルター。

 

【和風属性】いつでも美味しいお茶が出る急須(5DP・維持費1DP/日)

・効果:ほうじ茶が出る。いつでもちょっと熱め。

 

【和風属性】なんの変哲もない座布団(1DP・維持費0DP/日)

・効果:なんの効果もない座布団。縁側などにどうぞ。

 

【和風属性】和のテーブル(5DP・維持費0.5DP/日)

・効果:わ。或いはなごみ。設置したフロア付近へのリラックス効果がある。

 

【和風属性】和イファイ(20DP・維持費3DP/日)

・効果:いつでも10Gbps。あなたの家に安らぎの無線LAN環境を。

 

和イファイちょっと惹かれるぞ……pingはどうかな……でも技適は大丈夫かこれ……?

 

飲食店化するならばーんと、一階はほとんど客用スペースにしてしまおう、と言う計画はある。しかし、維持費もリフォーム費用もとなると大変だぞ。

 

『まのー。こわいかおしてるー』

 

いかん。深刻になってたか。

 

「ああ、すまんすまん。ダンジョンの維持費を考えてたらな」

『しょうじゃひつめつー。きにしなくてもいい』

「生者必滅……? 急だな」

『いのちあるものいつかかならずほろぶー』

 

ポテトがぽよんとはねる。

 

『けせらせらー。まの、わらってるほうがかっこいい』

「……そうか、そうだな」

 

俺はにこりと笑った。ポテトが尻尾を振る。

 

『まのー! 笑ったー!』

 

てちてちとシャルロッテの方に戻っていく。

うーん、ポテトにわからされるとはなあ。

 

そうだ、ケセラセラで行こう。これまでそう生きてきたじゃないか。

 

前庭に何か植えられないかな。一度コンクリートで埋めたけど、人を呼ぶならコンクリートとブロック塀は殺風景だ。

でも車でくるご老人だったら駐車スペースになってたほうがいいか? うーむ、わからん。

 

四季を楽しむ、よりは、ダンジョン産の不思議な家具で癒される、でいいんじゃないか?

 

柳瀬さんに電話をかけてみる。

 

「もしもし。真野ですけど」

「おお真野くん。どうした」

「うちに人を呼ぶ計画。縁側から植物が見えたほうがいいかなって」

「ふーむ。手間を考えずに言うならわしゃ見えたほうがいいがな。四季を感じるようにするには手入れが大変だぞ。ぼちぼちやる、と言う計画にしておいて、今は室内整備だけでいいんじゃないか」

「あと、茶を出すなら飲食店扱いになるかも、食品衛生法とか気にしなくちゃいけない、とかも言われました」

「リフォームは知り合いの大工を紹介してやろう。それでなんとかならんかね」

「何から何まで、ありがとうございます」

「最初から完璧である必要はないんだよ、真野くん。がんばれよ」

 

つー、つー。電話が切れた。

 

最初から完璧である必要はない、か。

できることをできるだけ。それでやっていこう。

 

とりあえず座布団5組と和のテーブルを出した。縁側に座布団二、仏間に和のテーブルと残りの座布団を置く。

 

これだけで人を招くための準備ができたような気がした。

 

「真野様」

「なあに、シャルロッテちゃん」

 

「何かあったら相談してくださいね?」

「ああ、だいたい解決したよ。ありがとう、気遣ってくれて」

 

にこりと微笑む。

 

「あっ……笑顔……てえてえ……」

 

読めねえ。グレーターデーモン読めねえ。

 

----

 

「おやつでも買うか。留守番頼むわ〜」

「行ってらっしゃいませー」

『おいしいの、よろしくね!』

「わん!」

 

シャルロッテとポテトとクロに見送られて、スーパーに向かう。普段使いの安売りスーパーではなく、例の成城石井のティラミスの売ってるスーパーだ。まあこっちも十分安いんだけどね。

 

スーパーを見て回っていると、制服の上にレザーメイルを着たJKがいた。高校はほどほどに近いのでJKがいることに不自然さはないが、レザーメイル?

思わず二度見したが、不審がられていないだろうか。真野さんは社会からの目が気になるお年頃である。

 

カゴの中はチラッと見えただけだが、おにぎりとペットボトルだった。あれで栄養補給してダンジョン探索に向かうんだろうか。世のJK、わからない。

 

そして、中村がいた。

 

「おー。中村」

「なんだ真野か」

「なんだとはなんだ」

「買い物してんだよ。見んな」

「ポテチ、唐揚げ、ビール、アイス……お前これ大丈夫か?」

「いんだよ探索者は。ダンジョンでカロリーが抜けてくから」

「ほんとかよ」

「そう言われている」

「うそくせー」

「お前はどうなんだよ。ポテチ、コーラ、ケーキ、駄菓子……中年男性の買い物じゃねえぞ」

「シャルロッテとポテトとクロが食うから問題ありませんー」

 

スイーツやファストフードは比較的安全っぽいしな。

 

「お前ちゃんと属性考えてやれよ。デブドラゴンとかになったら悲惨だぞ」

「その辺はちゃんと計算されてる。角度とか」

「角度の計算がされてるなら安心だな……」

「どこがだよ」

「お前から言ったんだろ」

 

わはは、と笑う。

 

「そんじゃ。次いつ来る?」

「んー。明日も行こうか」

「助かる。DPはいくらあってもいいからな」

「なんだ、使い道が出来たのか?」

「いや、お茶出そうと思ったら飲食店扱いになるから設備投資がな……」

「あー。大変だなお前も」

「いやまあ、やりがいはあるし」

「お? なんか悪いもんでも食ったか?」

「養ってる身で悪いもん食わせられるわけねえだろうが」

「いやお前なら拾い食いしてる可能性が……いてて」

 

