もふもふをひろったら家がダンジョンになりました 作:一宮 千歳
『まの!おなかすいた!』
ポテトの呼びかけで我に返った。今何時だ?
14時半。そう言えば昼を食べてない。遅めの昼飯にするか。
「んー。何食べる?」
『おいしいやつ!』
「シャルロッテにも聞いてみるかあ」
ぱたぱたと二階から降りて、居間にいるシャルロッテに聞いてみる。
「ご飯、どうする?」
「納豆ご飯とかどうです?」
「なっとうごはん」
うん、いいんじゃないか。ドラゴンにはなりそうもないし。
と言うわけで遅めの昼ごはんは納豆ごはんになった。
あまり混ぜずに食べるのが俺流。しかしポテトやクロは箸を持てない。そこで、ポテトとクロの分は本人に聞きながら混ぜることにした。
「まぜまぜ……まぜまぜ……」
『まのー。すとっぷー』
「はいよ。これでいいか?」
大変だったのはクロだ。
いくら混ぜてもストップの「わん」を言わない。
5分は混ぜたと思う。そこでようやく「わん」が出た。
「納豆、今後出さないかも」
『えー』
「わぅ……」
しょげた顔のクロ。でもお前のせいだからな。文句があるなら箸を持てる種族に変異してほしい。
- ぴろん -
- マスター【ポテト】が『納豆ご飯』を摂取しました -
- 【変異ツリー:和風毛玉(和風属性)】が解放されました -
- 和風属性変異可能性の開放により、和風属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -
和風かあ。じいさんばあさん向け家具を置けるようになるかな。
カタログを見てみる。【ダンジョン改装】を和風属性でフィルター。
【和風属性】いつでも美味しいお茶が出る急須(5DP・維持費1DP/日)
・効果:ほうじ茶が出る。いつでもちょっと熱め。
【和風属性】なんの変哲もない座布団(1DP・維持費0DP/日)
・効果:なんの効果もない座布団。縁側などにどうぞ。
【和風属性】和のテーブル(5DP・維持費0.5DP/日)
・効果:わ。或いはなごみ。設置したフロア付近へのリラックス効果がある。
【和風属性】和イファイ(20DP・維持費3DP/日)
・効果:いつでも10Gbps。あなたの家に安らぎの無線LAN環境を。
和イファイちょっと惹かれるぞ……pingはどうかな……でも技適は大丈夫かこれ……?
飲食店化するならばーんと、一階はほとんど客用スペースにしてしまおう、と言う計画はある。しかし、維持費もリフォーム費用もとなると大変だぞ。
『まのー。こわいかおしてるー』
いかん。深刻になってたか。
「ああ、すまんすまん。ダンジョンの維持費を考えてたらな」
『しょうじゃひつめつー。きにしなくてもいい』
「生者必滅……? 急だな」
『いのちあるものいつかかならずほろぶー』
ポテトがぽよんとはねる。
『けせらせらー。まの、わらってるほうがかっこいい』
「……そうか、そうだな」
俺はにこりと笑った。ポテトが尻尾を振る。
『まのー! 笑ったー!』
てちてちとシャルロッテの方に戻っていく。
うーん、ポテトにわからされるとはなあ。
そうだ、ケセラセラで行こう。これまでそう生きてきたじゃないか。
前庭に何か植えられないかな。一度コンクリートで埋めたけど、人を呼ぶならコンクリートとブロック塀は殺風景だ。
でも車でくるご老人だったら駐車スペースになってたほうがいいか? うーむ、わからん。
四季を楽しむ、よりは、ダンジョン産の不思議な家具で癒される、でいいんじゃないか?
