レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜   作:ベニサンゴ

1 / 5
第1話「赤錆の荒野」

 酸化した重金属を主成分とする赤褐色の大地は、薄雲すらない快晴の日差しを受けて凶悪な熱を持っていた。なだらかに波を描く丘陵の背に陽炎が揺らめいている。日中の平均気温は一年を通じて45℃を越え、各地で漏れ出すガスによってその温度は年々上昇を続けている。

 

「暑っちぃなぁ、ったく」

「今日は天気がいいから仕方ないわ。ちゃんと見張ってなさい」

「あいあい。分かってますよ、大佐」

 

 陽炎を突き破り、赤砂の斜面を駆け降りるローバー。金属片をものともしない重厚なタイヤは左右に三つ連なり、車体の大重量を砂の上でうまく分散させている。

 

「アメリ大佐、そろそろポイント付近です」

「了解。ディーロ、見逃したら承知しないわよ」

「あいあい」

 

 ハンドルを握るのは眼鏡をかけ、作業着姿のエンジニア。突き刺すような日差しの下では屋根があろうと熱気を遮ることは難しく、上着を早々に投げ捨ててタンクトップ一枚になっている。

 後部座席に腰を沈めて油断なく車窓の外を見渡すのは、襟元まできっちりとボタンを留めて分厚い軍装を纏う長身の美女だ。切れ長の瞳に意志の強さが現れ、凜然とした佇まいがある。

 

「とはいえ、こんだけの快晴だ。宙から落ちてくるモンを見逃せって方が難しいわな」

 

 唯一屋根のない車体後方の荷台にどっかりと座るのは、筋骨隆々の巨躯だ。燻んだ金髪をバリバリと掻きながら、濁った赤色の空を見上げている。

 ここもかつては清々しい青空が見えたというが、今やそんな時代を知る者さえ存在しない。鉄錆の匂いが砂混じりの風にのって纏わりついてくる地獄のような星である。

 

「新入りがこの時期にくるなんて珍しいですね」

 

 アクセルを踏み込みながらエンジニアのバリが呟くように言う。

 眼鏡の奥の青紫の瞳を忙しなく動かしながら。

 

「あのオンボロステーションが、わざわざ空の開けた日まで指定するなんて」

 

 これほどまでの快晴はそうあることではない。分厚いガス雲が日差しを覆い隠す日や、衛星軌道上に滞留しているデブリの群れがぶつかり合って不穏な影を落とす日の方が圧倒的に多い。日差しの良い今日などは車両や武器のメンテナンスにうってつけのチャンスだ。そんな日に仕事が飛び込んできて喜ばしいはずもない。

 

「それだけ重要ってことでしょう」

「大佐も中身は知らないんです?」

「機密扱いだったわ」

 

 アメリの吐き捨てるような言い方に、荷台がぐらぐらと揺れる。身長2.4m、体重は120kgを超える巨躯が笑うだけで、ローバーは砂の上を転がりそうになる。

 

「なんにせよ、こんな辺境に"島流し"されるような奴だ。大抵のことじゃあ驚くつもりはないけどな」

 

 アメリ率いる部隊に補充される人員は、他の部隊のはみ出し者や捻くれ者、犯罪者から変質者まで、脛が傷だらけで長ズボンがなければ表社会を歩くこともできないような者ばかりである。ディーロも今や古株と呼ばれるほどになり、バラエティに富んだろくでなし共を迎えてきたし見送ってきた。

 今度の新入りが"元気のいい"奴なら、歓迎のし甲斐もあるだろうと胸を躍らせている。

 

「きな臭い感じもありますけどね。せめて言葉くらいは通じて欲しいですが――」

 

 ぼやくバリは言葉を断ち切りハンドルを大きく回す。車体に遠心力がかかり片輪を浮かせてたたらを踏んだ。赤砂が巻き上がり、荷台のディーロは転がり落ちそうになって罵声を上げる。

 

「バリ、どうした」

「近距離レーダーに反応あり。近くにネストがあるようです」

「チッ。やっぱりステーションの仕事は杜撰ね!」

 

 ローバーはエンジンを震わせ、急加速して赤砂の丘を駆け上る。稜線を越えて広がった視界に、無数の鉄屑を寄せ集めた歪な塔が見えた。

 

「アリンコ共か。まだ小さいぜ!」

 

 立ち上がり、運転席の屋根に身を乗り出したディーロが叫ぶ。彼女の鮮やかなオレンジの眼がギリギリと音を立てて、光学ズームを発揮する。鮮明に映し出されたのは、鉄骨や何かの機械の残骸を運び込む六脚のアリに似た機械の群れである。

 赤々とした眼を光らせ、互いに連携を取りながら塔を建て続ける様には知性のようなものが見て取れる。

 

「ここ数日でできたみたいね。歓迎会の前に片付けておきましょう」

「よしきた!」

 

 アメリの命令にディーロは満面の笑みを浮かべる。荷台に横たえていた巨大な火砲を屋根に載せて弾帯を繋ぐ。反動だけで腕が吹き飛びそうな凶悪な武装も、そびえたつ筋肉と並べば玩具のようだ。

 

「おっとぉ?」

 

 照準を定め、引き金に指を乗せようとしたその時、ディーロの眼が視界の端に何かを捉える。赤い空を横切って落ちてくる、小さな白い点。

 

「大佐、片付け前に来ちまった!」

 

 上空のコントロールステーションから投下された人員運搬用ポッドである。アメリたちが探していた新入りがあの中でスヤスヤと眠っている。

 

「仕方ない。先に回収して安全確保して……」

「まずいですよ大佐。落下ポイントがネストに近すぎる!」

 

 臨機応変な対応を見せようとする指揮官に再び待ったがかかる。大気圏を破り火を纏うポッドの軌道を計算し、冷や汗を滲ませるバリだ。その叫びにアメリは思わず舌打ちした。

 

「こうなるんならランナーを持ってくれば良かったわ!」

「あいにく基地に置いてるのは全部整備点検の真っ最中ですよ」

「(罵倒)ッ!」

 

 美女の口から飛び出す聞くに耐えない低俗な言葉。部下二人は驚くこともない。

 額に青筋を浮かべたアメリは振り返って叫ぶ。

 

「ディーロ、弾薬使い放題よ。頑張りなさい。バリ、ネストに突っ込んで着地直後のポッドから新入りを回収、そのまま撤退するわ!」

「そうこなくっちゃなあ!」

「クソ! それって作戦って言えるんですかね!?」

 

 指揮官の命令は絶対だ。そして、これ以上にまともで成功の見込める作戦はない。

 悪態を吐きながらもバリはアクセルを踏み込み、ローバーは一瞬宙を駆ける。赤い砂を巻き上げながら、まっすぐに鉄屑の塔へと迫る。その轟音の唸りに機械蟻たちも触覚を持ち上げ顎をガチガチと打ち鳴らす。

 

「いくぜええええっ!」

 

 筋肉の咆哮と共に、拳大の弾丸が雨となって注がれる。

 次々と赤黒い機械生命体を弾き飛ばしながら、ローバーは敵地のど真ん中へと飛び込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。