レッドラスト〜屈強な女軍人ばかりの流刑惑星に放り込まれたが無事に生き残れるだろうか〜 作:ベニサンゴ
鉄筋を粗雑に寄せ集めただけのバリケードを鮮やかな青が突破する。立て続けに放たれた電磁砲の高密度エネルギー凝集弾が金属に反応して連鎖爆発を引き起こし、ファクトリーの門に大穴を開ける。
「潜入って言ってなかったか!?」
「ウチじゃあこれが潜入だ!」
思い描いていたものとはいささか異なるアグレッシブな突入にカイが非難の声を上げるも、火砲を担いで飛び込んでいくディーロはまともに取り合わない。彼女は青年の腰を掴んで抱き寄せながら、ファクトリーの暗がりに向かって弾丸を叩き込んだ。
「はぁっ! 全員倒せば万事解決ってな!」
当然ながらスラッグたちの警戒は最大レベルになっている。金切り声を上げながら、物陰から次々と小型スラッグが飛びかかってくる。背後からはファクトリーの外周を彷徨いていたブレイズエッジマンティスたちが接近する荒々しい飛翔音も迫っていた。
ディーロと歩兵部隊の女たちが火砲を叩き込みながら、薄暗いネスト内部にケミカルライトを投げ込んでいく。長年スラッグとの攻防を繰り広げているだけのことはありその行動も迅速だ。
ぼんやりとした闇が払われ、屋内の構造があらわになる。ここはファクトリーのエントランスとでも言うべき場所だった。キャリッジスレーターとキャプチャービーが集めてきた大量の鉄屑や鉱石などの金属資源がうず高く積み上げられ、いくつもの山ができている。それを内勤のテレアントたちが更に奥へと運び込んでいるようだった。
「この鉄屑の山のどっかに埋まってるなら厄介だぜ」
バラバラと景気良く弾丸を撒きながらディーロが言う。
「ここにあるのはキャプチャービーでも運べる程度のサイズだけみたい。大物は……破砕機に送られるはず」
アメリは周囲を一瞥し、即座に判断を下す。
カイは言われて初めて、周囲に転がる鉄屑のサイズが一定以下に揃っていることに気が付いた。キャプチャービーは小型に分類されるスラッグだ。また、キャリッジスレーターも積載量こそ莫大なものの、装甲の隙間は小さく内部に運び込むもののサイズに制限がある。
ここをキャリッジスレーターの荷下ろし場であると看破したアメリの眼に舌を巻く。
「大佐、こっちに道が続いてる!」
コバルトレインが群がるテレアントを八本の脚で蹴散らしながら叫ぶ。器用にそのうちの一本を持ち上げて爪先で進路を指し示す。
「でかした! 流石は犬も真っ青の嗅覚だな!」
「うるさい!」
喝采のディーロ。ユーリは嬉しくなさそうだ。
しかしお手柄には違いない。彼女が見つけた通路は幅も高さもあり、地面には重量物を引き摺ったような跡がくっきりと残っている。何より行先を阻むようにキャリッジスレーターが体側を見せて陣取り、自らバリケードとなっていた。
スラッグに自己犠牲という概念はない。ナノマシンが構成する擬似的なニューロンに刻みつけられた本能的な行動原理が、目標遂行への最短距離を指し示すだけだ。
キャリッジスレーターの装甲はランナーの主砲さえ退ける。
だが相手が動かず、至近距離で、しかも焦る必要がないのなら――。
「今度は外さないよ!」
主砲が轟く。
一瞬にしてエネルギーを枯渇させたバッテリーシリンダーが白煙と共に排出される。
唸る青の奔流が、巨大な鎧虫の僅かな隙間を的確に貫いた。
「ひゅぅうっ!」
ユーリの得意げな声。重なるように爆発が立て続けに響き、キャリッジスレーターの装甲の隙間から火が噴き上がる。外は硬いが中には可燃性のオイルがたっぷりと詰まっている。一度火がつけば、それだけで致命傷だ。
ぐぐぐ、と機体をしならせて崩れ落ちる巨躯をコバルトスカイの鋭い脚が蹴り転がす。押し開かれた僅かな隙間に、ディーロたちは躊躇なく飛び込んでいく。
「おうおう、入れ食いじゃねえか!」
「撃って撃って撃ちまくれ! 弾丸はあとでいくらでも回収できる!」
「先を見据えて投資するなんて、私らもインテリになったもんだなぁ!」
コバルトレインが開いた突破口に、歩兵たちが浸透していく。ガチガチと顎を鳴らして威嚇するテレアントに銃口を突きつけ、次々と破壊していく。
「いつもこれくらいの判断力があればいいんだけど、ね!」
勇猛な戦士たちの獅子奮迅を眺めながらぼやくアメリも相当に強い。弾倉を空にしたハンドガンをホルスターに収めながら手近な所に突き刺さっていた太い鉄棒を引き抜くと、そのままの勢いで背後から近づくキャプチャービーを叩き落とす。ガシャンと重々しい音がして、カイは思わず肝を冷やした。
「指揮官ってのは実戦も得意なんだな」
「この程度はできないと、あの猪女たちの手綱が握れないのよ」
