おはようございます!今日もよろしくお願いします!
俺たち女騎士は一番後ろについて一緒に走るらしい。
打ち合いは男女別れるのだとか。
黙々とメニューをこなしていく。やはり授業では基礎の基礎を習うという感じだな。
男の生徒たちからは女騎士を馬鹿にするような発言が飛んでいる。
馬鹿な奴らだ。
いつの世でもそれは同じなのか。
昔は何も考えていなかったが、こうして自分の身に降りかかってくると、不愉快極まりないな。
とはいえ、俺は彼らを相手にすることなく、黙々と走り続けた。
走り込みが終わった後は二人一組になり、時間まで打ち合いをするようだ。
マルナとソフィアがペアとなり打ち合いを始めた。
俺は一人あぶれてしまうが、それは仕方がない。一人で素振りでもしておくか。
それはそうと、打ち合いをしている生徒たちを見て気づいた。俺が生きていたころよりも騎士の質が落ちている。王宮騎士になれるのは一割いるかどうか、くらいか。確か、
リョーサはこの国が出来て百年くらいだと言っていたな。
戦争は終結し、平和な時代になったのかもしれない。
俺は型を確認するように素振りをはじめると、一人の生徒が声をかけてきた。
「一人で素振りか? ちょうどいい、俺のハング・ポストになれ」
「……はあ? お前、誰だ?」
偉そうにこいつは何を言っているんだ?
俺を打撃用の人形扱いするとはいい度胸だな。
「俺の名はジェスタ・ミーニだ。覚えていないのか? 隣のクラスなんだが」
「残念ながら」
「お前の評判は聞いている。ちょうどいいじゃないか、ここで俺にやられてしまえば決闘なんて馬鹿な考えは起こらないだろ」
確かミーニ家は我が家と同じ子爵家だったな。ミラージュは人の顔はあまり覚えていなかったようだな。いつも下を向いていたからか。
俺は訓練用の木剣を彼に向け、ふうと息を吐いた。
「あとで文句を言っても知らないからな」
「弱いお前なんかが俺と真面に打ち合いなんかできるのかよ」
ジェスタは笑い、ふざけた様な構え方をしている。
忠告はした。
俺は彼を睨みつけ、覇気を少しばかり解放する。
彼は途端にビクリと体を震わせた。だが、俺から放たれる覇気を信じることはできないようだ。
「ハハッ。いくぜ」
ジェスタは馬鹿にしたような笑みを浮かべ、俺に剣を向けたまま走ってきた。
馬鹿なの、か?
俺は左手に剣を持ちかえ、向かってくる剣を巻き払う。そのまま左足で地面を力強く踏み、右手でジェスタの腹へと拳を入れた。
「グハッ」
彼は腹を抱え、咳き込んでいる。
「どうかしたのか?」
「クソッ! なんで反撃してくるんだよ!!」
「反撃しないなんて誰も言っていないが?」
「ふざけるなよ! ハング・ポストの分際が!!」
彼は顔を真っ赤にして怒りだし、地面に落ちた木剣を拾いあげ、振りあげてきた。
怒りに任せた行動は隙だらけだ。
脳天をめがけて振り下ろされる木剣を左に避け、右手に持っていた木剣を突き出し、ジェスタの腹部に当てる。
「いってぇぇぇ!!」
「怒りに身を任せて攻撃しても何も変わらないぜ?」
「煩いっ!!」
ジェスタが大声を上げ、一人騒いでいると、他の生徒たちも手を止め、こちらに視線を向けはじめた。
「おい、どうしたんだ?」
先生もそれに気づいてこちらへとやってきた。
「先生、何にもありません。ただ二人で打ち合いをしていただけです」
俺はそう先生に答えた。
「ジェスタ、大丈夫か?」
「も、問題ありません。少し、ふざけが過ぎただけです」
「そうか。一歩間違えば大怪我に繋がる。真面目にやれ」
「……はい」
先生はそう注意して元の場所へと戻っていった。
ジェスタはというと、さすがに騎士科に転科したばかりの女の私にやられたのが恥ずかしかったのだろう。腹をはたくような素振りをして、剣を真面目に構え直した。
「……ミラージュ。いくぞ」
先ほどとは打って変わり、彼は真面目に打ち合いを始めた。
―カンッ、カンッ、カンッ。