蹴った。

 

「蹴るこたないだろ!」

 

レジの列が来た。

 

「じゃあそういうことで」

「じゃあな。シャルロッテちゃん泣かせるなよ」

「泣かすわけねえだろ」

 

軽口が心地よい。気楽に生きていたいもんだな。

レジを終え、うちに帰る。ぶろろろろ。

 

『まのー!おかえりー!』

「おう、ただいま。ケーキ買ったぞー」

『ケーキ!おいしい?』

「やすくておいしいやつだぞー」

『わーい!』

「わう!」

 

ポテトとクロが出迎えてくれた。

2個パックのやつを差し出してみせる。

 

『ちゃいろい』

「チョコレートケーキだ。こたつで食べような」

『はーい!』

「わう!」

 

犬にチョコレートダメじゃね?と思ったが、毛玉とダンジョンハウンドだからいいのだ。いいということにしておく。

 

----

 

チョコレートケーキを食ったらクロが倒れた。

ポテトのスイーツ属性が進歩したが、それは後回しだ。

 

「クロー!?」

『くろー!?』

 

しかしシャルロッテは慌てない。

 

「これ、変異の兆候ですよ」

「は?そうなの?」

「そうですね、成犬に一足飛び、ということはないと思います。幼生と成体の中間、ぐらいになると思いますよ」

「本当だな? 助かるんだな?」

「ええ、そこは間違いなく」

「よかった……」

 

見ればクロはぜいぜいと苦しそうだが、目に光はちゃんとある。

よしよしと撫でてやると、「くぅん」と返事をした。

 

「もどかしいな」

「これまでの行いで決まることなので、耐えてください。

あ、変異に巻き込まれて腕が吹っ飛ぶとかありますので、撫でるのはほどほどに」

「物騒だな変異!?」

 

- ぴろん -

- 真野卓也宅ダンジョンのダンジョンハウンド(幼生)A【クロ】が変異を開始しました -

- 24時間後に変異が完了します -

 

「24時間後……」

「真野様はお仕事中ですね」

「……休もうかな」

「社会的立場が大事なのではなかったですか?」

「そうだけど! 心配だよ!」

「してもしょうがない心配というのもあります」

 

ピシャリと言われた。

 

「クロには私がついておりますので、真野様は日常をなんでもないようにお過ごしください」

「クロももう日常の一つだよ」

「2日たってないんですけど」

「一つだよ」

 

ゴリ押す。

 

「けれど、真野様にできることはありませんからね」

「何かないのか?」

「これっぽっちも。大人しく仕事に行って社会的地位を稼いできてください」

「そんなー」

『まの、まけた?』

「大人しく明日は仕事に行きます……」

 

そういうことになった。

夕飯はコンソメポトフにし、ポテトの家庭属性が進歩した。

 

----

 

翌日月曜、仕事中。

手持ち無沙汰な時に、geminiにダンジョンハウンドについて聞いてみた。

 

「ダンジョンハウンド。ダンジョン内でのみみられる、黒っぽい体毛で全身が覆われた、犬のようなモンスター。群れで行動することが多く、フェイント、威嚇を多用し、探索者に確実に傷を負わせる厄介なモンスターとして知られる」

 

かちかちとスクロールし、本来は賢く手強いモンスターである、との知見を得た。クロなんか普通の芝の子犬みたいなもんだけどな。

 

お昼はうどんを食べた。食べた気がしない。

 

そのあとGeminiの利用申請が山ほど来て、一瞬慌ただしくなった。そういえば新部署の開始が今日だったから、マネージャーがGemini使って効率化しようとか考えたらそうもなるか、とかを考えた。

 

《もしもし》

「うわあびっくりした!」

「どうした真野さん!?」

「あいやしつれい、突然頭の中に言葉が」

「大丈夫かい……疲れが出た?」

「念話だと思います……」

 

念じてみる。いけそう。

 

《もしもし?シャルロッテかな?》

《はい。クロの変異が終わりましたので、その報告です》

《マジで?どうなった?》

《それは帰ってからのお楽しみということで。ああ、悪い変異ではありませんでしたよ》

《そう?じゃあ楽しみにして帰るね》

 

そう思って念話を終わる。

 

「真野さーん。残業いける?」

「え。……いけますけど」

「悪いね。監査が入るから、サーバー室の片付け頼むよ」

「はーい」

 

三浦さんとサーバー室の片付けをして、なるはやで帰る。ぶろろろろ。

 

時刻は20時少し前。この玄関を開けると、変異したクロがいる。

 

「ただいまー」

「おかえりなさいませー」

「おう、おかえりー。

 

居間からシャルロッテの声が聞こえる。中村も居たみたいだ。

 

「クロも居間におりますよー」

 

襖をがらり。

 

「……?」

 

何も、変わってない?

 

ログを確認する。

 

- 真野卓也宅ダンジョンのダンジョンハウンド(幼生)A【クロ】が変異を完了しました -

- 【おうちハウンド(成長期)】になりました -

 

「おうちハウンド」

「はい、おうちハウンドです」

「何が変わったの?」

「戦闘能力がほぼなくなりました」

「むしろ元はあったの?」

「まあ変わってないとも言います」

 

「他は?」

「体の大きさが、ちょっと大きく」

 

言われてみれば大きくなってもしれない。でも、スフレチーズケーキクッションに丸まるクロの姿は、ほぼ誤差だ。

 

安心した。ゆっくり寝られそうだ。

 

『まのー!ごはんー!』

 

ご飯を食べてからだが。

あ、中村は帰れ。




感想、評価、お気に入り、ココスキお待ちしております。励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。