ぶんと棍棒が振るわれ、首をへの字に曲げたテレアントが壁に激突する。身の丈よりも大きな鉄の塊を吹き飛ばす膂力が"この程度"と言われると、青年に立つ瀬がない。
長く艶やかな銀髪を広げながら八面六臂の戦いぶりを見せるアメリに、つい見惚れてしまう。戦場であることを思い出し、カイは傍らのハルに呼びかける。
「カバー頼む。言われた通りに撃つ」
『かしこまりました。これよりマスターとの協力戦闘を実施します』
乱戦の中にもかかわらず、カイは目を閉じる。修羅場にあるまじき愚行だが、諦めたわけではない。彼の手には支給されたばかりのハンドガンがしっかりと握られていた。
小型の銃火器とはいえ、あくまでも現代女性の使用を前提として設計されたものである。
『ファイア』
ハルの声に合わせて引き金を引く。
ファクトリーの高い天井も貫くような轟音と火焔が広がり、大口径の弾丸が前方のスラッグを吹き飛ばす。
「ぐぅっ!」
当然、その反動も凄まじくひ弱な青年には殺しきれない。腕が肩の根本から吹き飛ぶような衝撃を真面目に抑えようとすれば、少なくとも脱臼は避けられない。だからこそ、彼はあえて反動に身を任せて身体をひねる。
どうせ敵はいくらでもいるのだ。
『ファイア』
再びハルの合図。カイは目を閉じたまま狙いをつけることもなく引き金を引く。
銃声。破壊。再装填。
ランナーのシミュレーショントレーニングと並行して身体に染み付かせた戦い方を実戦で繰り広げる。銃に振り回されるようで、実際には滑らかに身体を翻している。
「やるじゃねえか」
重火砲を暴れさせていたディーロも、彼に気付いて口角を上げる。
カイはハルを目として全てを委ねていた。汎用支援AIは銃の反動と周囲の状況を正確に把握し、次の瞬間まで緻密に演算する。無数の可能性を計算しながら最適解を瞬間的に選び取り、主人に最適なタイミングで引き金を引かせていた。
ハルの演算力の高さは言わずもがな。カイに一切の躊躇がないことが見る者を驚かせる。僅かでも動きが鈍れば、計算は破綻する。だが、彼は淡々と引き金を引き続けていた。
「男にキルスコアで負けてちゃ恥だぞ!」
「うおおおっ! カイに手柄取られてたまるか!」
彼が次々と敵を撃ち倒す様を見て、周囲の隊員の士気は燃え上がる。
「カイ君は、僕が守るからね!」
コバルトレインは敵地の中心へと飛び込み、足元に主砲を叩き込む。周囲に爆風が広がるなか、メタリックの機体を焦がしながら強引に突き進む。
「ユーリ! 逸脱するな!」
「うおおおおおっ!」
「(罵倒)! 話を聞きなさい、このバカ犬!」
一人突出する主力に指揮官の怒号が飛ぶ。しかしユーリは白熱して声が届いていない。
「追いかけるわよ!」
「イエッサー!」
仕方なく、アメリたちはコバルトレインが焼き焦がした爆心地へと飛び込んでいく。
「アメリ、奥からデカい音がする!」
「こっちにも聞こえてるわ!」
先行するユーリの報告。既にアメリたちの耳にも地の底から轟くような音が聞こえていた。それどころか大地が揺れ、ファクトリー自体も軋んでいる。
広い通路を駆け抜けると、突然それは現れた。
「ビンゴ!」
コバルトレインの背中も小さく見えるほどに巨大な口が、一定の間隔で開閉を繰り返している。その向こうには無数に並ぶ無骨な歯がぐるぐると回り、巨大な鉄塊を噛み砕いていた。
キャリッジスレーターでは運べない大きな鉄塊を砕き、細かな欠片へと変える破砕機。全てを飲み込むスクラッパーが鎮座していた。
「アメリ、あれだ!」
カイが見つけたのは偶然だった。銃の反動を受けて痺れる腕を庇いながら見上げた、巨大な鉄の山。その頂上付近――最近積み増された部分に、棺桶のような長方形が突き刺さっていた。
「ランナーのコクピット……。取り返すわよ!」
目的のものが見つかった。アメリの覇気漲る声に、ディーロたちが勇ましく応じる。
だが通路からは黒波のようにスラッグの群れが押し寄せている。さらに彼女たちの希望を否定するかのように、それが奥から現れた。
「げええっ! 大佐、あれはヤバいよ!」
スクラッパーの近くにいたコバルトレインから悲鳴が上がる。
考えてみれば、当然のこと。その場から動けない破砕機の口に物を投じる役割は必要だ。その躯体は必然、大きく強くなる。
「グラップワーム……。こんなに大きなものは見たことないけど」
立ち上がれば天井にまで迫る頭には回転する無数の歯とそれを取り囲む鋭い牙だけがある。ものを掴み砕くことに特化したスラッグだが、既知の同種を凌駕する体躯を誇っていた。
「スクラップ専用にチューニングされてやがるな。倒さねえと、俺たちがミンチにされるぜ」
銃口を向けるディーロ。彼女の視線を感じたか、異形のグラップワームが回転する歯を鳴らして吠えた。