柳瀬さんに電話をかけてみる。
「もしもし。真野ですけど」
「おお真野くん。どうした」
「うちに人を呼ぶ計画。縁側から植物が見えたほうがいいかなって」
「ふーむ。手間を考えずに言うならわしゃ見えたほうがいいがな。四季を感じるようにするには手入れが大変だぞ。ぼちぼちやる、と言う計画にしておいて、今は室内整備だけでいいんじゃないか」
「あと、茶を出すなら飲食店扱いになるかも、食品衛生法とか気にしなくちゃいけない、とかも言われました」
「リフォームは知り合いの大工を紹介してやろう。それでなんとかならんかね」
「何から何まで、ありがとうございます」
「最初から完璧である必要はないんだよ、真野くん。がんばれよ」
つー、つー。電話が切れた。
最初から完璧である必要はない、か。
できることをできるだけ。それでやっていこう。
とりあえず座布団5組と和のテーブルを出した。縁側に座布団二、仏間に和のテーブルと残りの座布団を置く。
これだけで人を招くための準備ができたような気がした。
「真野様」
「なあに、シャルロッテちゃん」
「何かあったら相談してくださいね?」
「ああ、だいたい解決したよ。ありがとう、気遣ってくれて」
にこりと微笑む。
「あっ……笑顔……てえてえ……」
読めねえ。グレーターデーモン読めねえ。
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「おやつでも買うか。留守番頼むわ〜」
「行ってらっしゃいませー」
『おいしいの、よろしくね!』
「わん!」
シャルロッテとポテトとクロに見送られて、スーパーに向かう。普段使いの安売りスーパーではなく、例の成城石井のティラミスの売ってるスーパーだ。まあこっちも十分安いんだけどね。
スーパーを見て回っていると、制服の上にレザーメイルを着たJKがいた。高校はほどほどに近いのでJKがいることに不自然さはないが、レザーメイル?
思わず二度見したが、不審がられていないだろうか。真野さんは社会からの目が気になるお年頃である。
カゴの中はチラッと見えただけだが、おにぎりとペットボトルだった。あれで栄養補給してダンジョン探索に向かうんだろうか。世のJK、わからない。
そして、中村がいた。
「おー。中村」
「なんだ真野か」
「なんだとはなんだ」
「買い物してんだよ。見んな」
「ポテチ、唐揚げ、ビール、アイス……お前これ大丈夫か?」
「いんだよ探索者は。ダンジョンでカロリーが抜けてくから」
「ほんとかよ」
「そう言われている」
「うそくせー」
「お前はどうなんだよ。ポテチ、コーラ、ケーキ、駄菓子……中年男性の買い物じゃねえぞ」
「シャルロッテとポテトとクロが食うから問題ありませんー」
スイーツやファストフードは比較的安全っぽいしな。
「お前ちゃんと属性考えてやれよ。デブドラゴンとかになったら悲惨だぞ」
「その辺はちゃんと計算されてる。角度とか」
「角度の計算がされてるなら安心だな……」
「どこがだよ」
「お前から言ったんだろ」
わはは、と笑う。
「そんじゃ。次いつ来る?」
「んー。明日も行こうか」
「助かる。DPはいくらあってもいいからな」
「なんだ、使い道が出来たのか?」
「いや、お茶出そうと思ったら飲食店扱いになるから設備投資がな……」
「あー。大変だなお前も」
「いやまあ、やりがいはあるし」
「お? なんか悪いもんでも食ったか?」
「養ってる身で悪いもん食わせられるわけねえだろうが」
「いやお前なら拾い食いしてる可能性が……いてて」
蹴った。
「蹴るこたないだろ!」
レジの列が来た。
「じゃあそういうことで」
「じゃあな。シャルロッテちゃん泣かせるなよ」
「泣かすわけねえだろ」
軽口が心地よい。気楽に生きていたいもんだな。
レジを終え、うちに帰る。ぶろろろろ。
『まのー!おかえりー!』
「おう、ただいま。ケーキ買ったぞー」
『ケーキ!おいしい?』
「やすくておいしいやつだぞー」
『わーい!』
「わう!」
ポテトとクロが出迎えてくれた。
2個パックのやつを差し出してみせる。
『ちゃいろい』
「チョコレートケーキだ。こたつで食べような」
『はーい!』
「わう!」
犬にチョコレートダメじゃね?と思ったが、毛玉とダンジョンハウンドだからいいのだ。いいということにしておく。
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チョコレートケーキを食ったらクロが倒れた。
