レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜 作:ベニサンゴ
奪還作戦の当日、用意されたのは六台の武装したローバーと、二台の運搬用に荷台を開けたローバー。さらに第一機甲部隊からランナーが一機。歩兵部隊からも一個中隊が動員された。
「うぅ、どうして非戦闘員の私まで……」
「ランナーが使えるかどうかを見極めて分解するのも重要な仕事よ。一番欠かせない人材といっても過言じゃないわ」
そして、整備士長バリもまた、その中に加えられている本人は不満を口にしているが、放棄されたランナーの回収という任務をこなすためには、彼女こそが必要不可欠であった。
「カイ、安心していいよ。私が守ってあげるから!」
鮮やかなメタリックブルーに塗装された専用機"コバルトレイン"のコックピットが開き、ユーリが自信漲る鮮やかな笑顔を見せる。本人はたまたま偶然自分が参加することになったと言っているが、アメリの微妙な表情に周囲の同僚たちは何かを察していた。
「ランナーを取りにいくのに、結構な重武装なんだな」
アメリと共にローバーに乗り込みつつ、カイがしみじみと漏らす。その言葉の裏には、自分が回収された時のローバー一台に指揮官ひとりと部下ふたりという編成が思い出されていた。
「ランナーが回収できないのはどうしてもスラッグのネストの近くになるから仕方ないわ。前回はポッドの落下地点も安全な地域を選定していたはずで、ほとんど戦闘もない想定だったのよ」
カイを詰め込んだポッドは、コントロールステーションから危険予測計算を経て選ばれた安全なポイントに狙って落とされた。少なくとも、アメリの認識ではそのはずである。だからこそ実質的な戦闘員はディーロのみという隠密性を重視した構成で回収が行われた。
一方で今回はどう立ち回っても戦闘は必至となる。しかも敵陣に自ら飛び込んでいくようなもの。相応の装備が必要になる。
「総員、配置完了だ」
通信機を介してディーロの報告が伝えられる。ローバーの後部座席に収まったアメリは頷き、マイクを口元に近づけた。
「定刻よ。これより【ダレス荒野第13地点ネスト残置戦闘車両奪還作戦】を開始する」
数度のブリーフィングを経て改称された作戦が動き出す。指揮官の号令に従い、車列は滑らかに拠点の外へと走り出した。
空は快晴。赤い鉄錆の荒野にローバーが轍を刻み、もうもうと砂塵が舞い上がる。磁気嵐の発生も確認されず、出征にはもってこいの条件が整っていた。基地の所在地でもあるダレス荒野は、〈鉄喰らう狼〉が優勢を保ち続けている最後の地域だ。広大無辺な土地には、現在22のネストが確認されている。それらの多くは規模と生息するスラッグの性質を鑑みて、殲滅を行わない小康状態を維持することとなっていた。
「悔しいけど、今の部隊にはダレスから虫を駆除しきるだけのリソースがないわ。それに、完全駆逐したところで荒野の外から新しい虫が追加されるだけだし」
第13地点と指定されたネストへの道すがら、アメリがレクチャーを始める。
かつての全盛期には荒野の外にまで制圧圏を広げていた〈鉄喰らう狼〉だが、今では縮小に次ぐ縮小で、猫の額ほどの安全圏を死守するに留まっている。
「スラッグの大半は群れますが、その群れにもテリトリーがあります。スラッグ同士でも争いはあるようで、うまく誘導してやるとお互いに牽制しあって大人しくなるんですよ」
ダレス荒野にある22のネストを地図上に表示すると、ほとんど等間隔で置かれていることが分かる。長年の活動を通して歴代の指揮官が頭を悩ませつつ落ち着かせた最適均衡であった。
それぞれのネストが周囲のネストに圧力をかけることにより、その活動範囲は定まっている。逸脱する者がいれば即座に攻撃され、数日もすれば再びバランスが戻るという。
「だからこそ、不可解なのよね」
揺れるローバーの座席に沈み込みながら、アメリが眉間に皺を寄せる。カイを迎えにいった際、なぜ新たなネストが作られようとしていたのか。そして、大地を埋め尽くすほどに大量のスラッグが集まったのか。
あのテレアントたちは一つの群れではない。周囲の複数のネストから、示し合わせたように現れた、合流していった。これまでには考えられない異常行動である。
幸いなことにその後の偵察ではネストが合流する事態は確認されず、むしろユーリの活躍によって損害を受けたネストが攻撃されている様子が見られている。今では再び均衡が戻り、荒野には緊迫感のある平和が戻っている。
「スラッグ共も男が落ちてきたんで発情したんだろ。食い散らかされなくてよかったな!」
「ディーロ!」
荷台で話を聞いていた巨躯の戦士がデリカシーの欠片もない冗談を口にする。即座にアメリが目を引き攣らせて睨みつけるが、屈強な美女は豪快に笑うだけである。
「カイくんがスラッグ共に陵辱される……?」
「うっ、脳が……っ!」
「なんか開いちゃいけない扉が開きそう!」
随伴する部隊員たちも口々に遠慮のないことを言い始める。
作戦行動中であることを忘れたような緊張感のなさに、アメリは思わず頭を抱えた。
「この(罵倒)! ――カイ君、君が望むなら軍事法廷にかけることもできるからね」
「そ、そこまでは……。別に実害がないならいいよ」
据わった目で真剣味を帯びた物騒なことを口走るアメリに、カイの方がたじろぐ。
「実害って……。油断しちゃダメよ。実力行使されたら、カイ君なんて抵抗もできず……」
カイは弱い。一般的な女性軍人どころか、現代女性と比べても差は歴然としている。だからこそ危機感を持つように、とアメリは真面目な顔で語る。
「基地のみんなは優しいし紳士的――じゃなくて淑女的に接してくれてるよ」
「分かってないわね。本当に、分かってないわ……」
警戒心の欠片もない彼を前にして、どれほどの見えない攻防が繰り広げられていることか。基地内での騒動が逐一報告される指揮官は、彼の無邪気な顔に目眩を覚える。カイの入隊以降、いったい何人が懲罰部屋にぶち込まれたことか。
「やっぱりカイ君は私が守らなきゃ。危なっかしくて見てられないわ」
実感のなさそうな青年を前にして、指揮官は密かに決意を新たにする。
「あっ、カイ! 第13地点が見えてきたよ!」
そんな矢先、アメリが警戒する人物の筆頭が高らかに叫んだ。