さすがに男と真面目に打ち合いをすると、やはり力の差を感じる。それに体力も付いていないせいで、俺の方の息が上がりはじめた。
「訓練止め!!」
しばらく打ち合いをした後、先生からの指示で打ち合いを終えることになった。
なんとかなった。
あと少しで木剣を地面に落としていただろう。
既に手はビリビリと痺れている。俺は痺れた手を見つめていると――。
「ミラージュ、大丈夫か」
心配して声を掛けてくれたのはジェスタだった。
「ああ、まだ体力は追いついていないからな」
「……お前、強かったんだな。馬鹿にしてすまない」
最初とは違い、彼は礼を取り、謝罪をしている。
「分かった。君の謝罪を受け入れる」
俺がそう言うと、彼はほっとしたように笑顔が零れた。
「君は本当に王宮騎士になるつもりなのか? いや、なるべきだろうな。全く隙が無い。どうやったらそんなに強くなるんだ?」
「ただひたすらに基礎の動きを身体に染みこませるだけだ。ジェスタ殿もその強さ、日々の鍛錬のたまものじゃないか。素晴らしい騎士になるだろうな」
「……褒められると照れるな。ありがとう」
俺がそう言うと、彼はふっと笑った。
「さて、クラスに戻らないと」
「ミラージュ嬢、また手合わせをよろしく。じゃあな!」
彼はそう言って木剣を元の場所に仕舞い、颯爽と教室へと戻っていった。俺も痺れた手をいたわりつつ、木剣を仕舞い、クラスへと戻った。
さて、今日の授業は終わったし、帰るか……。
俺は鞄を取り、クラスを出ようとしていると、大きな声で呼び止められた。
「おい、ミラージュ!」
またお前か。
ため息がでそうになったが、なんとか抑えた自分を褒めたい。
「アントル殿、何かありましたか?」
クラスメイトは気を使ってくれているというのに、我が婚約者様ときたら……。
彼は授業が終わってすぐに俺のクラスに来たのだろう。少し息を切らしている。
「どういうことだ?」
「どういうこと、とは?」
俺がそう返すと、彼は顔を真っ赤にしている。こんなに短気な人が本当に伯爵家の跡取りで大丈夫なのだろうか。どうやら今日は男爵令嬢を腕に下げてはいないようだ。
「騎士科になっただと?」
「ええ、そうですが、何か問題でも?」
「お前は俺のことを何にも分かっていないんだな」
「……はあ。反対に聞きますが、アントル殿は俺のことを分かっているのですか?」
俺は腕を組み、微笑みながら彼に聞き返す。アントル殿は聞き返されると思っていなかったようで言葉に詰まっている。
「で、ご用は?」
「淑女科に戻せ。女が騎士科なんて恥ずかしいだろう!」
「なら、王女殿下の護衛騎士は恥ずかしい職業ということですかね」
「そ、そんなことを言っているわけじゃない! 俺の妻が騎士科だなんて恥ずかしいに決まっているだろう」
相手をするのも面倒だな。
俺は馬車停まりまで歩き出すと、彼も付いてくる。
「はあ、ならマリア嬢を妻に迎えればいいんじゃないですか。俺は婚約を白紙に戻してもなんら問題ないですし」
「いや、そうじゃないだろ! お前は俺の妻になるんだから黙って従えばいいんだ」
貴族というものは爵位による上下関係は厳しいし、婚姻は、家同士の契約だ。女、子供を商品の一つとして扱う者もいるくらいだ。
子爵家の我が家がわざわざ伯爵家のナサリオ家と婚約をしたのは、鉢が回ってきたとはいえ、父が伯爵家を足掛かりに上位貴族との接点を欲っしてのことだ。
ナサリオ家には借金があり、俺との婚姻で子爵家が伯爵家の借金の一部を肩代わりすることになっている。伯爵家からは同じ派閥の上位貴族に口利きをする手はずだ。
本来ならお互いの利益のために結ばれた政略結婚なのだが、恋愛で浮かれ気分になっているアントル殿がそこまで考えて行動しているようには思えない。
仮に俺が王宮騎士となれば、女性騎士として有用されるだろう。
上位貴族や王族と繋がりを持ては婚姻自体白紙にしても何ら問題ない。むしろ婚約を白紙にされると困るのはナサリオ家なのだが。
「もういいですか? 俺は決闘の準備で忙しいんですよ」