ポテトのスイーツ属性が進歩したが、それは後回しだ。
「クロー!?」
『くろー!?』
しかしシャルロッテは慌てない。
「これ、変異の兆候ですよ」
「は?そうなの?」
「そうですね、成犬に一足飛び、ということはないと思います。幼生と成体の中間、ぐらいになると思いますよ」
「本当だな? 助かるんだな?」
「ええ、そこは間違いなく」
「よかった……」
見ればクロはぜいぜいと苦しそうだが、目に光はちゃんとある。
よしよしと撫でてやると、「くぅん」と返事をした。
「もどかしいな」
「これまでの行いで決まることなので、耐えてください。
あ、変異に巻き込まれて腕が吹っ飛ぶとかありますので、撫でるのはほどほどに」
「物騒だな変異!?」
- ぴろん -
- 真野卓也宅ダンジョンのダンジョンハウンド(幼生)A【クロ】が変異を開始しました -
- 24時間後に変異が完了します -
「24時間後……」
「真野様はお仕事中ですね」
「……休もうかな」
「社会的立場が大事なのではなかったですか?」
「そうだけど! 心配だよ!」
「してもしょうがない心配というのもあります」
ピシャリと言われた。
「クロには私がついておりますので、真野様は日常をなんでもないようにお過ごしください」
「クロももう日常の一つだよ」
「2日たってないんですけど」
「一つだよ」
ゴリ押す。
「けれど、真野様にできることはありませんからね」
「何かないのか?」
「これっぽっちも。大人しく仕事に行って社会的地位を稼いできてください」
「そんなー」
『まの、まけた?』
「大人しく明日は仕事に行きます……」
そういうことになった。
夕飯はコンソメポトフにし、ポテトの家庭属性が進歩した。
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翌日月曜、仕事中。
手持ち無沙汰な時に、geminiにダンジョンハウンドについて聞いてみた。
「ダンジョンハウンド。ダンジョン内でのみみられる、黒っぽい体毛で全身が覆われた、犬のようなモンスター。群れで行動することが多く、フェイント、威嚇を多用し、探索者に確実に傷を負わせる厄介なモンスターとして知られる」
かちかちとスクロールし、本来は賢く手強いモンスターである、との知見を得た。クロなんか普通の芝の子犬みたいなもんだけどな。
お昼はうどんを食べた。食べた気がしない。
そのあとGeminiの利用申請が山ほど来て、一瞬慌ただしくなった。そういえば新部署の開始が今日だったから、マネージャーがGemini使って効率化しようとか考えたらそうもなるか、とかを考えた。
《もしもし》
「うわあびっくりした!」
「どうした真野さん!?」
「あいやしつれい、突然頭の中に言葉が」
「大丈夫かい……疲れが出た?」
「念話だと思います……」
念じてみる。いけそう。
《もしもし?シャルロッテかな?》
《はい。クロの変異が終わりましたので、その報告です》
《マジで?どうなった?》
《それは帰ってからのお楽しみということで。ああ、悪い変異ではありませんでしたよ》
《そう?じゃあ楽しみにして帰るね》
そう思って念話を終わる。
「真野さーん。残業いける?」
「え。……いけますけど」
「悪いね。監査が入るから、サーバー室の片付け頼むよ」
「はーい」
三浦さんとサーバー室の片付けをして、なるはやで帰る。ぶろろろろ。
時刻は20時少し前。この玄関を開けると、変異したクロがいる。
「ただいまー」
「おかえりなさいませー」
「おう、おかえりー。
居間からシャルロッテの声が聞こえる。中村も居たみたいだ。
「クロも居間におりますよー」
襖をがらり。
「……?」
何も、変わってない?
ログを確認する。
- 真野卓也宅ダンジョンのダンジョンハウンド(幼生)A【クロ】が変異を完了しました -
- 【おうちハウンド(成長期)】になりました -
「おうちハウンド」
「はい、おうちハウンドです」
「何が変わったの?」
「戦闘能力がほぼなくなりました」
「むしろ元はあったの?」
「まあ変わってないとも言います」
「他は?」
「体の大きさが、ちょっと大きく」
言われてみれば大きくなってもしれない。でも、スフレチーズケーキクッションに丸まるクロの姿は、ほぼ誤差だ。
安心した。ゆっくり寝られそうだ。
『まのー!ごはんー!』
ご飯を食べてからだが。
あ、中村は帰れ。
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